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4.正体と契約
「なるほど、君も転生者だったのか」
リック――いや、リックの中身の“彼”は、妙に納得したように頷いた。
お互いの正体が判明した直後、私は念のためテーブルを挟んで彼と向かい合って座っている。距離は保ちつつも、興味と警戒が入り混じった視線で、彼の様子を観察していた。
「そう。私も、あなたと同じく転生者。そして、このゲームのプレイヤーだったの」
そしてヒロインに転生してしまった、よりによって乙女ゲームの主役という、ツッコミどころ満載の運命を背負った不運な被害者でもある。
「だからリックのことに詳しかったんだ」
「……まあね」
なんとなく癪だったので、リックが推しだってことは黙っていることにした。
「でもさ、ヒロインになれたなんて、ラッキーじゃない?」
「どこが?」
私は即答した。むしろどこに幸運要素があるのか教えてほしい。
「乙女ゲームのヒロインって、確かに恋愛的にはモテモテだけど、その分トラブルの総本山なのよ。悪役令嬢には目の敵にされ、攻略対象たちには振り回され、他の女子たちには睨まれ、最後には婚約破棄やら陰謀やらがテンプレで待ってるの。もれなく波乱万丈のフルコース」
「ああ、まあ確かにそうかもね」
彼は苦笑いを浮かべ、肩をすくめた。
「他人事みたいだけど、そっちだってそうでしょ?」
彼だって、リックという攻略対象キャラに転生したのなら、似たような茨の道を歩んでいるに違いない。原作では、リックには複雑な家庭事情や政略結婚話、王族との力関係とか、数々の重圧が押し寄せていた。つまり、私と同じで、ゲームだからって甘く見てると痛い目を見るパターンである。
「そうかもしれないね、でも……」
でも、なんだ?
私は首を傾げた。
リックは天井を見上げ、少しだけ考える素振りを見せて、それから答えた。
「俺はそれでもいい。だって、君がいるから」
「……は?」
一瞬、言葉に詰まった。
いま、さらっとものすごく重いこと言わなかった?
「俺、このゲームのヒロインがずっと好きだったんだ。ゲームをプレイしていたときから、彼女のまっすぐな性格とか、どんな逆境にも負けない姿勢とか、本当に尊敬してた」
「ん? んんっ?」
「恋愛ゲームっていうより、彼女の人生ドラマを追ってる気分だった」
待った待った。
どうしたことだろう。さっきまでのフワフワ思考の男から、急に熱量を感じて来たぞ。
この感じ、とても身に覚えがある。
「ちょ、ちょっと待って、それってつまり……」
「君は俺の推しキャラだったんだ。この世界に来て、ここが『恋する魔法学園!』のゲーム世界だと知ったとき、運命だって思った」
「!?」
間違いない、ヒロインガチ勢だ……!
私は、ハンマーで頭を殴られたような衝撃を感じた。
頭を抱えてテーブルに突っ伏したい衝動をなんとか押さえる。
「そっ、そうなんだー」
推しに好かれるというのは、普通なら夢のような話かもしれない。
でも、彼の中身は私同様、この世界に転生してきた別人。素直に喜べ……ないっ!
「あっ、あのさ!」
「何?」
「私のこの姿、見た目は確かにこのゲームのヒロインだと思う。でもさ、中身は別人。この私なんだけど……」
「別に構わないよ。人を好きになるってそういうことだろ?」
「ええっ」
言葉に迷いがない。
同じ穴の狢だと思ったのに、その心、私の推しに対する気持ちを上回っている。これはまずいな……。
「よければ俺と付き合ってく――」
「ちょちょちょ、ちょーっとストップ! そう言ってもらえるのは嬉しいけど、私にその気はないの!」
あっぶな。危うく告白エンド迎えるところだった。まだ学園生活の初日にもなってないのに、スタッフロール流れるところだった。
私は首を横に振ってから真っすぐに彼を見つめ、はっきりと否定した。
「私はね、ヒロインとしてのこのポテンシャルを、恋愛じゃなく他のルートに使いたいの。学術でも、経済でも、政治でもいい。とにかく、いわゆる“恋愛エンド”から逃げたいの」
我ながら素晴らしい理由だと思った。
ここまで言われたら、いくらこのヒロインが好きだったとしても諦めざるおえないだろう。というか諦めてくれ。
「恋愛エンドから逃げたい、か……」
期待した通り、リックは目を丸くし、動きを止めた。少しの間、沈黙が流れた。
――よし、これで私のほのぼのライフ達成――。
安堵し、まっすぐ前を見ると、リックは理解しきったように、ふっと息をついて笑った。
「いいじゃん、それも」
「え?」
あれっ? どうした。思ってた反応と違うぞ。
「それならそれで、俺達は協力は出来るよ。君が恋愛したくないなら、俺が“彼氏役”を演じてあげる」
「待って待って待って。なんで彼氏役? 私は恋愛しないって……ん? 彼氏……”役”?」
彼氏では、ない?
「うん。周りから見て、俺と君が相思相愛になる。そうすれば、誰も近づかなくなるだろ?」
――たしかに、それは理に適っている。
「俺はこの世界でも有力な貴族の息子だ。そして君はこの世界のヒロイン。二人が公認のカップルになれば、ゲームのシステム上、周囲はそれを尊重せざるを得ない。悪役令嬢も、他の攻略対象も、手出しできなくなる」
「……確かに。でも、あなたにメリットはあるの?」
「メリット? さっきも言った通り、俺はヒロインを推してる。一緒にいられるなら、偽者の彼氏にだって、金を提供するだけのお財布にだってなる」
いや、後者はやめておけ。
「たとえ中身が別人でも」
「関係ないね」
お互いにとって利害が一致している今、これは悪くない提案だ。
私は少しだけ考えてから、手を差し出した。
「……いいわ。協力しましょう。ただし、期限付きでね。永遠にその“彼氏役”をされても困るから」
「もちろん。了解、相棒」
彼は笑って私の手を握り返す。その手は温かく、どこか頼もしかった。
私たちは、まるで取引成立のように、しっかりと握手を交わした。
これは恋じゃない。ただの共闘。
でも――
それはそれで、案外悪くない未来かもしれないと思ってしまった。
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