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3章 砂漠の国の救世主物語
50話 私達は忍び足をすると何故か笑ってしまうのですぅ
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王宮の前の広場で早いテンポで鳴らされる楽器に合わせて踊るホーラが突然止まる音に合わせてポーズを決めて止まる。
一瞬の静寂が生まれるその場を支配するホーラが硬直を解き、全てを包むような優しげな笑みを浮かべ、頭を垂れた瞬間、爆発的な喝采と拍手が巻き起こる。
それにホーラは少し照れを含ませる笑みで手を振って仮設で作った控えへと梓を伴って入っていく。
ホーラ達がお色直しする為に間繋ぎにテツが太鼓で微妙なスピードでアップダウンさせて叩き続ける。
控えに入った瞬間、いつもの不機嫌そうな表情を浮かべるホーラは腹立たしそうに梓に愚痴る。
「ちぃ、思ったより引き離すのが早められたから1曲で済むかと思ったら……デングラ……妹がまともだったら、お前の命運はそこで尽きるさ」
「さすがに命を取るのは……予定通りに進んではいますしね? でも、ウチもこの格好は本当に嫌で……テツ君に頼まれなかったら死んでもしてないですよ……」
死んでもしない、という梓の言葉を聞くホーラは片眉を上げながら、梓の格好を上から下へと見るが生地が薄くて露出してる場所は両腕とヘソの辺りだけといった姿に肩を竦める。
「大袈裟さ? アタイなんか上半身、裸とたいした差がないさ?」
「そう言う意味合いでも嫌だというのもあるんですが、ウチ等、神剣に宿る人格の姿には意味があるんですよ。その人格を投影した姿になり、元々、精神体のようなウチ等には姿を変える事はいくらでも出来るんですよ」
梓の話を聞いているホーラは何度かミチルダや巴に神剣について聞こうとしたが失敗した過去を思い出しながら頷き、梓を話しを促しながらも内心、あの2人は口が固いが梓なら聞き出せるかと打算を働かせ始める。
「その姿がウチ等のアイデンティティでもあるので、少しでも変える事は禁忌に無理矢理触れさせられるのに似た酷く苦痛なのですよ。今、ホーラがその格好が嫌だ、と思っている気持ちから先を想像すると少し分かると思いますよ?」
その言葉を聞きながら着替えを始めるホーラは顎を指で掴みながら梓に問いかける。
「『精霊の揺り籠』で会ったセシルが持ってた双剣の姿が変わってたとか言ってなかった?」
「双葉ですね、ええ、言ってましたねぇ。自分が誰か分かる程度に姿を変え、そして、我等の創造主であるミチルダが打った刀身に変化を加える、これをウチ等は『穢れ』と言いますよ」
変えようとして変わるのではなく、梓達、神剣に宿る心の在り様が変化を与える現象らしい。
だから、そのつもりがなくても意図的に姿を変える事に忌避感が生まれる、と梓は溜息を吐きながら衣装を僅かに変化させる。
梓にとって姿、服装を変えるのはイメージするだけで変えられるようだ。
それを見るホーラは便利なのか、不便なのか分からないと首を横に振りながら胸の薄布を取り、均整が取れた美しい上半身を露出させる。
すると、背後の控室の出入口の布の隙間からテツが顔を出してくる。
裸でも何でもない梓が恥ずかしそうに顔を赤くして胸を抱くようにして、ホーラは「なんだ、テツか」と気にした様子も見せずに胸を晒して振り返る。
その半裸を見せつけられたテツは呆れるように溜息を吐くとホーラに眉を寄せながら急かす。
「まだ着替えてなかったんですか? 客がしびれを切らし始めましたよ」
「煩いさ、分かってるさ」
出ていけ、とばかりに手を振るホーラに「頼みますよ?」と告げるとテツは表に戻る。
その2人のやり取りを黙って見ていた梓が今度はホーラに尋ねる。
「あのぉ、テツ君らしくない対応だったような? 普段のテツ君なら狼狽して照れそうなんですけど……」
この踊りのアイディアをホーラが思い付いたキッカケのダンサーのビキニのような衣装で踊る姿ですら照れた様子を見せていたテツからも梓はテツはそういう反応をする男であると思っていた。
