3 / 10
3.開始早々ネタバレをくらう
「それでは失礼しました!」
「お騒がせしてすみません!」
「いえいえ、我々は市民の安全のために働いておりますから!」
そう言って、颯爽と引き揚げていく治安管理局の人たち。制服の背中がまぶしく見えた。しっかり仕事をしてくれて、本当にありがたい限り――
……と思っていたのに。
あれ?
待って。
リックは? 連れて行かれたんじゃなかったの?
「いやあ、びっくりしたよ。まさか治安管理局を呼ぶなんてさ」
「えええええええええ!?」
振り返った私の目に飛び込んできたのは、家の中で優雅にティーカップを傾けている推しの姿だった。
リビングの椅子に深々と腰かけ、テーブルにはちゃっかりケーキの箱。さっき私が拒否したはずのイチゴのホールケーキである。
「お邪魔してます。改めてよろしく」
よろしくじゃねぇ。
その口調もその笑顔も完璧すぎて、逆に怖い。
「ちょっと、どうしてあなたが家の中にいるの!?」
「うん、さっき連れて行かれたように見えたかもしれないけど、実はあれ……パフォーマンスなんだよね」
「パフォーマンス……?」
「だってほら、君が呼んだ治安管理局を何もせず返すわけにもいかないし。でも、俺はまだ話の続きがあったから。だから形だけ。これでゆっくり話せるかな」
話せないよ!?
軽い調子で言われても全然納得できない。
というか、意味がわからない。何その“ちゃんと帰ってきたよ”みたいなノリ。
「え、じゃあ治安管理局は?」
「帰ってもらった。ま、俺、公爵家の息子だからね。なんとでもなる」
権力を雑に使うな!
この世界、貴族の権力が強いとは聞いていたけど、まさかここまでとは。
貴族の息子は通報されても逮捕されないって、それどこの悪役令息だよ。
「それじゃ、ようやく落ち着いたことだし、ゆっくり話をしようか」
「……ちょっと待って。その前にもう一つ、私の質問に答えて」
私はじとりと彼に問い詰めるような視線を向けた。
「あなた、まだ私と出会ってないはずだよね? なのにどうして、私の家を知ってるの? おまけに好みの食べ物まで……ねえ、どうして?」
こんな世界観をぶち壊すような質問、本来のゲーム世界ならタブーなんだろうなって思う。それは私だって重々理解している。
でも相手が既にタブーに踏み込んでいる以上、こっちだってスルーする訳にはいかない。
私の言葉にリックは一瞬だけ動きを止めて、考えるように宙を見つめた。それから、ちょっと困ったような微笑を浮かべて答えた。
「それは……俺が占星術を得意としてるから、かな?」
「……は?」
何を言ってるんだろう、この人。
私の脳が急速に警戒の色を点灯させる。この発言は明らかにおかしい。
そうとも知らず、彼はすらすらと言葉を紡いだ。
「俺、星を読むの得意なんだ。星の導きで君が運命の相手だって分かったし、好物も読み取れたっていうか……うん、星ってすごいよね」
「……嘘つかないで」
私の声がぴしゃりと響いた。我慢は出来なかった。
「どういう……ことかな?」
「リック=ノイエルは占星術が苦手な設定なの。ゲーム序盤で、占星術の授業に苦戦してるのを、私――が助けることになってる。だから、あなたがそんなこと言うはずない!」
「えっ……あ、嘘、そうだったの……? い、いやあ、隠していたけど実は得意だったんだよねー……」
そう答えて、気まずそうに視線を逸らす。笑ってごまかそうとしてるけど、私にそんなものは無意味だ。
「嘘」
こっちは元プレイヤー。シナリオも設定も、全部頭に入っている。今さらそんな即興の言い訳で誤魔化されるわけがない。
外見だけがまんまリック=ノイエルの姿をもつ謎の男。この男は一体、何者なのか?
