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8-3 お礼の方法
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▽▽▽
アデレードは、ドレスのお礼をしなければ、と悩んだ。男性への贈り物としてはど定番の時計の購入を考えた。が、ペイトンの趣味はよく分からないので、翌日、ジェームスに相談すると、
「では、観劇の後、食事に誘ってあげてください。きっと喜びますよ」
という答えが返ってきた。ドレス三着と食事では釣り合いが取れなさすぎでは? とアデレードは困惑したが、
「いいんですよ。愛する妻にプレゼントを贈るのは通常のことですし、本当はお礼など不要なんですから」
とジェームスは穏やかに微笑んだ。
「でもそれは契約じゃないですか。それで貢がせるのは悪徳すぎでしょ? 私、物質的なことまで縛る気はないですけど」
アデレードが言うと、ジェームスは、ははっと笑った。
「奥様は真面目な方ですね。でも本当に時計を贈るより、食事に誘う方が喜びますよ」
ジェームスはそんなことを繰り返す。
もしかしてペイトンにお礼は貰わないように言含められているのかもしれないとアデレードは思い、埒があきそうにないので、
「……そうですか。だったら食事に招待します。何処かよいお店ってありますか?」
「ローズウェルズ劇場ならば、レストランが併設されていますよ。演目に因んだメニューなどもあって良いのではないでしょうか」
「予約ってできますか?」
「もちろんです」
「ではお願いします」
と取り敢えずはジェームスの話に乗った。
「旦那様はこの時計を欲しがっています」みたいな答えをちょっと期待していたが、主人の私生活をぺらぺら話さないのは当然かもしれない。
やはり直接本人に尋ねるのが一番まどろっこしくない。
最近のペイトンは、九時出社十七時帰宅という生活のリズムで安定しており、朝夕の食事はアデレードと共にしている。アデレードは、ジェームスとのやり取りがあった日の夕食の席で、早速、
「観劇の後、レストランを予約しました。ドレスのお礼のつもりです」
と端的に告げた。
「お礼なんて、別に……夕食は僕が誘うつもりだったんだ」
ペイトンはごにょごにょ言った。
「もう予約しましたので」
「そうか。……その……すまない」
「いえ。あと、それだけじゃドレスに釣り合っていないので、もっとちゃんとお礼をしたいのですが、好きな時計のブランドとかありますか?」
アデレードは、そこそこよい時計を送るつもりなので本人の趣味に合わせた方がよい、と直球で尋ねたが、
「あれは別にお礼をしてもらう類のものではないから気にしないでくれ。君が気に入ったならそれでいい」
とあっさり断られてしまった。
いや、ちょっと「お礼をしてもらう類のものではない」意味がわからないんですけど、と正直アデレードは思った。
が、食い下がろうにも、年上の侯爵家の人間が「礼は不要」ということに、しつこく逆らうのはマナー違反にあたる。贈りたいなら勝手に贈る、というのがこの場合正しい手順となる。
あの契約が変な風に作用して面倒くさいことになったな、とアデレードは苦く思った。
(お母様に相談して、適当な品物を送って貰おうかしら)
結婚に関して父は喜んでいたが、母は心配していた。
国内一のデザイナーのオリジナルドレスを三着も新調してくれて、白い結婚の相手として大変良くして貰っているが、ぶっちゃけあんまり借りになることは申し訳ない、とかなんとか書けば、安心するし、良い返礼品を送ってくれるに違いない。
結局、アデレードは、
「ではお気持ちだけ頂きます。有難うございます」
とその場では返事はしたものの、両親に宛てて手紙を認めることにした。
アデレードは、ドレスのお礼をしなければ、と悩んだ。男性への贈り物としてはど定番の時計の購入を考えた。が、ペイトンの趣味はよく分からないので、翌日、ジェームスに相談すると、
「では、観劇の後、食事に誘ってあげてください。きっと喜びますよ」
という答えが返ってきた。ドレス三着と食事では釣り合いが取れなさすぎでは? とアデレードは困惑したが、
「いいんですよ。愛する妻にプレゼントを贈るのは通常のことですし、本当はお礼など不要なんですから」
とジェームスは穏やかに微笑んだ。
「でもそれは契約じゃないですか。それで貢がせるのは悪徳すぎでしょ? 私、物質的なことまで縛る気はないですけど」
アデレードが言うと、ジェームスは、ははっと笑った。
「奥様は真面目な方ですね。でも本当に時計を贈るより、食事に誘う方が喜びますよ」
ジェームスはそんなことを繰り返す。
もしかしてペイトンにお礼は貰わないように言含められているのかもしれないとアデレードは思い、埒があきそうにないので、
「……そうですか。だったら食事に招待します。何処かよいお店ってありますか?」
「ローズウェルズ劇場ならば、レストランが併設されていますよ。演目に因んだメニューなどもあって良いのではないでしょうか」
「予約ってできますか?」
「もちろんです」
「ではお願いします」
と取り敢えずはジェームスの話に乗った。
「旦那様はこの時計を欲しがっています」みたいな答えをちょっと期待していたが、主人の私生活をぺらぺら話さないのは当然かもしれない。
やはり直接本人に尋ねるのが一番まどろっこしくない。
最近のペイトンは、九時出社十七時帰宅という生活のリズムで安定しており、朝夕の食事はアデレードと共にしている。アデレードは、ジェームスとのやり取りがあった日の夕食の席で、早速、
「観劇の後、レストランを予約しました。ドレスのお礼のつもりです」
と端的に告げた。
「お礼なんて、別に……夕食は僕が誘うつもりだったんだ」
ペイトンはごにょごにょ言った。
「もう予約しましたので」
「そうか。……その……すまない」
「いえ。あと、それだけじゃドレスに釣り合っていないので、もっとちゃんとお礼をしたいのですが、好きな時計のブランドとかありますか?」
アデレードは、そこそこよい時計を送るつもりなので本人の趣味に合わせた方がよい、と直球で尋ねたが、
「あれは別にお礼をしてもらう類のものではないから気にしないでくれ。君が気に入ったならそれでいい」
とあっさり断られてしまった。
いや、ちょっと「お礼をしてもらう類のものではない」意味がわからないんですけど、と正直アデレードは思った。
が、食い下がろうにも、年上の侯爵家の人間が「礼は不要」ということに、しつこく逆らうのはマナー違反にあたる。贈りたいなら勝手に贈る、というのがこの場合正しい手順となる。
あの契約が変な風に作用して面倒くさいことになったな、とアデレードは苦く思った。
(お母様に相談して、適当な品物を送って貰おうかしら)
結婚に関して父は喜んでいたが、母は心配していた。
国内一のデザイナーのオリジナルドレスを三着も新調してくれて、白い結婚の相手として大変良くして貰っているが、ぶっちゃけあんまり借りになることは申し訳ない、とかなんとか書けば、安心するし、良い返礼品を送ってくれるに違いない。
結局、アデレードは、
「ではお気持ちだけ頂きます。有難うございます」
とその場では返事はしたものの、両親に宛てて手紙を認めることにした。
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