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2章 土の物語
36話 覚悟を決める、男って本当に馬鹿なのですぅ……
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ヒースを庇うように立ち塞がるザバダックに駆け寄ろうとするがダンテが張った水壁に阻まれて近寄れない。
水壁に手を当てながら振り返るヒースがダンテに頼む。
「ダンテ、この水壁を解除して!」
「駄目だ……そんな事したらヒースも無事にすまない……」
辛そうにヒースから目を逸らすダンテが絞り出すようにそう言ってくる。
まだ何かを言おうとしたヒースにザバダックが大きな声で遮る。
「坊っちゃん! ワシの事はいい! ワシは初めからこうするつもりでやってきたんじゃ。早く避難するんじゃ!」
「爺っ!」
水壁に縋りつくヒースであったが、いつの間に近寄ったか分からないがミュウがヒースの襟首を掴まえて引きずってその場を離れる。
襟首を掴むミュウの手を両手に解こうとするヒースにミュウがボソっと告げる。
「ジジイ、ずっと死ぬ覚悟決めてた。きっと、お前に見届けさせる為だけに……それにジジイ、助けるのもう無理」
ミュウの手を解こうとしてたヒースが驚きで固まり、ホーラ達もどういう事かと驚きを隠せない。
「どういう事なの? ミュウ!」
「がぅ、どうもこうもない。ペーシア王国で会った時からジジイ、覚悟決めてるの分かった」
どうやらミュウは本能的にザバダックの気持ちに気付いていたようだが、ホーラは言われてみれば、と思わされる節があった。
『ホウライ』のまともな最後の目撃者であり、事の顛末を知ってるザバダックであったが、最初の事情説明以降、こちらが問わない限り、ほとんど口を開かなかった。
最後までの時間を我が子のように育てたヒースの傍でひっそりといる姿も良く見られ、今から思えば不思議な行動であった。
もっと『ホウライ』を探す事に協力的であっても良かったのに、死期を覚悟した者がする行動だったようだ、と考えれば辻褄が合う。
そして、ヒースの傍を離れなかった最大の理由は……
「ヒースの成長を間近で見つめて確認したかった、という事なの?」
「まあ、そんなところだろうさ」
気を失っているレイアの治療に近寄っていたアリアと一緒にやってきたスゥがホーラに問いかけ、それに返事したホーラの会話を聞いたヒースが引きずられながらザバダックに呼び掛ける。
『ホウライ』の魔力波を受け、全身の皮膚が裂けるようにして血が噴き出すが、ザバダックは痛みなど感じてないかのように笑みを浮かべる。
「坊っちゃん、ザガンを出た時と比べれば、お強くなられた……じゃが、まだまだ足りてない! 坊っちゃんが背負うモノはそんな程度では足らんのじゃ……しかし、ワシは絶望しておらん」
後ろを振り返るザバダックがホーラを始め、その場に居る者達を見つめる。
「坊っちゃんには仲間がいる。それも切磋琢磨できる仲間じゃ。強くなるんじゃ、身体だけじゃなく、心も!」
そう言うとザバダックは魔力波を放つ『ホウライ』に一歩近づいてみせる。
引きずられてホーラ達の下に連れてこられたヒースが傍に居たホーラとテツに縋りつくようにして頼み込む。
「お願いです、爺を爺を助けてください!」
「アンタは今までの会話を聞いてなかった? ミュウも言ったさ、もう助ける段階じゃないさ」
縋りつくヒースを蹴っ飛ばしながら眉を寄せるホーラに続き、テツが繋げる。
「良く見るんだ。もうザバダックさんは君の爺ではなく、1人の男として覚悟を決めている。今、助けに間に合うとしてどんな顔をして割り込めばいい?」
テツの言葉を確認するように振り返ったヒースの瞳に映るザバダックは見た事もないような顔、鬼気迫る迫力を感じさせる表情に沈黙させられる。
ヒースの肩に手を置くテツは、アリア達にも目を向けながら言う。
「ヒースだけでなく、みんなも良く見るんだ。覚悟という重さを……決断するという事の意味を」
