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7.コッテコテの悪役令嬢が出てきてしまった
転校初日の午前授業が終わった。
そして、運命の昼休み。
「ミリアさん。グレイス様がお呼びです」
綺麗に整ったブロンド髪の女子生徒が、無表情でそう告げる。その背後には、彼女と同じ制服を着た数人の取り巻きがいた。
「……あ、来た」
「来たねえ」
こうなることは大体予想していたけど、このタイミングで来ましたか。
ちらっとリックに目配せする。
守ると言ったんだ。早速、有言実行してもらおうじゃないか。
「俺行こうか?」
「うん、よろし……」
「リック様は呼んでおりません」
ぴしゃり。
私達のやり取りを聞いた生徒の一人が冷たく言い放つ。
リックは首をすくめて苦笑いを浮かべた。
「……分かったよ。私一人で行ってくる」
私はうなだれるように答えた。
まあ流石に初っ端ナイフをつき立てられるわけでもないだろうしね。
「ええ。ではこちらへどうぞ」
心の準備をする暇もなく腕を取られ、私は取り巻きたちに連れられて教室を出た。
===
「失礼します」
連れて行かれたのは、学園内でも特別な生徒しか使えない貴族用サロン。扉が開くと、そこはまるで舞踏会の舞台のような煌びやかさだった。
中央に立つ、一人の少女――
「あなたが、ミリア=ユイフィールさん?」
その声音は、甘く、冷たい。
グレイス=シュライブ。
ゲーム内でもヒロインの前に立ちはだかる最強の悪役令嬢。高位貴族の家柄、魔法の才能、気品に美貌、そのすべてを兼ね備えた完璧令嬢。実際に目の前にすると、やっぱり威圧感がすごい。
「はい。本日からお世話になります、ミリア=ユイフィールです」
私は丁寧にお辞儀をした。
グレイスは品定めをするように、私の顔をじろじろと眺める。それから一呼吸置いて私に問う。
「あなたが、リック様の“恋人”なのだとか」
にっこりと笑うその顔は、目がまったく笑っていない。
「彼は、私の将来の婚約候補。ご存知ありませんでした?」
……来た。決まり文句、来ました。
私は慎重に言葉を選ぶ。
「そのようなお噂は、耳にしたことがあります。ですが、私と彼の関係は、互いの合意によるものです」
その瞬間、グレイスの目がすっと細くなった。
「ふふ。面白いことを仰るのね。では、お聞きしますけれど……あなた、リック様の隣に相応しい器量がおありかしら?」
厳しい口調でも、言葉の選び方は貴族そのものだ。私が言い返そうとする前に、グレイスは続ける。
「リック様はお優しい方。誰にでも親切で、分け隔てなく接してくださる。――けれど、それを恋と錯覚して、舞い上がる者も少なくありませんの」
……つまり、あなたもそのひとりでは? と、言いたいわけだ。やっぱり手強いな、グレイス=シュライブ。
私はちょっとだけ考えて、それから相手の目を見て答えた。
「錯覚かどうかは、私自身が判断します。私は、自分の意思で彼と共にいます」
「……そう」
空気がピシリと張り詰める。
グレイスはしばらく私を見つめていたが、やがて――にこりと、まるで舞台女優のような笑みを浮かべた。
「まあ、いいでしょう。あなたがそうまで言うのなら、今後はそれ相応の“覚悟”を見せていただきますわね」
その言葉には、静かな敵意と、宣戦布告の響きがあった。
私はただ、ぎこちなく笑ってその場を後にした。背後から聞こえる取り巻きたちのくすくす笑いが、やけに耳に残った。
……最悪の第一印象だった。けど、負けるわけにはいかない。
===
廊下の角を曲がると、そこにリックが立っていた。腕を組み、じっとこちらを見ている。
「……見てた?」
「見てた。すごかったじゃん」
褒められたのにちっとも嬉しくない。考えたいことが山ほどある。
「ちゃんと自分の言葉で返してた。偉かったよ、ミリア」
「そりゃどうも」
私は窓から外を覗く。
チチッと鳥が羽ばたいてる。いいな。私も自由になりたい。
「これも平穏な日々を送るためだから……。これはあくまで演技。周りからの公認さえ得られたら、あとは自由にさせてもらうよ……」
「はいはい、君のお心のままに」
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「……まあいいや。とりあえず今はお腹すいた、かも」
カロリーがすごい勢いで消費されてしまった気がする。
「売店でシュークリーム売ってたから買っといたよ。食べる?」
「食べる」
「よかった」
そう言って、彼は優しく笑った。
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