30 / 103
2章 土の物語
28話 今日のオヤツは飴。ママ味のミルクなのですぅ
しおりを挟む
村の入口を目指して駆け降りる双子のレイアは姉のアリアに問いかける。
「それはそうとしてさ、なんでさっきの兄ちゃんに触る前に無駄だって分かったんだ?」
「あのお兄さんを見つめても何もない空間を見てる時の感覚しかなかった」
進行方向から目を逸らさずに何でもないと言わんばかりに答えるアリアにレイアも漸く答えに行き着いて納得する。
アリアは、あの青年が現れた時点から相手の心の色を見ようとしていた。
だが、それが空振り、しかも、自分達の間を通るようにして村を見下ろし、解体作業に戻った。
2度も無防備に背中をアリア達に見せた青年の行動と見えない心の色の2つからアリアは目の前にいる青年が幻影などの類と判断したのだ。
そして、村の入口が見えてくるとアリアはレイアに言う。
「多分、大丈夫だとは思うけど、私が先頭を歩いて確認しながら進む。レイアは不用意な行動は慎んで」
アリアは『試練の洞窟』であった事や、レイアがやらかした出来事を適当に上げて声に出して呟く。
いちいち、細かい事を言うアリアに頬を膨らませるレイアは拗ね気味に言う。
「わ、分かってるって! さすがにこんな訳が分からない所で無茶はしないって!」
「お願いね? ダンテがいないから私ではフォロー出来るとは思えないから」
そう言われたレイアは短く声を上げると「ダンテいないんだった……」と頭を掻く姿を見てアリアは嘆息する。
いつもの癖でダンテがフォローしてくれるぐらいの軽さがどこかにあったようだ。
念の為に言っておいて良かったと思うアリアは村の入口の岩で身を隠すように進み、後ろを大人しくレイアが着いて来てるかを確認しながら前に進んだ。
▼
村に入ると丁度、お祭り、と言っても所詮、200人いるかどうかの村なので派手な感じではないが、食べ物を持ち寄って村人が村の中心に向かっている姿があった。
それを村に入った最初にあった家の壁から覗きこむようにして見渡していたアリアが呟く。
「視界に入る限りの人もあのお兄さんと同じで本物じゃない」
そう言うとアリアは軽くふらつき目を片手で覆う。
ふらついたアリアの両肩を後ろから掴むレイアは慌てた風に問いかける。
「大丈夫か、アリア?」
「ん、大丈夫。ここまで一気に心の色を見ようとしたの初めてで眩暈したみたい」
とはいえ、目に疲れを感じるアリアは多用は出来なさそうだとレイアに告げる。
大丈夫と言いたげなレイアがアリアに笑いかける。
「これだけの人数が本物じゃないのなら他もそうだろ? 本物がいたとして、どうやって偽者と触れ合える?」
「そう、ね。レイアの言葉にも一理ある。でも無駄に派手に動かずに行こう」
頷き合う双子の2人は、ソッと壁から離れて、村の中心に向かう人達に紛れるようにして歩く。
そして、しばらくすると少し拓けた場所を中心に村人が囲むようにして集まる場所に出る。
その場所を眺めるアリアが呟く。
「冒険者ギルドが開催した、テツ兄さんが参加した大会を思い出す」
「あん? ああ、確かに感じが似てるな。アレと比べるとだいぶ小さいけどな」
アリアの言葉を聞いて、思い出すレイアは場所の大きさもギャラリーの多さもだいぶ違うと苦笑いを浮かべる。
テツが出場した大会の大きさをリレートラックサイズだとしたら、こちらはバスケットコート1面分ぐらいの大きさであった。
その違いを更に探そうとしているのが辺りを見渡すレイアがある方向を指差す。
「あそこにいる小難しそうな顔したオッサンが座る横のベールで包まれた中に誰かいるぽいぞ?」
「ん、多分、あのおじさんは村長か何かだと思う。そのおじさんが上座を譲ってるベールに包まれる存在……少し気になる」
顔を見合わせるだけで同じ事を考えていると察し合う2人、さすが双子と言うべきか、早速と言わんばかりにゆっくりとそちらに向かい出す。
注意が拓けた場所から外れて進んだ直後、周りから大きな歓声が起きた2人はびっくりしてその場で身を硬くする。
