魔王がやって来たので

もち雪

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魔界の新たな闇

体に宿る

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 座敷牢の中の明かりはなく、外の座敷の蝋燭の明かりだけが僕に与えられた光だった。

 その光さえ消えてしまう事を考えると、僕はぞっとした。
 だから目の前のこの男にでも、長く居て貰いたい。

 そしてフィーナやルイスの事について、何か聞き出せるなら……。

「なんでそんな馬鹿げた事を、あの人のしたいままにさせておくんですか、哀れさをそのままにして」

「真相についての質問は、終わったみたいだな、じゃーな」

 そう言って彼は、頭の上で手を振りながら、振り返えりもせず行ってしまう。

「あー本当に馬鹿らしい」

 そういって顔を洗うようにごしごしするが、体調不良はとれない。お香のせいなのか?

 檻に向かって魔法を使おうとするが、全然駄目だ。頭がぼっとするのと、同時に魔力の流れが切断されている。手に彩りが起きない。

 手をとじたり、ひらいたりする。体力面でも今のところは大きな支障がないが、少々ながら障りを感じていた。

 これは呪術的何かなのか? 経験か乏しいだけに確信は持てないが、十中八九そうだろう。夢も、それに関係性があるように思えた。

 僕は座敷牢のど真ん中に座り込み、頭を抱えた。

 悪人もそれぞれの正統性を持っている。彼らの理想を打ち砕く事になっても僕のはその手を緩めては駄目だ。打ち砕け、打ち砕け。

 その時、僕しかいない座敷牢の中で見知った声がする。

「私が助けてやろうか? 異世界のくそったれよ」

 その男が立っているのは、座敷牢でも光の当たらない部分。簡易的なかわやの前で、とても悪臭漂う場所。

 シャーマン、呪術師、オリエラの父のアニス王を死の淵まで追いつめた彼は、彼の持ち物である短剣を、僕が破壊し打ち砕いたはず。

「貴方は……」

「貴方は? アハァハハハハハ、お前は本当にくそったれだ。我々は生死をわけて戦ったはずなのに、お前になら殺されてもいいと思うものが微塵もない」

 彼はこっちへやって来ている。

「だが、お前には呪術の素質もあるようだ。私の精神のかけらがあるお前か、アニスなら、くそったれながら我々の知識の器としてお前の方がまだましだ。お前には出来るか? お前の理想とする使い方が、私は『お前は厄災だ』『薄汚い呪術師だ』、と罵られているところがみたい……」

 そう言って彼は、彼の顔を覆う布の向こうから、座っている僕の目を覗き込んだ。

「えっ? 呪術の可能性がみたいのですか? もしかしたらあったかも知れない未来。呪術よって、敵とも手をたずさえた未来をですか?」

 こっちは可愛い彼女と、こんな時どうやってるのか不明だが、可愛い女の子に助けられる、ちゃっかり執事の挙動が、いろいろな意味で心配なので煽るだけあおって目の前をチカチカさせていた。

 ハッカの匂いに包まれて、吐き気までしてくる。

「ふふふ、では、見せて見るがいい」

 そう言うと彼は僕のまわりの空を蹴った。リーン、リーンと赤と白の紐が現れ破壊される。次々蹴られて破壊されていく中。

「子狐たちは!?」
 僕は男に食い入るように聞いた。

「子狐?」そう言った後、「あぁ……、こんな初歩的な呪術、跳ね返る力も弱いだろう。呪術はこうやるんだ!」

 彼は僕の心臓を掴む。幽霊は限度を知らないらしい。

 ヴゥゥ……。
 心臓に重い熱さが、来たがすぐに消えた。

「呪術の素質あってもすぐに使えるものではない、しかし1度だけ撃てる様にはしてやった。お前の能力も合わさり、酷い姿を相手はさらすはずだ」

「ありがとう。たぶん使わないけど、実際はわからない。君の望む未来を作るよう頑張るよ」

「そうだ。死屍累々死体の山を作っていけ」
 そうシャーマンは言い、そのまま消えていった。

「死ねばみんな仏様か……」
 僕に宿る、仏様は過激思考らしい。僕はふたたび目をつぶり夜に備える様にする。一撃であのお香を、うち壊すために。

       つづく
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