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7巻
7-2
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今日、私が身にまとっているのは、水色の生地に白のレースを重ねたドレス。ウエストにはリボンがついていて、スカート部分の裾には淡紅色の薔薇の造花があしらわれている。髪には造花と同じ色の生花を挿して、自分で言うのもなんですが、上品な仕上がりになっています。すべてはドレスのおかげだね。
ちなみに、淡紅色の薔薇は私の瞳の色に合わせたもの。本来の銀髪と紫水晶色の瞳は、幻影の仮面で白金の髪と淡紅色の瞳に変えているんです。
それにしても、友達のことを褒められるのはすごく嬉しいですね。
思わずニヤニヤしていると、なぜかフィオレンティーナ様は困ったような表情を浮かべた。
「でも、今日ばかりはちょっとまずいかもしれないわね……」
そう言って、ヴィンセント様とユベール様に目配せするフィオレンティーナ様。
「どうしてですか?」
素敵なドレスだと思うんだけど……どこかおかしいところがあるのかな?
首を傾げる私に、フィオレンティーナ様が問いかけてくる。
「リリアナ嬢は、今日の宴について何か聞いている?」
何かって、ヴィオが言っていたあの噂かな?
「それは、フィオス商業王国の国王陛下が花嫁を迎えに来た――という話でしょうか?」
「知っているのなら話が早い。リリアナ嬢には、フィオス国王陛下の目に入らないよう、できる限り離れた場所にいてほしいんだ。むしろ、早々に帰るのが得策だね。そうでなければ、ランスロットも気が気じゃないだろうから」
ヴィンセント様は、ニヤリと口の端を上げてそう言った。なんだか随分砕けた口調になっている気がしますが、それはさておき……
「なぜフィオス国王陛下の目に入ってはいけないのでしょうか?」
近くで観察しなければ、ヴィオに国王様の情報を伝えられませんよね。このミッションを成功させるには、目標に近寄ることが必要不可欠です!
内心、闘志を燃やしている私に、ヴィンセント様は呆れた声で言った。
「それ、本気で言っているのかい、リリアナ嬢?」
「ええ。お友達に、フィオス国王陛下の様子を教えてほしいと言われているのです。そのためには、近くでお姿を見なければ……! 宴がはじまったところで、ご挨拶にうかがうつもりでいます」
きっとすごい人だかりになりそうだから、ご挨拶は難しいかもしれない。でも、観察くらいならできるんじゃないかな。
ヴィンセント様は私をまじまじと見つめて、首を傾げた。
「リリアナ嬢は、フィオスの国王――レオニダス陛下の目に留まり、王妃に選ばれでもしたらと思わないのかい?」
私がレオニダス陛下の花嫁に?
そんなおとぎ話のようなこと、考えてもみなかった。だって……
「ありえないです!」
今日の宴に参加しているご令嬢の皆さんは美しい方ばかりだし、名家ご出身の方もたくさんいらっしゃいます。
その中から私を選ぶとは思えないもの。
満面の笑みで断言した私に、ヴィンセント様はため息をついた。
「前から思っていたが、リリアナ嬢は自己評価が随分と低いようだね。もっと己を知ったほうが良いよ。とにかく、レオニダス陛下の目に留まらないよう、気をつけてほしい」
変なヴィンセント様。自分のことは、よくわかっていますよ。
というかヴィンセント様、私への評価が妙に高くありませんか?
どうしてだろうと不思議に思い、尋ねてみようとしたところで会場がざわめきはじめた。
「どうやら、はじまるようだね。リリアナ嬢、私達は場所を移動したほうがよさそうだ」
ユベール様が落ち着いた様子で言う。
こういった宴の会場では、爵位ごとのエリアが定められているんです。宴の最中に移動することは可能なんだけど、宴がはじまるときには決められた場所にいなくちゃいけません。ちなみにここは、公爵位の方々が集まる場所。
ヴィンセント様達への挨拶は済ませたから、すみやかに所定の位置に戻ったほうがよさそうです! 撤退!!