おそるおそる辺りを見渡すが自分達に声を上げた訳じゃないとすぐに気付き、村人が目を向ける先を見つめるといつの間にか、拓けた場所にはアリア達とそう変わらない少年2人が対峙していた。
片方は背中、腰と持てるだけの刀剣を背負う前髪が長くて目元が隠れる少年と短髪で相手を嘲笑うように見つめる無手の少年であった。
そんな2人を見つめるアリア達の耳に向かおうとしてた先にいた偉そうな壮年の男、アリアの見立てで村長が「始めっ!」と手を上げる。
合図と共に刀剣を沢山抱える少年が全ての刀剣を空中に放り投げると驚く事に空中で止まる。
フワフワと浮く刀剣を見つめるアリア達も息を呑む。
「何だアレ!?」
「ん、分からない。でも魔力で行ってる訳じゃないみたい」
それを見つめる先にいる短髪の少年が鼻を鳴らすと手元に薄らと光る剣が現れる。
「ちょ、アイツが持ってる剣、どこから出た?」
「私には手元に急に現れたように見えた」
混乱気味のアリアとレイアを置き去りにして、刀剣を宙に浮かす少年が下唇を噛み締めて悲壮感を滲ませるが気を吐くと同時に特攻する。
踊るように舞う刀剣を短髪の少年の死角から放つが見えない何かに弾かれるが慌てた様子も見せずに宙に浮く刀剣を一本取ると短髪の少年に斬りかかる。
短髪の少年と鍔迫り合いをする間も宙に浮く刀剣で攻撃を入れるが弾かれ続ける。
余裕がある短髪の少年を刀剣を宙に浮かす少年が回転を上げて防戦一方に追い詰める。
どんどん斬り込み速度が上がる刀剣を宙に浮かす少年の攻撃に本当に防ぐのがやっとの様子を見たレイアが口笛を鳴らす。
「あの短髪が死角の攻撃をどうやって弾いてるか分からないけどさ、アイツ、すげー腕してるな、勝負ついたな」
「私もそう思うけど、様子が変」
アリアにそう言われたレイアが眉を寄せて2人を良く見るとアリアの様子が変という意味を理解する。
「あれ? 追い詰められている方が余裕がある?」
「そう、普通に考えれば、攻めてる方が明らかに腕が上」
多彩な攻撃を放つ少年は近接を主とするレイア、ミュウ、ヒースと遜色がない程の腕があるように見える。
むしろ、対人戦であれば巧みなフェイントを織り交ぜる刀剣を宙に浮かす少年に3人は負けてしまうかもしれない。
アリアとレイアが見つめる先では新たな動きが始まる。
短髪の少年は掠める攻撃を貰いながらも鼻で笑い、目の前の刀剣を宙に浮かす少年に話しかける。
「相変わらず、剣の腕は里一番だな? でも、そんなのはこの里じゃ何の意味もないぜっ!?」
その言葉に刀剣を宙に浮かす少年の口許に恐怖が滲む。
短髪の少年が気合いの吐くと手元の剣が輝きを放ち、突然生まれる圧力が刀剣を宙に浮かす少年に向けて放たれる。
それに抗う事も出来ずに地面を転がる刀剣を宙に浮かしていた少年の辺りにコントロールを失った刀剣も転がる。
剣を肩で担ぐようにする短髪の少年が刀剣を操る少年の下に来ると村長らしき人に顔を向けて声を張り上げる。
「長、どうします? このまま終わってもいいんですけど?」
「ふん、想剣も使えんゴミなどいらん」
2人のやり取りを聞いていたアリアとレイアはあるキーワードに眉を寄せる。
「想剣ってなんだ?」
「良く分からないけど、多分、あの短髪が使ってる剣みたい」
あの剣が劣勢の状況を引っ繰り返し、それが出来ると分かってた短髪の少年には余裕があった事を知る。
悩むアリアとレイアを余所に話は進む。
「いらんって……こんなクズでも長のとこの跡取りでしょ?」
「使えんのなら居ても居なくても同じ、始末してしまえ」
自分の息子をゴミ呼ばわりしてた事もそうだが、あっさりと始末するように言う長、いや、刀剣を操る少年の父を目を見開いて見つめる。
周りにいる村人も長の言葉に賛同するように声を上げるのを見てレイアが声音を震わせて呟く。
「こいつ等、狂ってる!」
アリアも辺りを見る目が嫌悪感に染まり、下唇を噛み締める。
刀剣を操る少年は悲しそうだが、父である長がそう言うと分かってたらしく大きな感情の動きを見せない。
