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この島には、独特の習わしがある。
領主の家に産まれた同性の双子は、福姫の家に通いながら幼少期を過ごすというもの。
ただし、それをするのは片割れのうちの一人。
そうして幼少期を終えたのちは、婚儀まで福姫の家の者と会う事は許されない。
やがて適齢期を迎えた同性の双子は、片割れの記憶をしるべに、福姫の家の者から伴侶を指名する。
一見、鬼から福姫を取り上げるようにも見える習わしではあったが、これは鬼の家、福姫の家双方が望んだ事であった。
詳しい経緯こそ残っておらねど、このやり方で悲劇は起こっておらず、それ故現在も変わらず守られている。
鬼の家の双子である鷹は、押入れを開け、動きをとめた。
「ひ…く…ひく…ひっく」
「………」
幾重にも重なった布団の中から、泣き声がする。
陰に目を凝らせば、積んだ布団の上一枚は、もこりと膨らんでおり、誰かが入っているのがわかる。
「…何をしている」
「ひっく…くぅ」
泣き声に聞き覚えがある。何せ自分の元へ…いや、自分とその半身である冨治の元へと嫁いできた子だ。
福姫の家の日出は、布団の中をぞもぞと移動し…にゅと真っ赤になった顔を出す。
「ほっといて……」
「そもそも何故ここに」
「知らない!」
婚儀を済ませた日出は、己が選んだ相手…冨治と、姫初めの儀をしているはずではなかったのか?それが何故…と鷹は、頭を悩ませた。
「冨治と何かあったのか…」
鷹も日出とは夫婦になった次第ではあるが、二人が面と向かって話すのはこれが初めてである。
幼い頃、福姫の家へ通っていたのは冨治であり、日出と共に遊び仲がよかったのも冨治だけだ。
当然、嫁ぐ相手に日出を選んだのも冨治であり、鷹ではない。
「おれの事…好きで選んだんじゃ…ないんだって…」
誰かに聞いて欲しかったのだろう。放っておいてといった割に日出はすぐ口を開いた。
「……」
「年頃だし……っく……一緒に遊んだ事が…あるってだけ…ええ…っく…し…かも…お…お兄ちゃんって…昔みたいに…呼んでも…い…とか…ひいいっく…ひぐっうう…」
話すうちに、また悲しさがこみあげてしまった日出の顔面は、ぼろぼろ…ずるずると騒がしい。
「………あの朴念仁」
幼い頃から憧れて好いていた相手から、婚儀を申し込まれ日出は喜んだ。
しかしいざ婚礼を上げ…初夜も兼ねた姫初めの儀で告げられた冨治の話は、日出をどれ程傷つけたか。
冨治は、日出を愛していたのではなく、都合がよかったから選んだとそのような事をつらつら告げたのだ。だが始まりはどうであれ…これからいい関係を築いていこうとも…。
日出を泣かせた半身を思い浮かべ、鷹は己の中に潜めた殺意が膨れ上がるのを感じた。
「………」
鷹は幼い頃、己が選ばれぬ事を…福姫の家にいけぬ事を何度も悔やんだ。
しかし悔やんだところで、現実は変わらない。
同じ性、同じ顔、同じような存在だと思っていたのに…、自分ではなく冨治だけが、福姫の家へいく事を許された。
…同じ顔なのだ、一度位入れ替わってもばれぬのでないかと、子どもながらに必死で画策もした。
だが、半身である冨治に拒まれ、それでも密かに実行しようと試みては、親や島の集に捕まり、ついぞ一度も福姫の家にいく事は叶わなかった。
そうこうしているうちに、幼少期は終わり、冨治も福姫の家から離される。
冨治もいけないという、条件が共になった事で、鷹の焦燥は次第に鎮まった。
何より分別がつくようになった年という事もあり、ここで下手に事を起こせば、輿入れが遅れる事を理解したのだ。
そうして、適齢期を迎えた双子の鬼は、福姫の家から一人娶る事を許される。
冨治は日出という、幼い頃仲がよかったという同じ年頃の少年を指名した。
当然日出とは会った事がない鷹ではあったが、冨治の判断に異論はない。
