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第1章 再会
第8口 追憶。
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気が付くと、ブランは見知らぬ空間にいた。
状況が理解出来ず、周囲を見渡すと、そこには──
先程まで、戦っていたハズの男が座りながら佇んでいた。
すると、後方から足音が聞こえる。
ブランが驚き、振り返ると、ブランの母親がこちらに歩みを進めていた。
「お母さん……!?」
ブランが驚きながら声を出す。
──しかし、2人にはその声は届いて居ないようだった。
女性が男に向けて口を開く。
「はじめまして、私は──」
「いいよ、知ってるし 逆に君の事を知らない才花人なんて居ないでしょ」
女性の言葉を遮るように、男が話し出す。
「で、そんな大罪人がなんの用?」
男が敵意むき出しの瞳で睨みながら女性にそう問う。
それでも、女性は飄々とした様子で答える。
「ふふ、怖いわねぇ…… まぁいいわ、今日は話があって来たのよ」
「ふーん、で 話って?」
依然、敵意むき出しの様子で男は女性に問いかける。
「孤独に生き続けるなんて退屈でしょう? 私の仲間にならない?」
女性が飄々とした笑顔で答えると、男は少しの驚きを隠す様に問う。
「仲間……? 何を成す気?」
その問いに女性は依然、飄々とした様子で答える。
「ふふ、それはまだ言えないわあ」
女性の言葉に、男は怪訝そうに答える。
「巫山戯ているのか? 仲間になってなんの得が有るんだよ」
男の言葉を聞いて、女性はさっきよりも優しい笑顔で答える。
「私が提供出来るのは、生き場所くらいかしらね、でも今の孤独よりは楽しく生きれると思うわよ。」
「生き場所……?」
男が理解出来ないという様相で問うと、女性はさらに笑顔を深くし、話し出す。
「ええ、私たち才花人が、互いに寄り添いあって生きる、"組合"を作りたいの」
「それをやってなんの意味があんの?」
女性の言葉に、男が煩わしそうに答える。
女性はその言葉を聞いて少ししょんぼりしてるようだった。
「酷いわねぇ……まぁ、私たち才花人には寿命が無いでしょう? もう友を悼むのは懲り懲りなの、理由としてはそれくらいかしらね」
女性はそう言って暗い表情を覗かせている。
ブランはその様子を驚きながら眺めていた。
そのすぐ後、この空間は突如として眩い光に包まれた。
「なっ……!」
ブランが驚き声を漏らす。
ブランが2人の方を見ると、男が女性に何かを言おうとしていた。
その言葉がブランの耳に届く前に、ブランはあまりの眩しさに目を瞑る。
ようやく光が収まり、ブランが恐る恐る目を開ける。
──すると、ブランはまたしても見知らぬ場所にいた。
「……は?」
ブランは状況が理解出来ないようでそっと声を漏らす。
(もしかして……これは夢なのか? でも……あまりにも)
ブランがその様に考えていると後ろから騒がしい声が聞こえる。
振り返ると、そこにはブランの母親と先程の男、そして複数の才花人が仲良さそうに酒を飲み交わしていた。
「おぃおぃ、クロフ、お前酒飲めねぇのか? 」
酔っ払っている大柄の才花人は先程の男に向かい、そう言い、笑っていた。
するとクロフは煩わしそうに言う。
「悪かったな、弱いんだよ」
「がっはっは まぁいいさ、そんで食いもんは何が好きだ?」
「別になんでもいいよ……」
そんな会話をしていると横からやたらと筋肉質なオカマの才能人が話しかけてくる。
「あっらぁ……なんならわたしでもいいのよぅ」
そんな言葉を話しながらグイグイよってくるオカマを、クロフは振り払い、距離を置きつつ口を開く。
「キモイんだよッ!!! いーからあっち行ってろッ!」
怒鳴り散らすようにクロフが言うとオカマの才能人は少ししょんぼりした様子で答える。
「あらヤダっ もぅ い・け・ず」
そんなことを呟きながらクロフにグイグイよってくる。
「ぎゃあぁぁああ!」
クロフはそう叫びながらブランの母親を盾にするように後ろに隠れる。
その様子を見て、クロフ以外の才花人達は穏やかに笑っていた。
その様子に、クロフは不満げに「むー」と頬を膨らませていた。
「ふふ、楽しいわねぇ……」
ブランの母親はそう言って優しく笑う。 その後、ブランの居る方向を見て口を開く。
