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4章 天空の大陸物語
69話 折られた心なのですぅ
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本を仕舞ったリアナを射抜くように見つめるアリアが感情を抑えながら質問する。
「手加減しないと言って、どうして本を仕舞う?」
「必要ないからです。これはダンテがいるから念の為に出しただけです。貴方達には素手で充分です」
余り感情が表に出ないアリアが苛立ちを見せる様子を見て「もっと枷が欲しいですか?」と言われてレイアとスゥが激昂する。
「ふざけんなっ!」
「ちょっと強いからって調子に乗り過ぎなの!」
リアナを挟むように特攻するレイアが腰溜めを効かせたボディブローを入れる体勢で飛び込み、反対側から盾で叩きつけるようにするスゥ。
全力で飛び込む2人を微笑しながら見つめるリアナに叩きこむ。
「がっ!」
「レイア!!」
レイアとスゥは挟み込むようにリアナに叩きこんだと思ったが気付けばスゥの盾は味方であるレイアを叩きつけていた。
スゥの盾に叩きつけられたレイアに駆け寄り、抱き抱えるとリアナを睨む。
「何をしたの!」
「避けただけですが? わざわざ当たってあげる義理はありませんよ?」
タイミングはバッチリだったと歯を食い縛るスゥに抱き抱えられたレイアが苦しそうな声音で伝える。
「いや、避けたのは本当。空中に舞う羽根を掴もうとして掌から逃げるように……」
盾で視界を塞いでいたスゥには見えなかったが生身で攻撃していたレイアにはしっかり見えていた。
ふわりと押し出されるように自然にその場からリアナは離れていた。
スゥは下手したら骨が折れているかもしれないレイアにポーションを使おうとポーチに手を伸ばす手をいつの間にか近寄っていたリアナに掴まれる。
「貴方は何度も同じ失敗をされますね? すぐ傍に相手がいるのに呑気に回復させて貰えると思っているのですか……ああ、いつもなら傍でテツ兄様が守ってくれたり、ダンテにそれをする状況を作って貰っていたのですね」
掴まれた手を振り払おうとするスゥを見下すリアナは引いて立ち上がらせると足払いをして地面に叩きつける。
受け身も取れずに倒されたスゥに「情けない。少し打たれ強いだけですか?」と言って、再び立ち上がらされ、今度は反対側に払われて叩きつけられる。
それを見ていたアリアが静観するホーラに叫ぶ。
「ホーラ姉さん、これ以上は酷い怪我を負う。終わりにするべき!」
「……はぁ? いつからアンタはアタイに指示できる立場になったさ? アタイが終了と言った時が終了さ。安心しな、死人が出ると思ったら止めてやるさ。必要ないだろうけどね」
「そうそう、ホーラの言う通り。2級ポーションなら用意してるから大丈夫だから」
ホーラが言った事で耳を疑ったアリアであったがその後のポプリの言葉を聞いた瞬間、2人は本気で背後にいるテツも迷いのようなものはあるが意志を変える気がない色を感じ取り絶望する。
アリアとホーラのやり取りをする最中でもスゥは何度も地面に叩きつけられていた。
逃げようにも気付けば立ち上がらされ、地に足が付いてた感覚もないまま地面に叩きつけられ続けるスゥは次第に痛みから体が動かなくなり始める。
悔しそうに見上げながら睨みつけるスゥを見たリアナが思い出したかのように頷く。
「貴方は打たれ強さだけはあるんでしたね? 盾だけで頑張るならもっと足払いをされたぐらいで倒れない工夫をしなさい」
告げるリアナはスゥの重さを感じてないように引っ張り、空中に投げ放つ。
「ユウイチ様が言っていました。貴方には光文字、そして付加魔法の素養があると全てを使って只の盾では出来ない事を成しなさい」
痛めつけられ過ぎて体が言う事が効かないスゥが落ちてくるのを見つめるリアナにミュウが疾走し、飛び蹴りを放つ。
それを見つめるリアナは失笑する。
