魔王がやって来たので

もち雪

文字の大きさ
23 / 292
ふたたび動き出す世界

狐の嫁入り道中

しおりを挟む
 今、机の上には、コーヒーカップが、2つと魔王の湯飲みが1つ並んでいる。

「すまん、コーヒーは後で楽しむとして……やはりお茶を貰えるか?」と言った結果だ。

 そのお茶を少し飲み、ウンウンと頷く魔王。そしてそれを見ながら明日は、魔王用の500ml入りのコーラーのペットボトルを2本買って来ようと考える、僕。

「で、狐の嫁入り行列が始まったわけだが、雨の中、正直眠たいのを我慢しながらみていると」

「まず晴れ着を着た狐の子供が、横を走っているのに気づく」

「その子供は転ぶのだが、そのままクルっと空中を宙返りして青白い月になってそのまま空へ飛んでいくのだ。」

「それを引き車から小雨に、濡れながら顔を出して見ていると……」

「山の高台になっている少しみはらしのいいところに、巫女の妖艶な 白銀しろがねの長い髪の女が、空から落ちて来て衝撃で、地鳴りと土埃が起こしながら地面に落下するのだ!」
 そういう魔王の頬はいつもより血色がよく赤みをおび、子供の様だった。

「でも、普通そこまで詳しく見えるものなのですか?」

「狐のよく使うあれだ、幻術か、もしくは化かされていたのか、どちらかだろう」

「見てみたいものですね」

「貴様は、それ自分とフィーナとの結婚手筈てはずする側になりたいのだろ?」
 ニャリと笑う魔王の顔をみて、彼の真意に気付く。

「なります! 絶対に……規模は小さくなるかもしれませんが、絶対に」

「何を、小さい事を言っておる」
 ふふふんと鼻で笑う魔王に、僕は頭をかくしか今はなかった。

「土煙、土埃は、小さな花火となって消える、そこに狐の耳を付けた男たちが馬に乗り現れる。その中の先頭の男と落ちてきた女が……」

「まぁ……なんだ、そこで手に手を取って、ゴホッゴホッ」
 魔王は、言い及んでいるのか、咳をして誤魔化しているように見える。ここは、あえて言及げんきゅうは、避けよう……。

「まぁ……いろいろあって、祝言の様子」

「白銀狐の赤子を掲げる場面なのあって、最後に、今回の主役の花嫁、花婿の姿が画面に映し出されたところで、本家に着いたわけじゃ」

「傘を差した男が、やって来て初めて、気付いたのだが……他の狐達には水滴1つ付いていなかったのも奴らの能力かもしれん」

「そして本家に入る時、人込みひとごみのもっと後ろの方で少しお腹の大きくなっていた白雪とフィーナの叔父の樹木きづきが仲睦ましく立っていたよ……」
 
 遠い日思いをはせる魔王の声が静かに伸びた。

「我の視線に気づくと、頭を下げて我が家に入るまでその頭は上がらなかった」

「傘をさしていた男は、『本当に仲がよろしい事で、もうこの本家には去年から幸せ続きで本当に喜ばしい事で』と言っておった」

「まぁ――祝言の様子は、体験した方が早いだろうし省く」
 こちらを見る目に何故か圧迫を感じるのは……気のせいだろうか……。

「その空から落ちてきた女性は、こちらの世界の人間なのですよね? 」

「そう言われているが、奇妙な話も聞く。だから、我もそう言ったが詳しくは藪の中だな」

「それから何かとあやつらと関わる事もあったが、だいたい平和だった。フィーナの叔父が、病で亡くなるまでは……」

「我が聞いたのは後の方で、樹月の死が目に見えて白雪に影を落とした時……。本家の家業を手伝っていた白雪を助けると言う名目で、あの男が出入りするようになってからすべては壊れていった」

「白銀狐の血を残す本家側と、商業の未来を歌うあの男とで、本家は2つに割れ。最後には、フィーナの両親は事故で亡くなった、きっとあのふたりの子も暗く、深い、嵐の海の様な渦の中に落ちていくのだろうと思っていた……。事故が、偶然なのか故意なのかは、今もわからぬし、調べる気もない魔界とはそう言うところなのだから……」

「しかし狐の嫁入り道中で見た、あの白銀の髪の巫女姿の女が我の前に現れた時」

「そして『貴方の役目をはたして』そう……あの声が、目が、あの指先が我にそう告げた時、すべてが

「そして今、ここで我はお前に昔話を聞かせている」
 
 僕は静かに魔王の昔話を飲み込む。それは重く、静かに、そこにあった。


   つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...