うちの悪役令息が追放されたので、今日から共闘して一発逆転狙うことにしました

椿谷あずる

文字の大きさ
25 / 154

25.思春期ボーイ(20歳)

しおりを挟む

「お兄ちゃん」

 一歩。歩み寄るメイちゃん。

「お兄ちゃんは私が起きて隠れてたこと、本当はずっと気付いてたよね」 
「……」

 うんとかすんとか言えばいいのに、この人はまた黙ってる。思春期ボーイか。20歳だろ。

「レイズ様」
「……ああ、そうだよ」
「黙っててくれてありがとう」

 小さなお礼。かわいい。
 真っ当な人間ならここで心が浄化されて笑顔の一つでも見せるだろう。

「もしもの時は人質に取ることも考えてたからな」

 もちろん例外もある。
 悪魔に魂でも売り渡してるのか、お前は。

「ううん。お兄ちゃんはそんな事しないよ」

 いや、そういう奴だよこの男は。
 メイちゃんの笑顔で心を開くような奴じゃない。ほんと立場が下の相手には容赦ないな。

「それでね」
「何かな?」

 という訳でここは優しきメイド、ルセリナさんがコミュニケーションを引き継ごう。

「もし良ければ、その移動魔法、貰ってください」
「!」

 移動魔法を……貰う?
 え、いいの。移動魔法って結構いいお値段するよね? 嘘じゃないよね。貰うよ? 全然貰う。

「その代わり」
「!?」

 な、なんだ。お前の命を貰うとか言うのか。だよね、どうせこの物語に純粋な善人なんて存在しないんだ。知ってるぞ。もちろん命をあげることは出来ない。

「お姉ちゃん達の馬車を貰ってもいい?」
「え、馬車?」

 命じゃなくて?

「うん、お姉ちゃん達が乗ってたあの馬車が欲しいな」
「それはいいけど、ね?」
「ああ」

 所有者(仮)も頷いていることだし。

「でもあの馬車、魔力も無いし壊れてるよ?」

 今は私の魔法で形を保ってるだけだし。

「直せばまた使えるよ」
「そうだけど」

 壊れた馬車と移動魔法。金銭的には全然釣り合わない。いいのか、そんな美味しい話。でも一応、取引にはなってるしな。うわ、やばい。久々の美味しい話すぎて気持ち悪くなってきた。

「お母さんもそれでいいよね?」
「メイが、そう言うなら……」
「じゃあ決まりね」

 おおう、決まった。
 あれよあれよと話が進み、何だか上手い調子に移動魔法が手に入ってしまった。いやでも、これで国外追放も楽々ひとっ飛びだ。馬車の中でレイズ様にあーだこーだ言われて肩身の狭い思いをすることも無くなるだろうし。ラッキー。
 不安はまー大丈夫。いざとなったらレイズ様を引き渡そう。

「お姉ちゃんありがとう」

 深いハグ。小柄な頭をわしわしと撫でた。
 うんうん、いーよいーよ。こっちこそありがとう!

「お兄ちゃんもありがとう」

 深いハグ。
 いやいや、いーよいーよそっちは。どうせなんの感謝も感動も無いだろうから。
 どうせなら私みたいに頭の一つでも撫でてあげるくらい……あれ、メイちゃん、そんなに頭の位置高かったっけ? なんか成長した? というか。

「れ、れいずさま」

 私は何を見せられているんだ?

「……」
「前から女好きってのは知ってましたけど」
「……」
「脈絡も無くそんな美女と抱き合うなんてどうしたんですか!?」

 思春期ボーイ!? ボーナスイベントにはまだ早すぎるんですけど!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

裏庭係の私、いつの間にか偉い人に気に入られていたようです

ルーシャオ
恋愛
宮廷メイドのエイダは、先輩メイドに頼まれ王城裏庭を掃除した——のだが、それが悪かった。「一体全体何をしているのだ! お前はクビだ!」「すみません、すみません!」なんと貴重な薬草や香木があることを知らず、草むしりや剪定をしてしまったのだ。そこへ、薬師のデ・ヴァレスの取りなしのおかげで何とか「裏庭の管理人」として首が繋がった。そこからエイダは学び始め、薬草の知識を増やしていく。その真面目さを買われて、薬師のデ・ヴァレスを通じてリュドミラ王太后に面会することに。そして、お見合いを勧められるのである。一方で、エイダを嵌めた先輩メイドたちは——?

冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

シリアス
恋愛
冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!

キムチ鍋
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。 だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。 「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」 そこからいろいろな人に愛されていく。 作者のキムチ鍋です! 不定期で投稿していきます‼️ 19時投稿です‼️

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

モブは転生ヒロインを許さない

成行任世
恋愛
死亡ルートを辿った攻略対象者の妹(モブ)が転生ヒロインを断罪します。 .

処理中です...