「不意打ちは不意を打つから不意打ちなのですよ? 学習しない人ですね」
ミュウの飛び蹴りを避けるようにして落下するスゥに飛び付き、鳩尾に膝を立てて身動きを出来ないようにして地面に叩きつける。
「筋力も足らない。それを補う術を行使しない。だから、貴方は……もう聞こえてませんか」
リアナの足下には失神したスゥが横たわっていた。
トドメに鳩尾に全体重かけた膝蹴りを地面と挟むように叩きつけられたスゥはさすがに意識を刈り取られた。
「ミュウ、お前、許さない!!」
飛びかかるミュウに対峙するリアナがピクっと右肩を震わせるとミュウは緊急停止して自分から地面に背中から落ちて受け身を取る。
何が起こったか分からないミュウが慌てて立ち上がるが左膝をリアナが挙動不審に一瞬動かすと再び受け身を取るミュウ。
頭にある耳をシナッとさせるミュウがリアナを威嚇する。
「……ミュウに何をした」
「何も? 貴方が勝手に受け身を取ってるだけですよ」
恐れを見せるミュウに笑みを浮かべるリアナ。
気合い負けしたら終わると判断したミュウが再特攻をしかける。
特攻するミュウにリアナが右掌を翳すとヘッドスライディングするように前跳びをする。
「貴方は本能に頼り過ぎです。殺気が籠った意志をぶつけるとそれに反応して体が勝手に動いてしまう」
そう言うリアナが飛び込むミュウの後頭部を鷲掴みして地面に叩きつけようとする。
すると、光玉がリアナの眼前に飛び込み、それを避ける為にミュウの頭から手を離す。
地面に滑り込むミュウを横目に光玉が放たれた場所に目を向けるプレッシャーから荒い息を吐くアリアの姿があった。
「や、やらせない!」
必死に虚勢を張るアリアに目を細めるリアナがゆっくりと近づく。
再び、魔法を行使しようとするアリアが声を張り上げようとする。
「フラッ……ゲホゲホ」
フラッシュを唱えようとしたアリアに地面の土を蹴っ飛ばして逆に目潰しと土埃を吸わされて咳き込むアリア。
目を必死に擦って視界を取り戻したアリアの目の前からリアナの姿はなかった。
「あの程度で魔法の行使を止めてしまうのですか? ダンテならきっと発動までしたでしょうね?」
後ろからする声に振り返ろうとするアリアの腕に関節技をかけるリアナ。
絶妙な力配分でかけられる関節技をさすがのレイアよりも力自慢のアリアですら振り払えない。
足を払われて顔から地面に叩きつけられたアリアにリアナは言う。
「さあ、脱出してみなさい」
「こんなにしっかり極められたら外せない」
関節を極められていて顔も上げられないアリアの耳元にリアナは顔を近づける。
「出来ますよ。腕の骨を折る覚悟があれば……」
「――ッ!!」
顔色が一気に悪くなるアリアにリアナは嘆息する。
「貴方は無表情なんじゃない。臆病なのを隠す為に表情を出さないようにしている。無関心を装う貴方は無様です。よくユウイチ様の奥さんになると言えたものです、ねっ!」
あっさりと締め上げていた腕を押し込むと抵抗がなくなり前に廻る。
痛みにもがき苦しむアリアはすぐに動くと更に痛いと分かり、下唇を噛み締め、血と涙を流して怯えた目をリアナに向ける。
「大袈裟です。肩を外しただけで折ってません。貴方は回復魔法が使えるのでしょう?」
リアナに言われて思い出した様子のアリアが震える手を外された肩を痛みに耐えながら添える。
脂汗を流すアリアが魔法を行使しようとするが一瞬、掌が輝くがすぐに霧散する。
その様子に嘆息するリアナが近づく。
「貴方には徹底的に心を律する事が出来てません。同じ事を言うようですが……ダンテならきっと行使しましたよ?」
リアナに首を絞められて落とされる寸前まで水牢を発動させようとしていたダンテを思い出すと目の前のアリアが酷く無様に思えたリアナは外れた肩を踏み抜く。
声なき悲鳴を上げるアリアを助けようとレイアが足を震わせて立ち上がろうとするが先にミュウが飛び込む。
「痛いの我慢する。お前を許さない!」
リアナがフェイントをかけるが一瞬ビクッとさせるが突っ込むミュウに好意的な笑みを浮かべる。
