赤い剣と銀の鈴 - たそかれの世界に暮らす聖霊の皇子は広い外の世界に憧れて眠る。

仁羽織

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賢人マーリン・ネ・ベルゼ・マルアハ

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 今日は出だしからいろいろあって、海洋へ出たはいいけれど相変わらず現在地すらわからない。そんな状況の中で、今僕らは船の後部デッキに折りたたみチェアを丸く並べ、寝そべって話し合いをはじめていた。

 「この姿勢で話し合いって、おかしくない?」

 チェアの輪がある真ん中には、大き目のパラソルを広げてある。その日陰の中に頭を並べて、最初にレイミリアさんが口を開いた。

 「顔を見ずに話せますから、僕なんかは意見が言いやすくて嬉しいですよ。」

 チェアの数は全部で五つ。ベントスまでちゃっかりと仰向けに寝そべっている。

 「とりあえずみなさん、上を見てください。」

 マーリンさんがそう言って、みんなの意識をパラソルに向けた。するとそこに、海に浮かぶ船の映像が映し出された。

 「すごい!どうやってるの!綺麗!」

 「この映像は、今現在私達の乗っているこの船を映したものです。それではこれを、更に上空に向かわせます。」

 マーリンさんの言葉に合わせるかのように、パラソルに写る映像がどんどんと空に浮かんでいくのが見えた。少し昇ってピタッととまる。

 「このくらいで、ちょうど百メートル。船の周囲には島影は一つも見えません。」

 マーリンさんの言葉が終わると、また昇りだしていく。船がどんどんと小さくなって、ついには蟻くらいのサイズになった。

 「これくらいでおおよそ五百メートルです。気分が悪くなりそうでしたら、パラソルの外側を見るか、チェアから降りてくださいね。」

 僕もジョジロウさんもレイミリアさんまで、パラソルに写る画像に声もでない。

 「上空千五百メートルから見える一帯です。画像の右下にちらりと島影が写っています。これはおそらく、群島でしょうか。この島々の名前を確認すれば今いる場所がどこなのかもわかるかと思います。」

 早速、銀鈴で「あの島の名前は?」と聞いてみる。しかし鈴は光らなかった。

 「何やってんのよミラク。銀の鈴に島の名前を聞くとか、おかしいんじゃない?そもそも名前ってのは人がつけるものでしょう。誰も見つけたことがない島だったら、名前なんてないかもしれないじゃない。」

 ここぞとばかりにレイミリアさんが言ってくる。僕は少し凹んだ。

 「今の時代、人間もずいぶんと便利なものを作りあげているんですよ。えーと、あの島々の名前は、マーシャル諸島と出ています。」

 そう言うマーリンさんの方を見ると、彼女は寝そべりながら平らな黒い板に指を触れていた。左手で持ったその板を、マーリンさんの指がふれる。すると、それまで黒かったところがパッと明るくなり、さまざまな模様や絵がそこに映っていた。

 「マーリンさん、それっていったい何なんですか?」

 「これ?タブレットって言う、人間が作り出した道具よ。」

 その会話に、ジョジロウさんが驚いて声をあげた。

 「太平洋なのになんで使えるんですか?電波飛んでます?」

 「さあ、なんでかしらね。」

 何の会話なんだかよくわからない僕は、立ち上がってパラソルの表面を手で触れようと伸ばした。高すぎて、届かない…。

 いつもならこのタイミングで来るレイミリアさんの罵声が聞こえない。気になってそっちを見ると、僕と同じように立ち上がってパラソルに触れていた。

 「すごいですね、これ。」

 「本当だね、すごいわこれ。」

 僕らはそう言って息を呑み、マーリンさんを見た。もはや神々しく輝いてさえ見える。ベントスはいつの間にか丸まって寝ていて、ジョジロウさんは「ありえない、ありえない。」ってつぶやいてる。当のマーリンさんは、涼しい顔で海を眺めていた。