「──ねぇ、貴方もそう思うでしょ? 」
ブランがその言葉を聞いた後、驚いた様な表情をして声を漏らす。
「は……? 見えてるのか……?」
──だがその言葉に返事は帰ってこなかった。
クロフが、ブランの母親が放った言葉を理解出来ないのか、問いかける。
「ん?……そこに誰か居るのか?」
その問いにブランは少し寂しそうに答える。
「ふふ、少し……私の子が見てる気がしたから……」
「お前、子供が居たのか!?」
クロフが驚いたように問いただす。
──だが、ブランは少し遠い方向を見て、答える。
「いえ……ずっと遠い、未来の話よ」
その返事を聞いたクロフはポカーンとした様子で呆けている。
そして、考えても理解出来なかったのかブランの母親に問う。
「未来って? どういう事だ?」
「ふふ、いつか……分かる時が来るわ」
ブランが優しく微笑みながらそう言い終わると、またしても辺りが眩い光に包まれて行く。
「なっ……またか……」
ブランがそう言いながら光を遮るように顔を腕で覆い、目を瞑る。
再び、光が収まったようでブランが目を開ける。
──そこは先程までいた場所とはまた違う、少し大きめの部屋にソファーが置いてある簡素な部屋だった。
そこにはブランの母親がソファーに座っており、その周りにはクロフと先程までとは別の才花人達が仲睦まじく談笑をしていた。
そして── ブランの母親は腹の中に子供を身篭っている様子だった。
そのお腹を愛おしそうに撫でながらブランの母親が口を開く。
「ふふ、だいぶ大きくなってきたわ……」
その言葉を聞いて別の才花人が笑いながら答える。
「ところで、子供の名前はもぅ決めたのか?」
するとブランの母親はむふーとドヤ顔をして答える。
「えぇ、この子"は"ブラン、どぅ? 可愛いでしょぅ?」
ブランの母親が楽しそうにそんなことを言っている中、クロフが神妙な顔持ちで話し出す。
「悪ぃ、ちょっとこいつと2人で話があるから別の部屋に行ってくんねーか?」
クロフがそんなことを切り出すと、仲の良さそうな才花人が笑いながら口を開く。
「襲ったりすんなよ~」
「襲わねーよ! 逆に襲っても返り討ちに会うだけだろ」
そう言って怒ったように答えるクロフ。
それを聞いた他の才花人達は笑いながら部屋を後にするのだった。
部屋には、クロフとブランの母親が残った。
残されたクロフがブランの母親に向け、徐に口を開く。
「なぁ……改めて問うが、お前は何者なんだ? そして何を企んでるんだ?」
「あら、そっちこそ改まってどうしたの?」
男の言葉を聞いてブランの母親が不思議そうに答える。
その返答を聞いたクロフが少し残念そうに答える。
「お前との付き合いも長いだろ? そろそろ話してくれてもいいんじゃないか?
それとも、まだ信用出来ないか?」
その言葉を聞いてブランの母親は少し悩み込む様に10数秒程黙り込むと、徐に口を開く。
「信用はしてるわ……でも、言えない理由があるのよ」
目を逸らしながらブランの母親は呟く。
クロフはそれを聞いて少し残念そうな表情を見せ、暗い声で呟く。
「それは……また、未来の事か……?
それとも、"あの日"の事か……?」
「……それも、答えられないわ」
その言葉を聞いたクロフが声を荒らげながら言う。
「じゃあッ……あの日……何があったのかだけでも教えてくれよッ……」
それを聞いたブランの母親が真剣な表情で口を開く。
「ねぇ……貴方は……それを知って何をしたいの?」
「別に……今更どうもしねーよ……ただ……」
そう言ったクロフは荒々しく声を出す。
「お前はッ……お前は善人が過ぎるんだよ……なぁ、なんでお前はあの日、あんなことしたんだ!?」
「なんでッ……お前はあれだけ大勢殺したんだ…?」
そう言って顔を上げ、ブランの母親の方を見たクロフの頬には涙が伝っていた。
それを聞いたブランの母親は、俯いたまま、暗い表情を覗かせている。
「……」
彼女が何も発しないまま、数秒の時が流れる。
彼女の様子を見たクロフが暗い表情のまま、前を向き口を開く。
「昔、お前が訪ねてきた時、正直殺してやろうかと思ったよ……ここに入ったのもそれが理由だし」
「でも……お前と関わるうちに、俺ァお前をどうしたいのか、分からなくなったんだ……」
ブランの母親はその話を黙って聞いていた。
「なぁ……あの日、この世界で何が起きたんだ?
