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8.放課後なんだからしっかり休みたい
午後の授業も右から左へ抜けていき、気がつけば終業のチャイムが鳴っていた。悪役令嬢グレイスとの“ご対面イベント”も済ませたことだし、今日はもう発生するイベントはないだろう。
「疲れた……」
机に突っ伏しながら自分の苦労を労っていると、横から能天気な声が飛んできた。
「ミリア、一緒に帰ろ!」
「却下」
「えっ、即答!?」
私はゆっくりと顔を持ち上げた。
リックは明らかに動揺した表情を浮かべている。
「リック、あなた自分がこれから何をやらなきゃいけないか分かってる?」
「何って……下校でしょ」
「違います」
そう言って椅子から立ち上がり、彼の額に人差し指を突きつけた。
「あなたは生徒会の一員です」
「せいと……かい」
私は力強く首を縦に振った。
リックといえば作中の完璧キャラ。勉強も出来れば運動も出来る。そして当然、生徒会活動もしっかりとこなしているのだ。中身が違うとはいえ、リックのイメージを壊してもらっては困る。
「放課後は生徒会活動をするの。さあ、言ってみて?」
「そんなの、一日くらいサボっても」
「言、っ、て、み、て?」
「……放課後は……生徒会の活動を……します」
「よろしい」
私は満足げに頷く。リックはお手上げポーズで苦笑いを浮かべた。
「しかし、君ってそんなに生徒会の活動とかにこだわるタイプだったんだね。ちょっと意外」
「……ま、まあね」
単なる私のこだわりの話だなんて口が裂けても言えない。
「そ、それにあとほら! 予定外の行動をとって、ゲームシナリオに悪影響が出ても困るでしょ?」
「なるほど」
納得したように手を叩く。
ごめん、リックの中の人……なんて考えていたら、いつの間にかリックが人懐こい笑みで、にじり寄っていた。思考がバレた!?
「ねえミリア」
「な、何?」
「一つお願い聞いてもらってもいい?」
「い、いいけど」
よかった、バレていた訳じゃなさそうだ。
彼の瞳を見ながら、私はコクコクと二度頷いた。
「その……お願いっていうのは?」
「ちゃんと活動してくるから、終わるまで待ってて欲しいな、って!」
「なんだ、そんなことか」
「ん? そんなこと?」
「ううん、なんでもないっ! こっちの話! 分かった。終わるまで教室で待ってるね」
家に帰ってもやることも無いし、そのくらいはいいだろう。
「さっすがミリア! ありがと!」
「う、うん。どういたしまして」
彼はぱっと私の手を取った。
好きな顔面にそんなことされたら、さすがに照れずにはいられない。
「……は、早く行きなよ」
「うん、そうだね。ちゃちゃっと仕事片付けてくる!」
彼は満面の笑みで教室を飛び出していった。
――馴れ馴れしい態度も、顔が良いと全て許されるんだなあ。
ため息をひとつつき、私はつぶやく。
「さて……待ってる間、どうしようかな」
教室で待つといっても、まだリックが戻るまで時間はあるだろう。
せっかく大好きなゲームの世界に転生したんだし、ちょっと校舎内を散策してみるのもアリか。
そう考えて、ふらっと扉を開けた。
その瞬間だった――。
「失礼」
「わぶっ!」
何かが顔面にヒットした。というか、誰かと正面衝突したらしい。
後ろによろけかけた私の体を、スッと伸びてきた腕が支えた。
「おっと、大丈夫か?」
「は、はい……!」
見上げると、そこには品のある雰囲気を纏った青年がいた。灰色の瞳と整った顔立ち。どこか既視感がある。
じっと見つめていると、彼は少し申し訳なさそうな表情を浮かべ、私に訊ねた。
「いきなりやって来て、ぶつかってしまった上に、不躾な質問すまない。人を探している。グレイス=シュライブは、ここに来てないか?」
「えっ、グレイス様……?」
生憎グレイスはこのクラスではない。隣の隣あたりのクラスだったはずだ。探しているという割には、彼女と親しくないのだろうか。
「あの、グレイス様は……」
「待った。その前に君、”様”なんてつけなくていい。君も彼女と同学年だろ?」
そう言って、彼は教室内を軽く見渡した。
そこまで知っているのに、なぜ教室を知らないのだろう。
妙に自然で堂々としていて、それでいてどこか不思議な態度に、私はふむと首をかしげる。
この人……グレイスに“様”をつけるなって、どういう立場?
観察していると、彼は自分の中で何かをぶつぶつとつぶやきはじめた。
「絶対、リック君に彼女ができたって聞いたら、グレイスは突撃すると思ったんだけどな……。もう済んでるのか?」
え、それってもしかして――。
「こうなったら、リック君とその彼女にだけ、忠告しておくか……あいつ、口悪いからな」
私はそっと手を上げた。
「あのー」
「ん?」
「それ、たぶん……私ですね」
「……え?」
「私、リックの“彼女”やってるミリアです」
「……きみ……?」
男の目が丸くなる。
「ところでそんなあなたは一体どちら様なのでしょう?」
私はその答えが知りたい。
「ああ、自己紹介がまだだったな。僕はノア=シュライブ。グレイスの兄だよ。基本的に妹の暴走を止める係をやってる」
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