村人の声を声援のように感じてるのかオーバーリアクションする短髪の少年は両手を広げて大袈裟に肩を竦める。
「本当にいいんですか?」
「構わん、死の淵を感じて想剣に目覚めれば儲け物、やってしまえ」
短髪の少年が剣を振り被ろうとする動作に入り、無情な父親の言葉に打ちひしがれる刀剣を操る少年を見たレイアが声を上げようとしたが、それより先に声を上げる者がいた。
「待ちなさい!」
その声が響くと声を上げていた村人も剣を振り上げようとして少年も止まる。
先程までまったく表情を変えなかった長も少し動揺したような様子を見せる。
そんな長が見つめる先のベールが押し退けられるようにするとアリア達と変わらない年頃の1人の少女の姿が現れる。
長い黒髪をポニーテールにし、布を体に巻き付けるような巫女を連想させる姿の少女を見つめるアリアとレイアは固まり、口をだらしなく開く。
全員の注目を浴びる少女は、気にした様子も見せずに刀剣を操る少年に近寄り、進路上邪魔だった短髪の少年を押しやる。
刀剣を操る少年と目線を合わせるように屈む少女が土埃で汚れる顔を布で拭いながら「大丈夫?」と笑みを浮かべる。
そんな少女の背後で声音を震わせる長が声を荒立てる。
「お、お待ちください。いくら巫女様と言えど、里の成人の儀を邪魔するのは越権行為でございます。それにこれの意味は巫女様もご存じでしょう!?」
「ええ、良く存じてます。何代と渡って続けられてきた儀式。知らぬ訳がありません」
立ち上がった少女が振り返り、毅然と言い返すのを見た長は怯むようにするが更に言い募ろうとするのを遮るように少女が続ける。
「私が引き継いできてる力を使いこなす者を選定する儀式。ですが、私、そして先代、その前からこの方法は間違ってるのではないかと思い始めてます。何故なら、その力を十全に行使出来たのは最初の1人だけでそれ以降、現れておりません」
「そ、それは確かですが、これは習わしで……」
そう言葉にする長に被り振る少女は力強い言葉を吐く。
「目的と手段が逆転してる事にいい加減にお気付きなさい!」
少女の言葉でそよ風で揺れる木々の音が煩いと感じるほどの静けさが生まれる。
嘆息する少女が目力を強めて続ける。
「そして、私の代で、このやり方を終えようと思います。何故なら」
刀剣を操る少年に振り返る少女は先程までの強い視線から柔らかい笑みを浮かべる。
「私の心が訴えるのです。『この方だ』と」
指し示された刀剣を操る少年は目を見開いて驚く。
少女の笑みを見た瞬間、アリア達の呆けるのから復帰すると形振り構わず、少女の下へと駆け寄る。
その容貌を見つめた2人は信じられないとばかりに震え、口を開くが声が出ない。
刀剣を操る少年に手を差し出す少女を見上げる刀剣を操る少年が呆けるように質問する。
「どうして私なのですか、巫女様?」
「ビビッと来たからかな? 貴方がアタシのパートナーだって?」
声を潜ませる少女が悪戯っぽい表情で砕けた喋り方をするに目を白黒させる。
「今まで思ってた巫女様のイメージとだいぶ違いますね」
「地がこっちなんだ。だから貴方はアタシを刀剣の巫女って言わないでね?」
ニカっと人好きさせる笑みを浮かべる少女が差し出す手に本人も自覚がないように見える動きで手を伸ばす刀剣を操る少年。
その手を自分から動き掴まえる少女を見つめるアリアが震える声音で呟く。
「レイアに瓜二つ!?」
双子と言っても見た目で違いが出始めるアリアではなくレイアに瓜二つの少女は刀剣を操る少年の腕を引っ張って立ち上がらせる。
「アタシの名前はティア! 貴方のお名前は?」
「私の名前は……」
そのやり取りの最中にアリアとレイアが見る景色にモザイクが入るようにブレ出す。
我に返った2人が少女、ティアに駆け寄ろうとするが後ろから抗えない力に引き寄せられて引き離される。
必死に手を伸ばすアリアとレイアは腹の底から声を張り上げる。
「「お母さん!?」」