なんでッ……俺はまだ生きてんだ? あの日、確かに俺はお前に──」
「分かったわ……」
クロフの言葉を遮るように、ブランの母親の言葉が微かにクロフの耳に届く。
クロフが驚いた表情を浮かべているとブランの母親が悲しそうな声で呟く。
「でも、私が話すより、【過去】に見せてもらった方がいいと思うわ」
ブランの母親の言葉が理解出来なかったのか、クロフは疑問をぶつける。
「パサト……? それに見せてもらうってどういうことだ?」
「私の古い友人よ……大丈夫、焦らなくてもすぐに会えるわ」
「ただ……多分、見たくないものや辛く苦しいものもたくさん見ることになるわ……もし辛かったら、すぐ帰っておいで」
ブランの母親はそう言って悲しい表情を浮かべながらクロフの方を見ていた。
ブランはその様子をただ、黙って眺めていた。
いや、目の前の光景が、理解出来ていないと言った方が正しいか。
ブランが呆然としているとまたしても辺りが眩い光に包まれる。
「またか……」
ブランはそう呟きながら手で目を覆う。
途中、指と指の隙間から母親の姿が見えた。──が、そこに居るはずのクロフの姿が跡形もなく消えていた。
光が収まり、ブランが目を開ける。
──そこには、ブランの母親と赤子姿のブランが居た。そしてその2人の周りには大勢の才花人の姿があった。
そして、ブランの母親がブランを抱き抱えながら少し悲しそうにに声を出す。
「この子"達"には、どうか……どうか幸せに生きて欲しいわ……」
その言葉を聞いた、赤子のブランは笑顔で「あぅー」と声をだす。
その声を聞いたブランの母親は嬉しそうに口を開く。
「ふふ、本当に可愛いわぁ……」
そんな言葉を呟いていると、抱き抱えられた赤子のブランが周りに居る才花人の1人、クロフに向かって「うー」と言いながら手足をじたばたさせている。
ブランの母親がそれに気づいたようで嬉しそうに口を開く。
「ふふ クロフと遊びたいのかしら、」
そう言うと赤子のブランを床にそっと置く。
すると赤子のブランはハイハイでクロフの方へ向かう。
クロフのすぐ近くまで行くと、座っているクロフの足にしがみついて「うゅー」と満面の笑みを向ける。
クロフの中でとある赤子の姿と重なる。
すると ──突然、クロフが赤子を抱き抱え、大粒の涙を流す。
ブランの母親以外の、周りの才花人が呆気に取られているとクロフが声を上げる。
「うぅう……ロクトッ……ごめんッ……ごめんなぁ」
そう言いながら泣きじゃくるクロフを見て、ブランの母親は優しい笑顔を向ける。
周りの才花人達も、何かを察して俯くものや状況が理解出来ず、困惑の表情を浮かべるものなど様々である。
ブランはその光景を黙って見ていた。
──ただ、その頬には一滴の涙が垂れていた。
ただ、目の前に居る才花人達がどうしようもないほど暖かくて、久々に感じる母の愛に触れ、頬を伝う涙が一滴、また一滴と増えていく。
──だが、その時間が長く続くことはなかった。
ブランは今、強烈な眠気の様なものに襲われていた。
そのまま耐えきれず膝から崩れ落ちる。
「お母 さ……」
その言葉を言い終わる前にブランの意識は途絶える。
◇◇◇
ブランが目を覚ますと、そこは何処かの病室のベッドの上だった。
ブランの目から涙が多く流れていた。
ブランは流れる涙を拭わず、か細い声でそっと呟く。
「……お母さん」
状況が理解出来ず、周囲を見渡すと、そこには──
先程まで、戦っていたハズの男が座りながら佇んでいた。
すると、後方から足音が聞こえる。
ブランが驚き、振り返ると、ブランの母親がこちらに歩みを進めていた。
「お母さん……!?」
ブランが驚きながら声を出す。
──しかし、2人にはその声は届いて居ないようだった。
女性が男に向けて口を開く。
「はじめまして、私は──」
「いいよ、知ってるし 逆に君の事を知らない才花人なんて居ないでしょ」
女性の言葉を遮るように、男が話し出す。
