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3.ええ、初対面ですね
しおりを挟むおはよう、って。
状況がうまく飲み込めず、ゼルファスが目を見開く。
「……ふわぁ」
そんな彼の姿を見てもなお、動じることなくリアンは眠たそうに目を擦る。
「……おはよう」
「あ、ああ……おはよう……って待てよ! 違うだろ、なんなのそのマイペース! もしかしてお前、さっきからずっと起きてたとかじゃないよな!?」
そう尋ねながら、ゼルファスは少し焦りを感じていた。
もし仮に起きていたとしたら、それは、先ほどの“災厄の魔導士”発言を聞いていたことを意味するからだ。
「ん? いや、今起きたけど」
リアンはぼんやりとした声で答えた。
寝ぐせの付いた銀髪がふわりと揺れ、まるで朝の光をまとっているかのようだ。
「ほ、本当だろうな?」
「うん。何か問題でもあった?」
「……いや、ない。そんなもの微塵もない! うん、完璧に平穏だ、心拍数も正常、魔力の乱れもない!」
「え、何の話?」
「独り言だ。お前が聞く必要はない」
「そうなの」
「ああ」
ゼルファスは返事をしながらも、彼に対する警戒を解くことが出来なかった。
こいつは本当に何も聞いていなかったのか。その疑問が拭えない。
しかし、そんなゼルファスの心配をよそに、リアンは「あっ」と手を打った。
「そうだ。君、俺を助けてくれたってことであってる?」
「まあ、一応そうだな」
「誘拐とかじゃない?」
「違うだろ!」
本当はその辺に転がしたままにしようと思っていたことは飲み込んだ。でも転がしとけばよかったかもしれない。
「ふーん、じゃあありがとう。強いんだね」
「え?」
「あの森の魔物、俺一人じゃどうにもならなくてさ」
「……へえ」
仲間はどうした、と聞きたかったが、それは聞かないでおいた。
「君のおかげで助かったよ。あのままだったらきっと死んでたと思う」
そう言って、彼はうっすらと笑みを浮かべた。その顔は、かつて“災厄の魔導士”と対峙した時とはまるで別人のようだ。
「お前……本当にあの勇者か?」
思わずそう呟くゼルファスに、リアンは首を傾げた。
「あれ?」
「え? なんだ。ど、どうした」
灰青の瞳が不思議そうにじっとこちらを見上げている。
「なんだよ、何か変なこと言ったか?」
「いやさ、俺……自分が勇者だって言ったっけ?」
あ、しまった。つい余計なことを。
一瞬だけゼルファスの頭の中が白く染まった。このままじゃマズイと慌ててそれっぽく言葉を選び取る。
「……はっ、言われなくても分かるに決まってるだろ。この世界で偉大なる勇者様の顔を知らない奴がいるわけない」
「ふーん、そんなもんかぁー……」
そう言って、リアンはしげしげとゼルファスの姿を眺めた。その視線がむずがゆく、ゼルファスはしかめっ面になる。
「なんだよ。まだ変なところでも?」
「いや、そうじゃなくて……なんだか以前にも、どこかで会ったことがある気がして」
その言葉に、ゼルファスの心臓が跳ねる。胸の奥にざらりとした痛みが走った。
「……気のせいだろ」
「そうかなあ。なんかこう……覚えがあるんだけど、ない?」
「ない」
リアンは相変わらずじっとこちらを見つめている。その視線を逸らすように、ゼルファスはため息をついた。
「ったく、いい加減にしろ。俺はもう休むからな。お前をここまで運んで、俺はもうぐったりだよ」
「そう? ごめんね。そうだ、そういえばまだ名前を聞いてなかったよね?」
名前を尋ねられ、一瞬返事が遅れる。しかしすぐに思い直し、答えた。
「……ゼルファス。ゼルファス・クロードだ」
前世で持っていた本当の名前を答えた。
問題はない。だって当時“災厄の魔導士”に語る名前は与えられなかったから。誰も知らない、どこにも使われなかった俺の本当の名前。
「そっか……いい名前だね」
「お前に名前の良し悪しが分かるのかよ」
「分かんないけど」
「分かんないのかよ」
「俺、リアン・アルディナっていうんだ」
ゼルファスが顔をしかめる。
「……知ってるって」
「でも、一応名乗ろうと思って」
「そりゃどうも」
「うん。じゃあ、改めてよろしくね」
そう言ってリアンはまたうっすらと微笑んだ。
「……はあ」
その日の夜、ゼルファスはひとり調合台に向かって考えていた。
今日は成り行きで助けたけど、これ以上勇者と関わるのは面倒そうだ。明日にはさっさと出ていってもらおう。
「でも……あいつに何を言っても無駄そうな気がするんだよなー……」
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