冨治が選んだのなら、鷹にとっても、日出で間違いないのだ。
それに…面識こそないものの冨治が話す“共に遊んだ可愛い日出”の話は何度も聞いている。
冨治が呆れ嫌がる程に、根掘り葉掘り…日出の話を何度も何度もせがんでは聞かせて貰っていた。
この時から予感はあった。そして鷹の予感は、婚儀の場で日出を見て確信に変わる。
だというのに…冨治は何をいっているのか。とんちんかんな鈍さを発揮した己が半身へ抱いた殺意に呆れを混ぜた。
「……日出」
「な、に」
「とりあえず、そこから出てきてはくれないか?」
「や」
「何故?」
「冨治の元へ連れていって、儀式させる気だろ!」
「そんな事するものか」
「え、ほ…本当に?」
「ん」
「わ、わぁ!?」
布団の中に手をいれ、探り…脇を掴まれ、たやすく引きずり出される。
すとんと床に立てられた日出は、普通の恰好をしていた。
振袖でない日出を見て、鷹は先程のもめ事が儀式の準備前に起こった諍いであったのだなと推測する。
「日出。おれと姫初めの儀をするのはどうだろう?」
鷹の言葉に、日出は顔を歪めた。
「ああいう儀式は……好き同士でやる事だ」
「おれは日出の事が好きだ」
「……ああいう儀式は……好き同士でやる事だもん」
「っ」
日出の言葉を受け、鷹の心がばきりと音を立てる。
好き同士…冨治は日出の事は好きとはいわなかった。
でも日出は冨治と儀式をする気だった。
つまり日出は冨治を好いている。
それなのに、幼い頃を共に過ごしていない…おれの事は好いていない。だから儀式はしたくない、そういう事なのだろう。己の出した答えに鷹の視界は怒りで歪む。
気がつけば、目の前の日出の首に手が伸びていた。
「な、に?」
ぐと力を込め、首を絞めあげる。
「が!?」
呼吸に喘ぎ開いた日出の口に、鷹は舌を挿し入れた。
「…っ」
「……舌をもっと出せ…日出」
「か…は…」
差し出された…いや空気を求め前で出てしまった舌を捕らえ擦り合わせる。
「…ん…」
「っ…」
日出が意識を失いそうになるぎりぎりを見極め、手が離される。
「は……ひ……あ」
力の抜けた体は、鷹に支えられ、上を向かせられた顔はそのまま…首を絞めた相手へ向けられたままを保った。
「…っ…あ…」
滲んだ視界がはれてゆけば、目に写るのは鷹の激情。そして…熱。それらが自分へと向けられているのを感じ、日出のあらぬところに熱が宿る。
「あ……ん……」
もじりと体を動かす日出を見て、鷹が笑う。
「日出は苦しいのが好きなのか?」
「ち、ちが!?」
「違う?」
「苦しいのが好きなんじゃなくて…その…あの…おれを激しく…求めてくれたのが…嬉しくて」
そういい朱に染まる頬は、幼さを消し、色香を立ち上らせるような蠱惑を放った。
「…たまらない」
「……鷹って本当に…おれの事が好きなんだ」
「好きだ」
「会ったばかりなのに?」
いわれ、鷹は訥々と話す。
うさぎの巣穴を見に行こうとして迷子になった話。
赤い実を食べ、お腹を壊した話。
川で転んだ時に、たまたま魚を掴んで大喜びした話。
一生懸命作った雪だるまを守ろうと、洞窟まで運び込んだ話
語る鷹の顔は、次第に激情を消し子どものような朗らかなものへと変わっていった。
「なんで…それ」
鷹が語る話は日出と大好きなお兄ちゃんとの思い出だ。
「冨治にせがんで、何度も何度も日出の話を聞いた」
「………」
「そうして日出に恋をした」
「こ、恋!?で、でもおれは鷹を知らないし」
「……」
知らないといわれ、鷹の胸がずきりと痛む。
「それに鷹だって、実際のおれを見たら、話と違うとか…弟みたいな…こんな子どもっぽくて色気がない福姫に幻滅しちゃったんじゃないの?」
「いや、むしろ一目見てさらに愛しくなった」
「愛しっ…!?」
「それに色気がないなど…。日出のどこを見たらそうなる?」
「だって冨治が!!」
「……………冨治が?」