「思いっきりは良いです。ですが、学習はしましょう」
再び、後頭部を掴むと今度こそ地面に叩きつけられて2度バウントして意識を刈り取られるミュウ。
そして、やっと立ち上がったレイアに目を向けるリアナ。
「お待たせしました。気付いてますか? 貴方が最後なのは意図したものです」
ゆっくりとレイアに向かって歩くリアナの瞳から感情が抜け落ちる。
その瞳に気圧されるレイアは固唾を飲んで一歩後ろに下がる。
「ユウイチ様が家族の事を話される時に一番良く出た名前、それは『レイア』でした。本当に嬉しそうに話されるユウイチ様を見て癒され、そして激しく嫉妬もしました」
普通に歩いているように見えるのに地面を踏み抜き、強く足跡を作るリアナは震える掌を握り締める。
震えるレイアの前に到着したリアナにジッと見つめられ、滝のように汗を流す。
「私もユウイチ様をお父様とお呼びしたかった……でもご迷惑になると思い、口を閉ざしました。そんなところを他人に見られたらユウイチ様を不必要な国のトラブルに巻き込むかもしれない」
きっと雄一なら「気にするな」と言って抱き締めただろうとリアナ自身も気付いていたが迷惑をかけたくなかった。
「呼べなくてもいい。少しだけでも一緒に居れて、教えられた事を出来た時に褒めるユウイチ様を見るだけでもいい……一番、娘として愛される『レイア』を自分に重ねて……一瞬だけでも満たされたらそれでいい」
レイアの前で激変するリアナの様子を見て呼吸を止める。
今までのリアナは表情を作っていたのだと理解し、そして恐怖した。
激しい怒り、そう烈火の如く。
胸倉を掴み、掲げたリアナは腕を交差して首を絞め、地面に叩きつけて馬乗りになる。
「私は愕然とした……『レイア』の事を詳しく聞くたびに耳がおかしくなったと何度疑ったか分からない……お前はユウイチ様に何をしたぁ!!」
激情を剥き出しにするリアナはレイアを怒鳴りつける。
ここまで激しい感情をぶつけられた事がないレイアは委縮する。
「ユウイチ様は『ヤンチャ』と言って笑っておられた……それを聞かされる私のハラワタが煮え繰り返した。その度に飲み込み耐えた。そして最後に来られた時に一緒に居られたレン様に聞かされた事で私は決めた」
交差させる腕を押し込み、咽るレイアから離れたリアナはレイアの左足首を掴む。
凄まじく効率的な魔力循環から肉体強化が発動するのをレイアは目を剥きだす。
「捨てた父親を守る為にユウイチ様を拒絶した!? あれほど愛して貰っていたのに捨てた父親を選んでユウイチ様を否定した!」
掴んだレイアの足を振り上げて持ち上げるとそのまま地面に向けて振り抜く。
「何様だぁ! お前の立場を羨望したのは私だけだと思っているのか! きっと、きっと沢山いる!」
「カハァ!」
地面が陥没する勢いで叩きつけられるレイアは喀血する。
レイアが反応する余裕も与えずに再び振り上げるリアナ。
「私は……私は……」
振り下ろすリアナの瞳から溢れる涙は叩きつける勢いと共に飛び散る。
先程よりも強く叩きつけられたレイアは危ない量の血を吐き出す。
更に振り下ろそうとするリアナの手首をホーラは掴む。
「そこまでさ。次の一撃でさすがにレイアは死ぬさ」
「……はい」
素直にレイアを降ろすリアナは足首からも手を離す。
周りを見渡すと気を失っていた者達も目を覚ましてこちらを見ている事に気付いたリアナは静かに言う。
「貴方達は未熟です。あれほどユウイチ様に教えを受け、ユウイチ様に認められた素養がありながらもその程度……どうせ、ホーラ姉様やテツ兄様に勝てないのは当然と情けない事を考えて育ったのでしょうね」
一斉に目を逸らすアリア達は悔しそうに拳を握り締める。
リアナの言葉に何も言い返せなかった。真実だったから。
身動きが取れないレイアに近づくリアナは雄一のカンフー服を奪い、丁寧に畳むと小脇に抱える。
「お、オトウサンの服……」
震える手を伸ばすレイアをキッと目を細めるリアナの眼力に負けるように手を降ろしてしまう。
