異世界で双子の娘の父親になった16歳DT-女神に魔法使いにされそうですー

バイブルさん

文字の大きさ
107 / 365
3章 DT,先生じゃなく、寮父になる

幕間 汚れた両手

しおりを挟む
 王都キュエレーの冒険者ギルドが開催した大会があった日から日付が変わり、月が大きく西に傾き、深夜から早朝に変わろうという時間帯の人の気配が希薄な路地裏にカンフー服の大男の姿があった。

 腕を組み、目を瞑る大男は誰かを待っている様子で身じろぎもせずに立っていたが、気配を殺して近寄る存在に気付き、目を瞑ったままで背後の者に声をかける。

「気配を殺してるのは俺への敵対行動か? それとも試しているのか?」
「――ッ! こんなにあっさり気付かれるとは思ってませんでしたよ、アニキ」

 路地裏に入るメインストリートから敵意はありません、とばかりに両手を上げる金髪をオールバックにし、安物の鎧を纏う男、リホウが軽薄な笑みを浮かべて出てくる。

 参った、参った、と言いたそうなヘラッとした笑みを浮かべ、頭を掻くリホウは大男、雄一に近づきながら質問する。

「えっと、いつから気付かれてました?」
「お前が気配を殺した時からだ」

 雄一が迷いもなく口にする言葉にリホウは軽薄な笑みが引き攣り、弱ったような笑みに変化させる。

 ジッと見つめてくる雄一に本当に降参です、とばかりに頭を下げる。そして、顔を上げるとこの場に来た用件を話し始める。

「アニキが鎮圧したポメラニアンとドランを始め、ならず者達はエイビスの部下に回収させました。ポメラニアン達が持っている情報を吐かせた後に冒険者ギルドに連れていく、と伝言を預かってます」
「情報な……なんとなく想像が付くが……俺には関係ないから好きにして貰っていいが……」
「時間ですよね? それは俺も気になって確認しましたところ、1,2時間で済ませると言ってたんで、既に冒険者ギルドには運び終えてますよ」

 そう返事を返すリホウは「現在、冒険者ギルドは徹夜でポメラニアン達の処遇にてんてこ舞いですよ」と楽しそうに口にする。

 どういう心境の変化があったか雄一達にも分からないが一番の被害者、ティファーニアのコミュニティに対応する為に早急に動いているらしい。

 リホウ曰く、雄一が怖いからだ、と言っているが当の雄一はどうでも良さそうに鼻を鳴らす。

 雄一の反応にリホウは肩を竦めながら、まとめに入る。

「まあ、そういう訳で朝食の頃にはなんらかの返答を持ってやってくるじゃないですかね? 俺からの報告できるのはこれぐらいですよ」
「なるほどな、ところでリホウ?」

 報告を済ませたリホウが立ち去ろうとする素振りを見せるが雄一が呼び止める。

 リホウは「何か?」と報告漏れがあったかな? と考える仕草で首を傾げながら雄一を見つめる。

「俺の最初の質問の返答を貰ってないんだが?」
「……」

 そう、気配を殺して近寄ったリホウはその事には一言も口にせずに態度で『敵意は少なくともありませんでした』と取れる仕草を見せただけである。

 これが長い付き合いであれば、それだけで納得してもおかしくはないが昨日今日の付き合いの2人にはおかしい。

 まして、今後も近しい距離で付き合いをしていこうとするならなおさらである。

 しかし、リホウは普通の相手であれば、つい流してしまう流れを作っていた。

 黙ってリホウを見つめる雄一から目を逸らすリホウは口を開く。

「……アニキは、この国をどう思いますか?」

 質問を質問で返すリホウに少し呆れる様子を見せるが無表情なリホウの真剣さに気付き、それには触れるのを堪えるように肩を竦める。

「それがお前の真の目的か? 俺が冒険者ギルドや貴族であるポメラニアンに対して恐れを見せないから」
「はい、アニキなら人を食い物にする奴隷にするやつ、ゴミのように子供を捨てる奴等を駆逐して……」

 握る拳を震わせ、歯を食い縛りながら言ってくるリホウの言葉を被せるように言う。

「その方法で、お前は上手くいったのか?」

 雄一の言葉に驚き、逸らしてた目を大きく見開いて雄一を凝視する。

 今度こそ呆れを全開にして溜息を洩らす雄一がリホウを見つめながら言ってくる。

「初めて、お前に会った時から違和感がずっとあった。釣り人が竿ではなく銃で釣りをするような違和感がな。お前の剣士としての姿がまさにそれだった」
「ア、アニキ?」

 動揺するリホウを無視するように雄一は続ける。

「お前の本来のスタイルではないのに剣聖だったか? そう呼ばれる程の力があるお前の本来の力は相当なモノだろうが……失敗したのだろう?」
「……」

 雄一の問いに沈黙するリホウの表情から解答を得る雄一はやりきれない思いを抱えながら続ける。

「1人の力だけで出来る事など限られる。仲間を作らないといけない。それも1人や2人じゃない。国、そのものを巻き込むぐらいのな。変えるべきは悪党の意識ではなく、それ以外の者達の意識だ。それはおかしい、と口に出せるように」
「根本的に俺は間違ってたんですね……」