しかし、女性である梓から見ても胸こそ豊かとは言えないが女性としての美しさは高いホーラの半裸を見たテツの反応に首を傾げていた。
それを聞いたホーラは次の衣装を取り出しながら何でもなさそうに言う。
「ああ、それはアタイとポプリがやたらと照れるテツが面白くて体を張ってからかってたらアタイ等限定で慣れやがったさ。ここでアタイ等が全裸でいたら逆にお小言を言いかねないさ」
テファの下着を干してるの視野に入れただけで顔を真っ赤にするチキン野郎のままなのに、とディスるホーラの言葉を聞く梓は握り拳を作る。
「ティファーニアでしたか……強敵ですねぇ……」
「アンタにしてもテファにしても、あの馬鹿のどこがいいのやら?」
見た目だけで騒いでるぐらいならホーラも「まあ、見た目は」と認めるが中身はかなり面倒な性格をしていると思っている。
そんなのに惚れるヤツの気が知れない、と口にするのは思い留まったが梓だろうが、ティファーニアにしろ、雄一に惚れたホーラにだけは言われたくないと言ったであろう。
まだ何かを口にしようとホーラの口を塞ぐようなタイミングで外から爆音が聞こえる。
凄まじい音の後、周りにいた奴等が騒ぎ出し、男達の悲鳴のような叫び声が聞こえる。
「おい、今の音、俺達が警備してた裏口の方からじゃないか!?」
「そ、そうみたいだ……俺達がここでサボってたのがばれたら!」
「ここで喋ってる場合じゃないぞ! すぐに現場に駆け付けて音の発生地点を探してたから持ち場にいなかった、と言い訳する為に!」
その声に一瞬静かになるが沢山の走り去る音が響き渡ると再び、テツが天幕の中に顔を出す。
「正面の警備の姿がありません」
「予定通りさ。アイツ等、やってくれたさ!」
2曲目を踊る必要無くなったと喜ぶホーラに頷いたテツは普段の格好に戻る為に控えの裏側に置いてる荷物の下に向かう。
急いでホーラも着替えるのを眺める梓もいつもの巫女服に変えると潜入を任せた時の簡単なやり取りを思い出すようにして話しかける。
「予定通り? あの子達に陽動をかけるように言ってましたかねぇ?」
「言ってないさ? アタイはあの馬鹿達が必ず、何かやらかすと踏んでただけさ」
酷い事をサラッと言い放つホーラを半眼で見つめる梓は呟く。
「信頼してるの? してないの? はぁ、知らない方がいいかもしれませんねぇ」
手早く着替えたホーラと梓は控室から飛び出し、テツと合流すると王宮入口へと向かった。
▼
王宮に忍び込んだアリア達は完全に気配を殺して歩いていた。
しかし、その姿を目に捕えた者達がいたら不審者と100%疑わない移動の仕方をしていた。
アリアやスゥが姿勢を低くしながら歩く姿は忍び足をしている分かる。
これでも頭が痛いところだが、レイアとミュウに至っては壁に背を付けながら横歩きする姿が不法侵入してます、と全力でアピールしていた。
頭が痛そうに手で額を押さえるダンテと何かを思い出すように頷くデングラ。
「みんな、そんな格好で歩いているのを見られたら言い訳のしようがないよ? 溶け込むように自然にね?」
そう言うダンテにアリア達は首を横に振る。
「これが正式な忍び込むスタイルなの」
「私達の学習に間違いない」
アリアとスゥの言葉に壁に張り付く2人も頷いてくる。
更に何かを言おうとするがアリアの口が真一文字になってるのを見て諦めるダンテ。
ああなったアリアを説得は容易でないと経験則で分かっていた為である。
それも見ていたデングラがダンテがかろうじて拾えるレベルの声音で呟く。
「ああ、懐かしい。リアナが帰ろうとするユウイチ様を引き止める事から逃げる時と同じだ」
「だから、4人が正しい事だと信じてるのね……」
言われてみれば、とダンテも雄一のその姿を何度も目撃していた。
それが理由であると説得の方法が分からないダンテは「見つかりませんように」と誰という訳ではないが祈った。
それからアリア達の間違っている潜入方法で進むが誰とも遭遇せずに進む。
すると、ダンテは再確認するようにデングラに話しかける。
「『あの方』という人物に心当たりは本当にないの?」