レイアに背を向けたリアナは目だけで振り返る。
「これは貴方が背負うにふさわしくない。レイア、私は貴方を認めない。私はあの時、そう決めました」
去っていくリアナの背を見送るホーラ達はアリア達に向き直り、ポプリがアリア達がいる中央付近に2級ポーションを人数分置いていく。
「これではっきりしたさ。ユウのやり方が甘かったのもあるがアンタ等に大きな問題があったさ」
「そうですね。どうして訓練所で反応したダンテとスゥの発現の違いが出たか……これを解答にして良さそうです」
ホーラの言葉にポプリが頷くのを見たダンテが締められた後遺症か声音を震わせる。
「ど、どういう……」
「ダンテは気付いたみたいだね。そう、アンタ等には地力も覚悟もないということさ」
「つまり貴方達はここまでです。『ホウライ』は私達でなんとかしますので、安全なところで隠れてなさい」
ホーラとポプリの発言に目を剥くアリア達が何かを言おうとする前にホーラが告げる。
「アンタ等は足手纏いだと言ってるさ。それにね?」
倒れるアリア達に近づくホーラ。
「リアナが言ってた事、ユウに大事にされるアンタ等を羨望した奴等はきっと沢山いる。それを砂をかけてるアンタ等を良く思わない者がいるのをダンガで痛い程知ったはずさ。今まではアンタ等が中途半端に強い、アタイ等が傍にいるから何もしてこなかったんだろうけどね」
屈み、レイアに視線を合わせるホーラ。
「リアナに折られた心であの瞳をする者達と向き合えるかい?」
目を逸らすレイアを見るホーラは鼻を鳴らして立ち上がる。
去るホーラに続くように歩くポプリが陽気に手を振ってみせ、最後に残るテツが何か言いたげに一度口を開くが再び閉じると首を横に振ってみせる。
先を行くホーラ達を追うように歩くテツの後ろ姿を見つめるアリア達は漸く感情が追い付き、涙を溢れさせ、拳を地面に叩きつけた。
「手加減しないと言って、どうして本を仕舞う?」
「必要ないからです。これはダンテがいるから念の為に出しただけです。貴方達には素手で充分です」
余り感情が表に出ないアリアが苛立ちを見せる様子を見て「もっと枷が欲しいですか?」と言われてレイアとスゥが激昂する。
「ふざけんなっ!」
「ちょっと強いからって調子に乗り過ぎなの!」
リアナを挟むように特攻するレイアが腰溜めを効かせたボディブローを入れる体勢で飛び込み、反対側から盾で叩きつけるようにするスゥ。
全力で飛び込む2人を微笑しながら見つめるリアナに叩きこむ。
「がっ!」
「レイア!!」
レイアとスゥは挟み込むようにリアナに叩きこんだと思ったが気付けばスゥの盾は味方であるレイアを叩きつけていた。
スゥの盾に叩きつけられたレイアに駆け寄り、抱き抱えるとリアナを睨む。
「何をしたの!」
「避けただけですが? わざわざ当たってあげる義理はありませんよ?」
タイミングはバッチリだったと歯を食い縛るスゥに抱き抱えられたレイアが苦しそうな声音で伝える。
「いや、避けたのは本当。空中に舞う羽根を掴もうとして掌から逃げるように……」
盾で視界を塞いでいたスゥには見えなかったが生身で攻撃していたレイアにはしっかり見えていた。
ふわりと押し出されるように自然にその場からリアナは離れていた。
スゥは下手したら骨が折れているかもしれないレイアにポーションを使おうとポーチに手を伸ばす手をいつの間にか近寄っていたリアナに掴まれる。
「貴方は何度も同じ失敗をされますね? すぐ傍に相手がいるのに呑気に回復させて貰えると思っているのですか……ああ、いつもなら傍でテツ兄様が守ってくれたり、ダンテにそれをする状況を作って貰っていたのですね」
掴まれた手を振り払おうとするスゥを見下すリアナは引いて立ち上がらせると足払いをして地面に叩きつける。
受け身も取れずに倒されたスゥに「情けない。少し打たれ強いだけですか?」と言って、再び立ち上がらされ、今度は反対側に払われて叩きつけられる。
それを見ていたアリアが静観するホーラに叫ぶ。
