逆ハーエンドの十五年後

竹 美津

文字の大きさ
2 / 4

好感度バー

しおりを挟む
ギギギリ、と初恋玉砕の恨み、睨みをきかせる息子、アベル。

彼は、猫目少女ミラージュ公爵家イリスちゃんの言葉だけで、母王妃りりあを糾弾しているのではない。
他の者にも、王宮で彼が言葉を交わせる全ての者に、そ~っと、逆ハーエンドの後、15年間のりりあたちについて聞いた。

それはそれは、直接的には、侍従も侍女も、乳母も、通りかかった文官も大臣も、やんわりと是でもなく否でもなく。

「そういう形もございますかね。りりあ様は、異世界出身の方ですから、私たちには不可解でも、きっとあちらでは、当たり前のことなのでしょう。」

とアベルに言う。

だが、アベル王子とて馬鹿ではない。侍従の支度部屋、侍女の休憩溜まり場なんかにそれとなく立ち寄って、まだ大人ならぬ身体を物陰に忍び込ませて、噂話に聞き耳たてたて。
アベル王子付き護衛の優男フランは、やめましょうヨォ~アベル王子殿下ぁ~!と泣きついたが、アベルは振り払って隠れた。
何で休憩室に護衛のフラン様がいるの?と不思議に聞かれて、ココにアベル王子殿下が隠れてます、とも言えず。結局アベル王子の手先になり、交代で休み中です、で、さっきの話だけどさぁ~?なんて、本当のところを聞き出すキッカケづくりをやらせたのである。

大臣たちの補佐に、文官たちの使い走りに、縦横無尽に王宮を走り回り、隠れて、脅して、懐柔して、聞き回ったアベル王子は納得した。

母、りりあ王妃と5人の男の関係は、フツーじゃない。

彼らは対外的な仕事をちゃんとするので、割と皆、諦めてるけど。りりあの子供たちと擬似家族で、いいところだけ味わってる攻略対象者4人の家庭生活への常識は、15年あまりアップデートされていなくて。
家族持ちの部下に対する時、色々と問題も起きているのだ、と。

「忙しい私の父の代わりに、なんて言って!私たちの機嫌がいい時に、ちょろっと遊ぶくらいなことで、家族認識なんて、ありえます!?何か責任をもって接してくれてる訳じゃない!お菓子をあげすぎたり、遊びが乱暴で手を傷めさせたり、勉強させる範囲が私の学力に見合わないほど高難度だったり、お祈りで5時間も冷えた場所に薄着で放置したり!問題が起これば、即、乳母や側仕えにポイ、後は知らん顔じゃないですか!」

男4人は、あー、と顔を背けて手で覆う。
アベル王子は結構、やりたい放題の彼らの被害に遭ってきたのである。

「父上はそもそも仕事が忙しくて、全然触れ合いがないし……。時間が空いたかと思えば、この、逆ハーレムの団欒で、ずっと黙ってニコニコしてるだけだし……。」
グスン、とアベル王子は鼻をすする。

ポツリ、溢す。
「私は、りりあ王妃と5人の男たちの、幸せ確認のための、擬似家族の一部品じゃない。」

りりあは、ギュッと拳を握ったまま、黙り込んでいる。

「お菓子を食べ過ぎてお腹が痛くなった時は、カミーユ魔法院長官、あなた、どんどん食べるから大丈夫なんだと思った、お腹いっぱいなら言わなきゃダメだよ、なんて言ってましたよね。乳母は、そもそも夕飯が入らなくなるし、健康のためにも子供にお菓子ばかり食べさせるのは、良くない事だ、とお腹を撫でて悲しんでくれました。」

カミーユ魔法院長官、えーと、と冷や汗、困った顔で鼻をぽしぽし掻く。

「訓練だ!なんて私をぶん回したオーバン騎士団長、子供って柔いんだなー、って言うだけでしたね。私は1月、腕が痛くて、治った今も雨が降るとそこが痛みます。」

オーバン騎士団長、「その、その、ちょっとだけ力を入れ過ぎちまって、す、すまん。」なんて、軽く謝っている。

「ブノワ宰相、私があなたの難問に答えられないと、何だか嬉しそうでしたよね。こんな事もできないのですか、って長話でべらべら説明されたけど、私は5歳でした。あの時の問題は、高等数学だったそうですね。まんまと叩きのめされました。3年くらい、ずっと自信なかった。しょんぼりしきった私に、付き合ってくれたのは、子供教育に熱心なおじいちゃま先生でした。簡単な所から始めて、勉強が楽しくなるように、お話が分かりやすくて、はなまるをいっぱいくれて、苦手なところも頑張ったら褒めてくれて、得意を伸ばしてくれた。おじいちゃま先生は、『ブノワ宰相もノォ。アベル王子殿下は、丁々発止でやり合う研究者の大人相手じゃないんですから。困った方で。頭が良いんだか悪いんだか。』って言ってました。」

ブノワ宰相、むぐむぐ、と口を何か言いたそうにし、目を逸らす。

「シャルル次期教皇は、私に寒々しい格好でお祈りさせておいて、そのまんま忘れちゃったのですよね。もう終わりにしていいよ、と誰も言ってくれなくて、お祈り場には護衛も入れなくて、私は風邪をひきました。お熱が出た時、可哀想に……、って毛布を肩までギュッと入れ込んで、おでこの冷やし布を変えてくれたのは、やっぱりいつも私を見てくれる側仕えたちでした。『シャルル次期教皇は、教会の方。私ども一般の者と、神の祈りの世界に暮らす彼らとは、ちょっと常識が違います。子供が寒い格好をして長く放っておかれたらどうなるか、なんて、頭の片隅にもないのでしょう。今後は絶対にシャルル次期教皇とお会いする時、離れませんから、安心して下さいね。』って、側仕えのキリクが言ってくれて。今もそこにいますけど。」

側仕えキリクは、ニッコリ黒々深く笑って。アベル王子に頷いた。
彼は自分より位の高いシャルル次期教皇にも押し負けない。アベル王子大事なのである。
視線が刺さり、シャルル次期教皇は、「あー。僕、忘れっぽくて……、教会では皆がフォローしてくれるから……ゴメン。」言い訳である。

ふーす。
アベル王子は、鼻から怒り荒く息。

「そしてそのあれこれを、母りりあ王妃は、ダメよ~なんてほわほわ言うだけで、母の本気をもって、厳しく咎めては、くれなかった。父ヘンリー王もニコニコしてるだけ。………やっと、これがおかしいんだって分かりました。」

おかしい。
15年の、逆ハーレム擬似家族は。

「私は、あなた方の、何なのですか!乳母も、おじいちゃま先生も、側仕えキリクも、『あの4人にしっかりした嫁でもできて、家庭をもって、責任をもって、失敗したら厳しく怒られ、傷つき、他にぶん投げる人もいないとなれば、成長もすると思うんだけどなあ……。』と言ってましたよ。」

男4人、耳が痛い。

「母、りりあ王妃は、子供より男が大事なんですよ!」
ギン!とりりあを睨む。

「私に何かあっても、本気で怒ってくれたりしない!………男たちに怒って、自分が嫌われるのが、怖いんだ!」




りりあは、りりあは。

「そ、そ………そんな。だって。だって。」

ぼろぼろぼろ、と涙。握り込んだ拳が震える。

「だって!仕方ないじゃないのぉー!!!カンストしたはずの好感度メーターが消えないんだものおー!!!」

と大声で叫んだ。


りりあの視界には、攻略対象者の好感度が見えていた。15年前、この世界に召喚された初めっから、ずっとそうなのだ。
それはバーの形で、数値も横に出ている。

逆ハーエンドを迎え、カンストした5人の好感度。
攻略中、5人落とすのは、あっちにほれほれこっちにほれほれ、そのバランスも難しく、気を抜くと好感度が落ちて、満遍なくあげるのは至難の業だった。
だが、りりあは、この世界の攻略法を、ゲームとしてプレイ済みだったので、ミスなくやり遂げた。
逆ハーエンドじゃなくても良かったのだけど、瘴気を金輪際湧かないように押さえ込むオールクリアエンドにするには、これが一番やりやすかったのである。この5人の力が、瘴気を抑えるのに必要だったのだ。
好感度が2人とか3人くらいイマイチだと、なかなか瘴気を抑え込めなくて、また次の聖女に託すエンドになったりする。

別に、チヤホヤされたかったなんて気持ちは、少ししかない。召喚されるのは自分が最後でいいだろう!とりりあも使命感があったのだ。

「この国が瘴気から永遠に救われて、5人と結ばれて……これでお終い、幸せに。ってなったら、攻略から解放されるんだと思ってた。だけど。」

好感度バーは、消えない。
エンド後も、やりとりすれば、上下する。

りりあは焦った。
これで、終わったのよね?
もう、脅威はないのよね?
別に。これから好感度が下がったとしても?

「だけど、怖くて……。何かこの先、悪い事が起こるんじゃないか、って。皆、段々と国の中で重要な位に就いて、普通にちゃんと繋がっていないといけない、って事もあったし、とにかく、怖くて、バーが上下するのが………。」

りりあ、わなわな、と身体震える。
「だけどね、だけど、好感度って、長く付き合った男女は、普通、下がるのよ!100%好き好き大好きずーっと、なんてありえない!馴れ合いでやってく、恋じゃなく、情で繋がってる、それってあるわよ!」

皆、段々と。
どんなにりりあがフォローしても、好感度が、90、85、76、60……と下がってゆく。目に見えて扱いが悪くなったりはしないが、みんな。
りりあは足掻いて、足掻いて、そして。
もうどうしたらいいか、実は最近、分からなくなっていたのだった。

ぼろぼろと涙を溢す。

「皆が私を好きじゃなくなってく。良いのよ、別に。私だって、ずっとときめいてる訳じゃない!あっちに良い顔して、こっちで愚痴聞いて、ちょっとしたプレゼントも欠かさず、ご機嫌が悪くなれば持ち上げて、勉強も欠かさず、運動も欠かさず、善行をして、5人の間でいつもニコニコ!もう、うんざり!話が合わないのよ!自慢話はもうたくさん!同じ女性の、おばさん同士で子供の話とか、歳くったわーって話してる方が、実は楽しいのよ!解放されんの!でもそんな時間、あんまりないの!怖くて!この国がどうにかなっちゃわないかって!」

だけど、もうイヤ!

