359 / 702
本編
閑話 花の兄11
しおりを挟む竜樹は誕生会のその夜、夢を見た。
ぼんやりと、光が射す、緑麗しい庭で、ポツンと1人、竜樹は立っている。
ああ、亡くなった人の関わる、いつもの夢だな、という感覚がしたけれど、花々も自然に咲き誇り、でも押し付けがましくない、こんな素敵なお庭だった事は初めてで、気持ちよく、誰かが来るのを待った。
一番綺麗な場所に、丸くて綺麗な自然石があり、花が供えてある。誰かの墓標だ。
ちょうちょが、ひらひらと飛んでいる。
ふいに、ふわっとした光とともに。
透き通るような、儚げな光を纏って、1人のエルフが現れた。
神経質そうな表情、細身の身体に、でも、ゆったりと満足そうな、嬉しそうな笑みをたたえて、魔法使いみたいなローブを着たその人は、どこかで見た事があった。
「こんにちは。」
竜樹は、躊躇いなく話しかける。
何か話したい事が、あるのだろう。きっと。だから。
それに、本当に、今にも消えてしまいそう。何となく、早くお話しなくちゃ、と思った。
「こんにちは。はじめまして。私はカルム。フィノメノンの悲願を、叶えてくれてありがとう、竜樹。」
ニコリ、笑いかける。
カルム•••フィノメノン•••どこかで。ああ!慟哭のカルム!
美術館で見た、ギフトの御方で親友、フィノメノンを、各国の争いで虐め抜かれて死なされてしまい、慟哭し誓約魔法をかけた、大魔法使いのエルフ。
そんなカルムが、その古い魂が、竜樹の所へ。
「今日の誕生会、とても素敵だった。各国の皆も、子供達に会を譲って、そして参加した者達も、どの国の者も、お祝いのこころで、満たされていた。•••私の、フィノメノンに作ってやりたかった、そんな毎日が、きっと竜樹には訪れる。君には、今までもそうあってきた。それが、とても、うれしい。」
つう、と涙を一筋。
美しい涙である。
この人は、このエルフは、本当にフィノメノンの事が、大好きだったのだ。
「カルムさん達、先達がいてくれたから、ですよ。こちらこそ、本当に、ありがとうございます。」
竜樹のお礼返しに、ふふふ、と涙を拭きながら笑いを溢す。
「本当にフィノメノンみたいだ。いつも穏やかで、優しい。弱い者に、目をかけずにいられない。私も随分、フィノメノンには助けてもらったものだよ。昔は、こんなに流暢に、話が出来なかったんだ。彼が、辛抱強く聞いてくれて、話せるようになった。ーーー竜樹、ジュヴールから同胞、エルフ達を助けてくれたお礼も、言わなくては。ずっと心配していたんだ。ジュヴールの事が片付いたから、私の気持ちに整理がついた事もある。」
整理。ああ、この人は。
「そうだよ、竜樹。ずっと魂として残って、未練にギフト達の行く末を見守ってきたけれど、私もついに、魂の輪廻の輪に入る時がきたようだ。自然とやってくるものなのだね。でも、こんなにもうれしい。さっぱりとした気持ちがする。」
「•••なら、良かった。転生した先で、フィノメノンさんと、会えると良いですね。」
「ああ。今度はきっと、2人また親友になって、あれこれ言いながら世の中に良い事を少し、お互いにやって。この生のように、大きな事でなくても良い。小さな幸せを、2人で、お嫁さんももらって、子供達を仲良く遊ばせてーーー夢だけど、叶うと良い。叶わなくても、今度は良いんだ。いつかは、フィノメノンの魂に、輪廻の中で会えると信じている。それだけでいい。今、とても嬉しい。」
ほろ、ほろ、と再び流れる涙を、止めるすべは誰にもない。
「この庭は、私の森の家、フィノメノンと私が愛した庭。それを竜樹に見てもらえて、嬉しいよ。•••ああ、もう、時間切れだ。これからも、沢山の人が、竜樹の力を頼ってくるだろう。でも、竜樹も人に頼って、人を愛し、愛されて、人と関わり生を終えるのだよ。見守ってはあげられないけど、少し、安心もしている。今日の誕生会を見たから。ああ、本当に時間がきた。」
「カルムさん!見守ってくれて、ありがとう!心配しないで、俺たちは、ちゃんと、少し間違ってもやり直しできるように、生きていくからね!!世界をほんの少し、良くしておくから、また生まれてきてね!」
ありがとう、ありがとうーーー。
消えていくカルムは、最後まで泣きながら微笑んでいた。
竜樹もグッときたが、その時。
ふわり、ふわり。
小さな、ふっくらとした春を告げる香りの、なんとも言えないニュアンスの白色の花。
「梅の花•••。」
