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PockET - ポケット

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#01「波」

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「逃げろ」の一言も聞こえないぐらい僕は取り乱していたんだろう。

2025年 冬

ガガガ...ヴィーン
キーンコーンカーンコーン...「現在の情応値は90.2です」
6限目の終わりと、今の情応値を告げるチャイムが鳴った。
「最近情応値低いよなあー」「やっぱ法令のせいだよ、そう思うよな千歳」
千歳「はは、そうだな」
中学生にしては背伸びをし過ぎた会話に適当な返事ながら僕はバッグに教科書を詰めた。

その時だった。

ウウー「情応値が10.85に低下しました 緊急閉鎖を行います」
教室がざわついた。情応値が10.8だなんて、聞いたことない。史上最悪じゃないのか?
ザァァァァ
波打ち際のような音がした。
窓際の生徒がカーテンを開けた。
「なんだよこれ...」「黒い波...?」
おそらく「影の波」だった。校舎はあっという間に波に呑まれた。


ドンッ
誰かがドアを打ち破る音で目が覚めた。
周りを見渡せば、黒く染まった「体のようなもの」がそこら中に横たわっていた。
???「生きてる奴いるか!!!生きてる奴!!!」
僕は最後の力、かはわからないが声をあげた。
千歳「僕、生きてます」
???「今すぐ逃げるぞ!!!ここももうすぐ完全に影因体に染まるぞ」
千歳「は、はい!!」

僕はその女に手を引かれ必死に走った。泣きながら走り続けていた。

その時、視線の斜め前に見覚えのある姿が見えた。
千歳「樹...!?」
僕の兄の姿だった。
樹「千歳!!!先に逃げろ!!!」...もう遅かったんだろう。
次の瞬間には兄は「影の波」に呑まれていた。
それでも、僕は生きるために女と走るしかなかった。

3年経っても、兄は見つかっていない。

2028年 夏

ピピピピピ...
昨晩設定したアラームが鳴った。
高校1年生も1学期が終わり、ちょっとしたストレスの数々が溶けていくかのように無くなり始めていた。
千歳「それじゃあ、行ってきます」
僕は家族写真に声をかけ、家を出た。

「あの日」から情応値が80を超えることはなく、75を超えたらいい方だ。
「今朝の情応値をお知らせいたします 現在の情応値は72.98です」

友人「勉強してないんだけど物理終わったかも」
千歳「それ中学生が言うやつじゃない?」
もっとも、中学時代そんなことを言ったことは一度もないのだが。

テストで早く終わった学校の後、墓場に行く。
タンッタンッ
千歳「もうすぐ3年だね」
母、父の墓に手を合わせ、涙を飲み込んだ。

その時だった。スマホがけたたましく警報を鳴らしている。
ウウー「情応値が30.34になりました 情応値が30.34になりました」
ゾォッ
急に後ろが暗くなった、と思えば僕は自分の影に「呑まれる」直前だった。

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