「ユベール様のおっしゃる通りですね。それでは、私は失礼いたします」
「あぁ。リリアナ嬢、何度も言うが、とにかく気をつけてほしい。わかったね」
ヴィンセント様は、私に言い聞かせるように強い口調で言う。その力強さに、思わず頷いてしまった。
するとヴィンセント様は満足そうに微笑む。
「これで安心だ。それでは、またあとで」
別れの言葉を交わし、私は伯爵家のエリアに早足で向かいます。
う~ん、それにしても、ヴィンセント様は心配しすぎだよね。
あんなに心配しなくても大丈夫なのに……
まぁ、でも優しい人だからね。
「リリアナちゃん、戻ってきたわね。こっちよ」
伯爵家のエリアまで戻ると、いち早く私を見つけたお母様が手招きする。私は、急いで近寄った。
「お母様、お父様、お待たせしました」
「戻ってきてくれて良かったよ。……ほら、もうはじまるところだよ」
お父様につられて、私も会場の奥に視線を向ける。
すると王族の方々の名前が次々と呼ばれ、入場がはじまった。
赤みがかった金髪を持つ、美しい王妃様。艶やかに微笑む王妃様の傍らには、王太子様であるクラウディウス様の姿があります。
……かつて私は、王太子様に会ったことがある。
四年前に起こった、王太子様の魔剣盗難事件。この事件に関わることとなった私は、フェリクスさんという青年に出会いました。一度見たら忘れることができないほど整った容姿に、キラキラと輝く黄金の髪、青空のように澄んだ瞳。こんなに美しい人がいるなんて! と驚いたことをよく覚えています。
そしてフェリクスさんは、この国での成人式・初花の儀で、再び私の前に姿を現しました――それも、王太子殿下クラウディウス様として。
他人の空似というには、似すぎています! どう考えても、同一人物でしょう。
ふとあたりを見まわすと、ご令嬢達がうっとりした表情でクラウディウス殿下を見つめている。
よく考えたら私、あの王太子様の花嫁候補なんだよね……
うぅ、なんだか胃が痛いです。そうなったのも、すべての元凶は――
とそのとき、ひときわ大きな歓声が上がる。
人々の視線の先には、シェルフィールド王国の国王様――ヒューバート陛下のお姿があった。王太子様に匹敵する、キラキラした容貌の持ち主です。
私はかつて、この国王様ともお会いしたことがあります。もっともそのときは、国王様だなんて知らなかったんだけどね。お父様のお友達のマティアスさんだと自己紹介されたので、それを信じて気軽にお茶まで飲んでしまいました。
その後、お父様と一緒に参加したヒューバート国王陛下の生誕祭で、マティアスさんに再会。素敵な青い薔薇をもらったんだけど……実はこれ、王太子様の花嫁候補に手渡される魔法の薔薇だったみたいなんです。
こうして、何も知らないまま王太子様の花嫁候補になってしまった私。
ちなみに、花嫁候補は私を含めて四人います。赤薔薇の乙女、白薔薇の乙女、黄薔薇の乙女、そして青薔薇の乙女。
私以外の乙女の方々は、王太子様の花嫁候補として公になっている。皆さん、名家出身の素晴らしいお嬢様方だからね。
うぅ……どうしてあのとき、薔薇を受け取ってしまったんだろう。せめて、このまま青薔薇の乙女が公表されませんように! そして一日でも早く、他の乙女の中から花嫁が選ばれますように!!
マティアスさん改めヒューバート国王陛下を恨みがましく見つめていると、フィオス商業王国の国王陛下に向けての祝辞がはじまりました。
あ、そうでした! 今の私には、フィオス商業王国のレオニダス陛下を観察するという大切なミッションがあるんでした!!
私は目を凝らして、ヒューバート国王陛下の隣に立つ男性を見つめる。
二十代後半くらいでしょうか。瞳の色まではわからないけれど、肩より少し長い金茶色の髪を後ろで一つに束ねていて、精悍な顔立ちをしています。
多分、あの方がレオニダス陛下だと思うんだけど……
う~ん、ここからじゃよく見えないよ。ヴィオに報告しなくちゃいけないのに。
そうしてまじまじと見つめていたとき、レオニダス陛下と視線が合った……ような気がした。
いやいや、まさかね。
こんなに離れている中、目が合うはずないよ。
私は軽く頭を振って、自分に自意識過剰だと言い聞かせる。
するとヒューバート陛下の話が終わり、レオニダス陛下が口を開いた。
「このたびは、このような宴を開いてもらい感謝する。今回、私は二つの目的があってシェルフィールド王国を訪れた。まず一つは、友好を深めるため。この宴で、より多くの人と親交を深めることができればと思っている」
会場に、レオニダス陛下の堂々とした声が響く。
録音できる機械があれば、ヴィオにも声を聞かせてあげられるのにな……
私がそんなことを考えている間も、陛下のお言葉は続く。
「そして、もう一つの目的。それは――」
そこで言葉を切ったレオニダス陛下。会場中がそわそわしはじめて、陛下の言葉をじっと待つ。
やがて陛下が口を開き――
「――花嫁を迎えることだ」
そう宣言した瞬間、会場は大きな歓声に包まれた。
ヴィオから聞いた噂は、やっぱり本当だったんですね! 恋愛小説みたいな展開です!!
レオニダス陛下に選ばれる、幸運な花嫁は一体誰なんでしょうか?
あ、でも、この話を知ったらヴィオはショックを受けちゃうのかな。
陛下は商人達の憧れだと言っていたけど、ヴィオの中ではどういう憧れなんだろう。
それがわからない以上、この話は伝えないほうがいいのかも……
とはいえ、情報通なヴィオなら、私が言わなくてもすぐに情報を入手しちゃうよね。
頭を抱えながら考え込んでいると、またもや大きなざわめきが起こった。
うん? なんだろう?
顔を上げて確認すれば、レオニダス陛下が壇上から下りてくる姿が見える。
えっ? 何がはじまるんだろう?
