災厄の魔導士と呼ばれた男は、転生後静かに暮らしたいので失業勇者を紐にしている場合ではない!

椿谷あずる

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20.見覚えのあるもの

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「……は?」

 災厄の魔導士。
 リアンが口にしたその言葉には、悪意の影すらなかった。
 だからこそゼルファスは返答を失う。
 あまりにも自然に投げられた問い。
 隠し続けてきたことなのに、ほんの少し気を緩めれば、真実を零してしまいそうになる。

 ――だめだ。

「い、いやいや……」

 ゼルファスは目をそらし、いつもの調子で会話を続ける。

「何を根拠に言ってんだよ?」
「村での魔物討伐とか」
「あんなの大したもんじゃない。魔法をかじった奴なら誰でも出来る」
「昨日の魔物相手でも?」
「ああ。コツさえ解りゃどうにでもなる」
「でも昨日の魔法って、明らかに普通じゃなかったよね?」
「そうか? お前が魔法に詳しくないから、そう思っただけだろ」
「……そっか」

 リアンは素直に引いたように見えた。
 ほら、冷静に押し流せばなんてことはない――。

 ゼルファスが棚へ皿を取りに手を伸ばした、その時だった。

「嘘だと思う」

 静かに落とされた一言で、指先がぴくりと震えた。
 皿が手から滑り落ちる。

「あ、やば」

 掴もうとしても、間に合わない。
 床に落ちる音を覚悟した――が。

「危なかったね。セーフ」

 皿は別の手に受け止められていた。
 顔をあげれば、リアンがすぐ目の前。
 その距離、わずか数センチ。

「はい、どーぞ」
「わ、悪い……」

 そう言って皿を受け取る指は、微かに震えていた。
 リアンは何も変わっていないはずなのに、その近さが妙に息が詰まる。
 ゼルファスはわずかに身を逸らして距離を取った。

「……で? 俺のどこが嘘なんだよ?」
「それは」

 リアンは少し考える。
 その雰囲気は追求するというより、日常会話に近い。

「今朝のこと」
「今朝?」

 ゼルファスは眉を寄せる。
 今朝――寝起きドッキリ、頭をぶつけた。それ以外に何が?

「俺がゼルファスをドッキリで起こした時ね」

 リアンはゆっくりと目を上げ、まっすぐに見つめてくる。

「……災厄の魔導士の魔力が、君から漏れてた」

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