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二章

2.第二の先生

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「ぇ?え?え?」
ここにきてから先生と生徒、それ以外の人に会っていなかったので、突然の見知らぬ来訪者に頭が回らない。
「ふーーーーん。そっかそっか」
ぎゅむぎゅむと頬が揉まれる。痛…くはないが、でもなんだこれ???

「なるほど、なるほど」
何がなるほどなのか、さっぱりわからない。
こちらを覗き込んでいる相手は、先生より少し背が高い位の身長だったが、骨格がしっかりしているせいかその分さらに大きく見えた。…最弱の適う相手ではなさそうだ。
少し落ち着きを取り戻した俺は、逆らわず不躾ぶしつけな観察に耐える。

しばらくして満足したのか、ぱっと手を放し、勢いよくその手がこちらに差し出された。
「……?」
あ、握手か。唐突過ぎてわからなかった。

「宜しくお願いします」
出された手を握れば、しっかりと握り返される。
「うん、よろしくー」
「えっと…」
普通は出入り出来ないはずのここに現れたという事は、例の先生の同僚のなんだろうけど……。

「あ、おれね。ワンコロに呼ばれた同僚の先生だよ」
やっぱり。…ん?
「ワンコロ?」
「そそ、仏頂面で白衣のワンコロ」
先生の事なんだろうけど…何故ワンコロ…あだ名なのかな?
「ちなみにおれはみんなからあに先生とか、兄貴って呼ばれてるー」
気軽にお兄ちゃんとかお兄ちゃまって呼んでもいいよ、なんてついていけない距離感で言われてしまった。
兄………。兄先生、兄貴…お兄ちゃん?うーーーん…。
「じゃあ兄先生で」
「あはっ、つれないな。で、きみは?」
「あ、ここではクロって名乗っています」
「ぶっは、クロ!!」
そんなにおかしいか?

「ふっははははは!!!ワンコロじゃん!!」
犬っぽい名前って言いたいのかな?確かに犬から借りたしその通りだけど…。そんなに笑う程か?
「はーーおっかし…で、クロチャンはからきたんだよね。しかもその体で」

その体も何も体はこれしか持ち合わせていない。
「はぁ…まぁ」
でも、こういう物言いをするって事は、彼にも異世界の事は通じるんだろう。
…元々その為に呼んだと言っていたし当たり前か。

「やーびっくりした。クロチャン、おれの弟にそっくりだし!ああ、今は似てないな、昔の弟ってやつ」
はい、これ今の弟!と見せられた液晶画面は真っ白だった。ちなみに右上にはしっかりと圏外の文字がある。
「……………」
「見えにくい?」
見えにくい所か…何も見えない…。
「弟ってば写真嫌いでさ。撮ろうとするとすーぐ光って逃げるんだ。これが一番まともに撮れたやつ。よく見るとほら微かに…」
「う、うーーーん??」
やっぱり見えないし、言っている事も色々わからない。

「ま、いっか。それでワンコロと生徒達は?」
「今日は山に入って一日間引き作業をするとかで、朝に出ていったままです」
「マジか!あ、そんな事書いてあったなー。しまったー」
「今日中に戻らないといけないとかですか?」
困っているという事は、急いで戻らないといけない用事でもあるんだろう。

「ん?いや別に。一回入ると出るの大変だしおれもしばらくここにいるけど?」
「…ぇえ」
じゃあなんで困った…。

「そっかー夕方までかー」
こちらをちらりと見て、何故か楽しそうに言われた。
「ならそれまで二人きりだね」
「……そうですね」
確かに一人は寂しいと思ったが、これだけ暑苦しくて…しかも初対面の人と夕方まで二人きりか。
「……………」

「さて。じゃ、さっそく」
「ひぃぇあ!?」
服の上からいきなりへそを触られる。
「なななな!?」
「んーーやりにくいな、よっと」
「わっ!?」
椅子に座っていたはずの俺は、あっという間に机の上に置かれた。
親指でぐりっと的確にへこみを抉られ、息が詰まる。
「ぐっ…」
ぐにぐにと内臓を押され不快感が込み上げた。

「ん~~~。ワンコロが調整したって言ってたけど…また傾いてきてるな。しかも今度はおれ側」
独り言のように何か呟いたかと思ったら、彼は髪と揃いの薄茶色の目をにやりと細め、握手の時のように唐突に動く。

は?