「また、その話か。生贄を使う事を推すぐらいだからオヤジ側の奴等だと思うが、国民の信を得れるほどとなると……やっぱり俺様にはさっぱり分からん」
ここに侵入するようにホーラにされた簡単な打ち合わせ時にもデングラはホーラ達に質問されていた。
信を得られるような奴がいたのなら王族の言葉の重みはそれほど下がる事はなかった、と肩を竦めるデングラの言い分は正しいとダンテも思う。
デングラが出国してから現れた人物であるなら知らなくてもしょうがないが、短い期間で国を掌握出来る『あの方』が危険だと考えるダンテは何かに気付いたように振り返る。
「あれ? ミュウは?」
振り返った先にいるアリア達もびっくりしたように見渡す様子からアリア達も気付いてなかった事を知る。
いない事に困ったとばかり頭を掻くレイアが呟く。
「さっきまでアタシの隣で『腹減った』って言ってたのにな……」
「腹減った?」
アリアの言葉に頷くレイアから来た道を振り返るスゥ。
「さっき台所があったの」
スゥの言葉に「あっ!」と声を上げる面子は顔見合わせると急いで来た道を戻り始める。
そして、台所を覗くと作ってる最中だったと思われる肉に齧り付くミュウの姿を発見する。
夢中で齧り付いていたミュウは近くにアリア達が近寄るまで気付かなかったようで気付くと同時に髪を逆立てる。
アリア達と分かると安堵すると咀嚼し始める。
「えええっ! そのまま食べるの再開するの!? 今、すべき事あるの分かってるよね?」
「がぅ、でもコイツが温かい内にお食べ、とミュウに言ってきた。仕方がない」
呆れるアリア達がミュウを引き剥がそうとするが抵抗するミュウの構図が出来た直後、勝手口から入ってきた若いメイドがアリア達を見つめて固まる。
アリア達も気が抜けた事もあるが油断して接近に気付かなかった。
「きゃあああぁぁ!!」
悲鳴を上げた若いメイドが勝手口から飛び出していくとたまたま、怪物と戦う為に準備に爆弾を運んでいた兵士とぶつかる。
倒れる音と兵士の悲鳴が聞こえる。
「落とした松明から導火線に火を点いた!! 逃げろっ!!」
その悲鳴に悲鳴で答えるように逃げる者達が逃げ切った頃、爆発が起き、勝手口が吹き飛ぶのを見守るアリア達。
辺りから人が近寄る足音と共に怒鳴り声が響く。
「今の音は何事だ! どこからだ!」
その声でアリア達はがん首突き付けて頷き合う。
「走るよ!」
アリア達は台所から飛び出し、デングラが指し示すようへとダッシュを開始する。
必死に走るなか、ミュウは持ち出した肉に噛みつきながら走るのに気付くとレイアが怒鳴る。
「勿体無いのは分かるけど、そんな時じゃないだろ!」
言外に捨てろ、というレイアの言葉にミュウは被り振る。
「ヤッ! もう何日も温かいご飯食べてない」
そう言われた瞬間、アリアとスゥとレイアがミュウが持つ肉から立ち昇る湯気と香ばしい匂いに生唾を飲み込む。
クロの移動中に火は使えないし、発見されるリスクを考えるホーラ達が地上に降りても火を使う事を許可しなかった。
アリア達は食べ盛りの成長期、ミュウが持つ肉がある意味、黄金に見えた。
「ミュウ、一口齧らせろ」
「大丈夫なの、ちょっとだけなの」
「安心して、ちょっと預かるだけ」
獣のような光を宿すアリア達から肉を我が子のように護るのに食べ続けるミュウ。
そのミュウの抱える肉に食らいつくアリア達。
なのに、器用に4人は先頭を走るダンテ達を追いかけるように着いてくる。
それを振り返り見つめるダンテとデングラ。
アリア達から視線を外して前を向くとダンテにデングラが話しかける。
「アリア達は逞しいな……だが、あれがまさに百年の恋も冷めるという事か」
「僕は見慣れたよ」
その背中の哀愁に男同士だから分かる悲しみを感じた気がしたデングラは走るダンテの肩を叩いて一言贈る。
「ドンマイ、ダンテ」
そうして、アリア達はデングラの案内に付いて地下の祭壇を目指して走り続けた。
一瞬の静寂が生まれるその場を支配するホーラが硬直を解き、全てを包むような優しげな笑みを浮かべ、頭を垂れた瞬間、爆発的な喝采と拍手が巻き起こる。
