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15.この物語に特殊能力はいらない
しおりを挟む「こんなこと言うのもなんですが、お嬢様ってお嬢様にあるまじき能力持ってません?」
「そうかしら?」
「そうですよ」
ふとジュネがそんな言葉を漏らした。
十二人の男達がおとなしく地面に伏せている。
私達を襲ったゴロツキ達は皆全て、私からの命令に従い体を地面に押し付けていた。
残るは後始末をするだけ。
とは言っても別に彼らを殺すわけじゃない。
周囲を散策し、ナイフが落ちていたら、それを彼らにお返ししてキチンと家に持ち帰って貰うだけ。
だって子供が見つけたら危ないものね。
「私やネインは練習して身に付けた技能ですけど、お嬢様のそれって天性の能力ですよね……っと」
ジュネは草の隙間に落ちていたナイフを蹴り上げながら言った。ナイフは一人のゴロツキの眼前に転がる。お見事。
「元から備わっていたかと聞かれれば、YESと答えるわね」
「いいなぁ~、命令通りに相手を動かせる能力」
そう言ってジュネは空を見上げた。
どうやら本気で羨ましがっているらしい。
「私は別にいいとは思わないけど。だってネインさんの魔法みたいに、相手の感情までは探れないし。ただ、命令通りに相手を動かせるってだけよ」
「でもお嬢様の場合、一切魔力は消費しないんですよね」
「ええ、そうね」
物心つく頃から持っていた、この力。
基本乱用することはないけど、使ったからといって疲れを感じることは確かになかった。使おうと思えばいつでも無限に使える気さえする。
「ちなみにその力って、レクター様は知ってるんですか?」
「知らないわよ」
「えっ、そうなんですか」
意外そうに口を開いたのはネインだった。
そんなに驚くことだっただろうか。
「?」
「あ、いや……そんなに凄い能力があれば、レクター様だって婚約破棄なんて言いださないんじゃないかと思って」
私の困惑に気付いたネインは、すぐさま会話に説明を加えた。
凄い能力には従うはず。
なるほど。
そういう考え方もあるか。でも……。
「言うつもりはないわね、だって怖いじゃない」
「そうですか」
「こんな得体の知れない力なんて、私だったら逆に敬遠しちゃうわ」
命令通りに相手を動かせるなんて聞いたら、自分もそのターゲットになるんじゃないかって不安になってしまうだろう。
だから私は言うつもりは無い。
たとえそれを言う事が自分のメリットになるとしても。
あと、なんとなくだけどレクターはそれを聞いても、婚約を左右させるタイプじゃないと思う。
「な、なんかすみません」
差し出がましい発言をしてしまったと思ったのか、ネインは縮こまって頭を下げた。素直だ。
「別に悪いことは言ってないわ。私がただ、そんな力は抜きにして、私は一人の人間として彼と付き合いたいだけ」
「お嬢様カッコいいー」
「はいはい、そういうのはいいから」
ジュネの冷やかしを適当にあしらって、私はゴロツキの前にそっと屈んだ。
「え、お嬢様、何をする気で……」
「はいこれ、治療代。売ればそこそこのお金になるはずよ」
そう言って私は自分のイヤリングを外し、彼らのうち一人のポケットの中に忍ばせた。
それを見てネインが疑問をこぼす。
「悪いのはこいつらでしょう? 別にそんな物いらないのでは?」
「うーん、でもこの人達だって、お金に困ってこんな事しているんだろうし、このくらいはね?」
「まあ、お嬢様が良ければいいんですけど」
「じゃあいいわね。さ、そろそろレクターが心配するわ。戻りましょ」
こうして私達は建物の中へと戻った。
===
セイラ達から見えない反対側の影。
「レクター様?」
「ん」
「どうしてコソコソしているんですの。真正面から話を聞きに出て行けばよろしいのに。何なら私が言って差し上げ……」
「ああっ、待った! エリーナ」
レクターはエリーナを小声で呼び止めた。
少女は不思議そうに振り返る。
「?」
「いいかい、俺達は呼ばれていないんだ。だから無暗に出て行っちゃいけないよ」
「それは仲間外れってこと? 酷い……」
「うん、酷いね」
「? そう言ってる割には、笑ってる。レクター様、不思議」
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