天から降る梅の花は、厳しい寒さを経て、柔らかな春の訪れを、その先ぶれを、優しく告げる花。
手を差し出せば、1輪、2輪と、手に乗って、香っている。
「また来てね、カルムさん。みんな、この世界も、貴方を、待ってるからね。」
呟いて目を瞑れば、すっ、と深い眠りに、竜樹は誘われる。
目が覚めたら、ぶぶぶ、とスマホが震えた。広間で敷物の上、子供達まみれに布団が温かい。
スマホを見れば、神々の庭である。
ランセ神が、他の神々に、ずるいずるいと言われているのには笑ってしまった。そして。
モール神、死を司る神と、レナトゥス神、再生の神が、カルムの事でお礼を言ってくれていた。
古い、転生しないカルムの魂を、2柱の神は心配していたのだそうだ。このままでは、魂が摩耗して、消えてしまうと。でも間に合った。
いいねは、あげられないけど、この世界の人中の夢の中に、梅の花を降らせてやった。
どうだ!と嬉しそうに。
いいねより凄そうな、そんな夢を、竜樹は良い機会だと思った。春の訪れを、皆が予感する。そんな日になったなら、幸いである。
神々の庭にお礼のメッセージを打って、起きると、ふわぁ~あ!と背中を伸ばし腕を上げて、あくび。
今日も一日の、始まりである。
子供達が新聞売りに行ったり、広間の飾り付けの片付けを、侍従侍女さん達と協力してやったりしている中、竜樹は王様に謁見願った。
忙しい王様だが、ちょいの間を使って会ってくれるそうなので、勇んで会いに行く。ちなみに3王子は、お片づけを手伝っている。
「祝日?」
「はい。お誕生日のお花のお礼に、何ができるかな、って考えたんですけど。自分の誕生月に祝日、ってすごく恐れ多い、って気持ちがあるから、そういう事じゃなくて。昨夜、神様が、夢に梅の花を降らしてくれたでしょう?」
「ああ!ああ!あれは何とも素敵な夢だった!これからの良い事を予感させるような、スッキリとした、本当に夢みたいな。」
目を細めるハルサ王である。
ええ、ですから。
「祝日って、確かこの時期、なかったですよね。お休みって、嬉しい。でも、皆が皆嬉しい訳じゃないのかもしれないけど、仕事しないと毎日のご飯に困るような人はね、でも、祝日、お祝いなら、働きたい人は特需があるかもだし、大多数の人らは、ゆっくり、来るべき春を迎える準備、冬を越えてきた身体の疲れを休める、そんな日になったら良いな、って、そんな、お返しの提案が、できたらなって、今日来てみました。」
ハルサ王は、竜樹の誕生月の祝日で、みんな納得すると思うけどなあ、とも思ったが、恥ずかしがるであろう竜樹の事も思い、うんうん、と頷き。即決した。
「分かった!では、来年から、この月の、梅の花が咲くくらいの1日を、祝日としよう!手続きはこちらでするから、竜樹殿はテレビやラジオで話をしてくれるかな?」
「え?王様を差し置いて、そんな。」
いやいや、頼むよ。
ポンポン、とニンマリ肩を叩かれて、まあ、発案者だし良いか、と頷いて。来年からの芽孕み月の祝日が決まった。
『こんにちは。ギフトの畠中竜樹です。今日は、お礼と、祝日の話をしたいと思います。』
テレビと、ラジオのニュースで流れる、ニコニコとした竜樹の声に、皆手を止めて、大画面広場、街中、家庭で、お店の中、注目する老若男女。
「竜樹様のお誕生月の祝日でも、できるのかねぇ。」
「かもねかもね!」
ゆっくりと竜樹は喋る。
「皆さん、お誕生月のお祝いの花を、沢山、ありがとうございます。沢山、本当にたくさんの、皆さんの気持ちに、涙が少し、出ちゃいました。嬉しかった。勿体無いけど、沢山眺めた後は、また、孤児院の子達と押し花にして、皆さんにお届けできたらな、って思っています。」
うん、うん、とニコニコの街中の皆である。来年が楽しみだ。
「昨夜、夢の中で、梅の花が降りましたよね。あれって、神様がしてくれたんです。皆がみられる素敵な夢、神様にしかできませんもの。梅の花は、私の生まれた国では、花の兄と言われています。寒い中、真っ先に春の訪れを感じさせて咲く花。この世界も、厳しい冬から、冬の間蓄えた力を発揮できる、萌出る春の時代へと、皆さんでしていけるように、って、俺は思いました。そこで、祝日の提案をさせていただいたんです。」
あ、竜樹様の誕生月の祝日じゃないんだね。でも、春を迎えるって、いいね!と口々に皆が言い合う中、竜樹は続ける。
「来年から、芽孕み月の1日を、グランフレーレ・フルールの日、花の兄の日、として、祝日といたします。」