「こんなに頑張ってきたのに、何で息子に、大事な息子に、気持ち悪いって言われなきゃなんないの!もう、もう、もう、知るか!あれこれちっさいことで、機嫌の上下、グダグダ言ってくんな!自分の嫁に言え!嫁もらえ!5人もほれほれやってられっか!私だって私だって……、精一杯なのよお~!!!!」

うわぁあああーッ!!!!!

号泣するりりあ。

アベル王子は、しょうがないなぁ、って顔で。ふす、吐息。
4人の男たちは、ピシリと凍りついたままである。
幼い第二王子と、王女は、お母様が号泣しているので、眉を寄せて、ふにゅーと悲しい顔である。

ちなみに、第二王子と王女は、第一子アベル王子と4人の攻略対象者たちの失敗をふまえて。上手く周りがやってるので、やりたい放題のおじさんたちに、辛い目に遭わされていない。

「好感度バーとか、分かりませんけど。お国の行末が、恋愛事情でどうこうなるなら、もうなってるんじゃないですか。だって今、5人全員、好感度60%前後なのでしょ。」
息子は冷静である。

「いつエンドなの……。終わって…、終わってよ。攻略がずっと続くなんて、耐えられない……。」
グスッ、ひっく。しゃくりあげるりりあに、ヘンリー王が、ニコニコしながら言った。背中を、ぽんぽん。さすさす。

「じゃあ、今、終わろう。ここが私たちの物語の終わり。ここから先は、皆が、どうやって生きていけばいいか、手探りでそれぞれ、やっていくんだ。りりあの言う、攻略法なんかに頼らずに。」

好感度に、振り回されずに。

フッ

あ。

りりあが、大粒の涙を、ぽろり。


「………今、好感度バーが、消えたわ………。」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。

かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。 謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇! ※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

欠席魔の公爵令嬢、冤罪断罪も欠席す 〜メイリーン戦記〜

水戸直樹
ファンタジー
王太子との婚約――それは、彼に恋したからでも、権力のためでもなかった。 魔王乱立の時代。 王も公爵も外征に出ている王都で、公爵令嬢メイリーンは“地味な婚約者”として王城に現れる。 だが、王太子は初顔合わせに現れなかった。 にもかかわらず、記録に残ったのは「公爵令嬢の欠席」。 抗議はしない。 訂正もしない。 ただ一つ、欠席という事実だけを積み上げていく。 ――それが、誰にとっての不合格なのか。 まだ、誰も気づいていない。 欠席から始まる、静かなるファンタジー戦記。

婚約破棄は構いませんが、私が管理していたものは全て引き上げます 〜成金伯爵家令嬢は、もう都合のいい婚約者ではありません〜

藤原遊
ファンタジー
成金と揶揄される伯爵家の令嬢である私は、 名門だが実情はジリ貧な公爵家の令息と婚約していた。 公爵家の財政管理、契約、商会との折衝―― そのすべてを私が担っていたにもかかわらず、 彼は隣国の王女と結ばれることになったと言い出す。 「まあ素敵。では、私たちは円満に婚約解消ですね」 そう思っていたのに、返ってきたのは 「婚約破棄だ。君の不出来が原因だ」という言葉だった。 ……はぁ? 有責で婚約破棄されるのなら、 私が“善意で管理していたもの”を引き上げるのは当然でしょう。 資金も、契約も、人脈も――すべて。 成金伯爵家令嬢は、 もう都合のいい婚約者ではありません。

今度生まれ変わることがあれば・・・全て忘れて幸せになりたい。・・・なんて思うか!!

れもんぴーる
ファンタジー
冤罪をかけられ、家族にも婚約者にも裏切られたリュカ。 父に送り込まれた刺客に殺されてしまうが、なんと自分を陥れた兄と裏切った婚約者の一人息子として生まれ変わってしまう。5歳になり、前世の記憶を取り戻し自暴自棄になるノエルだったが、一人一人に復讐していくことを決めた。 メイドしてはまだまだなメイドちゃんがそんな悲しみを背負ったノエルの心を支えてくれます。 復讐物を書きたかったのですが、生ぬるかったかもしれません。色々突っ込みどころはありますが、おおらかな気持ちで読んでくださると嬉しいです(*´▽`*) *なろうにも投稿しています

処理中です...