周囲の皆さんも、驚いたような、戸惑ったような反応を見せています。
陛下は、声を張り上げつつ会場を進んでいく。
「私の花嫁は、この会場内にいる!」
その言葉に、キャーッと黄色い声が上がった。
えっ! レオニダス陛下の花嫁さんって、もう決まっているの!?
そういえば、噂によると陛下は『シェルフィールド王国へ花嫁を迎えに行く』とおっしゃっていたんだよね。『探しに行く』ではなく『迎えに行く』という表現には違和感がありましたが……もしや、すでに誰かと結婚の約束をしていて、その方を迎えに来たってことなのかな?
むくむくと好奇心が膨らんできて、私は会場を悠々と歩くレオニダス陛下に顔を向ける。
陛下は、綺麗なご令嬢達の前を足早に通り過ぎていく。一応、顔を確認しているようですが、首を振ってあっさり目を逸らしています。
うわぁ、一撃必殺。
陛下が通ったあとには、暗い表情を浮かべた乙女達の姿が……
公爵位の方々がいるエリア、侯爵位の方々がいるエリアをさくさく通り過ぎ、伯爵位のエリアにいらっしゃったレオニダス陛下。
ご令嬢の皆さんはさりげなく前に出て陛下に近づこうとしますが、結果は同じ。首を振られて目を逸らされた皆さんは、肩を落として立ちすくむばかりです。
う~ん、レオニダス陛下の花嫁は、伯爵家のご令嬢でもなさそうですね。
子爵家や男爵家のご令嬢なのかな?
私が様子を見守っていると、伯爵位のエリアを通過しようとしていた陛下が、くるりと方向変換した。
うん? あれっ?
レオニダス陛下がこちらに向かって歩いてきます!
もしかして、私の近くに花嫁のご令嬢が!?
思わずあたりを見まわしたものの、それらしきご令嬢は見当たらない。このあたりに立っているのは、パートナーを同伴している女性ばかり。
これはまさか……略奪愛!?
はらはらしながら考え込んでいると、足音が近づいてきて頭上に影が差した。
顔を上げた先には、レオニダス陛下の姿。
先ほどは離れていたのでわからなかったけれど、綺麗な玉虫色の瞳をしています。緑にも青にも紫にも見える、不思議な色合いの瞳です。
あれ、この顔立ち……どこかで見たことがあるような……
いやいや、そんなはずないよね。
こんなに不思議な色合いの瞳を持っている人は、滅多にいません。
会ったことがあれば、忘れるはずないもの。
そもそもこの方は、他国の国王様。会ったことなんて、あるわけないよ。
そう思い至ったところで、私はハッと我に返った。そして、慌てて道を譲るように身体を横にずらしたんだけど……
レオニダス陛下も同じタイミングで身体をずらし、目が合ってしまう。
「しっ、失礼いたしました!」
謝罪しながら、再び身体を横にずらす私。しかし、またも陛下が同じ方向に身体をずらして目が合った。
うぅ、ヴィオのためにもレオニダス陛下に近寄りたいと思っていたけど……こんな形で近寄るなんて、想定外ですよ! 私、陛下の邪魔をしている上に悪目立ちしてますよね!?
どうしようかと思っていたとき、レオニダス陛下がニヤリと笑った。
「久しぶりだな、お嬢ちゃん」
「えっ?」
陛下はとても小さな声で囁かれたから、今の言葉は私にしか聞こえていなかったと思う。
久しぶり? それに、お嬢ちゃん?
状況についていけず、思わずポカンとしていたら、レオニダス陛下に腕を掴まれ、ぐっと引っ張られてしまった。
いつの間にか、レオニダス陛下の腕の中にすっぽりおさまっている私……
ギャァーーーーーー!!
こ、これって、私がレオニダス陛下に抱きついちゃってる体勢ですよね!? まずいです、早く離れないと……!
助けて、お父様、お母様!!
けれど大混乱な私には構わず、レオニダス陛下は会場中に響きわたる声で宣言した。
「私が迎えに来た花嫁とは、このリリアナ・ラ・オリヴィリア伯爵令嬢である!」
「えぇーーーーーー!!」
想定外の言葉に、思わず大きな声で叫んだものの……会場からは私の声を上回るほどのざわめきが上がった。
誰もが驚いたような声を上げている。
うんうん、そうだよね。だって私が一番、驚いているもの!
一体、どうなってるのーーーーーー!!
そもそもレオニダス陛下とは初対面なのに……
助けを求めるべく、顔を横に向けてお父様とお母様を見つめたところ――二人はあんぐりと口を開けて固まっています。
やっぱり、お父様とお母様にとっても予想外の出来事だったんですね。
というか、この状況、どうしたらいいんでしょう。
隣国の国王様から花嫁扱いをされてしまった今、一介の伯爵家の娘がそれを拒否することなんてできません。しかも、こんな衆人環視の中で!