痛みに食いしばっていた口が、無遠慮な舌にこじ開けられる。
唇の内側をぞろりと嘗め回し、驚きに緩んだ歯の隙間からさらに舌を突き入れられた。
「…ん…く…ぁ…んん」
上から流し込まれる唾液に逆らう余裕はなく、ただ溺れない為に必死に飲みくだす。
そんな事気のせいだと思うのに、喉を通っていった液体に先生とは違う味を感じた…。

「ふーーん。唾液これだといまいちか。なるほどねー」
ピチャリ…と可愛らしい音をたて、彼の唇が離れる。
「なにす……ぅあっ!?」
抗議しようとしたら、机の上から落とすように抱き上げられた。

「は!?え?ちょ!?」
自分の足は彼の体を挟むように開かされる。
焦り、じたばたと動かそうとしてみても、支えがしっかりしていて全然うまく動かせない。
「!!!????」
一気に高くなった視界も合わせ、さらに混乱を招く。
「大丈夫、大丈夫。ちゃーんと補って、調整してあげるから安心しなよ」
「…!?」
多分、彼がしようとしているのは先生と同じ治療行為だろう。
俺の体が異常なのは初日でわかっているし、それが避けられないのは…まぁ理解した。
でも…。

「おろしてください!治療ならあとで……せ、先生とするのでっ」
咄嗟に出た言葉は、先生だった。あとでするってなんだよ。先生とあとでするって…。
先生だって迷惑だろうし…。俺が望んでどうこうする問題じゃない。ごめんなさい先生。

「いやいや、今回はワンコロじゃ駄目だね」
「なんで!?」
「ま、いーからいーからお兄ちゃんに任せなさい」
「よよよよくない、全然よくないです!?わぁ!?」
流石の彼も燦々さんさんと日が照る食堂で事をおこす気はないようだ。
よかった。いやよくない!?
食堂に背を向け、俺を抱いたまま悠々と廊下を進んでいく。

「せっかくなんだし、楽しめばいいじゃん。おれも楽しむし」
「男を抱いて何が楽しいんだ……」
ぶっきらぼうに答える。まったく自由の利かぬ身は思ったよりストレスで、彼への物言いは自然雑になっていく。
「や、クロチャン思いのほかそそるし…結構楽しみかな~」
「そっ!?」
そそらない、全然そそらない。そそらないでください。
この人も先生のくせにさっきから言動が色々おかしい!?異世界の教職者はどういう基準で採用をしているんだ!?

「それに…おれ、うまいよ?」
しっかり感じさせてあげる、と…腰をくいっと持ち上げ押しつける動作は、どうみても行為を揶揄やゆしたもので…顔に熱が集まってしまう。
「あはっワンコロともヤったんでしょ?初めてでもないくせに初心だねえ」
「あれは治療で…そういう意味で俺を抱いたんじゃ…」
「ぶっは、そんな匂いつけといてよくいうー」
「……匂い?」
すんっと自分の肩に顔を寄せてみたが、何もわからなかった。
「?」

「ま、ワンコロの事だ。どうせクソ真面目に最後まで治療って言い張ったんだろうけど」
「いや、実際治療だし」
何が言いたいんだ?

「それも嘘じゃないけどさー。ただ治療って言ってもヤってるのは結局セックスでしょ」
「セッ…!?」
「セックス、性行為、交尾?あはっそれとも種つけって言ってあげよっか。注ぐもんねえ…種」
きみの中に、と囁やかれた声は、俺が恥ずかしがるのが楽しくて仕方がないという感じだ。
「~~~~~~~」

「あ、中途半端にあげたせいかな。一気に傾いてきた」
「………何が?」
もう何を言われても反応しない。無視だ無視。そう思っていたのに、話しかけられあっさり返事をしてしまった。この近距離で…顔をあわせた状態で、返事をしないというのは中々難しい。

「んーそろそろ限界値までいく…かな」
「だからな、に…が」
「あ、いった」
「ひっ…!?」
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