その瞬間、ふと脳裏に先ほどかき消したはずの言葉が浮かんだ。
――転生者? ……いや、まさか。
「ねぇ、あなた……もしかして」
恐る恐る問いかける。
「こ、今度はなに?」
「転生者?」
「えっ?」
リックが目を見開いた。
なんだろう、この嫌な予感。違うなら秒で即答して欲しい。
しかし数秒後、私の期待を裏切って返ってきた言葉はあまりに残酷なものだった。
「もしかして君も?」
どこかホッとしたように、そしてちょっとだけ照れくさそうにリック(偽)は笑った。
――まさかの、秒でオチ終了。
目の前の推しは、本物じゃなかった。
見た目は推しだけど、中身は私と同じように、異世界からやってきた転生者。
急展開すぎて、頭がついていかない。
恋愛ゲームの世界に異世界転生するヒロインってこんな感じだったっけ。何、その設定。
「なんで転生者が二人も……」
まさか、こんな形で推しに出会うことになるなんて――本当に思っていなかった。
あなたにおすすめの小説
「お前は妹の身代わりにすぎなかった」と捨てられた養女——でも領民が選んだのは、血の繋がらない姉の方だった
歩人
ファンタジー
孤児のフィーネは伯爵家に引き取られた。
病弱な令嬢エーデルの「代役」として。社交も、領地管理も、使用人の采配も——
全て「エーデル様」の名前で、完璧にこなしてきた。
十一年後。健康を取り戻したエーデルが屋敷に帰還した日、伯爵は言った。
「もう用済みだ、出ていけ」
フィーネは静かに屋敷を去った。
それから一月もしないうちに、領民たちが伯爵に詰め寄った。
「前のお嬢様を返してください」
試験でカンニング犯にされた平民ですが、帝国文官試験で首席合格しました
あきくん☆ひろくん
恋愛
魔法学園の卒業試験で、私はカンニング犯に仕立て上げられた。
断罪してきたのは、かつて好意を寄せてくれていた高位貴族の子息。そしてその隣には、私を嫌う貴族令嬢が立っていた。
平民の私には弁明の余地もない。私は試験の順位を辞退し、その場を去ることになった。
――だが。
私にはもう一つの試験がある。
それは、帝国でも屈指の難関といわれる帝国文官試験。
そして数日後。
その結果は――首席合格だった。
冤罪で断罪された平民が、帝国の文官として身を立てる物語。
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)
ラララキヲ
ファンタジー
乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。
……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。
でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。
ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」
『見えない何か』に襲われるヒロインは────
※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※
※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※
◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故
ラララキヲ
ファンタジー
ある男爵が手を出していたメイドが密かに娘を産んでいた。それを知った男爵は平民として生きていた娘を探し出して養子とした。
娘の名前はルーニー。
とても可愛い外見をしていた。
彼女は人を惹き付ける特別な外見をしていたが、特別なのはそれだけではなかった。
彼女は前世の記憶を持っていたのだ。
そして彼女はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームが舞台なのだと気付く。
格好良い攻略対象たちに意地悪な悪役令嬢。
しかしその悪役令嬢がどうもおかしい。何もしてこないどころか性格さえも設定と違うようだ。
乙女ゲームのヒロインであるルーニーは腹を立てた。
“悪役令嬢が悪役をちゃんとしないからゲームのストーリーが進まないじゃない!”と。
怒ったルーニーは悪役令嬢を責める。
そして物語は動き出した…………──
※!!※細かい描写などはありませんが女性が酷い目に遭った展開となるので嫌な方はお気をつけ下さい。
※!!※『子供が絵本のシンデレラ読んでと頼んだらヤバイ方のシンデレラを読まれた』みたいな話です。
◇テンプレ乙女ゲームの世界。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げる予定です。
折角転生したのに、婚約者が好きすぎて困ります!
たぬきち25番
恋愛
ある日私は乙女ゲームのヒロインのライバル令嬢キャメロンとして転生していた。
なんと私は最推しのディラン王子の婚約者として転生したのだ!!
幸せすぎる~~~♡
たとえ振られる運命だとしてもディラン様の笑顔のためにライバル令嬢頑張ります!!
※主人公は婚約者が好きすぎる残念女子です。
※気分転換に笑って頂けたら嬉しく思います。
短めのお話なので毎日更新
※糖度高めなので胸やけにご注意下さい。
※少しだけ塩分も含まれる箇所がございます。
《大変イチャイチャラブラブしてます!! 激甘、溺愛です!! お気を付け下さい!!》
※他サイト様にも公開始めました!
『ブスと結婚とか罰ゲーム』と言われた商人令嬢ですが、結婚式で婚約者の不正を暴いたら幼馴染の騎士様が味方でした
大棗ナツメ
恋愛
「なんで、お前みたいなブスと結婚しないといけないんだ」
そう言い放ったのは、結婚を一週間後に控えた婚約者だった。
商人の娘エフィは、持参金目当ての政略結婚を受け入れていたが、彼からは日常的に「ブス」「価値がない」と罵られていた。
そんなある日、エフィは父の商会の帳簿から男爵家の不審な金の流れを発見する。
さらに婚約者が娼婦と歩いているところを目撃し――
「泣く暇があるなら策を考えなさい」
昔、自分が言った言葉を思い出したエフィは決意する。
結婚式の日、すべてを暴くと。
そして再会したのは、かつて「姉さん」と慕ってくれた幼馴染の騎士レオンだった。
これは、ブスと蔑まれた商人令嬢が、
結婚式で運命をひっくり返す逆転劇。