「ひっ」
「冨治の言葉は、たやすく信じるんだな…」
「…あ、…………はぁ…」
再び怒りを向けられ、また…日出の頬が朱に染まる。
その様子を見て、鷹は、に…と笑ってから、怒気を鎮めた。
「そんな顔をする日出に、色気がないとは思わない」
「あ……う…あ…うああ」
照れる日出を撫でながら、鷹は、片割れへの嫉妬を口にする。
「…先に…出会っているというだけで、姫初めの儀に選ばれた冨治が憎い」
「…」
「幼い頃共に過ごしたというだけで、日出に愛されている冨治が憎い」
「鷹…」
奥歯を噛みしめるような言葉に、魅せられていく。
語るうち漏れ溢れた感情がつぅ…と鷹の頬を伝って落ちていく。悲しみの涙ではなく、嫉妬の涙。
…醜いといわれる感情の涙だというのに…日出にはそれが…何より美しく見えた。
すい寄せられるように鷹の顔へと近づき、顎から垂れそうになる雫をぺろりと舐める。
「…おれに恋してくれて…おれを愛してくれてありがとう」
「日出!」
抱きしめられ、日出の胸に愛しさが…込み上げる。
出会ったばかりだというのに…その時間を簡単に跳ねのけて、鷹に恋をした。冨治への気持ちが消えた訳ではない。
それでも…日出を想い、泣いた鬼に……恋に落とされた。
そうしようと考える前に、日出の口が勝手に動き出す。
「陰陽同じくして産まれし双鬼へ福姫の寿ぎを…」
「っ……!」
凛と…どこかここではない空間へと向け腕の中の日出が朗々と声を響かせていく。
歌うように続くそれを鷹は静かに聞いた。
「寿ぎを得し二の双鬼と与えし福姫、此度の年初めの和を以って奉納とす」
最後の一文を終えた日出を、鷹はさらにきつく抱きしめる。
「ありがとう」
「だいぶ略式だけどね。服もこんなだし」
「今の時代そこまでこだわるのは冨治位だ」
「ぷっ…そうかも」
互いに笑い…二人はゆっくりと唇と合わせる。
チュチュ…と可愛らしいついばみは、あっという間に卑猥な音へと変化してゆく。
口からしていた卑猥な音は、全体に及び………姫初めの儀は無事成った。
領主の家に産まれた同性の双子は、福姫の家に通いながら幼少期を過ごすというもの。
ただし、それをするのは片割れのうちの一人。
そうして幼少期を終えたのちは、婚儀まで福姫の家の者と会う事は許されない。
やがて適齢期を迎えた同性の双子は、片割れの記憶をしるべに、福姫の家の者から伴侶を指名する。
一見、鬼から福姫を取り上げるようにも見える習わしではあったが、これは鬼の家、福姫の家双方が望んだ事であった。
詳しい経緯こそ残っておらねど、このやり方で悲劇は起こっておらず、それ故現在も変わらず守られている。
鬼の家の双子である鷹は、押入れを開け、動きをとめた。
「ひ…く…ひく…ひっく」
「………」
幾重にも重なった布団の中から、泣き声がする。
陰に目を凝らせば、積んだ布団の上一枚は、もこりと膨らんでおり、誰かが入っているのがわかる。
「…何をしている」
「ひっく…くぅ」
泣き声に聞き覚えがある。何せ自分の元へ…いや、自分とその半身である冨治の元へと嫁いできた子だ。
福姫の家の日出は、布団の中をぞもぞと移動し…にゅと真っ赤になった顔を出す。
「ほっといて……」
「そもそも何故ここに」
「知らない!」
婚儀を済ませた日出は、己が選んだ相手…冨治と、姫初めの儀をしているはずではなかったのか?それが何故…と鷹は、頭を悩ませた。
「冨治と何かあったのか…」
鷹も日出とは夫婦になった次第ではあるが、二人が面と向かって話すのはこれが初めてである。
幼い頃、福姫の家へ通っていたのは冨治であり、日出と共に遊び仲がよかったのも冨治だけだ。
当然、嫁ぐ相手に日出を選んだのも冨治であり、鷹ではない。
「おれの事…好きで選んだんじゃ…ないんだって…」
誰かに聞いて欲しかったのだろう。放っておいてといった割に日出はすぐ口を開いた。
「……」