暗闇に引きずられるようにする2人は意識も闇に落ちた。
「それはそうとしてさ、なんでさっきの兄ちゃんに触る前に無駄だって分かったんだ?」
「あのお兄さんを見つめても何もない空間を見てる時の感覚しかなかった」
進行方向から目を逸らさずに何でもないと言わんばかりに答えるアリアにレイアも漸く答えに行き着いて納得する。
アリアは、あの青年が現れた時点から相手の心の色を見ようとしていた。
だが、それが空振り、しかも、自分達の間を通るようにして村を見下ろし、解体作業に戻った。
2度も無防備に背中をアリア達に見せた青年の行動と見えない心の色の2つからアリアは目の前にいる青年が幻影などの類と判断したのだ。
そして、村の入口が見えてくるとアリアはレイアに言う。
「多分、大丈夫だとは思うけど、私が先頭を歩いて確認しながら進む。レイアは不用意な行動は慎んで」
アリアは『試練の洞窟』であった事や、レイアがやらかした出来事を適当に上げて声に出して呟く。
いちいち、細かい事を言うアリアに頬を膨らませるレイアは拗ね気味に言う。
「わ、分かってるって! さすがにこんな訳が分からない所で無茶はしないって!」
「お願いね? ダンテがいないから私ではフォロー出来るとは思えないから」
そう言われたレイアは短く声を上げると「ダンテいないんだった……」と頭を掻く姿を見てアリアは嘆息する。
いつもの癖でダンテがフォローしてくれるぐらいの軽さがどこかにあったようだ。
念の為に言っておいて良かったと思うアリアは村の入口の岩で身を隠すように進み、後ろを大人しくレイアが着いて来てるかを確認しながら前に進んだ。
▼
村に入ると丁度、お祭り、と言っても所詮、200人いるかどうかの村なので派手な感じではないが、食べ物を持ち寄って村人が村の中心に向かっている姿があった。
それを村に入った最初にあった家の壁から覗きこむようにして見渡していたアリアが呟く。
「視界に入る限りの人もあのお兄さんと同じで本物じゃない」
そう言うとアリアは軽くふらつき目を片手で覆う。
ふらついたアリアの両肩を後ろから掴むレイアは慌てた風に問いかける。
「大丈夫か、アリア?」
「ん、大丈夫。ここまで一気に心の色を見ようとしたの初めてで眩暈したみたい」
とはいえ、目に疲れを感じるアリアは多用は出来なさそうだとレイアに告げる。
大丈夫と言いたげなレイアがアリアに笑いかける。
「これだけの人数が本物じゃないのなら他もそうだろ? 本物がいたとして、どうやって偽者と触れ合える?」
「そう、ね。レイアの言葉にも一理ある。でも無駄に派手に動かずに行こう」
頷き合う双子の2人は、ソッと壁から離れて、村の中心に向かう人達に紛れるようにして歩く。
そして、しばらくすると少し拓けた場所を中心に村人が囲むようにして集まる場所に出る。
その場所を眺めるアリアが呟く。
「冒険者ギルドが開催した、テツ兄さんが参加した大会を思い出す」
「あん? ああ、確かに感じが似てるな。アレと比べるとだいぶ小さいけどな」
アリアの言葉を聞いて、思い出すレイアは場所の大きさもギャラリーの多さもだいぶ違うと苦笑いを浮かべる。
テツが出場した大会の大きさをリレートラックサイズだとしたら、こちらはバスケットコート1面分ぐらいの大きさであった。
その違いを更に探そうとしているのが辺りを見渡すレイアがある方向を指差す。
「あそこにいる小難しそうな顔したオッサンが座る横のベールで包まれた中に誰かいるぽいぞ?」
「ん、多分、あのおじさんは村長か何かだと思う。そのおじさんが上座を譲ってるベールに包まれる存在……少し気になる」
顔を見合わせるだけで同じ事を考えていると察し合う2人、さすが双子と言うべきか、早速と言わんばかりにゆっくりとそちらに向かい出す。
注意が拓けた場所から外れて進んだ直後、周りから大きな歓声が起きた2人はびっくりしてその場で身を硬くする。
おそるおそる辺りを見渡すが自分達に声を上げた訳じゃないとすぐに気付き、村人が目を向ける先を見つめるといつの間にか、拓けた場所にはアリア達とそう変わらない少年2人が対峙していた。
