魔王がやって来たので

もち雪

文字の大きさ
286 / 292
君の世界へ僕が来て

僕の中の桜

しおりを挟む
 走りさったウンディーネは、最高のパフォーマンスを見せ、僕のパーティーのメンバーばかりか、魔王たちまで連れてきた。

 空は快晴で、お出かけ日和ってやつだった。

「広めの座敷を予約した甲斐がありました」
 彼女は手を腰の辺りで広げ、単純に、見通しが当たった事が嬉しいようだ。

「いい店が取れたのか?」

 若くなってに、金色の瞳のお忍びの王子のような魔王の肩に肘を乗せる、用心棒のようなよしのさんがそう言った。

「それが丁度、キャンセルが出て『若草庵』の予約が取れたんです。旅館の番頭さんも、珍しい事だと驚いていました」

 そう言って彼女は、旅館サービスとして行っている、料理屋の予約代行の番頭さんから貰った、予約券をよしのさんに見せた。

「へー綺麗なもんだ」

 そういって彼は、それを日に透かしたりしている。

 僕はその姿を見て、少し固まっていた。

「その予約券は、季節折々の花をモチーフに描かれ、なんとこの桜の絵柄はこの里の観光スポットの、野桜の開花時期にしか発行されないす凄く貴重な……ハヤト?」

 僕はいきなり彼女の指を一本、一本絡めて彼女の手を握っていた。僕が仲間の前でそこまで積極的た事は、そうないから彼女も驚き固まっている。

「その桜をみたい、今すぐに」

「えぇ……あぁ……あっちです」
 
 彼女は、つないでいない方の片手を胸もとにやり僕の真意を探るように僕を見つめる。

僕は少し彼女を、警戒させてしまったかもしれない。

「みんな、ごめん用が出来た、ごめん埋め合わせは今度する!」
 
 そういい終わらない内に、彼女に目で合図をして、僕らはー走りだした。

「すみませーん、この埋め合わせは必ず」

           ★

 そう言って二人は走って行っちまった。

「どういう事だ?」

「行きましょう、相手を待たせると悪いですから」
 なんて事を若く化けた魔王は、いいやがる。

「ウンディーネ大丈夫だよ」

 そうオリエラと言う娘の声に、横を見るとハヤトの小判鮫目の精霊が、涙を流していた。

「……連れて行ってやろうか?」
 そう言っても、首を横に振るだけ。

 ううっ……えっぐ……ううっ……。

 精霊はみんなに手を引かれて、ただ涙するだけで、料理屋の座敷に上がっても、料理が来ても、泣き続け味などわからないだろに……。

 一生懸命普通に、振る舞う。

 見てるうちに、あいつはそれが必要なんだろと思った。小判鮫という認識は改めるべき事のようだ。

           ★

 僕は桜の花に、よって突き動かされ走っている。

 街を行き交う人々の間を、縫うように走る。僕の見知らぬ土地、知らなかった世界。

 そして里の賑わいを抜けると、堤防の上の方に桜が並んで、何本も植わっているのが見える。

 そこから僕は余計な事を言わない様に黙って歩く。彼女はそんな僕に黙って手を引かれついて来てくれる。

 まだ何も植わっていない畑と畑の間の細い道を抜けて、天然の緑の雑草の絨毯のひかれた堤防の枝の丸太で作られた階段を登って行く。

 うーんやはり緊張し、心臓は大きく音たてているようだ。

 登りきると桜並木は、土手の道を彩りながら連なっている。

 僕らが登って来た反対側には、同じくだいぶ下の方に畑がいくつもあり、その向こうに結構大きな川がキラキラと光っている。

「わぁ見ない間に、桜並木の本数もだいぶ増えてしいました。両親と毎年見に来ていたんですが、全然知らないとこみたいです」

 緊張に戸惑ったフィーナが、そんな話をした。そして振り向き僕に笑いかける。

「フィーナ、良かったらこれからずっと僕と桜を見ませんか? 来年も再来年もずっと死ぬまで、つまり……あぁ、俺と結婚してください」「はい」

「決断が早い……」

「決まっている事であると同時に、私はハヤト、貴方が好きなので……」

 そうして彼女は僕の首に手をまわしキスをする。頬に、口もとに……。

「決して逃がしませんよ」
 深いキスは、頭のどこか痺れるように……。終わりがないようで、甘い。

「それは知ってるし、君も俺……いいなれない、心がこもりにくいから、僕で、君も僕を知っているでしょう? 君には命を差し出すよ」

 彼女抱きしめて僕は言う。彼女の細い首筋や、とても良い香り。

「フィーナ、僕らは結婚する事に決まりましたが、ちょっと土手で座ろうか」

「あぁ……そうしましょうか」

 そして僕ら仲良く土手に座った。川の流れは淀みなく。

「早く、結婚したい……」
「そうですね」

 そうって彼女は赤い顔を、膝にうずめた。

 ーー勝った。と、まぁ、そう思ったが、僕の結納(魔王とのエキシビションマッチ)を思いだし、僕も顔をうずめた。

「えっ、貴方たちプロポーズ失敗したの?」

 妖艶な美女、ヴァンパイアのシルエットが空から登場した。

「「シルエットさん!?」」

「大成功ですが、シルエットさんは若草庵の料理はいいんですか?」

 僕は驚きと戸惑いで、そんな事を聞いてしまう。

「この私は蝙蝠の2~3匹分に過ぎないの、だから本物の私は美味しいすき焼きを食べているわよ。皆どれも美味しいわ」

「そうですか。こちらは大丈夫なんで、美味しく食べててください。……フィーナお待たせ、じゃ若草庵は今からでは無理だけれども、昼ご飯を食べに行こうか」

 そう言って僕らは桜並木を、後にしたのだった。

 つづく


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...