災厄の魔導士と呼ばれた男は、転生後静かに暮らしたいので失業勇者を紐にしている場合ではない!

椿谷あずる

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27.平穏な日常は目玉焼きと共に

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 帰りの道は、太陽の光を受けて緑が綺麗に映えていた。
 村のざわめきはすでに遠く、風に揺れる木々の音だけが二人の周囲を満たしている。

「うーん……思ったよりも疲れたかも」

 そう言って伸びをしながら歩くリアンを、ゼルファスはちらりと見る。

「あんなにさっくり倒しておいてよく言う。俺の方が疲れたっての」
「そんなこと無いでしょ。余裕であの魔物を抑えてたくせに……」
「いやー俺なんてギリギリですよ。あと一歩、勇者サマの攻撃が遅ければプチッといってたって」
「魔物の方がでしょ?」
「そう。魔物の方が」

 茶番だ。
 イマが聞いていたら、きっとそう嘆いていただろう。しかし今、この場に彼はいない。
 あるのは二人の緩やかな時間だけ。

「さーて、これからどうするかな」
「どうするって?」

 リアンが首を傾げてゼルファスを覗く。

「お前がうちを出て行くし、暇になるから何か新しい事でも始めようかと思って」
「え?」
「えっ?」

 突然、隣を歩いていたはずのリアンの速度がふっと緩む。
 振り返ると、リアンは目を丸くしてぽかんと突っ立っていた。

「どうした?」
「いや……」

 リアンは少しだけ視線を足元に落とした。
 考えるような間があって、そして尋ねた。

「俺、出て行くの?」

 さわさわと二人の間を風がそっとかきわけていく。
 このまま止まってしまいそうなほど静かな時間。
 ゼルファスはあっさり答えた。

「そりゃ元気になったからな」

 回復するまで一緒に過ごす。
 確かにそれが当初の二人の間に結ばれた約束だった。
 つまり気力が回復すれば、お役御免。

「いやぁよかったよかったー……ってあれ?」

 再び歩き出そうとしたのはゼルファス一人だった。

 妙に重たい沈黙。
 リアンのまつ毛がわずかに震えたのを見た気がした。

「リアン?」

 どうしたらいいのか分からなくなって、目の前で手を振る。
 そのゼルファスの右手を、リアンがそっと掴んだ。

「……ど、どうしたんだよ?」
「それは違うね」
「違うって何が」

「ゼルファスは、俺に出て行って欲しくないと思ってると思う」

 ぼんやりしているくせに、見透かしたような真っ直ぐな表情。
 ゼルファスは一瞬だけ言葉に詰まった。

「いっ、いやいや、どうして俺の思考をお前が決めちゃうわけ?」
「だって俺はそうしたいと思ってるし、ゼルファスにもそう思って欲しいと思ってるから」
「あーはいはい……全く、一方的な勇者サマですこと」

 まるでいつもの軽口のようなやり取り。
 けれど目の前のリアンは、当人ですら自覚していないのかもしれないが――なぜか寂しそうに見えた。

 ゼルファスはリアンから視線をそらして目を閉じる。
 別に嫌なわけじゃない。でもどうしていいか分からず、ちょっとだけ思考を巡らせた。

「……負けでいいよ。俺の負け」

 ゼルファスはぽつりと呟いた。


===


 どかん。
 静かな朝の始まりを嘲笑うかのように、鈍い大きな音が部屋に響く。

「……お前、今度は何やってんの?」
「目玉焼きを作ろうと思って」
「目玉焼きはそんな爆弾みたいな音しません」

 めちゃくちゃになったキッチンの真ん中にリアンがのんびり突っ立っている。ゼルファスはそれを慣れた手付きで片付ける。それに倣うようにリアンも一緒に片付ける。
 ありふれたような普通の日常。

「あーあ、また食材が駄目に……」
「でもゼルファスは、そんな俺を許してくれると思う」
「許しません。つーかその構文を当たり前のように便利に使うな」
「えー」
「えー、じゃない」

 妙に心地の良い軽口。
 かつて世界を守った男と、かつて世界に災厄をもたらした魔導士。
 そんな物騒な肩書きはもうどこにも無い。
 あるのはただのリアンと、ただのゼルファスの誰にも邪魔されない平穏な日常だけ。

「ったく仕方ねえ……また村まで買い出しに行くか」
「いいねー、行こう」
「おい、反省する気」
「あるってば」

 優しく一日が過ぎていく。

 ゆっくりと流れる時間の中で、忘れていたかのように、鍋のふたが吹き飛ぶ音が森に響いた。


 
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感想 2

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みんなの感想(2件)

ユノ
2025.12.10 ユノ

素敵な作品をありがとうございました〜〜〜;;♡♡約1ヶ月の間、更新される度に爆萌しながら読ませていただいておりました…!!椿谷あずるさまの書くBLジャンル本当に大好きです、今作もお疲れ様でした🍀✨

2025.12.10 椿谷あずる

うわあ勿体ないお言葉!
趣味で好きなことをつらつら書いていただけなので、それを気に入っていただけるのは、ほんと奇跡みたいなものだと思っております〜。
労いのお言葉ありがとうございました!

解除
さき
2025.12.08 さき

いつも楽しく読ませて頂いてます✨
ゼルファスさんとリアンくんの関係がほのぼので尊いです!!

作者様日々の楽しみをありがとうございます😊
応援してます🙏

2025.12.08 椿谷あずる

いつも読んでいただきありがとうございます!
こんなゆるっとした感じで大丈夫なのかなと不安になりながら書いているのですが、そう言っていただけて安心いたしました!!

こちらこそ応援ありがとうございます😭

解除

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