ゲームの推しが家に来たけど、私は恋愛する気がないので全力で逃げたい

椿谷あずる

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9.戦友現る!?

 
 ノア=シュライブ。
 グレイスの兄であり、原作では顔グラすら出てこなかったモブキャラ……のはずだった。

 けれど――目の前の彼はどう見ても、ただのモブじゃない。

「なるほど。君が……リック君の“彼女”か。……なるほど、なるほど……これは予想外だな」

 口元に手を添えて、彼は自分に言い聞かせるように頷く。

「すみません。そんな風には見えないかもしれませんけど、事実です」

 疑いたい気持ちもよく分かる。
 実際、私だって何かの間違いなんじゃないかって思っているし。
 しかし、私の言葉を耳にすると、彼は目を丸くした。

「え?」
「え?」

 謎のシンクロ。
 あれ。私、変なこと言った?

「ちょ、ちょっと待ってくれないか! ……あー、いや、そうか……僕の言葉が悪かったんだな、うん」

 何か一人でブツブツと呟くノアさん。
 それからしばらくして彼は顔をあげて言葉を続けた。

「さっきの君の言葉に答えを返すとすれば、全然そんな事ない。君がリック君の彼女として存在することに、おかしなところは全然ないよ。ただ、自分の周りにいる女性は大体みんな癖が強いから、リック君の彼女っていうのも、その類だと勝手に思い込んでいただけなんだ」

 早口で説明して深々と頭を下げる。
 なるほど。そんな理由だったのか。

「気分を害してしまったら申し訳ない」
「ああ……いいです、いいです。頭とか下げないでください」

 真面目な人なんだろうか。
 その程度のことで謝罪されるなんて、逆にこっちが落ち着かない。
 彼はようやく顔をあげると、スッと目を細めた。

「でも、君は……ちょっと違うようだ。落ち着いているというか、柔らかいというか」

 ……今の、褒められたってことでいいのかな。

「ところで、妹の姿が見えないけど……君がここに残ってるということは、もしかして突撃は未然に防げたのか……?」

 少しだけ期待がこもったように彼が問いかける。
 残念ながら、完全にフラグ回収済みです。

「それ、もう済んじゃってます」
「……駄目だったか」

 がっくりと顔を覆い、次の瞬間には私に向き直って、再度頭を下げた。

「本当に申し訳ない。あいつは根っからのわがまま気質で、昔から手のつけようが無いやつなんだ。僕が目を光らせている間は多少マシだったんだけど、この学園に入ってからはなかなか難しくて」
「心中お察しします……」

 グレイスはこのゲームのラスボス的存在だ。
 そんな彼女をコントロールするなんて、もはや人外の業である。

「今度あいつが何か言ってきても、無視でいいから。無視で」
「いやいや、それはさすがに無理ですよ」
「ま、それもそうか。あとあと面倒そうだもんなー……」
「ですねー……」

 二人で腕組みして頷きのポーズ。
 お互いに乾いた笑いが出て、それが虚しく教室に響く。
 解決策は出ないけど、互いにその苦労は分かりあった。そんな気がした。
 
「……という訳で、困った妹なんだけど、運悪く遭遇しちゃった時は、適当にうまいことよろしくしてやってくれ」
「無理だったら?」
「ご覧のとおり僕が謝罪する」
「あはは」

 もう半分負けを認めているのが面白い。

「なんだかんだ言っても、お兄さんは、グレイスさんを大切にしているんですね」
「分かるかな」
「分かりますよ」

 ノアさんは少し照れたように笑った。
 もっと冷たい人かと思っていたけど、まさかこんなに普通の、真面目で、優しい人だったなんて。 

「まあ、それはそれとして。困っていることがあれば、いつでも相談して。妹のことでも、それ以外でも」
「……ありがとうございます」

 その言葉は優しくて、あたたかくて、素直に沁みた。

「陰ながら、君のこと応援してるよ」

 そう言って握手を交わした、その時だった。

「お待たせ、ミリアー!」

 陽気な声と共に教室の扉ががらりと開いた。
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