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5.平和と渾沌を愛する男
しおりを挟む「では、引き続き自己紹介を進めよう」
聖会長の一言で再び自己紹介のタイムが訪れる。
さっきのでつっこむことを諦めてしまったのか、神楽先輩も静かに腕を組んでいる。
まだ続くのか……ってことは次の順番ってもしかして。
「ふむ。いい加減、自己紹介も飽きて来たな」
ストレートすぎるコメントが飛んできた。
「ちょっと、二千翔君っ!」
「会議は一時間までというのが最も効率がいいからな。サクッと行こうか。如月二千翔、二年、平和と混沌を愛してます。はい、次、こまり君」
「は? え? いや何その平和と混沌って。その主張矛盾して……」
「ほらほら、時間、時間」
「ぐうう……誰のせいで、つっこみを入れたくなったと……っ一宮こまり、同じく二年! 入部理由は神楽先輩に同じく! 以上! 次!」
もういい! あとはどうにでもなれ!
私は会話のボールを乱雑に投げた。次の受け手は隣に座る女の子。一瞬びくりと肩を跳ねさせたかと思うと、泣き出しそうな声で自己紹介を始めた。
「いいいいっ一年生です、立秋寺八雲! あのっ、そのっ、お手柔らかにお願いしますううぅ……!」
この世の終わりのような悲鳴が部屋に響いた。
……これまた違った方向で、個性が強い子来たなー。
「あれっ? えっ? まだ自己紹介続いてます? なんで……? これ以上私、喋ることとか無っ……」
「あーいやいや、違うよ? 隣の彼が起きないだけ」
いよいよ涙を零しそうな彼女に、ニコニコしながら二千翔君がフォローを入れる。
隣の彼。
みんなの視線が、机に枕をセットして、勝手に夢の国の住人になっている彼に向かう。
「すぴー」
寝ている。
確かに寝ている。
……え、ここ一応学校だよね?
さすがに会長も、その露骨な光景に少しだけ判断を鈍らせた。
「ふむこれは……」
「困ったね」
四季先輩がそう言った瞬間。
「お任せください、兄様」
きらりと目を光らせたみーくんが、どこから見つけたのか冊子を丸めて立ちあがる。
そして寝ている彼の元へ近づき、まるで某害虫を倒すかのように振り上げ――。
ポスン。
「?」
「っ!?」
一同が息を呑んで見守る中、みーくんの一撃は空振りに終わった。
再び冊子を振り上げようとしたが、びくともしない。
寝ているはずの彼が、その冊子を片手で押さえていたのだ。
「んもー、そんなの人に向けたら危ないでしょ? みーくん」
そう言って、彼はようやく枕から顔を上げた。
「あー……自己紹介だっけ? 九重夜月、一年。ここなら寝ててもいいかなって思って入部しました……夢の中で活動出来るっていいよね……」
そう言い残すと、彼は再び枕に顔をうずめた。
「おい! 勝手に僕を『みーくん』と呼ぶな! おい! 聞け!」
それからは、みーくんが何を言っても反応することはなかった。
でも、この流れで自己紹介したってことは、一応話は聞いていたのかな?
静まり返った空気の中、みーくんは小さく呟いた。
「……兄様、僕、あいつに負けた気がします」
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