そう言って目を向けるテツと同じようにアリア達もザバダックの背を見つめ始めた。
▼
摺り足をするようにして『ホウライ』に近寄るザバダックは話しかける。
「主人! おい、主人、いや、旦那様よ! 聞こえているか!」
ザバダックは今、亡きヒースの母親、シーナ以外の者がいる場では呼ばない呼び方『旦那様』と声を張り上げる。
ジリジリ近寄るザバダックに苛立った様子の『ホウライ』が魔力波を強めてくるが一瞬、停めただけで再び動き出すザバダックに舌打ちする。
「旦那様よぉ! いつまでそんな訳のわからないヤツにいい様にされてるんじゃ。ワシが付いて行こうとした男はそんなヤワじゃなかったはずじゃ、老いか? 肉体だけでなく心も老いたのか!」
ザバダックの呼び掛けに苦々しい表情を浮かべる『ホウライ』が苦しそうに顔を顰める。
「黙れ、このクソドワーフがっ! 前回もお前が抵抗したせいで回復に時間がかかっているのだぞ!」
「ワシの死んだフリは堂に入っておったじゃろ? 殺したと油断して斬られた背中は治ったのかのぉ?」
舌打ちする『ホウライ』の背にはやっと瘡蓋が取れて皮膚が赤くなってる傷痕が背中を腰まで横断するように作られていた。
『ホウライ』を鼻で笑うザバダックが再び、ノースランドに問いかける。
「旦那様、いつまで時間をかけるんじゃ! 息子である坊っちゃんの目の前で情けない姿をいつまで晒すんじゃ!」
「う、ウルサイ、いつまで消えた存在に……ウグッ……言いたい放題言ってくれるな、爺」
ぐらついた『ホウライ』の顔から険が取れ、苦しそうではあるが笑みを浮かべるノースランドの意識が浮上する。
ノースランドが主導権を取り返した事で魔力波が止むとザバダックは駆け寄り、無事なノースランドの腕を掴む。
同じように苦しげではあるが笑みを返すザバダックがノースランドに憎まれ口を叩く。
「言いたい放題させてくれるのでな、やっと起きたか?」
「相変わらず、俺には厳しいな、だが、そう長くアイツを抑えられん」
そう言ってくるノースランドに「分かっておるよ」と優しげな笑みを浮かべる。
ノースランドは背後にいるホーラ達、いや、ヒースを見つめて支配権を取り戻そうとする『ホウライ』と戦いながら叫ぶ。
「ヒース! もう俺を助けようと思うな! コイツが考えている事はお前達が思う以上にヤバい! コイツが考えている事は……くっ……」
「お父さん!」
ヒースの呼び掛けに答える余裕がないほど、『ホウライ』との支配権争いに苦しみ出すノースランドは自分の腕を掴むザバダックに苦しげに言う。
「爺、お、俺の体に大きな損害を……」
「遠慮はせんぞ? ワシは旦那様をここで仕留めるつもりできたんじゃからな?」
お互い、苦しげな笑みを浮かべ合うが、ノースランドの苦しみ方が酷くなると『ホウライ』が遂に支配権を取り戻す。
「さ、させんぞぉ!!」
そう叫ぶと『ホウライ』は再び、魔力波をザバダックにゼロ距離から放つが、腕を掴んだザバダックは、死相が浮かぶ凄絶な笑みを『ホウライ』に向ける。
「焦るんじゃない。慌てないでもワシは死ぬ……そう、お前と共にな?」
『ホウライ』に告げるザバダックが振り返り、ホーラに向かって口を開いてみせる。
見せられたホーラが驚愕の表情を浮かべるがすぐに立ち直ると指示を飛ばす。
「ダンテ、アリア、アタイ等の前面に魔力全開でシールドを張りな! スゥは気絶してるレイアを! 他の奴等は身を低くして体を守るさ!!」
事情は分からないがホーラに言われた事は咄嗟にやるという事を体に覚えさせられている子供達は慌てて指示通りに動く。
ホーラに見せたと同時に『ホウライ』も見て気付く。
「ば、爆弾か!」
「ワシ特製のとっておきじゃ。しっかり味わって貰おう!」
そう言うザバダックは最後にヒース、孫を見つめる爺さんのように目を細めて別れを告げる。
「坊っちゃん、達者でな?」
「爺、お爺ちゃん!!」
ヒースの言葉に本当に嬉しそうにするザバダックは迷いも見せずに口の中、歯に仕込んでいた爆弾のスイッチを噛み締める。
ザバダックを中心に激しい閃光が生まれ、ダンテとアリアの合作のシールドで凌げなかった衝撃がヒース達に襲いかかる。
