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16.偶然のプレゼント

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 結局その日はそれでお開き。
 私も無事に家に着き、ゆっくりと部屋でくつろいでいた。

「うん、今日の作戦はバッチリだったわ。これでレクターに女の子の影ありってね」
「まあそういう事にしておきましょう」

 コンコン

「ん、誰か来たみたい」
「こんな時間に誰でしょう。見てきます」

 そう言ってジュネが部屋を出ていく。
 再び戻って来た時、一緒に連れてきたのは弟のネインだった。

「あらネインさん。今日は作戦会議は無しにしたはずだけど」
「どうも別件で用事みたいですよ」
「あら、何?」
「実は……」

 彼は手にしていた袋から、小さな包みを取り出す。

「開けてもいいかしら?」
「どうぞ」

 その包みは小箱のようになっていて、中には小さなイヤリングが入っていた。

「……ネインさんがこれを私に?」
「いえ」

 彼は小さく首を横に振った。

「じゃあ一体誰が」
「レクター様です」
「えっ、レクター?」

 私はジュネと顔を見合わせた。

「ネイン……もしかしてレクター様に今日のこと話した?」
「話してない!」

 ネインははっきりと否定した。

「今日、孤児院から帰る途中、急にレクター様がお店に寄りたいって言いだして、それでこれを購入したんだよ」
「でもさなんちゅータイミング……」
「そうね……」

 確かに今日、私はお気に入りのイヤリングをゴロツキに差し出した。
 でもだからって、私がそれを失ったタイミングで、買おうとするなんて。

「私が途中でイヤリングが無くなった事、気付いたのかしら」
「いえでも、レクター様は今日、エリーナ様とずっと一緒でお嬢様のイヤリングに気付けるようにはとても」
「そうよね、私もそう思う」

 私はジュネに同意した。
 あれだけ彼女の相手をしている状況で、私の姿を気に留めている余裕があるはずがない。ましてやイヤリングの有無なんて。間違い探しじゃあるまいし。

「偶然かしらね」
「偶然ですかね」

 二人で腕を組んで思い悩む。
 それから数分が過ぎようとした時だった。

「とにかくっ」

 ネインが私達の空気を打ち壊すように声をあげた。

「渡す物は渡したので俺は帰ります」
「あっお疲れ、ネイン」
「こんな遅くにありがとう、気を付けて帰ってね。ネインさん」
「……」

 彼は軽く頭を下げる。そしてぼそりと呟いた。

「まあ僕も気になるので、後でこっそり聞いてみますよ。何か分かればお伝えします」
「さっすが。あ、でも、魔法は乱発するなよ」
「しないよ! あくまで会話の中でさりげなくだ」
「何から何までありがとう」
「いえ、いつも姉がご迷惑をお掛けしておりますし、このくらいは」
「何おぅ」
 
 けれど結局、ネインが何度尋ねても『偶然だよ』の一点張りで、レクターから詳しく真相を聞ける日は来ないのだった。
 
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