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4章 天空の大陸物語
幕間 一本取られた男達
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ペーシア王国の西にある山に隠れて存在していた襲撃されて無人になったカラシルの研究所に4人の男の姿があった。
「これは聴きし勝る酷さですね……」
「すいやせんね、紙での報告でも良かったんですが、一応、目で見て貰ったうえで聞かれたくない話もしたかったんで御足労願いました」
赤毛の少年王がハンカチで口元を押さえて、辺りに散乱する実験体の死骸やホルマリン漬けされる標本を眉を寄せて見つめていた。
見て気持ちの良いモノではない事を知って呼んだ軽薄な笑みが目立つ金髪をオールバックにした男がペコペコと頭を下げるが少年王は「汚いモノから目を背ける王になるように育てられてません」と笑ってみせた。
それを見ていた剃髪の男は免疫がないのにこれだけものを一気に見させられて辛くない訳じゃないだろう、と思い、泣き事の1つも言わない少年王の心の強さの一端を垣間見る。
「まずはこれをご覧ください」
奥の部屋から出てきた死んだ魚のような目をしたエルフが少年王にレポートを手渡す。
受け取った少年王が読み進めていくと眉を寄せていき、最後には息をするのを忘れているのかと思えるほど凄まじい勢いで読み進めていった。
渡されたレポートを読み切り、一番、気になったページを開いて目の前のエルフに突き付ける。
「こ、これはっ!?」
「ええ、私も疑問でした。ギフトの力は親から子に引き継ぎません。それはクローンでもですが……これでツヴァイの強さの謎が理解出来ました」
「そう、ヤツの強さはギフトだけではなく……」
剃髪の男がそう言いかけた瞬間、弾けるように後方を見つめる。
遅れて金髪の男とエルフの男も同じ方向に目を向けるが少年王だけ戸惑ったようにアタフタしながらみんなが見つめる方向に見つめるが何も見えない。
「やっと出てきたか……前回はサボタージュしやがって……」
「ふんっ、俺にも色々とすべき事がある」
3人が見つめる先から長い黒髪を後ろで縛り、黒装束で顔を布で隠す大男が現れる。
用事があったように言う黒装束の大男は剃髪の男に「大嘘吐きが……」とボソッと言われるが聞こえないフリをし、鼻で笑われた。
少年王が黒装束の大男を見た瞬間、何かを言いそうになるが目を細められて黙らされる。
寸前のところで黙る事に成功した少年王は赤面しつつ、咳払いをして黒装束の大男の手を取ってギュッと強く握り、頭を垂れる。
「よ、よくぞ、ご無事で……月影殿」
「……報告はさせておいたはずだ。お前はもう一国の王。情けない姿を人目に晒すな」
肩を震わせる少年王は必死に感情をコントロールしようと月影の手を強く握るが上手くいかないようで食い縛る歯の隙間から嗚咽が漏れる。
そんな少年王の両肩に後ろから手を置き、正面にいる月影を弱った笑みを浮かべて告げる。
「そんな心にない事を言わないでやってくださいな。みんな、月影殿の事を信じている。でも、一目、確認して安心したいと常日頃、歯を食い縛って生きてきてらっしゃってます……ここには吹聴する人目などありません。今日、この方をお連れした一番の理由がこれなんですよ」
「……」
掴まれている手を引き寄せて月影が少年王を力強く抱き締める。
抱き締められたと同時に堰を切ったように声を殺さずに嬉し泣きをする少年王から背を向ける男達は静かに目を閉じた。
▼
それから、しばらく時間が経ち、少年王が落ち着きを取り戻したところで各自、向き合う。
まだ目が充血しているが晴れ晴れとした良い表情をした少年王が咳払いをした後、見渡す。
「大変、お見苦しいところをお見せしました」
「はて、何の話ですか? 俺達は考え事をしていたので何も見てませんが?」
惚ける金髪の男に便乗するようにエルフの男と剃髪の男は頷いてみせる。