それにホーラは少し照れを含ませる笑みで手を振って仮設で作った控えへと梓を伴って入っていく。
ホーラ達がお色直しする為に間繋ぎにテツが太鼓で微妙なスピードでアップダウンさせて叩き続ける。
控えに入った瞬間、いつもの不機嫌そうな表情を浮かべるホーラは腹立たしそうに梓に愚痴る。
「ちぃ、思ったより引き離すのが早められたから1曲で済むかと思ったら……デングラ……妹がまともだったら、お前の命運はそこで尽きるさ」
「さすがに命を取るのは……予定通りに進んではいますしね? でも、ウチもこの格好は本当に嫌で……テツ君に頼まれなかったら死んでもしてないですよ……」
死んでもしない、という梓の言葉を聞くホーラは片眉を上げながら、梓の格好を上から下へと見るが生地が薄くて露出してる場所は両腕とヘソの辺りだけといった姿に肩を竦める。
「大袈裟さ? アタイなんか上半身、裸とたいした差がないさ?」
「そう言う意味合いでも嫌だというのもあるんですが、ウチ等、神剣に宿る人格の姿には意味があるんですよ。その人格を投影した姿になり、元々、精神体のようなウチ等には姿を変える事はいくらでも出来るんですよ」
梓の話を聞いているホーラは何度かミチルダや巴に神剣について聞こうとしたが失敗した過去を思い出しながら頷き、梓を話しを促しながらも内心、あの2人は口が固いが梓なら聞き出せるかと打算を働かせ始める。
「その姿がウチ等のアイデンティティでもあるので、少しでも変える事は禁忌に無理矢理触れさせられるのに似た酷く苦痛なのですよ。今、ホーラがその格好が嫌だ、と思っている気持ちから先を想像すると少し分かると思いますよ?」
その言葉を聞きながら着替えを始めるホーラは顎を指で掴みながら梓に問いかける。
「『精霊の揺り籠』で会ったセシルが持ってた双剣の姿が変わってたとか言ってなかった?」
「双葉ですね、ええ、言ってましたねぇ。自分が誰か分かる程度に姿を変え、そして、我等の創造主であるミチルダが打った刀身に変化を加える、これをウチ等は『穢れ』と言いますよ」
変えようとして変わるのではなく、梓達、神剣に宿る心の在り様が変化を与える現象らしい。
だから、そのつもりがなくても意図的に姿を変える事に忌避感が生まれる、と梓は溜息を吐きながら衣装を僅かに変化させる。
梓にとって姿、服装を変えるのはイメージするだけで変えられるようだ。
それを見るホーラは便利なのか、不便なのか分からないと首を横に振りながら胸の薄布を取り、均整が取れた美しい上半身を露出させる。
すると、背後の控室の出入口の布の隙間からテツが顔を出してくる。
裸でも何でもない梓が恥ずかしそうに顔を赤くして胸を抱くようにして、ホーラは「なんだ、テツか」と気にした様子も見せずに胸を晒して振り返る。
その半裸を見せつけられたテツは呆れるように溜息を吐くとホーラに眉を寄せながら急かす。
「まだ着替えてなかったんですか? 客がしびれを切らし始めましたよ」
「煩いさ、分かってるさ」
出ていけ、とばかりに手を振るホーラに「頼みますよ?」と告げるとテツは表に戻る。
その2人のやり取りを黙って見ていた梓が今度はホーラに尋ねる。
「あのぉ、テツ君らしくない対応だったような? 普段のテツ君なら狼狽して照れそうなんですけど……」
この踊りのアイディアをホーラが思い付いたキッカケのダンサーのビキニのような衣装で踊る姿ですら照れた様子を見せていたテツからも梓はテツはそういう反応をする男であると思っていた。
しかし、女性である梓から見ても胸こそ豊かとは言えないが女性としての美しさは高いホーラの半裸を見たテツの反応に首を傾げていた。
それを聞いたホーラは次の衣装を取り出しながら何でもなさそうに言う。
「ああ、それはアタイとポプリがやたらと照れるテツが面白くて体を張ってからかってたらアタイ等限定で慣れやがったさ。ここでアタイ等が全裸でいたら逆にお小言を言いかねないさ」
テファの下着を干してるの視野に入れただけで顔を真っ赤にするチキン野郎のままなのに、とディスるホーラの言葉を聞く梓は握り拳を作る。