爆音の中、ヒースが何かを叫び、泣くが誰もその言葉を拾う事は出来はしなかった。
水壁に手を当てながら振り返るヒースがダンテに頼む。
「ダンテ、この水壁を解除して!」
「駄目だ……そんな事したらヒースも無事にすまない……」
辛そうにヒースから目を逸らすダンテが絞り出すようにそう言ってくる。
まだ何かを言おうとしたヒースにザバダックが大きな声で遮る。
「坊っちゃん! ワシの事はいい! ワシは初めからこうするつもりでやってきたんじゃ。早く避難するんじゃ!」
「爺っ!」
水壁に縋りつくヒースであったが、いつの間に近寄ったか分からないがミュウがヒースの襟首を掴まえて引きずってその場を離れる。
襟首を掴むミュウの手を両手に解こうとするヒースにミュウがボソっと告げる。
「ジジイ、ずっと死ぬ覚悟決めてた。きっと、お前に見届けさせる為だけに……それにジジイ、助けるのもう無理」
ミュウの手を解こうとしてたヒースが驚きで固まり、ホーラ達もどういう事かと驚きを隠せない。
「どういう事なの? ミュウ!」
「がぅ、どうもこうもない。ペーシア王国で会った時からジジイ、覚悟決めてるの分かった」
どうやらミュウは本能的にザバダックの気持ちに気付いていたようだが、ホーラは言われてみれば、と思わされる節があった。
『ホウライ』のまともな最後の目撃者であり、事の顛末を知ってるザバダックであったが、最初の事情説明以降、こちらが問わない限り、ほとんど口を開かなかった。
最後までの時間を我が子のように育てたヒースの傍でひっそりといる姿も良く見られ、今から思えば不思議な行動であった。
もっと『ホウライ』を探す事に協力的であっても良かったのに、死期を覚悟した者がする行動だったようだ、と考えれば辻褄が合う。
そして、ヒースの傍を離れなかった最大の理由は……
「ヒースの成長を間近で見つめて確認したかった、という事なの?」
「まあ、そんなところだろうさ」
気を失っているレイアの治療に近寄っていたアリアと一緒にやってきたスゥがホーラに問いかけ、それに返事したホーラの会話を聞いたヒースが引きずられながらザバダックに呼び掛ける。
『ホウライ』の魔力波を受け、全身の皮膚が裂けるようにして血が噴き出すが、ザバダックは痛みなど感じてないかのように笑みを浮かべる。
「坊っちゃん、ザガンを出た時と比べれば、お強くなられた……じゃが、まだまだ足りてない! 坊っちゃんが背負うモノはそんな程度では足らんのじゃ……しかし、ワシは絶望しておらん」
後ろを振り返るザバダックがホーラを始め、その場に居る者達を見つめる。
「坊っちゃんには仲間がいる。それも切磋琢磨できる仲間じゃ。強くなるんじゃ、身体だけじゃなく、心も!」
そう言うとザバダックは魔力波を放つ『ホウライ』に一歩近づいてみせる。
引きずられてホーラ達の下に連れてこられたヒースが傍に居たホーラとテツに縋りつくようにして頼み込む。
「お願いです、爺を爺を助けてください!」
「アンタは今までの会話を聞いてなかった? ミュウも言ったさ、もう助ける段階じゃないさ」
縋りつくヒースを蹴っ飛ばしながら眉を寄せるホーラに続き、テツが繋げる。
「良く見るんだ。もうザバダックさんは君の爺ではなく、1人の男として覚悟を決めている。今、助けに間に合うとしてどんな顔をして割り込めばいい?」
テツの言葉を確認するように振り返ったヒースの瞳に映るザバダックは見た事もないような顔、鬼気迫る迫力を感じさせる表情に沈黙させられる。
ヒースの肩に手を置くテツは、アリア達にも目を向けながら言う。
「ヒースだけでなく、みんなも良く見るんだ。覚悟という重さを……決断するという事の意味を」
そう言って目を向けるテツと同じようにアリア達もザバダックの背を見つめ始めた。
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摺り足をするようにして『ホウライ』に近寄るザバダックは話しかける。
