魔王がやって来たので

もち雪

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さよなら海の見える街

サルメスの蛮勇

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 海底遺跡での作戦は、双子カナリアが1度だけ悲鳴にも似た叫び声をあげた事で、サルメスの連れて行ったカナリアの死亡はほぼ確定した。

 そしてソイルドソレルの街のギルドマスターサスメスの生存の可能性が、限りなく低くなっているだろ事がわかる。

 サルメスと連絡がとれない以上、この場に残された者で今後の判断をしなければならない。そして今回、その役目はやはり勇者の僕に一任されたようだ。

 これで多数決で無駄死にするような場所へ、追いたてられる事はない。しかしどうするか決めいる状態で、まわりの意見を取り入れにくくはあった。

 皆の視線を感じる。あの振り絞る様なカナリアの声を聞いた後、この事態を改善するために僕がまず思いついた事は連絡手段の確保だった。

 このまま出発しても、失敗した場合に、その状況を次に活かせないのは痛過ぎる。

「双子のカナリア以外の、連絡手段ってないのですか?」

「迷宮、ダンジョンという環境になると、花火や信号など全く役にたたず、人間を走って知らせる事が一般的な連絡手段になります」

 そんな原始的な……せめて、モールス信号があって欲しかった。

 このままでは、闇雲に突っ込む事になる。

 とりあえず、連絡手段は置いておこう。……この先へ進むと30分ぶん戦えば、カナリアの死亡エリアは仮定としてだがあるはずだ。もっと上手くすると戦闘で、魔物が倒されている場合には、カナリアの死亡エリアまでは戦わず済む。

 まず、その安全に進める、約20分のダンジョンエリアの把握をしょう。

「僕がまず思っているのは、犠牲者は最小限にとどめたいそう思っています。その最低限の内におさめるため、罠を避けるためのシーフや盗賊にうちのパーティーに加わって貰い。そしてその人物が連絡係とし、ここの遺跡内を往復し状況をこちらに伝えて貰いたい。戦闘には参加せず逃げる事を優先してもらいます。どこで、カナリアの命を奪った奴がいるかわからないから……。後、罠特化型のダンジョンだった場合は、残念だが諦めよう。必要なのは、塔の管理者キロガルの知識と力だと思います」

「わかった。こちらから人材を出そう」

「後、変更する場合が2つのパターンです。①複数の敵のかいくぐる場合その限りではなく。全員で遺跡の中を出たり入ったりする。②ランダで遺跡の何処に、しかも全員がバラバラで放り込まれた場合。この場合その場で中止です。これは運の要素が多すぎる。③一度も帰って来なかった場合、出来るだけ僕らを待ってから帰宅してください。そして忘れた方がいいでしょう。悔しいですが……。でも、船は置いていって下さい。念のため」

 そして最後に僕は、ルナを見て言う。

「今回の作戦にはルナは連れていけない。彼女は冒険者の希望であってここで、いたずらに消費すべきではない。幸いうちのパーティーは、回復が多いしね」

 そう言うとルナが、少し怒っているのがわかった。

 ヒーラーは、仲間を死なせないために一緒にいる。だから何もさせて貰えず、その覚悟を軽んじる選択をしたから当たり前だった。

「わかりました」
 しかし非常事態である事から、彼女はそれを受け入れた。

「しかし問題は、もう1つ空気がない時や毒が蔓延してる場合だ。空気を必要としないウンディーネがいるのだから、彼女は助かる事は出来るだろうが、その後でなんらかの道具を塔で作って貰わないとダメな気はします」

「では、ここで多数決、危ない作戦なので、みんなの士気を知りたい。行く人?」

 ――全員いくのか。

「じゃ……決行しょうか。 あ……シーフ系の他に、ヒーラーも参加して欲しい。後、シーフは、距離によっては交代してください」

「シーフのライヤ」「神父のサクネ宜しく」

「ハヤトです。改めてよろしく」

 皆が挨拶を交わした後、ルナから離れてスフィンクスがやって来た。ルナを手を伸ばし、スフィンクスを止めようとしたが、結局その手を胸元に持っていき……。

「スフィンクス、いってらっしゃい」と、言った。

「行って来る。マスターの代わりに、パパを助けて来るね」

「では、いきますか!」

 僕らは、テレポートの先に飛び込む。
 視界は、少し歪むがエレベータのように酔う事もなくあっさりついた。

 戦闘は、今までと変わらないはず、落ち着かないと。

 進む先、進む先に、魔物の死体が、何匹も転がっている。それ以外順調だ。階段を上がるごとに、シーフのライヤがめちゃめちゃ忙しいそうに走っていく。

「ライヤさん、そろそろ他の方に変わってみてはどうですか?」

「まだいける、大丈夫だ!」

 しかし見かねた、サクネが彼の体を回復する。

 ――良かった……犠牲者1人目が、無理なジョギングじゃ……洒落にならない。

 そして次のエリア、サルメスがいた! しかもでっかい魚も居る!? それをご確認したのちライヤさんは帰還した。

 空間は、床、壁は、全体的に、黒く、黒御影石のように見える。

 とても広く神殿前の入り口に、魚は陣取っている。

 魚の大きさは、だいたい普通のスーパー、1つ分の大きさだ。

「お魚嫌い!? 食べたくない」スフィンクスは逃げた。

 ――まぁ、スフィンクスの武器は牙だし、生臭の嫌かもね?