それを見て、恥ずかしそうに苦笑いしてみせた少年王は深々と頭を下げて見せ、話を再開させた。
少年王は、先程のレポートを月影に突き付ける。
「これはどういう事なんですか?」
「お前はいつから知っていた?」
「……2年程前だ」
「つまり、『ホウライ』の正体がムゥであり、アリア達の父親であると知った辺りですかね?」
金髪の男の言葉に頷いてみせる月影に剃髪の男が先を促させる。
「ムゥの存在を知った時、その黒幕についても知った。その黒幕と戦っていたのが……」
「なるほど……これで貴方が力を封印した後、急激にスキルを会得していき、強くなった訳ですか……納得しました」
漸く、8年越しの謎が解けたとエルフの男が溜息と共に胸を撫で下ろす。
あの時は謎が解けたらつまらなくなったらどうしようと危惧していたエルフの男であったが余計に楽しくなってきたらしく死んだ魚のような目に僅かに活力が戻る。
ワクワクさせていたエルフの男が思い出したように剃髪の男と金髪の男に話しかける。
「そういえば、お二人ともに聞きたかったのですが、どうしてあんな中途半端な鍛え方をされたんですか? 本人達も触りしか教えられてないとさすがに気付いているでしょう?」
聞かれた金髪の男は隣にいる剃髪の男に、ズズイッと前にどうぞ、と言いたげな顔をして道を空ける。
剃髪の男は押し付けられたと言わんばかりに顔を顰めつつ、話を始めた。
「足りてないからだ」
「何がですか?」
押し付けられて説明する気がない剃髪の男を逃がさないとばかりにニコニコと笑って見つめるエルフの男に嘆息して諦めて説明する。
「強くなりたいという想いが、だ。何が何でも、それこそ命に代えても、という強い想いがあの2人、いや、3人にはなかった。そういう意味ではあのガキを鍛えるのを中途半端に止めて合流させてたのは何故だ? 少なくともあのガキには低いレベルではあるがあったはずだ」
月影に問う剃髪の男が「しばらく一緒に行動させる気なのだろう?」と付け加えられ、それに頷き答えてくる。
「アイツ、単体でいくら強くなろうとも意味がない。あの2人と心を通わせてからやっと勝負の舞台に乗る事が出来る」
「なるほどな、強さだけでいいならお前が苦労する事もないし、俺でも事足りるか」
剃髪の男の言葉に頷く月影に更に質問を剃髪の男は重ねてくる。
「それとな、アリアに教育を施したマサキとシズカとは何者だ? 遠くにいた俺ですら凄まじい力を放ち、降り立ったのを感知した」
思わず、飛び出して確認しに行こうかとしたと真面目な顔をして言う剃髪の男の言葉に耐えれずに金髪の男が噴き出す。
そちらに目を向けるとエルフの男と少年王も必死に笑うのを我慢する様子を見て戸惑いを見せる剃髪の男。
どうやら真面目に分かってないと理解した月影が口の端を上げる。
「お前って奴は変な所で鈍いヤツだな」
「どういう意味だ……喧嘩売ってるなら買うぞ?」
必死の様子を見せる剃髪の男を見て肩を震わせて耐える月影が背を向けてこの場から去ろうとする。
それを止めようとしてくる剃髪の男を逆に掌を向けて止める。
「心配するな。もう、あの2人がアリアと接触する事はないはずだ。そろそろ、俺は行く。行かないといけない場所があるからな」
「どこに行くって言うんだ」
若干拗ねるような声音で言う剃髪の男に月影は答える。
「『辺境の風』に会いに……テツとぶつける為にな」
「なるほど……次のステージに彼を引き上げる相手として上々ですね」
誰だ? と顔を見合わせる剃髪の男と少年王を余所に訳知り顔で頷くエルフの男と金髪の男は「手伝える事は?」と月影に問うが静かに首を横に振られる。
4人の顔を順々に見つめる月影は深々と頭を下げた。
「まだまだ成すべき事はある。俺の為に力を貸してくれ」
「お前だけの事ではない。これはみんな、俺達の為でもある」
「そうです。僕にとっても可愛い妹、弟の為です」
「私は楽しければ何でもいいですよ」
「まあ、俺はお仕事ですから? 後、メグちゃんの受け売りですけど、1人で悲しみを背負うというのは男の病気らしいですよ?」