そんなことをすれば、おそらくオリヴィリア伯爵家はなくなってしまうことでしょう。
うぅ……一体どうしたら……
さっぱり名案が浮かばない中、人々のざわめきは少しずつ小さくなっていく。
そして、そのタイミングを見計らったかのように凛とした声が響きわたった。
「レオニダス国王陛下、待っていただきたい! それは承知できない!!」
もしかして、救世主の出現でしょうか!?
隣国の国王様に待ったをかけることができるなんて、すごすぎます!
でも、私のせいで救世主のお家に迷惑をかけてしまったら……
そんな心配をしていると、レオニダス陛下がぽつりと呟いた。
「クラウディウス王太子か……」
えっ! 今のは、クラウディウス王太子様なの!?
レオニダス陛下の腕の中で、なんとか視線を横に向けると、こちらに向かって歩いてくる王太子様の姿が目に入った。
周囲から興味津々といった視線が注がれる中、やがて王太子様は私達の目の前に立つ。
そして――
「レオニダス国王陛下、大変申し訳ないのですが、リリアナ嬢はそのお話をお受けすることができないのです」
まさにその通りです!
なぜ王太子様が私を助けてくれようとしているのかは、わかりません。
もしかして、魔剣盗難事件でお会いしたことを覚えていてくれたとか?
いやいや、でもあのとき、私はリアと名乗ったから素性は知られていないはず。今とは髪の色も瞳の色も違っていたし……
まぁ、何はともあれ助かりました。私が言えない言葉を代弁してくれてありがとうございます!
このまま結婚の話をなかったことにしていただけると、とっても嬉しいです!!
ぜひぜひ木っ端微塵にしてください。
そんなことを考えながら、安堵のため息をついた私だったけれど……
「クラウディウス殿下。なぜ、リリアナ嬢と私の仲を認められないんだ?」
「もちろん、それには理由があります」
王太子様は、私の頭に向かってゆっくり手を伸ばす。
そのとき、王太子様の手のあたりに魔力の奔流を感じた。この気配は……魔法! なんで!?
「比類なき薔薇をここに」
王太子様はそう詠唱すると、すっと手を下ろした。
一体、なんの魔法を使ったんだろう?
まさか、髪や瞳の色を変えたりしてないよね!?
私はサイドの髪を少し手に取り、目の前に持ってくる。すると、幻影の仮面によって色が変わった白金色の髪が視界に映った。
ふぅ、良かった。
髪の色が変わってないってことは、きっと瞳も淡紅色のままのはず。
こんなにたくさんの人の前で、本来の銀髪と紫水晶色の瞳に戻っていたら、きっと大変なことになったよね。
何せ銀髪と紫水晶色の瞳は、この世界を創り出した創造神様のまとう色。かつて創造神様以外でその色をまとっていたのは、シェルフィールド王国でアルディーナ大公爵家を興したアルディーナ様だけだったのだから。
それにしても、王太子様は一体なんの魔法をかけたんだろう?
私が首を傾げていると、周囲から大きな声が上がった。
「あの薔薇は!?」
「まさか、彼女がもう一人の……」
薔薇? もう一人?
皆さん、一体何に驚いているんでしょう。
確かに私のドレスには造花の薔薇がついていますが、今さらだよね。自分のドレスを見下ろして確認したものの、特に変わったところはない。
あ、そういえば髪にも薔薇を挿していたんでした。
私は頭に手をやり、生花の薔薇をそっと引き抜いた。
そして手の中の薔薇に目を向けて――
「なっ、なんですかコレはーーーーーー!!」
そこにあったのは、青い薔薇……先ほどまでは、確かに淡紅色だったはずなのに!
目を丸くする私をよそに、王太子様はキラキラと輝く笑みを浮かべる。
「レオニダス国王陛下、リリアナ嬢は青薔薇の乙女――つまりは、私の婚約者。ですから、レオニダス国王陛下の花嫁になることはできません」
王太子様の言葉に、会場中がどよめいた。誰が何を言っているのか聞こえないくらい、ざわめいている。
そんな中、私は頭の中で今の王太子様の言葉を繰り返し――そこで意識を手放したのだった。
(ねぇ、リリアナ遊ぼうよーー!)
楽しそうに空中をくるくる飛びまわるルーチェ。
この小さな女の子は、私を守護する光の精霊です。
契約を交わした私には姿が視えるし、心の中で心話というやりとりをすることができる。でも、他の人は視ることも話すこともできません。
例外は、私のお母様と双子の弟妹達。真実の眼という特別な目を持っている三人は、ルーチェの姿を視ることができます。
生まれたばかりの精霊だというルーチェ。外見も言動もまだまだ幼く、なかなか空気が読めないんだよね。
うぅ、こんな事態に陥っている私を、平然と遊びに誘うなんて……
(ルーチェ、こんな状況で呑気に遊べるほど、私の心は強くないんです)
(こんな状況って、どんな状況?)
まったくわかっていないらしく、不思議そうに首を傾げるルーチェ。
私はルーチェを手招きして、カーテンに覆われた窓に近寄る。そして少しだけカーテンを開けて、外の様子を見せてあげた。
(ほら、こういう状況ですよ!)