「ティファーニアでしたか……強敵ですねぇ……」
「アンタにしてもテファにしても、あの馬鹿のどこがいいのやら?」
見た目だけで騒いでるぐらいならホーラも「まあ、見た目は」と認めるが中身はかなり面倒な性格をしていると思っている。
そんなのに惚れるヤツの気が知れない、と口にするのは思い留まったが梓だろうが、ティファーニアにしろ、雄一に惚れたホーラにだけは言われたくないと言ったであろう。
まだ何かを口にしようとホーラの口を塞ぐようなタイミングで外から爆音が聞こえる。
凄まじい音の後、周りにいた奴等が騒ぎ出し、男達の悲鳴のような叫び声が聞こえる。
「おい、今の音、俺達が警備してた裏口の方からじゃないか!?」
「そ、そうみたいだ……俺達がここでサボってたのがばれたら!」
「ここで喋ってる場合じゃないぞ! すぐに現場に駆け付けて音の発生地点を探してたから持ち場にいなかった、と言い訳する為に!」
その声に一瞬静かになるが沢山の走り去る音が響き渡ると再び、テツが天幕の中に顔を出す。
「正面の警備の姿がありません」
「予定通りさ。アイツ等、やってくれたさ!」
2曲目を踊る必要無くなったと喜ぶホーラに頷いたテツは普段の格好に戻る為に控えの裏側に置いてる荷物の下に向かう。
急いでホーラも着替えるのを眺める梓もいつもの巫女服に変えると潜入を任せた時の簡単なやり取りを思い出すようにして話しかける。
「予定通り? あの子達に陽動をかけるように言ってましたかねぇ?」
「言ってないさ? アタイはあの馬鹿達が必ず、何かやらかすと踏んでただけさ」
酷い事をサラッと言い放つホーラを半眼で見つめる梓は呟く。
「信頼してるの? してないの? はぁ、知らない方がいいかもしれませんねぇ」
手早く着替えたホーラと梓は控室から飛び出し、テツと合流すると王宮入口へと向かった。
▼
王宮に忍び込んだアリア達は完全に気配を殺して歩いていた。
しかし、その姿を目に捕えた者達がいたら不審者と100%疑わない移動の仕方をしていた。
アリアやスゥが姿勢を低くしながら歩く姿は忍び足をしている分かる。
これでも頭が痛いところだが、レイアとミュウに至っては壁に背を付けながら横歩きする姿が不法侵入してます、と全力でアピールしていた。
頭が痛そうに手で額を押さえるダンテと何かを思い出すように頷くデングラ。
「みんな、そんな格好で歩いているのを見られたら言い訳のしようがないよ? 溶け込むように自然にね?」
そう言うダンテにアリア達は首を横に振る。
「これが正式な忍び込むスタイルなの」
「私達の学習に間違いない」
アリアとスゥの言葉に壁に張り付く2人も頷いてくる。
更に何かを言おうとするがアリアの口が真一文字になってるのを見て諦めるダンテ。
ああなったアリアを説得は容易でないと経験則で分かっていた為である。
それも見ていたデングラがダンテがかろうじて拾えるレベルの声音で呟く。
「ああ、懐かしい。リアナが帰ろうとするユウイチ様を引き止める事から逃げる時と同じだ」
「だから、4人が正しい事だと信じてるのね……」
言われてみれば、とダンテも雄一のその姿を何度も目撃していた。
それが理由であると説得の方法が分からないダンテは「見つかりませんように」と誰という訳ではないが祈った。
それからアリア達の間違っている潜入方法で進むが誰とも遭遇せずに進む。
すると、ダンテは再確認するようにデングラに話しかける。
「『あの方』という人物に心当たりは本当にないの?」
「また、その話か。生贄を使う事を推すぐらいだからオヤジ側の奴等だと思うが、国民の信を得れるほどとなると……やっぱり俺様にはさっぱり分からん」
ここに侵入するようにホーラにされた簡単な打ち合わせ時にもデングラはホーラ達に質問されていた。
信を得られるような奴がいたのなら王族の言葉の重みはそれほど下がる事はなかった、と肩を竦めるデングラの言い分は正しいとダンテも思う。
デングラが出国してから現れた人物であるなら知らなくてもしょうがないが、短い期間で国を掌握出来る『あの方』が危険だと考えるダンテは何かに気付いたように振り返る。
