魔王がやって来たので

魔界の新たな闇

未来を掴みとるのは、その場で適切なリアクションを起こせた者だけなのか？

　幸子の後をついて、雑木林を抜けると、まわりは竹林へと姿を変えていった。

　サワサワと風に吹かれた笹の音、足元には白い枯れた多くの笹がつもっているが街近くであるためか、先ほどの雑木林よりは誰かが歩いているのか前方を遮る物は排除されているようだ。

「あの家よ、彼処にあの子たちがいるわ」

　そう言われ、幸子の指差す先には小屋が建ってはいる。しかし僕の胸ほどの高さ分だろうか？　一段下がった崖したに、その家は建っていた。

　その家を竹林が飲み込むように、群生している。

「ハヤト、隠密行動のための魔法をかけます。これから会話はバンドサインのみにしてください。会話は相手に伝わり難くなります」

「どうしてそんな魔法を……」

「会議が進まない事は、効率的解決を阻害します。なので……いつか緊急事態の際にかけるべく習得しておりました。お役に立てて何よりでございます」

　彼は出来る執事として、胸に手をあて誠実さをもって話す。

「いくら魔王でもよしのさんに、そこまですると校長先生のように君を諭すと思うよ」

「大丈夫です。口論は得意な方でございます」

「そっかー」僕はなんかもう諦めた。

　念のため家からある程度をおいて、魔法をかける。

　そうして家の横の開けられた、ほぼ隙間と言っていい窓の下で、彼らの話を僕らも聞く事になった。

　しばらく話を聞いていると、フィーナが声をあらげて僕の心配してくれる声が響く。

「それでハヤトを、どうしたのでしたのですか？！」

　ーー横で……盗み聞きしてます……。しかし彼女のいつになく、冷静さをかいた姿は、少々危険だ。

　そんな思いを感じとったのか、僕の肩を前衛転職して侍としても、才覚をあらわしてきたルイスが、クギギィって具合に掴む。

「彼は元気です。身柄は拘束させてもらってますがね。さっきも言いましたでしょう。彼はしばらくは貴方のために、殺しはしません。ですが、それ相応の見返りを求めます」

「その願いは残念ですが叶いません。私たちが打ち砕いてみせます」

　本当に部屋の中は一触即発状態で、聞いていてハラハラする。

　小さな小屋の中で語る老人は、年齢、体力、集中力どれをとっても人ならざる者として、今まで戦った相手とは劣っているように思う。

　普通の狐は、一般的な人間とそう変わらないようだが……。

　なら白煙の武器は老獪さだけなのか？　そこを出来るなら、見極めるべきたった。

「お祖父様、貴方の狙いはなんなのですか？」

　今度は、湊が白煙に問いかける。正直者あの老人を挑発してしまう、フィーナの様子見てて怖かったので助かった。

「湊、私の願いは白銀狐の血を残す事です。そのため当主様を殺し、貴方たちを夫婦する手筈を着実に整えていく予定でした。しかしそれも今や風前の灯火です。いえ、その火は消え去り私の手には何も残ってないと言っていいでしょう。本当におかしな事です。フィーナ様、私は貴方に里のためにお帰りいただくためには、あの魔王にさえ挑もうとしておりました。しかし今や曖昧だった湊の心さえも、貴女の連れてきた何処の馬の骨かわからない男が、動かしてしまうなんて許せるはずありません」

　僕らが聞き耳を立てている部屋の中では、僕に対する敵意が渦巻いているようだ。同じ仲間を圧制しておいてよく言う。

　こんな狐の里の未来に関わる話で、僕らが待っているのは湊の祖父への制裁だった。いや、僕としてはと言った方がいいだろう。

　それが見てとれればフィーナは、この里から自由になれる。

　いや、ここに残る事も可能なのだが……、当主候補が二人となれば、白煙の事を全面に出されれば、湊の立場がなくなってしまう。

　祖父への制裁は、彼にとって酷なことだ。向日葵ちゃんはなんて言うだろか？　彼らの未来に墨をつける事はしたくないが、それなくしては進めない現状だった。

　しかしそれから見て、僕が知る正義から導き出した答えで、実は意味がない。正義を決めるのは狐たち、そして一番それを考えて決める立場に近い二人はどうでるのか？

　……そしてルイスの手が、解かれ僕は壁に右手を添える。一瞬の隙を狙う必要があるが……。すまないが、僕はエゴイストだから僕の好きな人の安全が確保出来ないのなら、もうこれ以上の時間、君と里の未来まで考える余裕はない。


　つづく