窓の外には、私に面会をしに来た多くの人達の姿。
私はすぐさまカーテンを閉じて、窓から離れた。
ちなみに、淡紅色の薔薇は私の瞳の色に合わせたもの。本来の銀髪と紫水晶色の瞳は、幻影の仮面で白金の髪と淡紅色の瞳に変えているんです。
それにしても、友達のことを褒められるのはすごく嬉しいですね。
思わずニヤニヤしていると、なぜかフィオレンティーナ様は困ったような表情を浮かべた。
「でも、今日ばかりはちょっとまずいかもしれないわね……」
そう言って、ヴィンセント様とユベール様に目配せするフィオレンティーナ様。
「どうしてですか?」
素敵なドレスだと思うんだけど……どこかおかしいところがあるのかな?
首を傾げる私に、フィオレンティーナ様が問いかけてくる。
「リリアナ嬢は、今日の宴について何か聞いている?」
何かって、ヴィオが言っていたあの噂かな?
「それは、フィオス商業王国の国王陛下が花嫁を迎えに来た――という話でしょうか?」
「知っているのなら話が早い。リリアナ嬢には、フィオス国王陛下の目に入らないよう、できる限り離れた場所にいてほしいんだ。むしろ、早々に帰るのが得策だね。そうでなければ、ランスロットも気が気じゃないだろうから」
ヴィンセント様は、ニヤリと口の端を上げてそう言った。なんだか随分砕けた口調になっている気がしますが、それはさておき……
「なぜフィオス国王陛下の目に入ってはいけないのでしょうか?」
近くで観察しなければ、ヴィオに国王様の情報を伝えられませんよね。このミッションを成功させるには、目標に近寄ることが必要不可欠です!
内心、闘志を燃やしている私に、ヴィンセント様は呆れた声で言った。
「それ、本気で言っているのかい、リリアナ嬢?」
「ええ。お友達に、フィオス国王陛下の様子を教えてほしいと言われているのです。そのためには、近くでお姿を見なければ……! 宴がはじまったところで、ご挨拶にうかがうつもりでいます」
きっとすごい人だかりになりそうだから、ご挨拶は難しいかもしれない。でも、観察くらいならできるんじゃないかな。
ヴィンセント様は私をまじまじと見つめて、首を傾げた。
「リリアナ嬢は、フィオスの国王――レオニダス陛下の目に留まり、王妃に選ばれでもしたらと思わないのかい?」
私がレオニダス陛下の花嫁に?
そんなおとぎ話のようなこと、考えてもみなかった。だって……
「ありえないです!」
今日の宴に参加しているご令嬢の皆さんは美しい方ばかりだし、名家ご出身の方もたくさんいらっしゃいます。
その中から私を選ぶとは思えないもの。
満面の笑みで断言した私に、ヴィンセント様はため息をついた。
「前から思っていたが、リリアナ嬢は自己評価が随分と低いようだね。もっと己を知ったほうが良いよ。とにかく、レオニダス陛下の目に留まらないよう、気をつけてほしい」
変なヴィンセント様。自分のことは、よくわかっていますよ。
というかヴィンセント様、私への評価が妙に高くありませんか?
どうしてだろうと不思議に思い、尋ねてみようとしたところで会場がざわめきはじめた。
「どうやら、はじまるようだね。リリアナ嬢、私達は場所を移動したほうがよさそうだ」
ユベール様が落ち着いた様子で言う。
こういった宴の会場では、爵位ごとのエリアが定められているんです。宴の最中に移動することは可能なんだけど、宴がはじまるときには決められた場所にいなくちゃいけません。ちなみにここは、公爵位の方々が集まる場所。
ヴィンセント様達への挨拶は済ませたから、すみやかに所定の位置に戻ったほうがよさそうです! 撤退!!
