魔王がやって来たので

もち雪

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女王のおさめる国にて

囚われた勇者パーティー

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 タッタッタッ、ガチャ!

 ミシェルが足音をたてて走って来て、僕の部屋の豪華な扉を開けた!

「凄いです! ここにずっと居たいです。この宮殿はとっても広くて、温水プールもあるのに、まだ3つ宮殿もあるなんて夢みたいです」

「うん、まぁしばらく出られないだろうけどね……。だから温水プールくらい入ってみてもいいかなぁ……。君はもう入ったの?」

「いえ、まだ僕の騎士のサルジュさんは入ってもいいって言いましたが、まだ水着もないので……、ですが今度街に行って買って来ます! ハヤトさんも必要ですか?」

「うん、お願い」

「わかりました! じゃあ探索の続きを行ってきます!」

「はい、またね。夕食で」

 そう言って彼は行ってしまった。しかし水着ってなんだろう。滝修行の時着るような奴? なんか西洋は一枚布に、穴を開けてそこ洋服が進化したって言ってた記憶もあるから、そんな感じか? もしや……魔王経由から海パンが輸入されているのか? 

 やって来てのお楽しみしよう。それにしても彼の騎士のサルジュさんは、成人を過ぎた位の年齢だった。サルジュさんも気の毒に……。

 僕も部屋の中の物は見尽くしたし、じゃあ僕も散歩でも行くか……。

 僕は煌びやかなダブルベッドが2つも置かれ、ベルサイユ宮殿のような室内から出て、豪華な扉を閉じた。そうするとウッリマリア、と言う長い名前の僕の騎士が僕の後に続き歩いて付いてくる。カッカッカッと彼女の足音は規則正しく響く。

 彼女は、僕らをここまで招き寄せた騎士だ。

 僕達は火山地帯を南下して海へと向かって広い草原を歩いていた。そこを丁寧で、言う事を聞かない騎士の彼女に捕まり、同行を求められてしまったのだ。

 彼女の所属する、強大なこの国にはいずれ来る予定だったのだが、大き過ぎる割には立ち寄れる村も少ないらしい。そのため冬越えするには南下した方が、厳しい寒さをしのげるため、一度この国を離れる予定だった。

 しかし徒歩で移動していた僕らの前に彼女たちは馬と共に現れ、同行を拒むのなら国境を封鎖するまで言われっては、彼女言うがまま馬車に乗るしかなかった。

 そして10日長い道乗りを経て、お尻がもうやばっ! って危機を何度も、回復魔法でやり過ごし、魔界近くの大国ムーンドルイの首都まで僕は来ていた。

 そして僕らはここで囚われの身となったのだ。

 しかしここは冒険者ギルドもあるらしいが、ここは騎士の国。騎士道精神から僕らの行動はある程度自由だ。けれど宮廷内で集まって暴れられても困るって事で、僕らパーティーは分断されていた。僕はミッシェルと同じ宮廷内で過ごしている。なんてこった。素敵な宮殿でデートも出来ないなんて……。

 それ以外はウッリマリアに、「暇だー!」と言えば、「そうか」しか言ってくれないが、「この料理なんて名前?」と言えば結構親切に教えてくれる。さすが騎士の国。

 そんな風に聞いて行った結果、今、国は女王が国王の亡き後、国王と前王妃の間に出来た息子。国王の忘れ形見の血のつながらない王子の後継人になり、その地位に就いている。

 王子が成人するまでの仮の王女だが、それまではその実力は仮ではなく本物。

 ここまでがルイスとぬいぬいの王女に関する考察だった。

 うん。僕のいろいろ聞いてみたけど、『お前になんの関係があるのだ』と言ってウッリマリアは答えてくれなかった。けれど、この国の郷土料理に随分詳しくなったので「フィーナ、お勧めはこの料理だよ。この料理の誕生したのは……」と言う感じに、新年を迎える頃は自由の身になってレストランで話せるだろう。たぶん。

 それでも……僕は諦めず頼み込み、「女王がお会いになるそうだ」と、彼女に言わせる事が出来た。
 僕らパーティー一同揃い、謁見した女王は、大変美しく、少女の様に笑い、時には妖艶で、チラリズムを完全に把握いた。素晴らしいとまで思った。

 あの服どこで売ってるのだろうか? フィーナにも着て貰いたいなぁと思い、彼女を見たらそっぽ向かれてしまう。

 そんな僕を見て、女王には「あなた、面白いですわね」と言って愉快そうに笑っていた。

 王女の言いたい事は、「わざわざ沈黙を続ける魔王を、起こす必要はないですわ。魔界へ行かないと言って、旅にウッリマリアを同行させるなら、いつでも貴方がたを開放致します」