「で、そんな大罪人がなんの用?」
男が敵意むき出しの瞳で睨みながら女性にそう問う。
それでも、女性は飄々とした様子で答える。
「ふふ、怖いわねぇ…… まぁいいわ、今日は話があって来たのよ」
「ふーん、で 話って?」
依然、敵意むき出しの様子で男は女性に問いかける。
「孤独に生き続けるなんて退屈でしょう? 私の仲間にならない?」
女性が飄々とした笑顔で答えると、男は少しの驚きを隠す様に問う。
「仲間……? 何を成す気?」
その問いに女性は依然、飄々とした様子で答える。
「ふふ、それはまだ言えないわあ」
女性の言葉に、男は怪訝そうに答える。
「巫山戯ているのか? 仲間になってなんの得が有るんだよ」
男の言葉を聞いて、女性はさっきよりも優しい笑顔で答える。
「私が提供出来るのは、生き場所くらいかしらね、でも今の孤独よりは楽しく生きれると思うわよ。」
「生き場所……?」
男が理解出来ないという様相で問うと、女性はさらに笑顔を深くし、話し出す。
「ええ、私たち才花人が、互いに寄り添いあって生きる、"組合"を作りたいの」
「それをやってなんの意味があんの?」
女性の言葉に、男が煩わしそうに答える。
女性はその言葉を聞いて少ししょんぼりしてるようだった。
「酷いわねぇ……まぁ、私たち才花人には寿命が無いでしょう? もう友を悼むのは懲り懲りなの、理由としてはそれくらいかしらね」
女性はそう言って暗い表情を覗かせている。
ブランはその様子を驚きながら眺めていた。
そのすぐ後、この空間は突如として眩い光に包まれた。
「なっ……!」
ブランが驚き声を漏らす。
ブランが2人の方を見ると、男が女性に何かを言おうとしていた。
その言葉がブランの耳に届く前に、ブランはあまりの眩しさに目を瞑る。
ようやく光が収まり、ブランが恐る恐る目を開ける。
──すると、ブランはまたしても見知らぬ場所にいた。
「……は?」
ブランは状況が理解出来ないようでそっと声を漏らす。
(もしかして……これは夢なのか? でも……あまりにも)
ブランがその様に考えていると後ろから騒がしい声が聞こえる。
振り返ると、そこにはブランの母親と先程の男、そして複数の才花人が仲良さそうに酒を飲み交わしていた。
「おぃおぃ、クロフ、お前酒飲めねぇのか? 」
酔っ払っている大柄の才花人は先程の男に向かい、そう言い、笑っていた。
するとクロフは煩わしそうに言う。
「悪かったな、弱いんだよ」
「がっはっは まぁいいさ、そんで食いもんは何が好きだ?」
「別になんでもいいよ……」
そんな会話をしていると横からやたらと筋肉質なオカマの才能人が話しかけてくる。
「あっらぁ……なんならわたしでもいいのよぅ」
そんな言葉を話しながらグイグイよってくるオカマを、クロフは振り払い、距離を置きつつ口を開く。
「キモイんだよッ!!! いーからあっち行ってろッ!」
怒鳴り散らすようにクロフが言うとオカマの才能人は少ししょんぼりした様子で答える。
「あらヤダっ もぅ い・け・ず」
そんなことを呟きながらクロフにグイグイよってくる。
「ぎゃあぁぁああ!」
クロフはそう叫びながらブランの母親を盾にするように後ろに隠れる。
その様子を見て、クロフ以外の才花人達は穏やかに笑っていた。
その様子に、クロフは不満げに「むー」と頬を膨らませていた。
「ふふ、楽しいわねぇ……」
ブランの母親はそう言って優しく笑う。 その後、ブランの居る方向を見て口を開く。
「──ねぇ、貴方もそう思うでしょ? 」
ブランがその言葉を聞いた後、驚いた様な表情をして声を漏らす。
「は……? 見えてるのか……?」
──だがその言葉に返事は帰ってこなかった。
クロフが、ブランの母親が放った言葉を理解出来ないのか、問いかける。
「ん?……そこに誰か居るのか?」
その問いにブランは少し寂しそうに答える。
「ふふ、少し……私の子が見てる気がしたから……」