「ユベール様のおっしゃる通りですね。それでは、私は失礼いたします」
「あぁ。リリアナ嬢、何度も言うが、とにかく気をつけてほしい。わかったね」
ヴィンセント様は、私に言い聞かせるように強い口調で言う。その力強さに、思わず頷いてしまった。
するとヴィンセント様は満足そうに微笑む。
「これで安心だ。それでは、またあとで」
別れの言葉を交わし、私は伯爵家のエリアに早足で向かいます。
う~ん、それにしても、ヴィンセント様は心配しすぎだよね。
あんなに心配しなくても大丈夫なのに……
まぁ、でも優しい人だからね。
「リリアナちゃん、戻ってきたわね。こっちよ」
伯爵家のエリアまで戻ると、いち早く私を見つけたお母様が手招きする。私は、急いで近寄った。
「お母様、お父様、お待たせしました」
「戻ってきてくれて良かったよ。……ほら、もうはじまるところだよ」
お父様につられて、私も会場の奥に視線を向ける。
すると王族の方々の名前が次々と呼ばれ、入場がはじまった。
赤みがかった金髪を持つ、美しい王妃様。艶やかに微笑む王妃様の傍らには、王太子様であるクラウディウス様の姿があります。
……かつて私は、王太子様に会ったことがある。
四年前に起こった、王太子様の魔剣盗難事件。この事件に関わることとなった私は、フェリクスさんという青年に出会いました。一度見たら忘れることができないほど整った容姿に、キラキラと輝く黄金の髪、青空のように澄んだ瞳。こんなに美しい人がいるなんて! と驚いたことをよく覚えています。
そしてフェリクスさんは、この国での成人式・初花の儀で、再び私の前に姿を現しました――それも、王太子殿下クラウディウス様として。
他人の空似というには、似すぎています! どう考えても、同一人物でしょう。
ふとあたりを見まわすと、ご令嬢達がうっとりした表情でクラウディウス殿下を見つめている。
よく考えたら私、あの王太子様の花嫁候補なんだよね……
うぅ、なんだか胃が痛いです。そうなったのも、すべての元凶は――
とそのとき、ひときわ大きな歓声が上がる。
人々の視線の先には、シェルフィールド王国の国王様――ヒューバート陛下のお姿があった。王太子様に匹敵する、キラキラした容貌の持ち主です。
私はかつて、この国王様ともお会いしたことがあります。もっともそのときは、国王様だなんて知らなかったんだけどね。お父様のお友達のマティアスさんだと自己紹介されたので、それを信じて気軽にお茶まで飲んでしまいました。
その後、お父様と一緒に参加したヒューバート国王陛下の生誕祭で、マティアスさんに再会。素敵な青い薔薇をもらったんだけど……実はこれ、王太子様の花嫁候補に手渡される魔法の薔薇だったみたいなんです。
こうして、何も知らないまま王太子様の花嫁候補になってしまった私。
ちなみに、花嫁候補は私を含めて四人います。赤薔薇の乙女、白薔薇の乙女、黄薔薇の乙女、そして青薔薇の乙女。
私以外の乙女の方々は、王太子様の花嫁候補として公になっている。皆さん、名家出身の素晴らしいお嬢様方だからね。
うぅ……どうしてあのとき、薔薇を受け取ってしまったんだろう。せめて、このまま青薔薇の乙女が公表されませんように! そして一日でも早く、他の乙女の中から花嫁が選ばれますように!!
マティアスさん改めヒューバート国王陛下を恨みがましく見つめていると、フィオス商業王国の国王陛下に向けての祝辞がはじまりました。
あ、そうでした! 今の私には、フィオス商業王国のレオニダス陛下を観察するという大切なミッションがあるんでした!!
私は目を凝らして、ヒューバート国王陛下の隣に立つ男性を見つめる。
二十代後半くらいでしょうか。瞳の色まではわからないけれど、肩より少し長い金茶色の髪を後ろで一つに束ねていて、精悍な顔立ちをしています。
多分、あの方がレオニダス陛下だと思うんだけど……
う~ん、ここからじゃよく見えないよ。ヴィオに報告しなくちゃいけないのに。
そうしてまじまじと見つめていたとき、レオニダス陛下と視線が合った……ような気がした。
いやいや、まさかね。
こんなに離れている中、目が合うはずないよ。
私は軽く頭を振って、自分に自意識過剰だと言い聞かせる。
するとヒューバート陛下の話が終わり、レオニダス陛下が口を開いた。
「このたびは、このような宴を開いてもらい感謝する。今回、私は二つの目的があってシェルフィールド王国を訪れた。まず一つは、友好を深めるため。この宴で、より多くの人と親交を深めることができればと思っている」
会場に、レオニダス陛下の堂々とした声が響く。
録音できる機械があれば、ヴィオにも声を聞かせてあげられるのにな……
私がそんなことを考えている間も、陛下のお言葉は続く。
「そして、もう一つの目的。それは――」
そこで言葉を切ったレオニダス陛下。会場中がそわそわしはじめて、陛下の言葉をじっと待つ。
やがて陛下が口を開き――
「――花嫁を迎えることだ」
そう宣言した瞬間、会場は大きな歓声に包まれた。
ヴィオから聞いた噂は、やっぱり本当だったんですね! 恋愛小説みたいな展開です!!
レオニダス陛下に選ばれる、幸運な花嫁は一体誰なんでしょうか?
あ、でも、この話を知ったらヴィオはショックを受けちゃうのかな。
陛下は商人達の憧れだと言っていたけど、ヴィオの中ではどういう憧れなんだろう。
それがわからない以上、この話は伝えないほうがいいのかも……
とはいえ、情報通なヴィオなら、私が言わなくてもすぐに情報を入手しちゃうよね。
頭を抱えながら考え込んでいると、またもや大きなざわめきが起こった。
うん? なんだろう?
顔を上げて確認すれば、レオニダス陛下が壇上から下りてくる姿が見える。
えっ? 何がはじまるんだろう?
周囲の皆さんも、驚いたような、戸惑ったような反応を見せています。
陛下は、声を張り上げつつ会場を進んでいく。
「私の花嫁は、この会場内にいる!」
その言葉に、キャーッと黄色い声が上がった。
えっ! レオニダス陛下の花嫁さんって、もう決まっているの!?