「あれ? ミュウは?」
振り返った先にいるアリア達もびっくりしたように見渡す様子からアリア達も気付いてなかった事を知る。
いない事に困ったとばかり頭を掻くレイアが呟く。
「さっきまでアタシの隣で『腹減った』って言ってたのにな……」
「腹減った?」
アリアの言葉に頷くレイアから来た道を振り返るスゥ。
「さっき台所があったの」
スゥの言葉に「あっ!」と声を上げる面子は顔見合わせると急いで来た道を戻り始める。
そして、台所を覗くと作ってる最中だったと思われる肉に齧り付くミュウの姿を発見する。
夢中で齧り付いていたミュウは近くにアリア達が近寄るまで気付かなかったようで気付くと同時に髪を逆立てる。
アリア達と分かると安堵すると咀嚼し始める。
「えええっ! そのまま食べるの再開するの!? 今、すべき事あるの分かってるよね?」
「がぅ、でもコイツが温かい内にお食べ、とミュウに言ってきた。仕方がない」
呆れるアリア達がミュウを引き剥がそうとするが抵抗するミュウの構図が出来た直後、勝手口から入ってきた若いメイドがアリア達を見つめて固まる。
アリア達も気が抜けた事もあるが油断して接近に気付かなかった。
「きゃあああぁぁ!!」
悲鳴を上げた若いメイドが勝手口から飛び出していくとたまたま、怪物と戦う為に準備に爆弾を運んでいた兵士とぶつかる。
倒れる音と兵士の悲鳴が聞こえる。
「落とした松明から導火線に火を点いた!! 逃げろっ!!」
その悲鳴に悲鳴で答えるように逃げる者達が逃げ切った頃、爆発が起き、勝手口が吹き飛ぶのを見守るアリア達。
辺りから人が近寄る足音と共に怒鳴り声が響く。
「今の音は何事だ! どこからだ!」
その声でアリア達はがん首突き付けて頷き合う。
「走るよ!」
アリア達は台所から飛び出し、デングラが指し示すようへとダッシュを開始する。
必死に走るなか、ミュウは持ち出した肉に噛みつきながら走るのに気付くとレイアが怒鳴る。
「勿体無いのは分かるけど、そんな時じゃないだろ!」
言外に捨てろ、というレイアの言葉にミュウは被り振る。
「ヤッ! もう何日も温かいご飯食べてない」
そう言われた瞬間、アリアとスゥとレイアがミュウが持つ肉から立ち昇る湯気と香ばしい匂いに生唾を飲み込む。
クロの移動中に火は使えないし、発見されるリスクを考えるホーラ達が地上に降りても火を使う事を許可しなかった。
アリア達は食べ盛りの成長期、ミュウが持つ肉がある意味、黄金に見えた。
「ミュウ、一口齧らせろ」
「大丈夫なの、ちょっとだけなの」
「安心して、ちょっと預かるだけ」
獣のような光を宿すアリア達から肉を我が子のように護るのに食べ続けるミュウ。
そのミュウの抱える肉に食らいつくアリア達。
なのに、器用に4人は先頭を走るダンテ達を追いかけるように着いてくる。
それを振り返り見つめるダンテとデングラ。
アリア達から視線を外して前を向くとダンテにデングラが話しかける。
「アリア達は逞しいな……だが、あれがまさに百年の恋も冷めるという事か」
「僕は見慣れたよ」
その背中の哀愁に男同士だから分かる悲しみを感じた気がしたデングラは走るダンテの肩を叩いて一言贈る。
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楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
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小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
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若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
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