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第8話 前人未踏の速度領域(白目)
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継征の操る車がクラッシュして近くの岩に乗り上げる。
「……む、難しい」
ワールドドライブ:チャンピオンズリーグ。
とにかくリアルを追求したレースゲームとの触れ込みで車両を完璧に操作したいなら何も考えずに走らせるだけでは速度も上がらず、安定すらしない。 加えて視点が一人称固定なので非常に見難いのだ。
それでも数十回以上の失敗を経て継征はこのゲームを学習しつつあった。
「まっすぐ走ってるだけなのに何でここまでクラッシュするんだろ? さっき空中で一回転してたよ?」
「多分、岩か何かに乗り上げたんだろ」
「コースも大半がジャングルとかでこぼこした荒野みたいなところだし、クリアするだけでも大変だね」
他人事のようにそういう逸子に継征は小さく肩を竦める。
元々、レースゲームというジャンルに触れてこなかった事もあって苦戦はしているが、操作にも慣れてきたのでそろそろクリアだけなら問題なくできるようになるはずだ。
十回、二十回、三十回と重ねる内に事故率は徐々にだが下がりやがて――
「よし」
継征は思わず拳を握る。 画面にはデカデカとゴールの文字。
難所だったステージをクリアした証でもある。
「おーやったじゃん!」
「まぁ、俺が本気出せばこんなものだ」
「えーっと、エンディングを見るだけなら後、三コースだって」
エンディングを見るだけなら。
つまりトロフィーコンプにはそれだけでは足りないのは明らかだった。
「ってかちゃんと見ていなかったけど、条件ってどんな感じなんだ?」
「えーっとね。 全コースを一定のタイム以下でゴールする事と、特定の対戦相手から一定の差をつけて勝つ事。 特定のレースを圧勝するとか書いてあるよ」
「……マジ?」
「まじまじ。 いやぁ、大変だね。 最終ステージとかラスボスの世界チャンピオンに二秒以上のタイム差を出して勝てとか書いてあるよ」
「あの俺、ついさっきようやくノーミスで完走できるようになったばかりなんですけど……」
「頑張れ!」
「畜生! やってやるよ!」
「きゃー、お兄ちゃん素敵ー!」
一足飛びに結果を出す事は不可能だ。
継征はとりあえずはエンディングを見る事だけに全てを傾けた。
操作に慣れた彼は危なげなく、クリアを重ねてついには最終ステージへと到達。
そして最終ボスであり、あってないようなストーリー上ではライバルの世界チャンピオンとの勝負が始まったのだが――
「は!? ふざけんな! 全然追いつけねぇぞ!」
継征が思わずそう怒鳴りつけるのも無理もない話で、ラスボスと言われるだけあって世界チャンピオンの車両は今までのライバルとは格が違った。
――というより、明らかに動きがおかしかった。
「こいつ明らかに障害物や地形の影響を受けていないな」
「ん~。 確かに全然揺れてないね。 ってかホバー走行かな?」
「マジでそう見えるな」
継征は車両を走らせながら前を走る世界チャンピオンの車は一切揺れずにすーっと流れるように悪路を踏破している。 半面、継征の操作している車両はガタガタと荒れた路面の影響を受けて速度が大きく落ちる。
「ふざけんな! チートだろこれ! 世界一を決めるレースにチート持ち込んでんじゃねーぞ!! 世界一を舐めてんのかこのイカサマ野郎!」
圧倒的な大差をつけられて敗北した継征は流石に我慢できなかったのか呪詛を吐き出すが、結果は一切変わらず画面は無情にも「コンティニューしますか」と問いかけるだけ。
「クソ、闇雲にやっても勝てねえ。 マシンの改造とかできる強化をしてから挑んでやる」
継征はカスタマイズやコースに合わせた乗り方を模索し、どうにかタイムを縮めてやるとあれこれと弄り始めた。 それを尻目に逸子は無言でスマートフォンを操作。
開くのはこのゲームの攻略サイトだ。 古い上、超が付くほどのマイナーゲームだったので情報がネット上にあまり転がっていない。 それでも少ないながら発見したのでざっと眺める。
「よし、これでどうだ!」
すっかり熱くなった継征は最終ステージに挑んでは敗北して怒りの咆哮を上げる。