そういえば、噂によると陛下は『シェルフィールド王国へ花嫁を迎えに行く』とおっしゃっていたんだよね。『探しに行く』ではなく『迎えに行く』という表現には違和感がありましたが……もしや、すでに誰かと結婚の約束をしていて、その方を迎えに来たってことなのかな?
むくむくと好奇心が膨らんできて、私は会場を悠々と歩くレオニダス陛下に顔を向ける。
陛下は、綺麗なご令嬢達の前を足早に通り過ぎていく。一応、顔を確認しているようですが、首を振ってあっさり目を逸らしています。
うわぁ、一撃必殺。
陛下が通ったあとには、暗い表情を浮かべた乙女達の姿が……
公爵位の方々がいるエリア、侯爵位の方々がいるエリアをさくさく通り過ぎ、伯爵位のエリアにいらっしゃったレオニダス陛下。
ご令嬢の皆さんはさりげなく前に出て陛下に近づこうとしますが、結果は同じ。首を振られて目を逸らされた皆さんは、肩を落として立ちすくむばかりです。
う~ん、レオニダス陛下の花嫁は、伯爵家のご令嬢でもなさそうですね。
子爵家や男爵家のご令嬢なのかな?
私が様子を見守っていると、伯爵位のエリアを通過しようとしていた陛下が、くるりと方向変換した。
うん? あれっ?
レオニダス陛下がこちらに向かって歩いてきます!
もしかして、私の近くに花嫁のご令嬢が!?
思わずあたりを見まわしたものの、それらしきご令嬢は見当たらない。このあたりに立っているのは、パートナーを同伴している女性ばかり。
これはまさか……略奪愛!?
はらはらしながら考え込んでいると、足音が近づいてきて頭上に影が差した。
顔を上げた先には、レオニダス陛下の姿。
先ほどは離れていたのでわからなかったけれど、綺麗な玉虫色の瞳をしています。緑にも青にも紫にも見える、不思議な色合いの瞳です。
あれ、この顔立ち……どこかで見たことがあるような……
いやいや、そんなはずないよね。
こんなに不思議な色合いの瞳を持っている人は、滅多にいません。
会ったことがあれば、忘れるはずないもの。
そもそもこの方は、他国の国王様。会ったことなんて、あるわけないよ。
そう思い至ったところで、私はハッと我に返った。そして、慌てて道を譲るように身体を横にずらしたんだけど……
レオニダス陛下も同じタイミングで身体をずらし、目が合ってしまう。
「しっ、失礼いたしました!」
謝罪しながら、再び身体を横にずらす私。しかし、またも陛下が同じ方向に身体をずらして目が合った。
うぅ、ヴィオのためにもレオニダス陛下に近寄りたいと思っていたけど……こんな形で近寄るなんて、想定外ですよ! 私、陛下の邪魔をしている上に悪目立ちしてますよね!?
どうしようかと思っていたとき、レオニダス陛下がニヤリと笑った。
「久しぶりだな、お嬢ちゃん」
「えっ?」
陛下はとても小さな声で囁かれたから、今の言葉は私にしか聞こえていなかったと思う。
久しぶり? それに、お嬢ちゃん?
状況についていけず、思わずポカンとしていたら、レオニダス陛下に腕を掴まれ、ぐっと引っ張られてしまった。
いつの間にか、レオニダス陛下の腕の中にすっぽりおさまっている私……
ギャァーーーーーー!!
こ、これって、私がレオニダス陛下に抱きついちゃってる体勢ですよね!? まずいです、早く離れないと……!
助けて、お父様、お母様!!
けれど大混乱な私には構わず、レオニダス陛下は会場中に響きわたる声で宣言した。
「私が迎えに来た花嫁とは、このリリアナ・ラ・オリヴィリア伯爵令嬢である!」
「えぇーーーーーー!!」
想定外の言葉に、思わず大きな声で叫んだものの……会場からは私の声を上回るほどのざわめきが上がった。
誰もが驚いたような声を上げている。
うんうん、そうだよね。だって私が一番、驚いているもの!
一体、どうなってるのーーーーーー!!
そもそもレオニダス陛下とは初対面なのに……
助けを求めるべく、顔を横に向けてお父様とお母様を見つめたところ――二人はあんぐりと口を開けて固まっています。
やっぱり、お父様とお母様にとっても予想外の出来事だったんですね。
というか、この状況、どうしたらいいんでしょう。
隣国の国王様から花嫁扱いをされてしまった今、一介の伯爵家の娘がそれを拒否することなんてできません。しかも、こんな衆人環視の中で!
そんなことをすれば、おそらくオリヴィリア伯爵家はなくなってしまうことでしょう。
うぅ……一体どうしたら……
さっぱり名案が浮かばない中、人々のざわめきは少しずつ小さくなっていく。
そして、そのタイミングを見計らったかのように凛とした声が響きわたった。
「レオニダス国王陛下、待っていただきたい! それは承知できない!!」
もしかして、救世主の出現でしょうか!?