「ホーラ姉さん、これ以上は酷い怪我を負う。終わりにするべき!」
「……はぁ? いつからアンタはアタイに指示できる立場になったさ? アタイが終了と言った時が終了さ。安心しな、死人が出ると思ったら止めてやるさ。必要ないだろうけどね」
「そうそう、ホーラの言う通り。2級ポーションなら用意してるから大丈夫だから」
ホーラが言った事で耳を疑ったアリアであったがその後のポプリの言葉を聞いた瞬間、2人は本気で背後にいるテツも迷いのようなものはあるが意志を変える気がない色を感じ取り絶望する。
アリアとホーラのやり取りをする最中でもスゥは何度も地面に叩きつけられていた。
逃げようにも気付けば立ち上がらされ、地に足が付いてた感覚もないまま地面に叩きつけられ続けるスゥは次第に痛みから体が動かなくなり始める。
悔しそうに見上げながら睨みつけるスゥを見たリアナが思い出したかのように頷く。
「貴方は打たれ強さだけはあるんでしたね? 盾だけで頑張るならもっと足払いをされたぐらいで倒れない工夫をしなさい」
告げるリアナはスゥの重さを感じてないように引っ張り、空中に投げ放つ。
「ユウイチ様が言っていました。貴方には光文字、そして付加魔法の素養があると全てを使って只の盾では出来ない事を成しなさい」
痛めつけられ過ぎて体が言う事が効かないスゥが落ちてくるのを見つめるリアナにミュウが疾走し、飛び蹴りを放つ。
それを見つめるリアナは失笑する。
「不意打ちは不意を打つから不意打ちなのですよ? 学習しない人ですね」
ミュウの飛び蹴りを避けるようにして落下するスゥに飛び付き、鳩尾に膝を立てて身動きを出来ないようにして地面に叩きつける。
「筋力も足らない。それを補う術を行使しない。だから、貴方は……もう聞こえてませんか」
リアナの足下には失神したスゥが横たわっていた。
トドメに鳩尾に全体重かけた膝蹴りを地面と挟むように叩きつけられたスゥはさすがに意識を刈り取られた。
「ミュウ、お前、許さない!!」
飛びかかるミュウに対峙するリアナがピクっと右肩を震わせるとミュウは緊急停止して自分から地面に背中から落ちて受け身を取る。
何が起こったか分からないミュウが慌てて立ち上がるが左膝をリアナが挙動不審に一瞬動かすと再び受け身を取るミュウ。
頭にある耳をシナッとさせるミュウがリアナを威嚇する。
「……ミュウに何をした」
「何も? 貴方が勝手に受け身を取ってるだけですよ」
恐れを見せるミュウに笑みを浮かべるリアナ。
気合い負けしたら終わると判断したミュウが再特攻をしかける。
特攻するミュウにリアナが右掌を翳すとヘッドスライディングするように前跳びをする。
「貴方は本能に頼り過ぎです。殺気が籠った意志をぶつけるとそれに反応して体が勝手に動いてしまう」
そう言うリアナが飛び込むミュウの後頭部を鷲掴みして地面に叩きつけようとする。
すると、光玉がリアナの眼前に飛び込み、それを避ける為にミュウの頭から手を離す。
地面に滑り込むミュウを横目に光玉が放たれた場所に目を向けるプレッシャーから荒い息を吐くアリアの姿があった。
「や、やらせない!」
必死に虚勢を張るアリアに目を細めるリアナがゆっくりと近づく。
再び、魔法を行使しようとするアリアが声を張り上げようとする。
「フラッ……ゲホゲホ」
フラッシュを唱えようとしたアリアに地面の土を蹴っ飛ばして逆に目潰しと土埃を吸わされて咳き込むアリア。
目を必死に擦って視界を取り戻したアリアの目の前からリアナの姿はなかった。
「あの程度で魔法の行使を止めてしまうのですか? ダンテならきっと発動までしたでしょうね?」
後ろからする声に振り返ろうとするアリアの腕に関節技をかけるリアナ。
絶妙な力配分でかけられる関節技をさすがのレイアよりも力自慢のアリアですら振り払えない。
足を払われて顔から地面に叩きつけられたアリアにリアナは言う。
「さあ、脱出してみなさい」
「こんなにしっかり極められたら外せない」
関節を極められていて顔も上げられないアリアの耳元にリアナは顔を近づける。