 雄一の言葉に打ちのめされるように苦しそうにするリホウ。

 震える両手を見つめ、握り締めると顔をクシャっとさせ、泣くのを耐えるように歯を食い縛る。

 そして、雄一の言葉を否定できる言葉を用意出来ない自分を嘲笑うように乾いた笑みを浮かべる。

「はっはは……だとすると俺の居場所はそこにないですね。俺の手は汚れ過ぎてる」

 握っていた両手を広げて見つめ、悔しげに下唇を噛み締めるリホウ。

 すぐにヘラッとした最初の笑みの仮面を被るとこの場にいるのがふさわしくないとばかりに立ち去ろうとするリホウの背に雄一が声をかける。

「だが……言葉が届かない馬鹿もいる。俺の身内にもそれの被害者がいるんでな」

 雄一の言葉で思わずといった感じで歩みを止めるリホウ。

 そう、ストリートチルドレンのホーラ、両親を掴まえられたミュウなど、そして、ダンガで苦しむ人々を見て雄一が何も思ってない訳はなかった。

「俺はその闇を払い、背負うと決めている。子供達に不要なものだ。しかし、それは俺だけで子供達を守りきれる、と言い切れない」

 今回の件、ティファーニアの依頼を受けるにあたって、子供達を守る事と両立に苦しんだ雄一は無駄に強がれないことを身を持って知っていた。

 黙ったまま振り返らないリホウの背を優しい目で見つめる雄一が告げる。

「お前のその力を使って、俺と一緒に子供達の闇を担ってくれないか?」

 ビクッと大きく肩を震わせたリホウは、そのまま小刻みに肩を震わせ始める。

「俺に……俺の居場所はそこにあるでしょうか?」
「お前次第だ。お前がどうありたいと願うか……そうだろう?」

 背を向けるリホウに雄一は手を差し出す。

 そして、大きく深呼吸をし、腕で目元を拭うと振り返ったリホウはその場で片膝を着いて深く頭を垂れる。

「こんな俺、いえ、私で出来る事であれば喜んで……」
「よろしく頼む」

 雄一は片膝を付くリホウの手を取って立ち上がらせる。

 路地裏である事を忘れそうな光景を生んだ2人を昇り始めた朝日が優しく照らす。

 すると、雄一が急に驚いた様子を見せる。

 その様子に気付いたリホウが顔を上げ、雄一を見つめる。

「アニキ、どうかされたんですか?」

 そう問いかけたリホウは雄一が自分を見てない事に気付き、雄一の視線を追うがその先には誰もいない。

 しかし、視線を固定させたまま動きを停めたままの雄一を見ながら、もしかしたら、という可能性に行き着き、頬に汗を流す。

 リホウには雄一が見つめる方向、そしてリホウの隣に位置する場所に心当たりがあった。

「ア、アニキ……み、見えて……」

 それがキッカケのように驚いた表情から笑いを堪えるような笑みを浮かべる雄一にリホウは更に疑惑を深める。

 僅かに笑い声を洩らす雄一がリホウを見つめてくる。

「なるほどな、仮面の下に隠してるお前はそういうヤツなのか?」
「アニキ! 信じちゃいけませんよ!」

 考えたくない予想に腰砕けになるリホウは立ち上がったのに再び膝を付いてしまう。

 もうリホウは雄一に全部ばれていると確信して必死に言うが楽しげにいたぶるような笑みを浮かべる雄一が分かっていると言わんばかりに頷く。

「リホウ、お前という男は恥ずかしがり屋のロマンチストらしいな?」
「――ッ!!」

 顔を真っ赤にさせたリホウは立ち上がると脱兎の如く、この場から逃走を計る。

 逃げるリホウをニヤニヤと笑みを浮かべる雄一は生温かい視線で見送る。



 雄一の視線から逃げ、半泣きにさせられるリホウであるが口許は嬉しげに笑みを作る。

 この日は、リホウにとって生涯で一番、忘れたくない日、そして一番、忘れたい日になったらしい。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜

月城 蓮桜音
ファンタジー
仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。 ※この作品は、カクヨムでも掲載しています。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?

よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ! こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ! これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・ どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。 周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ? 俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ? それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ! よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・ え?俺様チート持ちだって?チートって何だ? @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

処理中です...