そんな全力でゲームを楽しんでいる兄の様子を逸子は笑顔で見ながら情報を――
「あれ?」
「――クソ! クソ! 絶対にぶち殺して――ん? どうかしたか?」
「ねぇ、これ見てくれない?」
差し出されたスマートフォンの画面を見て継征の顔から表情が消えた。
完全に表情が抜け落ちた継征はカチャカチャとコントローラーを操作。
彼の操る車両はいつも通り、世界チャンピオンに離されていくが、継征は特定の位置でコースアウトする。 すると場面が切り替わり、相手の車両が遥か後方に存在していた。
「…………」
継征は死人のような無表情で操作を行い――やがて「ゴール!!」の文字がデカデカと画面をいっぱいにした。 同時にトロフィー「前人未踏の速度領域」を手に入れましたと画面の端に表示される。
そしてエンディングが無音で流れ始めた。 まるで墓碑銘のようなスタッフロールに二人は無言。
「や、やったね! 後は他のコースも同じようにショートカットすれば楽勝だよ!」
「……そうだな」
熱くなっていた所に冷水をぶっかけられたような状態の継征はぼーっとエンディングを眺め。
終了したのを見て一言。 「虚しい」と呟いた。
今の方法は全てのコースで使用できるらしく、使えばありえないようなタイムを叩きだせるだけあった後はもう消化試合のようなものだった。
継征は淡々とトロフィーを集め続け、淡々とワールドドライブ:チャンピオンズリーグでの戦いは終わった。
「……俺の苦労は何だったんだ……」
「あ、あー、まだ時間あるし、次はわたしの番だから口直しに名作やろ! 笑実ちゃんも言っていたしこれはきっと面白いよ!」
「そうだな」
すっかりテンションの落ちた継征はコントローラーを逸子に渡すと位置を交代した。
逸子はこの盛り下がった空気を打開するのだと意気込み、ゲームを起動。
エコー。 それが彼女のプレイするゲームのタイトルだ。
ジャンルはアクション。
内容は村の少年が怪物が住まう城に囚われた少女を救出して脱出するというもの。
主人公の少年が無力な村人という設定上、敵を倒す事は出来ない仕様となっている。
最初は城に侵入し、少女を探すところから開始だ。
逸子は頑張るぞと気合を入れてコントローラーを握った。
「……む、難しい」
ワールドドライブ:チャンピオンズリーグ。
とにかくリアルを追求したレースゲームとの触れ込みで車両を完璧に操作したいなら何も考えずに走らせるだけでは速度も上がらず、安定すらしない。 加えて視点が一人称固定なので非常に見難いのだ。
それでも数十回以上の失敗を経て継征はこのゲームを学習しつつあった。
「まっすぐ走ってるだけなのに何でここまでクラッシュするんだろ? さっき空中で一回転してたよ?」
「多分、岩か何かに乗り上げたんだろ」
「コースも大半がジャングルとかでこぼこした荒野みたいなところだし、クリアするだけでも大変だね」
他人事のようにそういう逸子に継征は小さく肩を竦める。
元々、レースゲームというジャンルに触れてこなかった事もあって苦戦はしているが、操作にも慣れてきたのでそろそろクリアだけなら問題なくできるようになるはずだ。
十回、二十回、三十回と重ねる内に事故率は徐々にだが下がりやがて――
「よし」
継征は思わず拳を握る。 画面にはデカデカとゴールの文字。
難所だったステージをクリアした証でもある。
「おーやったじゃん!」
「まぁ、俺が本気出せばこんなものだ」
「えーっと、エンディングを見るだけなら後、三コースだって」
エンディングを見るだけなら。
つまりトロフィーコンプにはそれだけでは足りないのは明らかだった。
「ってかちゃんと見ていなかったけど、条件ってどんな感じなんだ?」
「えーっとね。 全コースを一定のタイム以下でゴールする事と、特定の対戦相手から一定の差をつけて勝つ事。 特定のレースを圧勝するとか書いてあるよ」
「……マジ?」
「まじまじ。 いやぁ、大変だね。 最終ステージとかラスボスの世界チャンピオンに二秒以上のタイム差を出して勝てとか書いてあるよ」
「あの俺、ついさっきようやくノーミスで完走できるようになったばかりなんですけど……」
「頑張れ!」
「畜生! やってやるよ!」
「きゃー、お兄ちゃん素敵ー!」
一足飛びに結果を出す事は不可能だ。
