ヒロイン不在の悪役令嬢はハッピーエンドを望んでいる〜幽霊になった天然ヒロインとシスコン兄がいるのは想定外です〜

椿谷あずる

文字の大きさ
1 / 29

1.地獄の底からこんにちは

しおりを挟む

 フィーネが死んだ。
 私のライバルだったあの子が死んだ。
 これでもう、私の隣に並ぶ人間は何処にもいない。



 それはとある昼下がり。
 今日は天気がいいからと、薔薇の見える庭園でランチ後の紅茶を楽しんでいる時にその訃報は届いた。

「お嬢様」

 そう言ったのはセバスチャン。
 長年この家に仕えているベテランの執事である彼は、若い従者からの耳打ちを受け、主人である私の貴重な時間に水をさすように一歩前へと踊り出ていた。
 本来ならば、彼に限って決してそのような不躾な事はしない。
 ともすればきっとそこには大切な何かがあるのだろう。

「何かしら」

 カップをゆっくりと下に置き、年老いた執事は言葉を返した。視線を彼の方へと向ける。

「ええ、それが」

 彼は何時にも無く動揺した様子で言葉を濁した。腰を屈め、私の目線より低く姿勢を取った彼は、小さく私に耳打ちをする。

「ご学友のフィーネ様が亡くなられたと、先ほどご連絡がありました」
「え?」

 言葉を飲み込むのに、少しだけが掛かった。
 フィーネが死んだ。
 凍った氷が溶けだすように、じんわりじんわりと言葉の意味が頭に届く。
 そして、ようやくそれは私の心に到着した。

「……そう」

 嬉しいとか悲しいとか私の脳内を最初に埋めたのはそんな感情では無かった。
 無。
 何も無い黒い空間のような物がすっぽりと私を飲み込んでいた。

「……そうなの」

 私は少しぬるくなった紅茶を口に含んだ。
 適温では無かったからだろうか、美味しさは半減していた。

「じゃあこれで、私が学園で一番美しい存在になるのね」
「……」
「頭脳だって一番」
「……」
「学園一素敵なレオン様も、ちゃんと私を見てくれる!」
「……」

 返答はない。
 涼やかな風が私の髪を掠めていく。

「こうしてはいられないわ!」

 私は庭園を飛び出した。

 あの子がいない、ライバル視していたあの子が。
 もうこれで私は誰にも比較されない。私が一番。誰よりも一番。
 
 足取りが軽い。
 すれ違うメイドや執事や庭師が不思議そうな顔で私を見ている。
 でもそんな事、もうどうだっていい。

「私は今日から生まれ変わるの!」

 そう声を張り上げて部屋のドアを力強く開いた。
 そこにはきっと、新しい未来が待って――

「ごきげんよう」
「!?」

 待っていたのは未来じゃなかった。

「ごきげんよう」

 優しく明るく朗らかな声。
 陽だまりのような温かい空気。

「ごきげんよう」

 心に刷り込まれたように耳に馴染んでいるその声は諦めること無く挨拶を繰り返す。
 なんで、なんでなんでなんで、どうして貴女がここにいるの?

「ど、ど、どど……」
「ごきげんよう、エレナさん」

 声の主は顔を上げる。
 透き通ったような白い肌。
 いや、これは例えじゃない。現実に透き通って、向こう側の壁を映している。

「あの、私ね」

 ほっそりとした小鹿のような足。
 違う。そもそも、足が無い。

「死んじゃったみたいなの」

 そう言って、私の生涯のライバルになるはずだった少女、フィーネ・ユクラシアはにこりと微笑んだ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

婚約発表の場で、名家令嬢の私がボンクラ息子に婚約破棄されました

ヒツジ屋本舗
恋愛
名家アルヴェーン家の令嬢リュシアは、ある日突然、父から政略結婚を告げられる。 相手は、顔も知らない地方領主の長男。 人前では緊張して表情が固まってしまう彼女は、 感情をうまく言葉にできない“冷たい令嬢”として周囲に誤解されがちだった。 それでも貴族としての務めだと自分に言い聞かせ、その婚姻を受け入れる。 ――だが、婚約発表の場で事態は最悪の形を迎える。 「こんな女はいらない」 そう言い放った婚約者は、 この結婚が“自分の恋を邪魔する政略”だと信じ込み、 リュシアを悪役令嬢として断罪したのだった。 これは、 冷たい悪役令嬢だと勘違いされた令嬢の物語。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった私は、全力で死亡フラグを回避したいのに、なぜか空回りしてしまうんです(涙)

藤原 柚月
恋愛
(週一更新になります。楽しみにしてくださる方々、申し訳ありません。) この物語の主人公、ソフィアは五歳の時にデメトリアス公爵家の養女として迎えられた。 両親の不幸で令嬢になったソフィアは、両親が亡くなった時の記憶と引き替えに前世の記憶を思い出してしまった。 この世界が乙女ゲームの世界だと気付くのに時間がかからなかった。 自分が悪役令嬢と知ったソフィア。 婚約者となるのはアレン・ミットライト王太子殿下。なんとしても婚約破棄、もしくは婚約しないように計画していた矢先、突然の訪問が! 驚いたソフィアは何も考えず、「婚約破棄したい!」と、言ってしまう。 死亡フラグが立ってしまったーー!!?  早速フラグを回収してしまって内心穏やかではいられなかった。 そんなソフィアに殿下から「婚約破棄はしない」と衝撃な言葉が……。 しかも、正式に求婚されてしまう!? これはどういうこと!? ソフィアは混乱しつつもストーリーは進んでいく。 なんとしてても、ゲーム本作の学園入学までには婚約を破棄したい。 攻略対象者ともできるなら関わりたくない。そう思っているのになぜか関わってしまう。 中世ヨーロッパのような世界。だけど、中世ヨーロッパとはわずかに違う。 ファンタジーのふんわりとした世界で、彼女は婚約破棄、そして死亡フラグを回避出来るのか!? ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体などに一切関係ありません。 誤字脱字、感想を受け付けております。 HOT ランキング 4位にランクイン 第1回 一二三書房WEB小説大賞 一次選考通過作品 この作品は、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

悪役令嬢に相応しいエンディング

無色
恋愛
 月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。  ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。  さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。  ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。  だが彼らは愚かにも知らなかった。  ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。  そして、待ち受けるエンディングを。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

醜悪令息レオンの婚約

オータム
ファンタジー
醜悪な外見ゆえに誰からも恐れられ、避けられてきたレオン。 ある日、彼は自分が前世で遊んでいたシミュレーションRPGの世界に転生しており、 しかも“破滅が確定している悪役令嬢の弟”として生きていることに気付く。 このままでは、姉が理不尽な運命に呑まれてしまう。 怪しまれ、言葉を信じてもらえなくとも、レオンはただ一人、未来を変えるために立ち上がる――。 ※「小説家になろう」「カクヨム」にも投稿しています。

処理中です...