ヘェ~、と皆、ちょっと嬉しく祝日の名前を聞いて。
「本来なら王様から、お伝えすべき事ですが、この度、王様から言付かりまして、竜樹がお伝えします。春の訪れを、待ち侘びた。けれど、やっと春がやってくる。そんな祝日を、皆さん楽しんでくれる事を、祈っています。それでは、ギフトの竜樹からのお礼と、祝日のお知らせでした。皆さん、いつもありがとう。これからもよろしくお願いします。ではまた。」
放送後、ホワホワとした街中の人々の話題は、祝日一色となった。3王子達も、きのうのゆめのおはな、きれいだったねぇ。ステキだった!祝日になったね!とニコニコ、昨日のお祝いの広間の、紙のお花を取ったり、布を取ったりした。
カルムさん。
貴方が築いたこの幸せを、皆が享受できる、そんな時代に。
コウキとサチ、お兄ちゃんにしてくれた2人に、きっと毎年お礼を言う。
お誕生会を毎年やるかは分からないけど、もうやる気まんまんな3王子達や子供達、貴族組に各国王子達にも、祝日を。
芽孕み月1日は、花の兄の日。
梅の花の夢を見た各国も倣い、どの国も祝日とする事になった。
花の兄は、とても嬉しい、皆の記念日になった。
ーーーーーーー⭐︎
これにて閑話 花の兄は終わりです!
長らくお付き合い、ありがとうございます。
また本編に戻ります~!
55
あなたにおすすめの小説
お転婆令嬢は、大好きな騎士様に本性を隠し通す
湊一桜
恋愛
侯爵令嬢クロエは、二度も婚約破棄をされた。彼女の男勝りで豪快な性格のせいである。
それに懲りたクロエは、普段は令嬢らしく振る舞い、夜には”白薔薇”という偽名のもと大暴れして、憂さ晴らしをしていた。
そんな彼女のもとに、兄が一人の騎士を連れてきた。
彼の名はルーク、別名”孤高の黒薔薇”。その冷たい振る舞いからそう呼ばれている。
だが実は、彼は女性が苦手であり、女性に話しかけられるとフリーズするため勘違いされていたのだ。
兄は、クロエとルークのこじらせっぷりに辟易し、二人に”恋愛の特訓”を持ちかける。
特訓を重ねるうちに、二人の距離は少しずつ近付いていく。だがクロエは、ルークに”好きな人”がいることを知ってしまった……
恋愛なんてこりごりなのに、恋をしてしまったお転婆令嬢と、実は優しくて一途な騎士が、思い悩んで幸せになっていくお話です。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
マジックアイテム「すま~ほ」異世界だって稼ぎます!
八木小町
ファンタジー
家に帰るはずだったのに、気づけば異世界にトリップしていた江本アイリ。なぞのゾンビやひつじ?と協力して異世界の荒波を乗り越える!
不思議なアプリを駆使して異世界惑星地球へ旅行できるの!?旅費は100億!?
気合い、根性、金勘定、マジックアイテム「すま~ほ」を駆使して稼いで稼いで稼ぎまくれ!
アイリは無事に異世界から家に帰ることができるのか。異世界金稼ぎアドベンチャー!?
偏差値はなるべく低くしてお読みください。
投稿初作品です。優しい気持ちで見守って頂ければ幸いです。
【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~
魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。
ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!
そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!?
「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」
初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。
でもなんだか様子がおかしくて……?
不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。
※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます
※他サイトでも公開しています。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる