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しおりを挟む「ははっ病気持ちの兄弟ね」
あの後、俺は二人に解放され、一人で帰り道の廊下を歩いていた。今後の身の振り方をよく考えるようにと念を押されて。
追加情報を後出ししてくるのってずるくない?
「どうすりゃいいってのよ」
別にこの世界に未練などない。
だから兄弟がどうのと言われても実感が湧かなかった。
けれど病気だと言われれば命に関わる。一度死んだ身としては、生死関することには敏感にならざるおえない。かといって、王子を暗殺したらそっちはそっちで寝覚めが悪い。
どっち選んでもハズレだなこりゃ。
そんな時、頭を掻いて悩んでいた俺の名を誰かが呼んだ。
「ラフェリト」
「はいはい、誰ですか……って」
絵に描いたような金髪のイケメン。
「げっ、王子」
「その様子じゃ元気そうだな」
それは見間違うことなく、さっきから俺が頭を悩ませていた原因である人物、ウィル王子だった。
「具合が悪いのは治ったのか」
「具合……」
「さっきそれで退出しただろう」
「え? あ、ああ……そういえばそうだった」
そんなのすっかり忘れてたな。
「ず、随分良くなりましたよ! ほら!」
そう言って俺は無理矢理に笑顔を振りまいた。
「ふふっ」
「?」
何故か王子は口元を押さえて笑った。
あれ、俺なんかおかしなことしたか?
「ちょっと、なんで笑うんですか?」
「いや、だってお前」
「?」
「腐ったパン食べて下痢が止まらなくなったって聞いたんだけど……普通なら恥ずかしくて、そんな爽やかな笑顔向けられないだろ……ふはっ……ははは……笑える」
「なっ!?」
あの眼鏡、そんなこと言ってたのか! やりやがったな、もっと繊細な言い訳あるだろ!!
「くっ……そ、そうですね。お恥ずかしいところをお見せしました」
「い、いや……別にいい……けどっくふっ」
やばい。王子が変な笑いのツボにハマって抜け出せなくなってる。
「……その辺にしましょうか、王子」
「あーすまんすまん」
悪いと思ってないな、こいつ。
「で、本題は何でしょうか」
「本題?」
「俺を呼び止めたんですから、何か用事があったんでしょう?」
まさか王子ともあろう人が、ただの側近の体調を案じた訳でもないだろうに。
「いや、何、ただ見かけたから声を掛けただけだが?」
「は?」
「具合が悪いっていうから大丈夫だろうかと。でもまさか、そんな笑顔を向けられるとは、ふふっ……」
そう言って今度は目頭まで押さえた。泣くほど面白かったか、これ。ああ、駄目だこの人。完全に笑いがぶり返してる。
お分かりだろうか。こういう時、笑いの対象である俺自身は何一つ面白くないということを。
「あのー、俺もう行きますよ?」
「ああ、呼び止めて悪かった。あ、それと……」
「それと?」
「最近、城内によからぬことを考えている輩がいるから気を付けろよ」
「……はい」
小学生みたいなことで笑うくせに、妙なところで鋭くて、俺は思わずドキッとした。
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