リンゴの園の阿吽ー俺でなく従者候補達がチート持ちなんですが?-

バイブルさん

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4話 俺は普通と信じたいという事で

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 昼食を済まして、俺達は古着屋へと行ってきた。

 入った食堂のウェイトレスや客達に俺の服装を物珍しそうにされ、困惑した俺を見てクリームちゃんに連れられた訳だ。

 終始、好奇な視線に晒され続け、後半は明らかにクリームちゃんの行動が原因だったとは思う。

 なにせ、事あるごとに「主様、こちらも美味しいですよ?」と自分の食事を勧めてくるのだ。

 それも所謂『あーん』を強制される。

 俺も羞恥を捨てきれない十代だ。当然、断ろうとしたさ!

 でもな、断ろうとすると泣きそうな顔で俯くクリームちゃんを見て俺は鬼にはなれん。

 ってかなる必要ある?

 俺の羞恥心 < クリームちゃんの可愛さ

 でしょ? 間違ってる!?

 俺は耐えたよ! クリームちゃんの『あーん』に喜んで対応して食した。

 クリームちゃんの嬉しそうな笑顔に癒された俺だったが……

 あのウェイトレスの子との間には深い溝が出来ただろうな。

 男と女という境界線ではなく人と人でなしという意味で。

 『あーん』の段階じゃ、ギリ微笑ましげに見てたけどお会計の時にクリームちゃんが払うのを見て舌打ちされたもん。

 耳元に口を寄せたウェイトレスが

「ク○」

 と言ったような気がするがきっと幻聴。

 可愛い子だったし、ちょっとお尻が小さめだけど服の上からでも分かるプリッとしたオッパイが素敵だったのに……

 完全にフラグが折れたのを俺は自覚した。

 泣いたという事実は確認されてない。

 その後に行った古着屋でもクリームちゃん旋風は続いた。

 俺としては白のシャツに黒のズボンで『村から出てきたばかりの少年』というコンセプトでと考えてた訳だが

「主様、こちらはどうでしょう?」

 振り返った先にいたクリームちゃんが持っていた服は、どこの貴族の方に贈るの? と聞きたくなる装飾過多なモノであった。

 正確に言うなら古着屋にあるのだから貴族向けではないだろう。どこぞの傾奇者なら着たかもしれないという派手なモノ。

 青い円らな瞳をキラキラとさせるクリームちゃんが傷つかず、そして大人の対応を駆使して「目立ちたくないから」と納得させた。

 次に持ちだしたのが、どこの近衛騎士の礼服ですか? と問いたくなるような赤と金で仕立てられた派手派手しいものだった。

 あかん、さっきよりも派手な気がするぞ。

 そこで俺は有る事に気付く。

 クリームちゃんにとって俺は英雄的な立ち位置だから、没個性が噛み合わないのだろう。

 嬉しそうに俺に派手な服を当てるクリームちゃんになんて言えばいいか悩んでると古着屋の兄ちゃんが苦笑いしながらクリームちゃんに言ってくれた。

「お二人さんは冒険者だろ? そんな派手な服を着させてたら、いい格好の的だぜ」
「はっ!」

 その事は一切考えてなかったらしいクリームちゃんは顔を一瞬で真っ青になる。

 あぅあぅ、と手をワタワタさせながら「どうしたら……」と困るクリームちゃんに古着屋の兄ちゃんがカウンターの下から黒革の上下一式を取り出す。

「こんなのはどうだい? 遠目に見ればスーツぽく見えるがれっきとした革製品で本格的な防具と比べたら見劣りするが防具代わりにもなるし、何より動き易いぞ」
「……少し地味じゃないですか?」

 不満そうにするがその汎用性には納得がいってるようで手に取って、「むむむ」と眉を寄せて睨めっこを始める。

 悩むクリームちゃんにこのジャケットとズボンの良さを説く兄ちゃんを俺は心の中で応援し続けた。

 これでも派手だとは思うがクリームちゃんに任せきりにしておくと俺は歩く広告塔にされかねない。

 頑張れ、古着屋の兄ちゃん!

 最終的に俺を困らせたいかどうか、という質問をされて渋々、古着屋の兄ちゃんに説得された。



 などと試練を乗り越えて、今、俺は武器屋にやってきていた。

 一応、剣術:初級を手にしたのだからと古着屋で着替えたジャケット姿の俺が壁に飾られた剣を眺めていた。

 俺が眺めている剣は上品な装飾が施されたもので実用という感じではないが男心を擽る逸品だ。

 うーん、格好いいけど、これじゃねぇって思うよな。

 そう思う俺は樽に突っ込まれた平凡な剣を取り出す。

 お約束は『銅の剣』だろうけど、さすがに強度的にどうだろうって思うから鉄製の数打ち物が定番。

 そう思った俺は樽の中のモノをゴソゴソと漁っているとクリームちゃんに呼ばれて振り返る。

「これが主様に相応しい武器です!」
「キタァァ――! エクスカリバー的なヤツがぁ!」

 当然のように俺は却下した。

 どうやらクリームちゃんは過保護な子のようだ。



 俺は武器(一生懸命、説得して鋼の剣で折り合った)を腰に吊るして、イナルから1時間もかからない距離にある森にやってきた。

 依頼書にこの森にビックラットが生息していると書かれていた訳だが良く考えたら簡単に見つかるのだろうか?