金髪の男にそう言われた月影達は一瞬、目を丸くした後、楽しそうに笑い合う。
「またな!」
一笑いをし終えた月影達が顔を見合わせて頷き合うと各自、行くべき場所を目指して背を向けあって歩き出した。
「これは聴きし勝る酷さですね……」
「すいやせんね、紙での報告でも良かったんですが、一応、目で見て貰ったうえで聞かれたくない話もしたかったんで御足労願いました」
赤毛の少年王がハンカチで口元を押さえて、辺りに散乱する実験体の死骸やホルマリン漬けされる標本を眉を寄せて見つめていた。
見て気持ちの良いモノではない事を知って呼んだ軽薄な笑みが目立つ金髪をオールバックにした男がペコペコと頭を下げるが少年王は「汚いモノから目を背ける王になるように育てられてません」と笑ってみせた。
それを見ていた剃髪の男は免疫がないのにこれだけものを一気に見させられて辛くない訳じゃないだろう、と思い、泣き事の1つも言わない少年王の心の強さの一端を垣間見る。
「まずはこれをご覧ください」
奥の部屋から出てきた死んだ魚のような目をしたエルフが少年王にレポートを手渡す。
受け取った少年王が読み進めていくと眉を寄せていき、最後には息をするのを忘れているのかと思えるほど凄まじい勢いで読み進めていった。
渡されたレポートを読み切り、一番、気になったページを開いて目の前のエルフに突き付ける。
「こ、これはっ!?」
「ええ、私も疑問でした。ギフトの力は親から子に引き継ぎません。それはクローンでもですが……これでツヴァイの強さの謎が理解出来ました」
「そう、ヤツの強さはギフトだけではなく……」
剃髪の男がそう言いかけた瞬間、弾けるように後方を見つめる。
遅れて金髪の男とエルフの男も同じ方向に目を向けるが少年王だけ戸惑ったようにアタフタしながらみんなが見つめる方向に見つめるが何も見えない。
「やっと出てきたか……前回はサボタージュしやがって……」
「ふんっ、俺にも色々とすべき事がある」
3人が見つめる先から長い黒髪を後ろで縛り、黒装束で顔を布で隠す大男が現れる。
用事があったように言う黒装束の大男は剃髪の男に「大嘘吐きが……」とボソッと言われるが聞こえないフリをし、鼻で笑われた。
少年王が黒装束の大男を見た瞬間、何かを言いそうになるが目を細められて黙らされる。
寸前のところで黙る事に成功した少年王は赤面しつつ、咳払いをして黒装束の大男の手を取ってギュッと強く握り、頭を垂れる。
「よ、よくぞ、ご無事で……月影殿」
「……報告はさせておいたはずだ。お前はもう一国の王。情けない姿を人目に晒すな」
肩を震わせる少年王は必死に感情をコントロールしようと月影の手を強く握るが上手くいかないようで食い縛る歯の隙間から嗚咽が漏れる。
そんな少年王の両肩に後ろから手を置き、正面にいる月影を弱った笑みを浮かべて告げる。
「そんな心にない事を言わないでやってくださいな。みんな、月影殿の事を信じている。でも、一目、確認して安心したいと常日頃、歯を食い縛って生きてきてらっしゃってます……ここには吹聴する人目などありません。今日、この方をお連れした一番の理由がこれなんですよ」
「……」
掴まれている手を引き寄せて月影が少年王を力強く抱き締める。
抱き締められたと同時に堰を切ったように声を殺さずに嬉し泣きをする少年王から背を向ける男達は静かに目を閉じた。
▼
それから、しばらく時間が経ち、少年王が落ち着きを取り戻したところで各自、向き合う。
まだ目が充血しているが晴れ晴れとした良い表情をした少年王が咳払いをした後、見渡す。
「大変、お見苦しいところをお見せしました」
「はて、何の話ですか? 俺達は考え事をしていたので何も見てませんが?」
惚ける金髪の男に便乗するようにエルフの男と剃髪の男は頷いてみせる。
それを見て、恥ずかしそうに苦笑いしてみせた少年王は深々と頭を下げて見せ、話を再開させた。
少年王は、先程のレポートを月影に突き付ける。
「これはどういう事なんですか?」
「お前はいつから知っていた?」
