災厄の魔導士と呼ばれた男は、転生後静かに暮らしたいので失業勇者を紐にしている場合ではない!

椿谷あずる

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24.恩を仇で

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 村の中心に近づくにつれ、空気が肌に刺さるように重くなっていく。
 焦げた匂い、土煙、そして魔物が吐く低い唸り声。

「いた……!」

 ゼルファスとリアンが、ようやく魔物の前へと辿り着いた。
 しかしもちろん相手もこっちに気付く。

「リアン、ちょっと待て」

 ゼルファスは軽く指を鳴らした。
 すると、地面から泥のような魔力が枝のように伸びる。それは魔物を押さえ込むように、しっかりと相手の足元を縛りあげていた。

「イマ!」

 リアンの声が響く。
 二人は駆け寄って彼の体を起こした。イマは息も絶え絶えで、意識があるのが不思議なくらいの状況だった。ゼルファスは薬を含ませ、治癒の魔法を唱える。

「リ、リアン……? なんで……ここに……」

 その声は驚きよりも、困惑と自嘲が混じっていた。
 あとから追いついたゼルファスが答える。

「助けに来たに決まってんだろ」
「助け? ははっ、冗談だろ……どうせ何も出来ないくせに」

 イマは鼻で笑い、ゼルファスが口元をひくつかせる。

「お前、本当に腹立つやつだな」
「なんとでも言え。嘘はついてない。コイツはどうせ戦えないさ。それともアレか? 代わりにお前の方がなんとかするのか? なあ、災厄の魔導士さん」
「……誰だよそれ」

 そう返したものの、ゼルファスは内心で舌を打つ。
 リアンにだって気付かれたんだ。この男にだってバレないはずがない。

「分からないとでも思ったか? 分かるさ! お前のせいで、俺たちはリアンを失ったんだ!」

(……めんどくせえ)

 こんな状況だというのに、イマは水を得た魚のように目を輝かせていた。

「お前のことは許さない! ここでお前が魔法を使って魔物を倒したら、村の連中に言ってやるよ。この男、実は災厄の魔導士なんだってな!」

 やっぱりこいつ、助けなきゃよかった。
 ゼルファスはほんのり後悔したその時だった。

「大丈夫、その心配には及ばないよ。イマ」
「は、何言って……」

 シュパッっと空気を切り裂くような音。
 一瞬、魔物がうねるように全身をかがめたかと思うと、黒い影が地面に滲むように広がり、その中心で魔物がどさりと倒れた。

「……え?」
「だって俺が倒しちゃったから」
「ど、どういうことだ?」

 呆然して状況が飲み込めないイマの隣で、ゼルファスが片手をあげる。

「お疲れさん、リアン」
「どういたしまして」
「大変だったか?」
「なんとかなったよ」

 リアンはケロッとそう言って、剣を懐へと片付けたのだった。
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