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 クレハちゃんの話によると、実はこういう事だった。
 元々、バロワー家は珍しい輸入雑貨を取り扱う貿易商の家系だった。しかし、長年培ってきた一流ルートを持つバロワー家は、ある日魔物にそのルートに目を付けられ一族もろとも乗っ取られてしまう。結果、本当の領主であるクレハちゃんの両親は地下へ投獄され、彼女自身はこうして奴隷にされてしまったのだそうだ。

「皮肉にも偽のバロワー家は、あっという間に一流の奴隷商として成り上がってしまいました」

 その結果、街全体が奴隷の街として栄えることになって、旅の一団として訪れた私達が見かねて粛清するに至ったと。
「じゃあ私達が倒したのは」

「恐らく魔物達が用意した偽物の領主でしょう」

 ルカちゃんがそう言うと、クレハちゃんがこくんと頷いた。

「僕達の生活は今の今まで何の変化もありませんでしたからね……」
「……そう……だったんだね」

 やっぱりあの時、アルスを殴ってでも街の復興を見届けるべきだったし、ルカちゃんに会いに行くべきだった。

「クレハちゃんもルカちゃんも……ごめんね」
「ノ、ノアさん?」
「二人ともこんなに辛い目に遭ってたのに……私、何も知らなくて」

 二人は辛い中一生懸命生きてきた。それなのに私はなんて不甲斐ないんだろう。

「そんな! ノノアさんが謝ることじゃありませんよ」

 ルカちゃんは優しい顔で言った。クレハちゃんも同意するように小さく頷いている。ああもうこの子達、なんでこんなにいい子なの? 今すぐ二人を抱き締めたい衝動を抑えつつ、私はルカちゃんに視線を移した。

「ねえ、ルカちゃん。それでこれからやるべき事なんだけど」
「はい。僕がクレハちゃんの両親を救出しに行きますから、その間、彼女を安全な場所で保護して……」
「倒そう」
「え?」

 きょとんとするルカちゃん。そんな彼に私は続けた。

「今もこの街を裏から牛耳っているその魔物を倒そう!」
「……え?」
「は……?」

 ルカちゃんとクレハちゃんが揃って間の抜けた声を出す。でも仕方ないじゃない? クレハちゃんのご両親を助けに行くって決めたなら、もうその魔物をやっつけるしかないでしょ?

「安心して、私がお父さんとお母さんを閉じ込めた魔物を倒してくるから」

 私はクレハちゃんの肩にぽんと手を置いた。

「い、いやいや! 何を言っているんですか! 無茶ですよ!」
「え、だってルカちゃん、この子助けたいって言ったよね?」
「言いましたけど、相手は魔物ですよ? 僕はノノアさんを危険な目に合わせるつもりは……」

 ぼそぼそと彼の声が小さくなっていく。きっと彼なりに私の身を案じているのだろう。顔は私より可愛いくせに。

「ふふっ、大丈夫だよ。私達は元々、何のために旅をしていたんだっけ?」
「え……そ、それは、邪龍ノヴァの討伐ですけど……で、でも! それはアルスさん達がいるから可能だった話で!」
「ほら、じゃあ大丈夫」
「え?」

 私はにっこり笑みを浮かべる。それはもう満面の。

「だって私、彼らより先に邪龍討伐しちゃうつもりだから」
「は……い? えええええええええええ!?」
 
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