ここは蠱毒の壺の中

ミミミミミミミ ミ

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二章

1.お留守番

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同性間の行為に特段とくだん偏見がある訳じゃない…と思う。
ただ自分が、同性と事を想像した事はなくて……。
いや違う。あれはそういうんじゃない。治療、治療だ。
脳内で何度…治療と唱えても、触れられた手のひらの感触…陰茎に沿って動く指を思い出してしまい、頭を抱えたくなった。

「…うぅぅ」
ましてや初日に注がれた精液が心地よかったなんて、本当にどうかしている……。
ここ数日何度も思い出している記憶を振り払おうと、目の前の作業に意識を移した。
「クロ、どうしたの?」
「っなんでもない」
背後から聞こえた声に慌てて返事をする。
「ふぅ、ん」
訊いた相手はそれ以上言及せず、代わりにぎゅと腹に手が回された。

「ぇえ…?どうしたここのつ
「甘えてる」
ここのつは生徒達の中では最年少だ。ひょっとして他の子より親を恋しがる気持ちが強いのかな。
俺で効果ある?…という疑問はあるけど。まぁここのつの寂しさが少しでも紛れるのなら好きにさせてあげよう。
「ん~~~」
年の割に背が低いらしい彼は、俺の腹に手を回すのが丁度いい身長だ。
腰にぐりぐりと額を擦りつけているのがわかる。
「ははっ…」
余計な思考を取り払ってくれた子どもの行動に、逆にこちらが癒された気がする。

「あら~微笑ましい」
「流石…癒し要員」
ここのつと俺、離れて椅子に座っていた先生の三人だった食堂に、他の生徒も集まってきた。
今日の朝食準備は俺がしている。と、いっても基本温めるだけなんだけど…。
元々は生徒と先生が当番制で行っていた作業で、そこに俺の番もねじ込んで貰った形だ。

居候にもっと作業分担してくれればと思うけど、ここでの生活はみんなそれなりに長く、それぞれの役割や流れなんかが既に出来ていて、そこに俺がどんどん入っていくのは逆に負担が増す。
少ししか手伝えないのはもどかしいけど、仕方がない。
「運ぶの、手伝う」
俺が全員分の朝食をよそい終わった事に気づいたここのつが、体を離し、皿を運んでくれる。
「ん、ありがとう」

そういえば、あの…二度目の治療の翌日から、俺は自分の部屋を貰った。
先生の部屋の横にある物置で、ベッドしかおけないような小さな場所だ。
当然風呂などはなく、夜寝る時だけにそこに移動している。

俺がそこに入ったあと、外側から先生が鍵をかけるという…何故か監視レベルが上がってしまう扱いもあったけど…。
…いや…別にいいんだけど。ちょっと切なかったな、先生の判断に任せますけどね。

先生は俺の体に異常があったらわかるそうなので、その際には駆けつけると言ってくれた。
幸いにもここ数日異変は現れず、何もない夜を過ごしている。
あ、そうか…先生も義務感からとはいえ、他人と二人で寝る…だなんて気が休まらなかったに違いない。悪い事をしたなぁ…。
うん、やっぱり部屋がわかれたのはよかったんだろう。

そんなこんなでここ数日…いいのかそれで?という位する事がない居候な日々を過ごしている。
………しいて言うなら、さっきのように行為を思い出してしまう俺の脳みそが一番の問題かなぁ。

朝食を終えたみんなは、妖怪退治…間引きに出かける準備を始める。
エントランスに集まった生徒達は、体を伸ばしたり、荷物の中身を確認したりしている。
「あーーーいい天気だーこりゃ妖怪もばったばった倒せるな!」
「馬鹿…そんなに倒してどうするの」
「だから勢いだろ勢い!?実際に倒す訳じゃないっての!」
「ふふ~」
今日は合宿所から離れた所まで行くようで、一日…夕方まで戻らないそうだ。

あ、そうかこれがあったからここのつも甘えてきたのか。
正直いうと俺も寂しい。なんたって俺はここで一人留守番だ。
「………おい」
「わかってます」
先生が明らかに俺に釘を刺している。外へ行くなって事ですね。
大丈夫です…最弱理解しています。

ここ数日もみんなが出かける事はあったけど、今までは数時間程度だった。
その数時間でも自分しかない合宿所は、人数に合わせ一気に温度も下がったようで…建物の広さがあるぶん余計に一人を感じてしまった。
いや、我慢出来ないとかではないけど…。でもそれが今回は丸一日、か。

「クロ」
ここのつが再び、ぎゅっと…今度は正面から抱き着いた。
「オレ、残ろうか?」
そんな不安そうな顔していたかな?俺を見上げた少年にはこちらを気遣う優しさがあった。
嬉しくなって思わず頭を撫でたら、あっという間に視界から幼い頭が消えた。

「馬鹿言ってんな。ほらとっとと行くぞ」
「体罰だ、先生。断固抗議する」
「うるせぇ」
先生に首根っこを掴まれたここのつは、ずるずる引きずられ、そのまま出口へ連れられていってしまった。
「なんですか、あれ?」
「さぁ」

先生が出口に向かった事で、まだ準備をしていた面々もそろそろ出発かと思ったようでざわめきが自然減っていく。
「クロ、いってきます」
「いってくるぞーーー」
それぞれの挨拶を皮切りに、元気な声が遠ざかっていく。
「気をつけてー」
あっという間に見えなくなった場所をしばらく見つめてから、俺は食堂へと向かった。

柔らかな陽光が当たる椅子に腰かけ、本を開く。この本は暇つぶし用に先生から借りたものだ。
異世界の本だけど、話す言葉が同じだけあって文字も一緒。問題なく読める。
正直妖怪とか俺の体の件がなければ、どこが異世界?と思ってしまうレベルでここは俺の世界と似ている。

本をパラリとめくる。手持ちの本は実用書ばかりで、面白いかというと正直微妙だった。きのこ…山菜…野鳥…うん、微妙。
せめて携帯電話があればなぁと思う。そう、携帯電話。
なんとこの世界にも携帯電話はあるらしい。ただ例の結界効果でここでは圏外になってしまい、結局使う事が出来ないのだとか。残念。
その為、外部との連絡は基本手紙。食事や生活用品を運ぶリフトに入れて送るそうだ。
先生が以前連絡したという同僚にもこの方法が使われたんだろう。
その後、音沙汰はないらしいけど。

「…くぁっ」
自分しかいない油断からか、思ったより大きなあくびが出た。
食堂をゆっくり暖め始めた朝の空気は、眠りを誘う。

ここ数日はしっかり寝ているはずなのになぁ…。
そう思っても、一度生まれた眠気はとろとろと増していく。暇つぶしに目を通していた本の文字は…徐々に歪み読めない図形へと変化していく。
このまま寝てしまおうか…怠惰な誘惑に負けそうな俺は、ここで初めて食堂の入り口に人がいる事に気がついた。

「!?」
「お、きみかー!例の子って」
見知らぬ人は、つかつかと俺の元へ近づき、両頬をがっと分厚い手のひらで掴む。
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