「出来ますよ。腕の骨を折る覚悟があれば……」
「――ッ!!」
顔色が一気に悪くなるアリアにリアナは嘆息する。
「貴方は無表情なんじゃない。臆病なのを隠す為に表情を出さないようにしている。無関心を装う貴方は無様です。よくユウイチ様の奥さんになると言えたものです、ねっ!」
あっさりと締め上げていた腕を押し込むと抵抗がなくなり前に廻る。
痛みにもがき苦しむアリアはすぐに動くと更に痛いと分かり、下唇を噛み締め、血と涙を流して怯えた目をリアナに向ける。
「大袈裟です。肩を外しただけで折ってません。貴方は回復魔法が使えるのでしょう?」
リアナに言われて思い出した様子のアリアが震える手を外された肩を痛みに耐えながら添える。
脂汗を流すアリアが魔法を行使しようとするが一瞬、掌が輝くがすぐに霧散する。
その様子に嘆息するリアナが近づく。
「貴方には徹底的に心を律する事が出来てません。同じ事を言うようですが……ダンテならきっと行使しましたよ?」
リアナに首を絞められて落とされる寸前まで水牢を発動させようとしていたダンテを思い出すと目の前のアリアが酷く無様に思えたリアナは外れた肩を踏み抜く。
声なき悲鳴を上げるアリアを助けようとレイアが足を震わせて立ち上がろうとするが先にミュウが飛び込む。
「痛いの我慢する。お前を許さない!」
リアナがフェイントをかけるが一瞬ビクッとさせるが突っ込むミュウに好意的な笑みを浮かべる。
「思いっきりは良いです。ですが、学習はしましょう」
再び、後頭部を掴むと今度こそ地面に叩きつけられて2度バウントして意識を刈り取られるミュウ。
そして、やっと立ち上がったレイアに目を向けるリアナ。
「お待たせしました。気付いてますか? 貴方が最後なのは意図したものです」
ゆっくりとレイアに向かって歩くリアナの瞳から感情が抜け落ちる。
その瞳に気圧されるレイアは固唾を飲んで一歩後ろに下がる。
「ユウイチ様が家族の事を話される時に一番良く出た名前、それは『レイア』でした。本当に嬉しそうに話されるユウイチ様を見て癒され、そして激しく嫉妬もしました」
普通に歩いているように見えるのに地面を踏み抜き、強く足跡を作るリアナは震える掌を握り締める。
震えるレイアの前に到着したリアナにジッと見つめられ、滝のように汗を流す。
「私もユウイチ様をお父様とお呼びしたかった……でもご迷惑になると思い、口を閉ざしました。そんなところを他人に見られたらユウイチ様を不必要な国のトラブルに巻き込むかもしれない」
きっと雄一なら「気にするな」と言って抱き締めただろうとリアナ自身も気付いていたが迷惑をかけたくなかった。
「呼べなくてもいい。少しだけでも一緒に居れて、教えられた事を出来た時に褒めるユウイチ様を見るだけでもいい……一番、娘として愛される『レイア』を自分に重ねて……一瞬だけでも満たされたらそれでいい」
レイアの前で激変するリアナの様子を見て呼吸を止める。
今までのリアナは表情を作っていたのだと理解し、そして恐怖した。
激しい怒り、そう烈火の如く。
胸倉を掴み、掲げたリアナは腕を交差して首を絞め、地面に叩きつけて馬乗りになる。
「私は愕然とした……『レイア』の事を詳しく聞くたびに耳がおかしくなったと何度疑ったか分からない……お前はユウイチ様に何をしたぁ!!」
激情を剥き出しにするリアナはレイアを怒鳴りつける。
ここまで激しい感情をぶつけられた事がないレイアは委縮する。
「ユウイチ様は『ヤンチャ』と言って笑っておられた……それを聞かされる私のハラワタが煮え繰り返した。その度に飲み込み耐えた。そして最後に来られた時に一緒に居られたレン様に聞かされた事で私は決めた」
交差させる腕を押し込み、咽るレイアから離れたリアナはレイアの左足首を掴む。
凄まじく効率的な魔力循環から肉体強化が発動するのをレイアは目を剥きだす。
「捨てた父親を守る為にユウイチ様を拒絶した!? あれほど愛して貰っていたのに捨てた父親を選んでユウイチ様を否定した!」