「年頃だし……っく……一緒に遊んだ事が…あるってだけ…ええ…っく…し…かも…お…お兄ちゃんって…昔みたいに…呼んでも…い…とか…ひいいっく…ひぐっうう…」
話すうちに、また悲しさがこみあげてしまった日出の顔面は、ぼろぼろ…ずるずると騒がしい。
「………あの朴念仁」
幼い頃から憧れて好いていた相手から、婚儀を申し込まれ日出は喜んだ。
しかしいざ婚礼を上げ…初夜も兼ねた姫初めの儀で告げられた冨治の話は、日出をどれ程傷つけたか。
冨治は、日出を愛していたのではなく、都合がよかったから選んだとそのような事をつらつら告げたのだ。だが始まりはどうであれ…これからいい関係を築いていこうとも…。
日出を泣かせた半身を思い浮かべ、鷹は己の中に潜めた殺意が膨れ上がるのを感じた。
「………」
鷹は幼い頃、己が選ばれぬ事を…福姫の家にいけぬ事を何度も悔やんだ。
しかし悔やんだところで、現実は変わらない。
同じ性、同じ顔、同じような存在だと思っていたのに…、自分ではなく冨治だけが、福姫の家へいく事を許された。
…同じ顔なのだ、一度位入れ替わってもばれぬのでないかと、子どもながらに必死で画策もした。
だが、半身である冨治に拒まれ、それでも密かに実行しようと試みては、親や島の集に捕まり、ついぞ一度も福姫の家にいく事は叶わなかった。
そうこうしているうちに、幼少期は終わり、冨治も福姫の家から離される。
冨治もいけないという、条件が共になった事で、鷹の焦燥は次第に鎮まった。
何より分別がつくようになった年という事もあり、ここで下手に事を起こせば、輿入れが遅れる事を理解したのだ。
そうして、適齢期を迎えた双子の鬼は、福姫の家から一人娶る事を許される。
冨治は日出という、幼い頃仲がよかったという同じ年頃の少年を指名した。
当然日出とは会った事がない鷹ではあったが、冨治の判断に異論はない。
冨治が選んだのなら、鷹にとっても、日出で間違いないのだ。
それに…面識こそないものの冨治が話す“共に遊んだ可愛い日出”の話は何度も聞いている。
冨治が呆れ嫌がる程に、根掘り葉掘り…日出の話を何度も何度もせがんでは聞かせて貰っていた。
この時から予感はあった。そして鷹の予感は、婚儀の場で日出を見て確信に変わる。
だというのに…冨治は何をいっているのか。とんちんかんな鈍さを発揮した己が半身へ抱いた殺意に呆れを混ぜた。
「……日出」
「な、に」
「とりあえず、そこから出てきてはくれないか?」
「や」
「何故?」
「冨治の元へ連れていって、儀式させる気だろ!」
「そんな事するものか」
「え、ほ…本当に?」
「ん」
「わ、わぁ!?」
布団の中に手をいれ、探り…脇を掴まれ、たやすく引きずり出される。
すとんと床に立てられた日出は、普通の恰好をしていた。
振袖でない日出を見て、鷹は先程のもめ事が儀式の準備前に起こった諍いであったのだなと推測する。
「日出。おれと姫初めの儀をするのはどうだろう?」
鷹の言葉に、日出は顔を歪めた。
「ああいう儀式は……好き同士でやる事だ」
「おれは日出の事が好きだ」
「……ああいう儀式は……好き同士でやる事だもん」
「っ」
日出の言葉を受け、鷹の心がばきりと音を立てる。
好き同士…冨治は日出の事は好きとはいわなかった。
でも日出は冨治と儀式をする気だった。
つまり日出は冨治を好いている。
それなのに、幼い頃を共に過ごしていない…おれの事は好いていない。だから儀式はしたくない、そういう事なのだろう。己の出した答えに鷹の視界は怒りで歪む。
気がつけば、目の前の日出の首に手が伸びていた。
「な、に?」
ぐと力を込め、首を絞めあげる。
「が!?」
呼吸に喘ぎ開いた日出の口に、鷹は舌を挿し入れた。
「…っ」
「……舌をもっと出せ…日出」
「か…は…」
差し出された…いや空気を求め前で出てしまった舌を捕らえ擦り合わせる。
「…ん…」