「……2年程前だ」
「つまり、『ホウライ』の正体がムゥであり、アリア達の父親であると知った辺りですかね?」
金髪の男の言葉に頷いてみせる月影に剃髪の男が先を促させる。
「ムゥの存在を知った時、その黒幕についても知った。その黒幕と戦っていたのが……」
「なるほど……これで貴方が力を封印した後、急激にスキルを会得していき、強くなった訳ですか……納得しました」
漸く、8年越しの謎が解けたとエルフの男が溜息と共に胸を撫で下ろす。
あの時は謎が解けたらつまらなくなったらどうしようと危惧していたエルフの男であったが余計に楽しくなってきたらしく死んだ魚のような目に僅かに活力が戻る。
ワクワクさせていたエルフの男が思い出したように剃髪の男と金髪の男に話しかける。
「そういえば、お二人ともに聞きたかったのですが、どうしてあんな中途半端な鍛え方をされたんですか? 本人達も触りしか教えられてないとさすがに気付いているでしょう?」
聞かれた金髪の男は隣にいる剃髪の男に、ズズイッと前にどうぞ、と言いたげな顔をして道を空ける。
剃髪の男は押し付けられたと言わんばかりに顔を顰めつつ、話を始めた。
「足りてないからだ」
「何がですか?」
押し付けられて説明する気がない剃髪の男を逃がさないとばかりにニコニコと笑って見つめるエルフの男に嘆息して諦めて説明する。
「強くなりたいという想いが、だ。何が何でも、それこそ命に代えても、という強い想いがあの2人、いや、3人にはなかった。そういう意味ではあのガキを鍛えるのを中途半端に止めて合流させてたのは何故だ? 少なくともあのガキには低いレベルではあるがあったはずだ」
月影に問う剃髪の男が「しばらく一緒に行動させる気なのだろう?」と付け加えられ、それに頷き答えてくる。
「アイツ、単体でいくら強くなろうとも意味がない。あの2人と心を通わせてからやっと勝負の舞台に乗る事が出来る」
「なるほどな、強さだけでいいならお前が苦労する事もないし、俺でも事足りるか」
剃髪の男の言葉に頷く月影に更に質問を剃髪の男は重ねてくる。
「それとな、アリアに教育を施したマサキとシズカとは何者だ? 遠くにいた俺ですら凄まじい力を放ち、降り立ったのを感知した」
思わず、飛び出して確認しに行こうかとしたと真面目な顔をして言う剃髪の男の言葉に耐えれずに金髪の男が噴き出す。
そちらに目を向けるとエルフの男と少年王も必死に笑うのを我慢する様子を見て戸惑いを見せる剃髪の男。
どうやら真面目に分かってないと理解した月影が口の端を上げる。
「お前って奴は変な所で鈍いヤツだな」
「どういう意味だ……喧嘩売ってるなら買うぞ?」
必死の様子を見せる剃髪の男を見て肩を震わせて耐える月影が背を向けてこの場から去ろうとする。
それを止めようとしてくる剃髪の男を逆に掌を向けて止める。
「心配するな。もう、あの2人がアリアと接触する事はないはずだ。そろそろ、俺は行く。行かないといけない場所があるからな」
「どこに行くって言うんだ」
若干拗ねるような声音で言う剃髪の男に月影は答える。
「『辺境の風』に会いに……テツとぶつける為にな」
「なるほど……次のステージに彼を引き上げる相手として上々ですね」
誰だ? と顔を見合わせる剃髪の男と少年王を余所に訳知り顔で頷くエルフの男と金髪の男は「手伝える事は?」と月影に問うが静かに首を横に振られる。
4人の顔を順々に見つめる月影は深々と頭を下げた。
「まだまだ成すべき事はある。俺の為に力を貸してくれ」
「お前だけの事ではない。これはみんな、俺達の為でもある」
「そうです。僕にとっても可愛い妹、弟の為です」
「私は楽しければ何でもいいですよ」
「まあ、俺はお仕事ですから? 後、メグちゃんの受け売りですけど、1人で悲しみを背負うというのは男の病気らしいですよ?」
金髪の男にそう言われた月影達は一瞬、目を丸くした後、楽しそうに笑い合う。
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