◇◇◇

 「マーリンさん、すごいです!私、レイミリアって言います。どうか仲良くしてください。」

 さすがはマーリンさん、あっという間にレイミリアさんの心をつかんでいる。僕はその様子をしり目に、操舵席で測定装置の修正をはじめていた。

 「お嬢ちゃん、ずいぶんな勢いでマルアハ様に寄ってってるな。大丈夫かな、怒らせたりしたらえらいことになるぞ。」

 操舵席の下から、ジョジロウさんがそう言って顔を出す。手には釣竿。どうやら今から釣りをはじめようとしているらしい。

 「そんで、坊ちゃん。そいつはどれぐらいでできあがりそうだ?」

 「さっきのマーリンさんが見せてくれた映像がものすごいヒントになりました。なのでイメージはバッチリです。早ければ数分でできあがると思います。」

 「そっか。んじゃ俺は、俺のできることをしてくるわ。」

 そう言ってジョジロウさんは、後部デッキでキャッキャ騒いでいるレイミリアさんとマーリンさんを避けて、船首の方へと向かっていった。

 「さて、それじゃ…。」

 測定装置の前で座り込み、銀鈴を呼ぶ。修正するのは、縮尺とガラスカバー。細かいところまでイメージして、動きなんかも想像する。声で反応するように、例えば…。

 「ミラク!ちょっと来て!」

 突然、後部デッキのレイミリアさんが声をかけてきた。

 「マーリンさんと一緒に写真とりたいの。あんた来てカメラ構えてよ。ほら、急いで!」

 それくらい銀鈴でパパっと撮ればいいのに、と僕は思った。でもそれをやらかしたら、うちの母みたいになるかなって。ちょっとだけそんなことを考えて、僕は二人がいるところに向かうことにした。

 「はい、撮りますよ。いいですか?」

 レイミリアさんが持ってきたカメラは、両手で持たないと大変な大きな一眼レフカメラだった。

 「いいわよ。撮って撮って!」

 「三、二、一。」

 パシャっと音がして、カメラの背面についている画面に今撮った写真が写る。そこには、レイミリアさんと並んで高齢な姿のヨホ・マジノさんがいた。

 「ちょ、これ?」

 僕はあわてて削除ボタンを探す。まさか、写真には写ってしまう的なアレか?だとしたら大変だ。マーリンさんに教えなきゃ。

 「ちょっとすいません、うまく撮れてなかったみたいで…。すみませんがマーリンさん、このカメラの使い方を教えてもらえませんか?」

 強引だなって言いながら思った。でも、後には引けない。そして削除ボタンもなかなか見つからない。

 「ちょっとなんでマーリンさんに聞くのよ!それ私のよ!私に聞くのが筋ってものでしょう!」

 「そうなんですけど、これはマーリンさんじゃないと分からないかなって思って…。」

 「だからなんでよ!私のこと馬鹿にしてる?」

 「そ、そんなわけないです。僕はレイミリアさんのことを、すごい人だなって尊敬しています。」

 口からでまかせにもほどがある。僕の方へズイズイっと歩いてくるレイミリアさんの後ろで、マーリンさんがため息をついているのが見えた。

 「ちょっと返しなさいよ!いったい何がわからないって…。」

 僕からカメラを奪うように取り上げて、レイミリアさんはそこに写っているものを見た。

 「つまり、そういうことです。レイミリアさん、少々わがままが過ぎてしまっているようですね。約束の時間に遅れてくるわ、それを人のせいにするわ、自分の言った言葉を忘れてたり。そういえば、私を愛人だとかもおっしゃってましたね。」

 マーリンさんがそう言いながら、ヨホ・マジノさんの姿に変わっていく。僕からはそれがバッチリ見えているが、レイミリアさんはまだカメラを覗きこんで固まったままだ。

 「わがままが過ぎたら、どうなるんでしたっけ?」

 ヨホがそう言いながら、少しづつこちらに歩いてくる。目の前で固まっているレイミリアさんの額に、ありえない量の汗が噴き出している。

 「答えなさい、レイミリア。早く答えないと、回数が増えますよ。」

 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 かすれたような絶叫が、青い空と海に響き渡っていった。

 その後、ヨホの後について船室の奥へ消えたレイミリアさん。果たして何があったのか、出てきたときにはお尻をおさえて、キャビンに寝そべっていた。


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