 サルメスは、建物の装飾の様な台の後に隠れ、大きな魚をやり過ごして居るようだ。

 魚に炎の魔法をぶち当て怯んだ時に、サルメスの所まで僕は突っ込んだ。

「どうした? カナリアが鳴いたら帰れって言っただろう?」

 サルメスは、こんな時まで皮肉めいた笑顔で、そんな事を言うのだ。

「そんなのはすぐに、僕の管理下になったら変更されましたよ。今頃、シーフのライヤさんがあなたの無事を伝える為に走ってます。で、みんなは?」

「あの魚は、何十分かに1度腹の中の水を全て吐き出して、その水で俺たちを絡めとって、3人をあの腹の中に納めてしまった」

「それはキモい、だが仲間を取り返すチャンスはそこしか無いですね……」

「ウンディーネ! ちょっと来て!!」

 ウンディーネは、普通歩いてやってきた。

 魚の水の砲撃は、ウンディーネが瞬時に作り出す、水の壁を越える事は出来いようだ。

「主様、どうしたの? 私、今回は攻撃されないけど、攻撃も出来ないよ?」

「あの魚がもうすぐ、体内の水を放出するからサルメスさんのパーティーメンバー、後、3人探してなんとしても確保して」

「ウンディーネ、あいつの口の中の水に入るの? ウェ……」

「ウンディーネの防御をフル稼働したら、たぶん水に触れないで入れるでしょう? 後、それを皆に伝えて、絶対流されないで! って」

「わかった!」
 彼女やっぱり普通歩いて帰る。

 ピィ――――!
 指笛で、スフィンクスを呼ぶ。

「お魚は、食べれません。ヤダ!」

「スフィンクスもう少しで、魚が水をいっぱい吐き出すからちょっとぬいぬい乗せて、死体引き上げてよ? 出来る?」

「もう、お魚食べなくていいなら……」

「それはダメ頑張って!」

「お魚、嫌いなのにな……(チラ)」
 僕は首を振った。

 そろそろかな?
「エルメス、ツルで、体を固定しますよ?」
 って居ない!? ちょ! エルメス、魚の目の前居る?! ヒィ――! 助けて!?……ふぅ、仕方ない。

「シーフさんちょっと、流されない様に固定しますよ?」

「えっ?!」

 仕方ないので、エルメスチームのシーフを返事を待たずにツタでグルグル巻きにして建物の影にして吊り下げた。

 僕と2人して、ちょっとしたウツボカズラである。

 そう思っている間に、魚からの放水が始まったようだ……。

 目の前に、エルメスの仲間の遺体が流れて来たところを、ツタで捕まえる。

 ウツボカズラが、リアル過ぎる事になった。

 放水中は、水の砲撃が止まっている様で、順調にウンディーネもスフィンクスもその指名をまっとうし、作戦が成功したようだ。

「エルメス?!」
 ウツボカズラ1号のシーフさんがそう言ったのを見ると、エルメスが魚の上では葉巻を吸っている。防水加工されているのそれ? いや、油紙にくるんでたのか……?

 彼は、魚が水を吸い込むのを一等席で見ていた。

 そして何やら葉巻の火で、紐に火をつけた。そして鞄の中しまってチャックして投げ捨てた?

「すべての爆弾で、魚をふっとばす気か!?」

「は?」

「…………」

「みんな! 退避! 退避!! サルメスが爆弾を投げこんだ!?」

 そのわずか後、魚から地鳴りの様な音がして、慌てて魔法壁を貼った。

 ドガガガァ――――ンと言う音の後、ドッカン、ドッカンと音が何度も続く。

 やっと収まったと思いまわりを見回すと、うちのパーティもみな無事で、ホッとしたが、しでかしたサルメスが居ない。

「おぉ――い。すまん動けん」と天井の方から、声が聞こえたので、スフィンクス乗って行くと、頭が血濡れのサルメスが倒れいた。

「どっかの刺身が、当たった」

「何やっているんですか、あなたは……。ごめん、スフィンクス、神父のサクネさん乗せて来て」

「わかった」

「すまん葉巻吸わせてくれ」

「死ぬからだめです」

「はぁ……、お前は本当にやな奴だ」

「ありがとうございます」

 その後、ぶるぶる震えるサクネさんがすぐやって来て、治してもらったサルメスは葉巻を吸わずに、仲間の遺体をかついで帰る。

 僕も遺体を1人担いで帰る事になった。

 魂の無くなった遺体は、とても重く、しかしおもちゃのようにもろい。 

 嫌で、それでいて大切なものだった。

   つづく
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