「主人! おい、主人、いや、旦那様よ! 聞こえているか!」
ザバダックは今、亡きヒースの母親、シーナ以外の者がいる場では呼ばない呼び方『旦那様』と声を張り上げる。
ジリジリ近寄るザバダックに苛立った様子の『ホウライ』が魔力波を強めてくるが一瞬、停めただけで再び動き出すザバダックに舌打ちする。
「旦那様よぉ! いつまでそんな訳のわからないヤツにいい様にされてるんじゃ。ワシが付いて行こうとした男はそんなヤワじゃなかったはずじゃ、老いか? 肉体だけでなく心も老いたのか!」
ザバダックの呼び掛けに苦々しい表情を浮かべる『ホウライ』が苦しそうに顔を顰める。
「黙れ、このクソドワーフがっ! 前回もお前が抵抗したせいで回復に時間がかかっているのだぞ!」
「ワシの死んだフリは堂に入っておったじゃろ? 殺したと油断して斬られた背中は治ったのかのぉ?」
舌打ちする『ホウライ』の背にはやっと瘡蓋が取れて皮膚が赤くなってる傷痕が背中を腰まで横断するように作られていた。
『ホウライ』を鼻で笑うザバダックが再び、ノースランドに問いかける。
「旦那様、いつまで時間をかけるんじゃ! 息子である坊っちゃんの目の前で情けない姿をいつまで晒すんじゃ!」
「う、ウルサイ、いつまで消えた存在に……ウグッ……言いたい放題言ってくれるな、爺」
ぐらついた『ホウライ』の顔から険が取れ、苦しそうではあるが笑みを浮かべるノースランドの意識が浮上する。
ノースランドが主導権を取り返した事で魔力波が止むとザバダックは駆け寄り、無事なノースランドの腕を掴む。
同じように苦しげではあるが笑みを返すザバダックがノースランドに憎まれ口を叩く。
「言いたい放題させてくれるのでな、やっと起きたか?」
「相変わらず、俺には厳しいな、だが、そう長くアイツを抑えられん」
そう言ってくるノースランドに「分かっておるよ」と優しげな笑みを浮かべる。
ノースランドは背後にいるホーラ達、いや、ヒースを見つめて支配権を取り戻そうとする『ホウライ』と戦いながら叫ぶ。
「ヒース! もう俺を助けようと思うな! コイツが考えている事はお前達が思う以上にヤバい! コイツが考えている事は……くっ……」
「お父さん!」
ヒースの呼び掛けに答える余裕がないほど、『ホウライ』との支配権争いに苦しみ出すノースランドは自分の腕を掴むザバダックに苦しげに言う。
「爺、お、俺の体に大きな損害を……」
「遠慮はせんぞ? ワシは旦那様をここで仕留めるつもりできたんじゃからな?」
お互い、苦しげな笑みを浮かべ合うが、ノースランドの苦しみ方が酷くなると『ホウライ』が遂に支配権を取り戻す。
「さ、させんぞぉ!!」
そう叫ぶと『ホウライ』は再び、魔力波をザバダックにゼロ距離から放つが、腕を掴んだザバダックは、死相が浮かぶ凄絶な笑みを『ホウライ』に向ける。
「焦るんじゃない。慌てないでもワシは死ぬ……そう、お前と共にな?」
『ホウライ』に告げるザバダックが振り返り、ホーラに向かって口を開いてみせる。
見せられたホーラが驚愕の表情を浮かべるがすぐに立ち直ると指示を飛ばす。
「ダンテ、アリア、アタイ等の前面に魔力全開でシールドを張りな! スゥは気絶してるレイアを! 他の奴等は身を低くして体を守るさ!!」
事情は分からないがホーラに言われた事は咄嗟にやるという事を体に覚えさせられている子供達は慌てて指示通りに動く。
ホーラに見せたと同時に『ホウライ』も見て気付く。
「ば、爆弾か!」
「ワシ特製のとっておきじゃ。しっかり味わって貰おう!」
そう言うザバダックは最後にヒース、孫を見つめる爺さんのように目を細めて別れを告げる。
「坊っちゃん、達者でな?」
「爺、お爺ちゃん!!」
ヒースの言葉に本当に嬉しそうにするザバダックは迷いも見せずに口の中、歯に仕込んでいた爆弾のスイッチを噛み締める。
ザバダックを中心に激しい閃光が生まれ、ダンテとアリアの合作のシールドで凌げなかった衝撃がヒース達に襲いかかる。
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