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19.わりと強引な男
しおりを挟むつい、いつぞやの仕返しのつもりで、唐突に問題を投げてみたわけだけど、この場合それは失敗だったのかもしれない。
「なるほど。僕の出番か」
そう答えた彼の表情は、明らかに私達の抱えるそれとは別物だった。
それはまるで水を得た魚のような。
「……二千翔君、まさかとは思うけど、危険なことは考えてないよね?」
「危険? とんでもない。僕はただ問題に対して解法を探す、真っ直ぐな生徒のそれだよ」
それとは? 分からない。
でも、笑顔で一番怖いタイプの返答が返ってきた気がする。
私は七海君と顔を見合わせた。
「一応、聞くね。どうするつもり?」
「簡単な話さ。彼らの弱点を突くだけ」
弱点。
その響きがすでにブラック。
「ねぇ、それってつまり――」
「うるさいのを注意してもダメなら、静かにしないと困る理由を作ればいい」
言ってることは分かるけど、絶対ロクなことじゃない。
===
数分後。
私達は図書室の奥から静かに様子を見守っていた。
お喋りグループは相変わらず盛り上がっている。
そんな中、二千翔君はスッと立ち上がると、まるで何気ない通りすがりのように近づいていった。
「彼……行ったね」
「な、何する気かな……」
二千翔君がテーブルの脇を通り過ぎる。そして。
コトッ。
「あっ、今!」
「何か落としましたね」
彼はさりげなく、ポケットから何かを落としていた。
黒いスマホのようなものが、床に置き去りにされる。
「ん? 何これ……ボイスレコーダー?」
しばらくして、お喋り女子の一人がそれに気付いて拾い上げた。
「えー、なになに?」
「面白そうじゃん。再生してみよーよ」
そう言って、グループの一人が興味本位でそれを押した。
ピッ。
『それって校則のどこに書いてあるんですかー?』
『やばー! なにその動画ー面白ー!』
軽快な電子音が響いたかと、図書室に彼らの声が大音量で流れた。
――そう、さっきまでの会話の録音である。
「え、これ、誰が録ってたの!?」
「ちょ、やめろよマジで!?」
「怖っ!」
「盗聴じゃん! 誰だよ」
瞬く間に慌てふためくお喋り集団。
焦った彼らは周囲の視線に気づく。
図書室の生徒たちが、一斉に彼らの様子を見ていた。軽くホラー。
その状況にさすがに薄気味悪さを感じたのか、彼らは若干青ざめて荷物をまとめ始めた。
「ちょ、帰ろ……やべぇ……」
「そのレコーダー気持ち悪いって! 置いてけ!!」
彼らがそそくさと図書室を出ていくのを確認してから、二千翔君は落ち着いた動作で、その場に捨て置かれたレコーダーを拾い上げた。
スイッチを切って、満足げに微笑む。
「ふう。静かになったね」
怖い笑顔No.1殿堂入り確定。
「な、なんか……えげつない方法ですね」
「いつから録音してたの? それ、セーフなの?」
「セーフだよ。知らない間に勝手にレコーダーの録音ボタンが押されてて、それを偶々この机の下に落としてしまっただけだから」
「偶々で片付けるんだ……」
七海君が苦笑してる横で、私は小声でため息をついた。
なんというか……結果的には成功してしまったのが複雑だ。
会長が微妙な顔で頷く。
「生徒会目安箱・図書室でうるさい生徒がいる問題、ひとまず完了だな」
「完了って言っていいんですかね……?」
私の疑問をよそに、みーくんのページをめくる音だけが心地よく響いていた。
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