隣国の国王様に待ったをかけることができるなんて、すごすぎます!
でも、私のせいで救世主のお家に迷惑をかけてしまったら……
そんな心配をしていると、レオニダス陛下がぽつりと呟いた。
「クラウディウス王太子か……」
えっ! 今のは、クラウディウス王太子様なの!?
レオニダス陛下の腕の中で、なんとか視線を横に向けると、こちらに向かって歩いてくる王太子様の姿が目に入った。
周囲から興味津々といった視線が注がれる中、やがて王太子様は私達の目の前に立つ。
そして――
「レオニダス国王陛下、大変申し訳ないのですが、リリアナ嬢はそのお話をお受けすることができないのです」
まさにその通りです!
なぜ王太子様が私を助けてくれようとしているのかは、わかりません。
もしかして、魔剣盗難事件でお会いしたことを覚えていてくれたとか?
いやいや、でもあのとき、私はリアと名乗ったから素性は知られていないはず。今とは髪の色も瞳の色も違っていたし……
まぁ、何はともあれ助かりました。私が言えない言葉を代弁してくれてありがとうございます!
このまま結婚の話をなかったことにしていただけると、とっても嬉しいです!!
ぜひぜひ木っ端微塵にしてください。
そんなことを考えながら、安堵のため息をついた私だったけれど……
「クラウディウス殿下。なぜ、リリアナ嬢と私の仲を認められないんだ?」
「もちろん、それには理由があります」
王太子様は、私の頭に向かってゆっくり手を伸ばす。
そのとき、王太子様の手のあたりに魔力の奔流を感じた。この気配は……魔法! なんで!?
「比類なき薔薇をここに」
王太子様はそう詠唱すると、すっと手を下ろした。
一体、なんの魔法を使ったんだろう?
まさか、髪や瞳の色を変えたりしてないよね!?
私はサイドの髪を少し手に取り、目の前に持ってくる。すると、幻影の仮面によって色が変わった白金色の髪が視界に映った。
ふぅ、良かった。
髪の色が変わってないってことは、きっと瞳も淡紅色のままのはず。
こんなにたくさんの人の前で、本来の銀髪と紫水晶色の瞳に戻っていたら、きっと大変なことになったよね。
何せ銀髪と紫水晶色の瞳は、この世界を創り出した創造神様のまとう色。かつて創造神様以外でその色をまとっていたのは、シェルフィールド王国でアルディーナ大公爵家を興したアルディーナ様だけだったのだから。
それにしても、王太子様は一体なんの魔法をかけたんだろう?
私が首を傾げていると、周囲から大きな声が上がった。
「あの薔薇は!?」
「まさか、彼女がもう一人の……」
薔薇? もう一人?
皆さん、一体何に驚いているんでしょう。
確かに私のドレスには造花の薔薇がついていますが、今さらだよね。自分のドレスを見下ろして確認したものの、特に変わったところはない。
あ、そういえば髪にも薔薇を挿していたんでした。
私は頭に手をやり、生花の薔薇をそっと引き抜いた。
そして手の中の薔薇に目を向けて――
「なっ、なんですかコレはーーーーーー!!」
そこにあったのは、青い薔薇……先ほどまでは、確かに淡紅色だったはずなのに!
目を丸くする私をよそに、王太子様はキラキラと輝く笑みを浮かべる。
「レオニダス国王陛下、リリアナ嬢は青薔薇の乙女――つまりは、私の婚約者。ですから、レオニダス国王陛下の花嫁になることはできません」
王太子様の言葉に、会場中がどよめいた。誰が何を言っているのか聞こえないくらい、ざわめいている。
そんな中、私は頭の中で今の王太子様の言葉を繰り返し――そこで意識を手放したのだった。
(ねぇ、リリアナ遊ぼうよーー!)
楽しそうに空中をくるくる飛びまわるルーチェ。
この小さな女の子は、私を守護する光の精霊です。
契約を交わした私には姿が視えるし、心の中で心話というやりとりをすることができる。でも、他の人は視ることも話すこともできません。
例外は、私のお母様と双子の弟妹達。真実の眼という特別な目を持っている三人は、ルーチェの姿を視ることができます。
生まれたばかりの精霊だというルーチェ。外見も言動もまだまだ幼く、なかなか空気が読めないんだよね。
うぅ、こんな事態に陥っている私を、平然と遊びに誘うなんて……
(ルーチェ、こんな状況で呑気に遊べるほど、私の心は強くないんです)
(こんな状況って、どんな状況?)
まったくわかっていないらしく、不思議そうに首を傾げるルーチェ。
私はルーチェを手招きして、カーテンに覆われた窓に近寄る。そして少しだけカーテンを開けて、外の様子を見せてあげた。
(ほら、こういう状況ですよ!)
窓の外には、私に面会をしに来た多くの人達の姿。
私はすぐさまカーテンを閉じて、窓から離れた。
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