継征はとりあえずはエンディングを見る事だけに全てを傾けた。
操作に慣れた彼は危なげなく、クリアを重ねてついには最終ステージへと到達。
そして最終ボスであり、あってないようなストーリー上ではライバルの世界チャンピオンとの勝負が始まったのだが――
「は!? ふざけんな! 全然追いつけねぇぞ!」
継征が思わずそう怒鳴りつけるのも無理もない話で、ラスボスと言われるだけあって世界チャンピオンの車両は今までのライバルとは格が違った。
――というより、明らかに動きがおかしかった。
「こいつ明らかに障害物や地形の影響を受けていないな」
「ん~。 確かに全然揺れてないね。 ってかホバー走行かな?」
「マジでそう見えるな」
継征は車両を走らせながら前を走る世界チャンピオンの車は一切揺れずにすーっと流れるように悪路を踏破している。 半面、継征の操作している車両はガタガタと荒れた路面の影響を受けて速度が大きく落ちる。
「ふざけんな! チートだろこれ! 世界一を決めるレースにチート持ち込んでんじゃねーぞ!! 世界一を舐めてんのかこのイカサマ野郎!」
圧倒的な大差をつけられて敗北した継征は流石に我慢できなかったのか呪詛を吐き出すが、結果は一切変わらず画面は無情にも「コンティニューしますか」と問いかけるだけ。
「クソ、闇雲にやっても勝てねえ。 マシンの改造とかできる強化をしてから挑んでやる」
継征はカスタマイズやコースに合わせた乗り方を模索し、どうにかタイムを縮めてやるとあれこれと弄り始めた。 それを尻目に逸子は無言でスマートフォンを操作。
開くのはこのゲームの攻略サイトだ。 古い上、超が付くほどのマイナーゲームだったので情報がネット上にあまり転がっていない。 それでも少ないながら発見したのでざっと眺める。
「よし、これでどうだ!」
すっかり熱くなった継征は最終ステージに挑んでは敗北して怒りの咆哮を上げる。
そんな全力でゲームを楽しんでいる兄の様子を逸子は笑顔で見ながら情報を――
「あれ?」
「――クソ! クソ! 絶対にぶち殺して――ん? どうかしたか?」
「ねぇ、これ見てくれない?」
差し出されたスマートフォンの画面を見て継征の顔から表情が消えた。
完全に表情が抜け落ちた継征はカチャカチャとコントローラーを操作。
彼の操る車両はいつも通り、世界チャンピオンに離されていくが、継征は特定の位置でコースアウトする。 すると場面が切り替わり、相手の車両が遥か後方に存在していた。
「…………」
継征は死人のような無表情で操作を行い――やがて「ゴール!!」の文字がデカデカと画面をいっぱいにした。 同時にトロフィー「前人未踏の速度領域」を手に入れましたと画面の端に表示される。
そしてエンディングが無音で流れ始めた。 まるで墓碑銘のようなスタッフロールに二人は無言。
「や、やったね! 後は他のコースも同じようにショートカットすれば楽勝だよ!」
「……そうだな」
熱くなっていた所に冷水をぶっかけられたような状態の継征はぼーっとエンディングを眺め。
終了したのを見て一言。 「虚しい」と呟いた。
今の方法は全てのコースで使用できるらしく、使えばありえないようなタイムを叩きだせるだけあった後はもう消化試合のようなものだった。
継征は淡々とトロフィーを集め続け、淡々とワールドドライブ:チャンピオンズリーグでの戦いは終わった。
「……俺の苦労は何だったんだ……」
「あ、あー、まだ時間あるし、次はわたしの番だから口直しに名作やろ! 笑実ちゃんも言っていたしこれはきっと面白いよ!」
「そうだな」
すっかりテンションの落ちた継征はコントローラーを逸子に渡すと位置を交代した。
逸子はこの盛り下がった空気を打開するのだと意気込み、ゲームを起動。
エコー。 それが彼女のプレイするゲームのタイトルだ。
ジャンルはアクション。
内容は村の少年が怪物が住まう城に囚われた少女を救出して脱出するというもの。
主人公の少年が無力な村人という設定上、敵を倒す事は出来ない仕様となっている。
最初は城に侵入し、少女を探すところから開始だ。
逸子は頑張るぞと気合を入れてコントローラーを握った。
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