片方は背中、腰と持てるだけの刀剣を背負う前髪が長くて目元が隠れる少年と短髪で相手を嘲笑うように見つめる無手の少年であった。
そんな2人を見つめるアリア達の耳に向かおうとしてた先にいた偉そうな壮年の男、アリアの見立てで村長が「始めっ!」と手を上げる。
合図と共に刀剣を沢山抱える少年が全ての刀剣を空中に放り投げると驚く事に空中で止まる。
フワフワと浮く刀剣を見つめるアリア達も息を呑む。
「何だアレ!?」
「ん、分からない。でも魔力で行ってる訳じゃないみたい」
それを見つめる先にいる短髪の少年が鼻を鳴らすと手元に薄らと光る剣が現れる。
「ちょ、アイツが持ってる剣、どこから出た?」
「私には手元に急に現れたように見えた」
混乱気味のアリアとレイアを置き去りにして、刀剣を宙に浮かす少年が下唇を噛み締めて悲壮感を滲ませるが気を吐くと同時に特攻する。
踊るように舞う刀剣を短髪の少年の死角から放つが見えない何かに弾かれるが慌てた様子も見せずに宙に浮く刀剣を一本取ると短髪の少年に斬りかかる。
短髪の少年と鍔迫り合いをする間も宙に浮く刀剣で攻撃を入れるが弾かれ続ける。
余裕がある短髪の少年を刀剣を宙に浮かす少年が回転を上げて防戦一方に追い詰める。
どんどん斬り込み速度が上がる刀剣を宙に浮かす少年の攻撃に本当に防ぐのがやっとの様子を見たレイアが口笛を鳴らす。
「あの短髪が死角の攻撃をどうやって弾いてるか分からないけどさ、アイツ、すげー腕してるな、勝負ついたな」
「私もそう思うけど、様子が変」
アリアにそう言われたレイアが眉を寄せて2人を良く見るとアリアの様子が変という意味を理解する。
「あれ? 追い詰められている方が余裕がある?」
「そう、普通に考えれば、攻めてる方が明らかに腕が上」
多彩な攻撃を放つ少年は近接を主とするレイア、ミュウ、ヒースと遜色がない程の腕があるように見える。
むしろ、対人戦であれば巧みなフェイントを織り交ぜる刀剣を宙に浮かす少年に3人は負けてしまうかもしれない。
アリアとレイアが見つめる先では新たな動きが始まる。
短髪の少年は掠める攻撃を貰いながらも鼻で笑い、目の前の刀剣を宙に浮かす少年に話しかける。
「相変わらず、剣の腕は里一番だな? でも、そんなのはこの里じゃ何の意味もないぜっ!?」
その言葉に刀剣を宙に浮かす少年の口許に恐怖が滲む。
短髪の少年が気合いの吐くと手元の剣が輝きを放ち、突然生まれる圧力が刀剣を宙に浮かす少年に向けて放たれる。
それに抗う事も出来ずに地面を転がる刀剣を宙に浮かしていた少年の辺りにコントロールを失った刀剣も転がる。
剣を肩で担ぐようにする短髪の少年が刀剣を操る少年の下に来ると村長らしき人に顔を向けて声を張り上げる。
「長、どうします? このまま終わってもいいんですけど?」
「ふん、想剣も使えんゴミなどいらん」
2人のやり取りを聞いていたアリアとレイアはあるキーワードに眉を寄せる。
「想剣ってなんだ?」
「良く分からないけど、多分、あの短髪が使ってる剣みたい」
あの剣が劣勢の状況を引っ繰り返し、それが出来ると分かってた短髪の少年には余裕があった事を知る。
悩むアリアとレイアを余所に話は進む。
「いらんって……こんなクズでも長のとこの跡取りでしょ?」
「使えんのなら居ても居なくても同じ、始末してしまえ」
自分の息子をゴミ呼ばわりしてた事もそうだが、あっさりと始末するように言う長、いや、刀剣を操る少年の父を目を見開いて見つめる。
周りにいる村人も長の言葉に賛同するように声を上げるのを見てレイアが声音を震わせて呟く。
「こいつ等、狂ってる!」
アリアも辺りを見る目が嫌悪感に染まり、下唇を噛み締める。
刀剣を操る少年は悲しそうだが、父である長がそう言うと分かってたらしく大きな感情の動きを見せない。
村人の声を声援のように感じてるのかオーバーリアクションする短髪の少年は両手を広げて大袈裟に肩を竦める。