「お前、子供が居たのか!?」
クロフが驚いたように問いただす。
──だが、ブランは少し遠い方向を見て、答える。
「いえ……ずっと遠い、未来の話よ」
その返事を聞いたクロフはポカーンとした様子で呆けている。
そして、考えても理解出来なかったのかブランの母親に問う。
「未来って? どういう事だ?」
「ふふ、いつか……分かる時が来るわ」
ブランが優しく微笑みながらそう言い終わると、またしても辺りが眩い光に包まれて行く。
「なっ……またか……」
ブランがそう言いながら光を遮るように顔を腕で覆い、目を瞑る。
再び、光が収まったようでブランが目を開ける。
──そこは先程までいた場所とはまた違う、少し大きめの部屋にソファーが置いてある簡素な部屋だった。
そこにはブランの母親がソファーに座っており、その周りにはクロフと先程までとは別の才花人達が仲睦まじく談笑をしていた。
そして── ブランの母親は腹の中に子供を身篭っている様子だった。
そのお腹を愛おしそうに撫でながらブランの母親が口を開く。
「ふふ、だいぶ大きくなってきたわ……」
その言葉を聞いて別の才花人が笑いながら答える。
「ところで、子供の名前はもぅ決めたのか?」
するとブランの母親はむふーとドヤ顔をして答える。
「えぇ、この子"は"ブラン、どぅ? 可愛いでしょぅ?」
ブランの母親が楽しそうにそんなことを言っている中、クロフが神妙な顔持ちで話し出す。
「悪ぃ、ちょっとこいつと2人で話があるから別の部屋に行ってくんねーか?」
クロフがそんなことを切り出すと、仲の良さそうな才花人が笑いながら口を開く。
「襲ったりすんなよ~」
「襲わねーよ! 逆に襲っても返り討ちに会うだけだろ」
そう言って怒ったように答えるクロフ。
それを聞いた他の才花人達は笑いながら部屋を後にするのだった。
部屋には、クロフとブランの母親が残った。
残されたクロフがブランの母親に向け、徐に口を開く。
「なぁ……改めて問うが、お前は何者なんだ? そして何を企んでるんだ?」
「あら、そっちこそ改まってどうしたの?」
男の言葉を聞いてブランの母親が不思議そうに答える。
その返答を聞いたクロフが少し残念そうに答える。
「お前との付き合いも長いだろ? そろそろ話してくれてもいいんじゃないか?
それとも、まだ信用出来ないか?」
その言葉を聞いてブランの母親は少し悩み込む様に10数秒程黙り込むと、徐に口を開く。
「信用はしてるわ……でも、言えない理由があるのよ」
目を逸らしながらブランの母親は呟く。
クロフはそれを聞いて少し残念そうな表情を見せ、暗い声で呟く。
「それは……また、未来の事か……?
それとも、"あの日"の事か……?」
「……それも、答えられないわ」
その言葉を聞いたクロフが声を荒らげながら言う。
「じゃあッ……あの日……何があったのかだけでも教えてくれよッ……」
それを聞いたブランの母親が真剣な表情で口を開く。
「ねぇ……貴方は……それを知って何をしたいの?」
「別に……今更どうもしねーよ……ただ……」
そう言ったクロフは荒々しく声を出す。
「お前はッ……お前は善人が過ぎるんだよ……なぁ、なんでお前はあの日、あんなことしたんだ!?」
「なんでッ……お前はあれだけ大勢殺したんだ…?」
そう言って顔を上げ、ブランの母親の方を見たクロフの頬には涙が伝っていた。
それを聞いたブランの母親は、俯いたまま、暗い表情を覗かせている。
「……」
彼女が何も発しないまま、数秒の時が流れる。
彼女の様子を見たクロフが暗い表情のまま、前を向き口を開く。
「昔、お前が訪ねてきた時、正直殺してやろうかと思ったよ……ここに入ったのもそれが理由だし」
「でも……お前と関わるうちに、俺ァお前をどうしたいのか、分からなくなったんだ……」
ブランの母親はその話を黙って聞いていた。
「なぁ……あの日、この世界で何が起きたんだ?