掴んだレイアの足を振り上げて持ち上げるとそのまま地面に向けて振り抜く。
「何様だぁ! お前の立場を羨望したのは私だけだと思っているのか! きっと、きっと沢山いる!」
「カハァ!」
地面が陥没する勢いで叩きつけられるレイアは喀血する。
レイアが反応する余裕も与えずに再び振り上げるリアナ。
「私は……私は……」
振り下ろすリアナの瞳から溢れる涙は叩きつける勢いと共に飛び散る。
先程よりも強く叩きつけられたレイアは危ない量の血を吐き出す。
更に振り下ろそうとするリアナの手首をホーラは掴む。
「そこまでさ。次の一撃でさすがにレイアは死ぬさ」
「……はい」
素直にレイアを降ろすリアナは足首からも手を離す。
周りを見渡すと気を失っていた者達も目を覚ましてこちらを見ている事に気付いたリアナは静かに言う。
「貴方達は未熟です。あれほどユウイチ様に教えを受け、ユウイチ様に認められた素養がありながらもその程度……どうせ、ホーラ姉様やテツ兄様に勝てないのは当然と情けない事を考えて育ったのでしょうね」
一斉に目を逸らすアリア達は悔しそうに拳を握り締める。
リアナの言葉に何も言い返せなかった。真実だったから。
身動きが取れないレイアに近づくリアナは雄一のカンフー服を奪い、丁寧に畳むと小脇に抱える。
「お、オトウサンの服……」
震える手を伸ばすレイアをキッと目を細めるリアナの眼力に負けるように手を降ろしてしまう。
レイアに背を向けたリアナは目だけで振り返る。
「これは貴方が背負うにふさわしくない。レイア、私は貴方を認めない。私はあの時、そう決めました」
去っていくリアナの背を見送るホーラ達はアリア達に向き直り、ポプリがアリア達がいる中央付近に2級ポーションを人数分置いていく。
「これではっきりしたさ。ユウのやり方が甘かったのもあるがアンタ等に大きな問題があったさ」
「そうですね。どうして訓練所で反応したダンテとスゥの発現の違いが出たか……これを解答にして良さそうです」
ホーラの言葉にポプリが頷くのを見たダンテが締められた後遺症か声音を震わせる。
「ど、どういう……」
「ダンテは気付いたみたいだね。そう、アンタ等には地力も覚悟もないということさ」
「つまり貴方達はここまでです。『ホウライ』は私達でなんとかしますので、安全なところで隠れてなさい」
ホーラとポプリの発言に目を剥くアリア達が何かを言おうとする前にホーラが告げる。
「アンタ等は足手纏いだと言ってるさ。それにね?」
倒れるアリア達に近づくホーラ。
「リアナが言ってた事、ユウに大事にされるアンタ等を羨望した奴等はきっと沢山いる。それを砂をかけてるアンタ等を良く思わない者がいるのをダンガで痛い程知ったはずさ。今まではアンタ等が中途半端に強い、アタイ等が傍にいるから何もしてこなかったんだろうけどね」
屈み、レイアに視線を合わせるホーラ。
「リアナに折られた心であの瞳をする者達と向き合えるかい?」
目を逸らすレイアを見るホーラは鼻を鳴らして立ち上がる。
去るホーラに続くように歩くポプリが陽気に手を振ってみせ、最後に残るテツが何か言いたげに一度口を開くが再び閉じると首を横に振ってみせる。
先を行くホーラ達を追うように歩くテツの後ろ姿を見つめるアリア達は漸く感情が追い付き、涙を溢れさせ、拳を地面に叩きつけた。
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断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
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弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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