青い扉と銀の鈴 - 世間知らずのお嬢様と魔王討伐の生き残りと魔王の息子とが出逢った頃の物語

仁羽織

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セケンシラズとショタとオジサンとが会話して噛みあわないのは偶然?

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 「どういうこと?」

 「あれは、僕が僕だからできたことです。傷を負ってもたいした怪我けがにはならない。力は制限されているから、相手を傷つけることはできない。痛みは感じます。それだって人間と比べたら微々たるものかもしれません。だから、自分よりも強いと思う相手でも向かって行けたんだと思います。」

 なるほど、と思った。確かに普通は、怪我をするかもしれない恐怖で尻込みをしてしまう。そうでなくても痛みは怖い。小学校の低学年ならなおさらだ。

 「僕は思いやりを学ぶために、人間の学校へ通うことになったのです。なのに、そんな僕にしかできない方法で問題を解決しても、学べたということにはなりません。」

 「確かに、そういうことになるのかな。」

 「あの方のお話を聞いて、更にわからなくなりました。結果として僕は、いじめっ子のトップと和解することができたのです。何度も何度も突っかかっていくことを繰り返すうちに、気がつけば向こうから遊びに誘ってくれるようになりました。きっと僕の諦めの悪さを認めてくれたんでしょう。それからは、その子が他の誰かをイジメようとするたびに、僕らは喧嘩になりました。それでも彼は僕のことを尊重してくれているように思えました。そうして一年が終わるころ、僕らのクラスからいじめはすっかりとなくなっていったんです。」

 そんなことあるんだ、と思った。私が学校に通った半年の間、私と同じようにイジメられている子を、他のクラスにも見かけた。その子は家が貧乏だといじめられていた。だから私はどこに行っても同じようにイジメる側とイジメられる側があるものだとばかり思っていた。

 「イジメのないクラスで過ごせたのは、ほんの数ヶ月でした。けれど、楽しかったです。みんな思い思いに自分勝手ができて、けれどいざというときにはみんなで協力ができました。僕は力がからっきしでしたから、力仕事は任せとけと、前のいじめっ子だった彼が率先して代わってくれてました。そのかわりに彼は勉学の方が苦手でしたので、放課後や休みの日に勉強をみるのが僕の担当でした。他のみんなとも同じように、教室の掃除、体育の団体競技、合唱なんかも力を合わせることができたと思います。思いやりを学べもしないまま、そんな結果になってよかったんでしょうか?」

 そんなことがあるんだ、とまた思った。そんなことがあるなんて、驚きでしかない。

 「本当のことを言えば、もう一年通いたかったんです。けれど、母から言われて諦めました。あまり長く一緒にいて、情がわけば苦しくなるのは自分だと言われて。…確かにその通りだなと思ったんです。」

 あ、っと思った。例のお母さんに似た女の子、好きになってたんだなって直感で思った。

 「僕は、たぶんあと七百年は生きます。そして父のように好きな人を眷属なかまにできるようになるまでは、まだあと百年ほど必要なんだそうです。」

 切なくて涙がでそうになった。

 「僕らって、なんなんでしょうね。人なら体が大人になるまでに10年から15年くらいだって聞きました。僕らの場合も同じで、普通なら20年もしないで大人になります。僕だけが心も体も子供のまま…。いつか大人になってから恋することができるって、お母さんはそう言います。だけど僕はほかに僕と同じような仲間を知りません。だから、父に聞くしかありませんでした。どうして僕は大人になるのがこんなに遅いのかって。どうして大人になる前に人を好きになっちゃったのかって。そうしたら父は、僕をぎゅっと抱きしめて、こう言ったんです。」

 焚火たきびの炎が、その時少しだけ風に揺らめいたように感じた。

 「僕たちの一族は、自然と同じなんだと。この姿で生まれて千年を過ごしたら、本当の自然に生まれ変わるのだと。そんなことわりの中で、父は母に恋をして、母を眷属に迎える前に僕を生まれさせてしまったと。それ自体が理に反していたからなのかもしれない。そう言って父は泣いていました。自分のせいで僕が苦しんでいる、本当にすまないと、そう言ったんです。」

 お子様の目に涙が浮かんで、スーッと一条ひとすじ流れていくのが見えた。私はその涙が、父親に対しての責めなのかと思った。けれどあとの言葉を聞いてわかった。

 「誰かのせいで誰かが苦しむなんて、そんなふうに思わせたら、苦しめていると感じた人の気持ちはどこまでも曇天の暗い空のようになるんじゃないでしょうか。僕は父に、そうは思って欲しくなかった。父のせいで僕が苦しんでいるなんて、思わせたくはないと思ったんです。だからそれもあって、早く大人になろうと決めました。」

 あらためてだけど、この子がすごいなと思った。見た目は小学生だからどうしたってこの子って気持ちになってしまうけど、三百年を生きてきただけのことがある。そう思った。

 「そろそろ寒くありませんか?テントに入って、温かくしてください。」

 お子様はそう言って、自分のテントへともぐりこんでいった。私は椅子の上に座ったまま、しばらくひとりで考えて、そうして寒くなってテントへと入り込んだ。

 なんだかいろいろなことを聴いた。オジサンの子供たちのこと、お子様の悩み。私は、これといって深く悩むようなこと、ない。嫌なことがあれば逃げちゃうし、どうしようもない事なら、あんまり執着もしない。楽しいことを楽しんで、苦しそうなことはできるだけ避けて、そうしてもうすぐ、大人になる。…なっちゃうんだな、大人に。

 あまり深く考えすぎるとはまりそうだからやめ!もう、さっさと寝よ、寝よ!

 テントの中にもぐりこむと、地面にはラグみたいな敷物が綺麗に敷かれていた。真ん中は丸く切り抜かれているみたいで、地面が顔をのぞかせている。丸くぐるりと布が張られていて、ところどころを木でも鉄でもない、真っ黒な柱で支えられている。天井はけっこう高い。私が立って手を伸ばしても届かないくらい。その天井も、真ん中の所は柱が組み合わさっていて、ポッカリと空が見えていた。

 これなら中に焚火をもってきても大丈夫かな?そう思って、一旦外に出て、まだ燃え残っている焚火から火のついた木をうつした。

 オジサンのテントも、お子様のテントも、中は真っ暗みたいだ。寒かったら大変だな。火をもっていこうかな?

 あれこれ考えて、でもやめた。お子様の方はそもそも人じゃあないわけだし、寒さに辛い思いをするかどうかもわからない。オジサンにいたっては論外。嫁入り前でこんな夜中に、得体のしれないオジサンだよ?行くわけないでしょ。

 そうして外で焚いていたたいていた焚火の火を消して、もう一度自分のテントに戻った。時間がたって温かさがまわり、中はとても快適。これならぐっすりと眠れそう…。
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