なんでッ……俺はまだ生きてんだ? あの日、確かに俺はお前に──」
「分かったわ……」
クロフの言葉を遮るように、ブランの母親の言葉が微かにクロフの耳に届く。
クロフが驚いた表情を浮かべているとブランの母親が悲しそうな声で呟く。
「でも、私が話すより、【過去】に見せてもらった方がいいと思うわ」
ブランの母親の言葉が理解出来なかったのか、クロフは疑問をぶつける。
「パサト……? それに見せてもらうってどういうことだ?」
「私の古い友人よ……大丈夫、焦らなくてもすぐに会えるわ」
「ただ……多分、見たくないものや辛く苦しいものもたくさん見ることになるわ……もし辛かったら、すぐ帰っておいで」
ブランの母親はそう言って悲しい表情を浮かべながらクロフの方を見ていた。
ブランはその様子をただ、黙って眺めていた。
いや、目の前の光景が、理解出来ていないと言った方が正しいか。
ブランが呆然としているとまたしても辺りが眩い光に包まれる。
「またか……」
ブランはそう呟きながら手で目を覆う。
途中、指と指の隙間から母親の姿が見えた。──が、そこに居るはずのクロフの姿が跡形もなく消えていた。
光が収まり、ブランが目を開ける。
──そこには、ブランの母親と赤子姿のブランが居た。そしてその2人の周りには大勢の才花人の姿があった。
そして、ブランの母親がブランを抱き抱えながら少し悲しそうにに声を出す。
「この子"達"には、どうか……どうか幸せに生きて欲しいわ……」
その言葉を聞いた、赤子のブランは笑顔で「あぅー」と声をだす。
その声を聞いたブランの母親は嬉しそうに口を開く。
「ふふ、本当に可愛いわぁ……」
そんな言葉を呟いていると、抱き抱えられた赤子のブランが周りに居る才花人の1人、クロフに向かって「うー」と言いながら手足をじたばたさせている。
ブランの母親がそれに気づいたようで嬉しそうに口を開く。
「ふふ クロフと遊びたいのかしら、」
そう言うと赤子のブランを床にそっと置く。
すると赤子のブランはハイハイでクロフの方へ向かう。
クロフのすぐ近くまで行くと、座っているクロフの足にしがみついて「うゅー」と満面の笑みを向ける。
クロフの中でとある赤子の姿と重なる。
すると ──突然、クロフが赤子を抱き抱え、大粒の涙を流す。
ブランの母親以外の、周りの才花人が呆気に取られているとクロフが声を上げる。
「うぅう……ロクトッ……ごめんッ……ごめんなぁ」
そう言いながら泣きじゃくるクロフを見て、ブランの母親は優しい笑顔を向ける。
周りの才花人達も、何かを察して俯くものや状況が理解出来ず、困惑の表情を浮かべるものなど様々である。
ブランはその光景を黙って見ていた。
──ただ、その頬には一滴の涙が垂れていた。
ただ、目の前に居る才花人達がどうしようもないほど暖かくて、久々に感じる母の愛に触れ、頬を伝う涙が一滴、また一滴と増えていく。
──だが、その時間が長く続くことはなかった。
ブランは今、強烈な眠気の様なものに襲われていた。
そのまま耐えきれず膝から崩れ落ちる。
「お母 さ……」
その言葉を言い終わる前にブランの意識は途絶える。
◇◇◇
ブランが目を覚ますと、そこは何処かの病室のベッドの上だった。
ブランの目から涙が多く流れていた。
ブランは流れる涙を拭わず、か細い声でそっと呟く。
「……お母さん」
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でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
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【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
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貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
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