「本当にいいんですか?」
「構わん、死の淵を感じて想剣に目覚めれば儲け物、やってしまえ」
短髪の少年が剣を振り被ろうとする動作に入り、無情な父親の言葉に打ちひしがれる刀剣を操る少年を見たレイアが声を上げようとしたが、それより先に声を上げる者がいた。
「待ちなさい!」
その声が響くと声を上げていた村人も剣を振り上げようとして少年も止まる。
先程までまったく表情を変えなかった長も少し動揺したような様子を見せる。
そんな長が見つめる先のベールが押し退けられるようにするとアリア達と変わらない年頃の1人の少女の姿が現れる。
長い黒髪をポニーテールにし、布を体に巻き付けるような巫女を連想させる姿の少女を見つめるアリアとレイアは固まり、口をだらしなく開く。
全員の注目を浴びる少女は、気にした様子も見せずに刀剣を操る少年に近寄り、進路上邪魔だった短髪の少年を押しやる。
刀剣を操る少年と目線を合わせるように屈む少女が土埃で汚れる顔を布で拭いながら「大丈夫?」と笑みを浮かべる。
そんな少女の背後で声音を震わせる長が声を荒立てる。
「お、お待ちください。いくら巫女様と言えど、里の成人の儀を邪魔するのは越権行為でございます。それにこれの意味は巫女様もご存じでしょう!?」
「ええ、良く存じてます。何代と渡って続けられてきた儀式。知らぬ訳がありません」
立ち上がった少女が振り返り、毅然と言い返すのを見た長は怯むようにするが更に言い募ろうとするのを遮るように少女が続ける。
「私が引き継いできてる力を使いこなす者を選定する儀式。ですが、私、そして先代、その前からこの方法は間違ってるのではないかと思い始めてます。何故なら、その力を十全に行使出来たのは最初の1人だけでそれ以降、現れておりません」
「そ、それは確かですが、これは習わしで……」
そう言葉にする長に被り振る少女は力強い言葉を吐く。
「目的と手段が逆転してる事にいい加減にお気付きなさい!」
少女の言葉でそよ風で揺れる木々の音が煩いと感じるほどの静けさが生まれる。
嘆息する少女が目力を強めて続ける。
「そして、私の代で、このやり方を終えようと思います。何故なら」
刀剣を操る少年に振り返る少女は先程までの強い視線から柔らかい笑みを浮かべる。
「私の心が訴えるのです。『この方だ』と」
指し示された刀剣を操る少年は目を見開いて驚く。
少女の笑みを見た瞬間、アリア達の呆けるのから復帰すると形振り構わず、少女の下へと駆け寄る。
その容貌を見つめた2人は信じられないとばかりに震え、口を開くが声が出ない。
刀剣を操る少年に手を差し出す少女を見上げる刀剣を操る少年が呆けるように質問する。
「どうして私なのですか、巫女様?」
「ビビッと来たからかな? 貴方がアタシのパートナーだって?」
声を潜ませる少女が悪戯っぽい表情で砕けた喋り方をするに目を白黒させる。
「今まで思ってた巫女様のイメージとだいぶ違いますね」
「地がこっちなんだ。だから貴方はアタシを刀剣の巫女って言わないでね?」
ニカっと人好きさせる笑みを浮かべる少女が差し出す手に本人も自覚がないように見える動きで手を伸ばす刀剣を操る少年。
その手を自分から動き掴まえる少女を見つめるアリアが震える声音で呟く。
「レイアに瓜二つ!?」
双子と言っても見た目で違いが出始めるアリアではなくレイアに瓜二つの少女は刀剣を操る少年の腕を引っ張って立ち上がらせる。
「アタシの名前はティア! 貴方のお名前は?」
「私の名前は……」
そのやり取りの最中にアリアとレイアが見る景色にモザイクが入るようにブレ出す。
我に返った2人が少女、ティアに駆け寄ろうとするが後ろから抗えない力に引き寄せられて引き離される。
必死に手を伸ばすアリアとレイアは腹の底から声を張り上げる。
「「お母さん!?」」
暗闇に引きずられるようにする2人は意識も闇に落ちた。
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる