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しおりを挟む「……王子暗殺計画」
「そうよ。忘れたとは言わせないわ」
忘れたも何も知らないんだけど。なんでそんな修羅場的な状況にいるの、俺。
呆気に取られた俺の隣で、眼鏡の男は調子よくしゃしゃり出ていた。
「それがですね、奥様。こやつめ、肝心の場面でヘマをしまして、まだ例の作戦の手前で止まっているんですよ」
「なんですって?」
奴の言葉を受けて、再び鋭い視線が突き刺さる。
いやだって、知らないから、そんなの。作戦? 何だよそれ。
「じゃあ王子に次の戦争の進言は」
「まだしておりません」
「なんてことかしら」
額に手を当てふらりと体をくねらせるお妃様とやら。えー、俺が悪いの?
「全く使えない男ですよ」
眼鏡が見下したように鼻で笑った。
なんか腹立つな、こいつ。
しかしこの微妙な空気のままにしておくのも面倒くさいな。
「あー……なんだ、つまり俺は王子暗殺計画の仕掛け人で、王子に戦争の進言をすることでそれが実行に移されるって感じか?」
「だからそうだと何度も説明したでしょう? というか、口の利き方! 仮にもネミア様の前ですよ」
「悪い悪い」
「てか、僕も君の上司なんですが」
「それは失礼」
悪いとはちっとも思わんけど。
「じゃあ分かったら広間に戻ってさっさと作戦の続きを……」
「あ、待った」
「ん?」
背を向けてさっさと戻ろうとする眼鏡の動きが止まる。
「なんですか」
面倒くさそうに訊ねる彼に向けて、俺ははっきりと言った。
「嫌なんだけど」
「は……はぁ!?」
部屋の外にも漏れ出してしまいそうなほど大きな声で男は狼狽えた。
その脇でお妃様も力なく狼狽える。ああ、せっかく体調が戻ってきたところだったのに。
「い、嫌なの……?」
「ええ、嫌ですね」
俺はハッキリと頷いた。
だって嫌じゃないか。任務とは言え、他人を殺すなんて。これが俺の生きてきた世界とは別物であったとしても、暗殺なんて容認出来ない。寝覚めが悪すぎる。
「そんな訳で俺は失礼するから。あ、でもあれだ、この話は聞かなかったことにする。もしかしたら、そっちにも何か深い事情があるのかもしれないし。でも、暗殺とかあんまオススメは出来ないけどな。そういう奴に限ってバッドエンドが待ってたりするんだよ」
「馬鹿な……」
「馬鹿で結構」
そうして一足先に部屋を出て行こうとした時だった。
「い、いいんですか!」
「?」
「貴方がこの作戦を放棄するということは、貴方の大切なご兄弟の病気が一生治らないことを意味するのですよ?」
「…………え?」
病気持ちの兄弟?
それは勿論知りませんでしたね。
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