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期待と尊敬と残念さとが重なる偶然

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 家での最後の日に、銀鈴にたずねた願いは、『これから先も、ミラクとジョジさんと三人で一緒に楽しく旅ができますように。』だった。そう願ったのは私だし、それを叶えたのはこの銀の鈴だし。

 新しい船の名前は、私達の国の名前をとってアイオリア号と決まった。そして最初に目指す場所は、遥かな昔に西方の国々の人達から「オニ」と呼ばれた人々の住む街。今は大陸ごと海の底に沈んでしまって跡形もないらしい。でもかつてあったその場所を見つけて、銀鈴と青扉の力で彼らの足跡をたどるのだと言う。

 「レイミリアさん!方角はこれでよさそうですか?」

 ミラクの声がして、私は手の中で銀鈴に語り掛けるように願った。正しい道を指し示したまえ、と。そうしたら銀鈴が、手のひらで強く輝きだして、その光が方向を指し示すように一直線に海の彼方へと伸びていく。

 「この方向みたいよ!光の先を目指して、ミラク。」

 船の操舵席に二人して座って、ハンドルを握るミラクの横で銀鈴を掲げる。光は切れ目なく遠くまで伸びている。

 「なんでこんな面倒な。銀鈴でパパっとその場所へ行ったらいいじゃないか?」

 ジョジさんが不満げにそう言って甲板かんぱんに上がってくる。どうやら下のキャビンで何かを食べてきたらしい。

 「しかたないですよ。最初にそうしようとして僕が銀鈴を使ったら、いきなり海の真ん中に出ちゃったし。それ以降は銀鈴が僕の言うことを聞かなくなっちゃったんですから。…レイミリアさん、銀鈴に何かしました?」

 私は素知らぬ顔をしてこう言ってやった。

 「ちゃんと約束を守らない親子だから、銀鈴に嫌われちゃったんでしょ。」

 そしたらミラクは、またふくれっ面で黙り込んでしまった。その顔がカワイイこと。

 こうして、私達の旅がはじまった。この時の私は、ほんの数日で終わって家に帰れるものだと思っていた。実際に家には何度も帰ったりはしたんだけど、旅はなかなか終わらない。そのことを従兄のジケイに愚痴ったら、ジケイはジョジさんに話したらしくて、いつもの口調で「ほんと、お嬢ちゃんは世間知らずだね。」って言うし、ミラクにいたっては呆れ顔で「ふっ」と苦笑いされる始末。

 まったく、こんなんで楽しい旅になるんだろうか。不安でたまらない。


 青い扉と銀の鈴 完
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