「っ…」
日出が意識を失いそうになるぎりぎりを見極め、手が離される。
「は……ひ……あ」
力の抜けた体は、鷹に支えられ、上を向かせられた顔はそのまま…首を絞めた相手へ向けられたままを保った。
「…っ…あ…」
滲んだ視界がはれてゆけば、目に写るのは鷹の激情。そして…熱。それらが自分へと向けられているのを感じ、日出のあらぬところに熱が宿る。
「あ……ん……」
もじりと体を動かす日出を見て、鷹が笑う。
「日出は苦しいのが好きなのか?」
「ち、ちが!?」
「違う?」
「苦しいのが好きなんじゃなくて…その…あの…おれを激しく…求めてくれたのが…嬉しくて」
そういい朱に染まる頬は、幼さを消し、色香を立ち上らせるような蠱惑を放った。
「…たまらない」
「……鷹って本当に…おれの事が好きなんだ」
「好きだ」
「会ったばかりなのに?」
いわれ、鷹は訥々と話す。
うさぎの巣穴を見に行こうとして迷子になった話。
赤い実を食べ、お腹を壊した話。
川で転んだ時に、たまたま魚を掴んで大喜びした話。
一生懸命作った雪だるまを守ろうと、洞窟まで運び込んだ話
語る鷹の顔は、次第に激情を消し子どものような朗らかなものへと変わっていった。
「なんで…それ」
鷹が語る話は日出と大好きなお兄ちゃんとの思い出だ。
「冨治にせがんで、何度も何度も日出の話を聞いた」
「………」
「そうして日出に恋をした」
「こ、恋!?で、でもおれは鷹を知らないし」
「……」
知らないといわれ、鷹の胸がずきりと痛む。
「それに鷹だって、実際のおれを見たら、話と違うとか…弟みたいな…こんな子どもっぽくて色気がない福姫に幻滅しちゃったんじゃないの?」
「いや、むしろ一目見てさらに愛しくなった」
「愛しっ…!?」
「それに色気がないなど…。日出のどこを見たらそうなる?」
「だって冨治が!!」
「……………冨治が?」
「ひっ」
「冨治の言葉は、たやすく信じるんだな…」
「…あ、…………はぁ…」
再び怒りを向けられ、また…日出の頬が朱に染まる。
その様子を見て、鷹は、に…と笑ってから、怒気を鎮めた。
「そんな顔をする日出に、色気がないとは思わない」
「あ……う…あ…うああ」
照れる日出を撫でながら、鷹は、片割れへの嫉妬を口にする。
「…先に…出会っているというだけで、姫初めの儀に選ばれた冨治が憎い」
「…」
「幼い頃共に過ごしたというだけで、日出に愛されている冨治が憎い」
「鷹…」
奥歯を噛みしめるような言葉に、魅せられていく。
語るうち漏れ溢れた感情がつぅ…と鷹の頬を伝って落ちていく。悲しみの涙ではなく、嫉妬の涙。
…醜いといわれる感情の涙だというのに…日出にはそれが…何より美しく見えた。
すい寄せられるように鷹の顔へと近づき、顎から垂れそうになる雫をぺろりと舐める。
「…おれに恋してくれて…おれを愛してくれてありがとう」
「日出!」
抱きしめられ、日出の胸に愛しさが…込み上げる。
出会ったばかりだというのに…その時間を簡単に跳ねのけて、鷹に恋をした。冨治への気持ちが消えた訳ではない。
それでも…日出を想い、泣いた鬼に……恋に落とされた。
そうしようと考える前に、日出の口が勝手に動き出す。
「陰陽同じくして産まれし双鬼へ福姫の寿ぎを…」
「っ……!」
凛と…どこかここではない空間へと向け腕の中の日出が朗々と声を響かせていく。
歌うように続くそれを鷹は静かに聞いた。
「寿ぎを得し二の双鬼と与えし福姫、此度の年初めの和を以って奉納とす」
最後の一文を終えた日出を、鷹はさらにきつく抱きしめる。
「ありがとう」
「だいぶ略式だけどね。服もこんなだし」
「今の時代そこまでこだわるのは冨治位だ」
「ぷっ…そうかも」
互いに笑い…二人はゆっくりと唇と合わせる。
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