 そう思っていると可愛らしい耳をピクピクさせたクリームちゃんが東を指差す。

「ビックラットを見つけました」
「えっ? どこ?」

 指を差す方向を見ても木々が見えるだけで見当たらない。

 ビックラットと言っても普通のネズミより大きいだけで分かり難いのかな? 大きいといっても子猫サイズ?

「こちらです、少し歩きます」

 そう言ったクリームちゃんが先導を始めてくれる。

 なるほど、俺が見てた場所にはいなかったのね。

 クリームちゃんに連れられて歩く事、5分ぐらい経った頃、歩みをクリームちゃんに止められる。

「主様、きます!」

 その言葉が終わると同時に草むらからトラが飛び出して……

「うそん、これがそうなん!」

 飛び出してきたのはトラではなく、ネズミ、ビックラットであった。

 全長3m近くあるそのビックラットを見て、子猫なビックラットのビジョンが砕け割れる。

 こんなの詐欺やん!

 誰に騙された訳でもなく、勝手に想像して騒いだのは俺だが棚上げした。

「主様、危ないのでお下がりください」
「えっ?」

 ビックラットとの間に割り込んだクリームちゃんに戸惑う俺を無視して魔法を行使し始める。

 両手を天に掌を広げて掲げたクリームちゃんが叫ぶ。

「アイスプチメテオ!」

 すると一瞬で影に飲み込まれた俺は何気なく上空を見上げると直径10mはあろうかという氷の玉が落ちてくる。

 なんじゃ、あれぇ!

 同じように気付いたビックラットが慌てて逃げようとするが追跡する氷の玉。

 そして、ビックラットが振り返った瞬間、氷の玉に圧し潰された。

 潰されたビックラットを見て「オーバーキルじゃねぇ?」と呟くと氷の玉が乾いた音をさせて割れて砕ける。

 押し潰されてピクピクしているビックラットを見たクリームちゃんが指を差して言う。

「トドメです、主様」
「ええっ~、トドメいる?」

 ほっといても死んじゃうようにしか見えないビックラットにトドメを、と背を押すクリームちゃんに負けて、鞘着きのままの鋼の剣でポクッと叩く。

「ちゅぅぅ……」
「討伐おめでとうございます!」
「マジでギリギリだったよ!」

 嬉しそうにピョンピョンと跳ねるクリームちゃんは可愛いがそれでいいのだろうか……

「では、残るビックラットは私が仕留めてきます」

 そう言うとビックラットが飛び出してきた草むらに飛び込んでいく。

 声をかける間もなく、どうしたものかと思っているとクリームちゃんが居た場所にギルドカードが落ちてるのに気付いて拾う。

「さっき飛び跳ねた時に落ちたのかな?」

 拾ったギルドカードを正面に向けて覗き込んだ俺の目が見開いたのが分かった。


 クリーム  ♀  ランク S

 氷魔法:神級 絶対防御 神託

 インスタントスキル

 状態異常無効 槍術:上級 手加減


 うおおぉぉ、Sランク!

 何これ、勇者なの? 神託があるから聖女とか?

 これ、俺いる? いらなくない?

 クリームちゃんだけで災厄を祓えそうだけど……

 ん? あっ、さっきのこれのせいか。

 氷魔法でオーバーキルしたと思ったら死んでなかったのは手加減スキルのせいか。

 どうして、そんな不遇スキル……


「こんな優良スキルを消して、この不遇スキルをですか?」


 あっ、クラシエさんが言ってたのこれのことか。

 俺の為にわざわざ覚えたの? 俺の為にどんな優良スキル消したの?

 俺が弱いばかりに……待て、そんなスキルを取ったということは俺の強さはどの程度か気付いてたって事?

 なら、なんで俺を主様と呼び続けて甲斐甲斐しく世話もするんだろうか?

 いくら神様からの言葉だとしても……なんでだろ?

 クリームちゃんが去った方向では冷気が漂い、氷が砕けるような爆音が響いてくる。

「まあ、良い子だから俺を騙す……価値もないから疑う意味もないか」

 そう呟くと同時にクリームちゃんが向かった方向と違う場所でズシンと響く音に気付いた俺は、気になったのでコッソリと覗きに向かう。

 静かに草むらを掻き分けて向かった先ではビックラットよりも大きな5mはあろうかというイノシシと対峙する少女の姿を捉えた。

「ビックラットでもビックリしたけど、あんなイノシシもいるん?」

 そのイノシシに対峙する地面に着きそうな長いツインテールの赤髪のクリームちゃんと変わらない年頃の少女は小柄な体躯に似合わない大きな木槌を掲げていた。

 薄い紺のショートパンツ姿のピンク色の肩紐シャツを着た華奢な丸い耳を頭頂部に生やす少女を睨みつけるイノシシが前足で地面を叩きつけるように擦り始める。

 あれは突進する前の前兆。

 どうやら少女もそれに気付いているらしく、木槌を身を捻って振り被り力を溜める。

 そして、一瞬の静寂の後、同時に飛び出す。

 体を捻ったままを維持する為に背を向けたまま飛び出したツインテールの少女を見て、俺はヤバいと気付く。

 このままだとツインテールの少女が負けると感じた俺は草むらから飛び出した。
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