 それが彼女の要求だった。

 そして僕らは、それを了承するまでの間、彼女の城で幽閉される身となってしまった。

 僕の騎士ウッリマリアは、善良で、正義の人で、清廉潔白、王族への忠義は厚く、そして頭が固い。

 彼女を仲間に入れるのは難しく、僕らが魔界に入る事をすれば彼女は迷いなく、僕に刃を向けるか、その身を持って無抵抗であるがまま強大な壁となるかだろう。

 彼女は秀でたものが多過ぎて、人しては劣る事を言うかもしれないが、やはり彼女の価値は普通の人とは違うのだ。

 だから彼女を殺す選択は、勇者として相応しい様に思えないし、僕、個人としてはそこから始まる新生活は嫌過ぎる。

 だから僕の思いつく今のところの選択は、彼女をまくか、女王より彼女が忠義を尽くす存在の王子を探し出すこと。それか王女に諦めてもらうかだ。それがだめそうな場合は魔界への入り口は2つ、2分の1の確率でウッリマリアは現れる。第二の彼女と言っていい、同じ様な存在が現れたなら、もう詰みしかない。

 だから今のところの選択は、1つしかなかった。

 幸運な事にミッシェルは、その性格故に侮られる事が多い。今回もそのおかげで、彼は僕にいろいろな事を教えてくれた。

 この城には全部で4つの建物があり、温泉プールがあり、娯楽でプールを作れるほど裕福で、街中で今の季節で普通は必要ない水着が買えるほど、人々の暮らしは豊かである。

 もしかしたら市内にも温泉プールがあるかもしれない。

 そしてミッシェルも騎士がつけられているのだ。皆、それぞれにつけられている可能性は高く、それだけ騎士をあてがえる兵士の余裕がある。まぁミッシェルの騎士は若そうだった、だから凄く騎士の人員に、余裕があるってわけでもなさそうだけど……。

「ハヤト様、ハヤト様!」

「はい? 何? ウッリマリア?」

「そこから先は、進入禁止です」

「へぇ……。何があるの?」

「秘密事項なのでお答え出来ません」

「僕の騎士なのに答えてくれないの?」

「貴公の命を守るためです」

「そうなんだ……怖いね」

 彼女は無言だった。沈黙は金か……。


「ところで君は今、僕の騎士様だから……僕がここから穏便に出られて、魔界へも行ける方法を考えてよ? それが僕とこの国の利になるようにね」

「………………」

 彼女は黙ったままだ。燃える様な赤い髪に、顔つきはまあ美しくはあるが、男性的ではある。体型も女性にしてはがっちりしていて、180近い僕と同じ位か、僕より高いかもしれない。

「そもそも魔界へ行く必要があるのでしょうか? それは明らかな侵略行為であり、争いしかうみません」

 ……あ……沈黙ではなく、長い間考えいてくれたのか。

「でも、僕には行く理由があり、そして敵情視察は大切な事ってウッリマリアも知っているでしょう? そして僕は魔界の人間にも友好的なのは、僕のパーティーを見て貰えばわかる。……でしょう?」

「ですが、それが女王のご意志です」

「そこに行きつかないでよ! 僕の騎士……。じゃ、代わりに僕の執事の居場所を教えて? たぶん、君の同僚が彼に付いている、だから知っているでしよう? 彼の場所を」

「ルイス卿は、貴方を先導する役割を持っているので、今はまだお会いしていただく事は出来ません。けれど貴方が魔界には出向かないと仰っていただければ、いつでも会える様になります」

「執事が側にいなければ、僕は日常生活も困るのに? 僕は男性に対しては大変人見知りだから、そんな事をされては困るよ!」

「女王のお決めになった事です。同じ理由で、魔法使い殿にも、そちらに居ていただいております」

「あんな子供にも同じ扱いをしているのですか?!」

「いえ、彼はとうに成人を過ぎていると伺っていますが? 旅の最中でも、貴方がたが彼を子供扱いしている様子はありませんでしたし……」

 ――何を言っても最後には、女王だし! ぬいぬいの事は当然だが、バレていたしやり難い。


「では、女性陣やスフィンクスは元気ですか?」

「はい、奥様たちは、皆様御元気です」

 僕は首がぎぃぎぃぎぃ――って、音を立てるくらいゆっくりと彼女を見た。

「はい?」

「えっ? やはり全ての女性が奥様ってことは間違いですか?」

「それが教え欲しいなら、僕をここから出してください」

「それは出来かねます」

「そう言うと思ってましたよ、僕の騎士。では、元気かだけでも教えてください。もちろんスフィンクスも」

「ルナ様は教会からの強い要請もあり、教会にて神獣スフィンクス様ともにそちらへ移られました。残りの皆さんはご一緒で元気でいらっしゃいます」

 僕らの事は、おおやけにしているのか? それとも教会の情報網が凄いのか、教会から皆へと認知されている感じか……。

 それは1つの朗報でもあったが、そこから他の国がどう動くか、伝え聞いたこの国の豊かさから見てわからない。

 あの女王が他国に、無理な喧嘩を挑む様にも思えない。なら他国から助けが来るにしても、それはすぐにではない。

 ならどうするかだ……、本当に難し過ぎてよくわからない。

 つづく
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