高校デビューできずに異世界デビュー

バイブルさん

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1章 四苦八苦する異世界生活

25話 おとぎ話

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 外で焚き火をしながら、イノシシの肉を鉄棒に突き刺して、おっさんがグルグルと廻しながら話し始める。

「ミランダにどの程度聞いてるか知らんが、3か月前までワシはエコ帝国の近衛騎士をしとった」

 焚き火の火を見つめながら言うおっさん。


 おっさんが、騎士ですら有り得ないのに近衛騎士なんて冗談は顔だけにしてくれよっ!


 と、ふざける事が許される空気ならきっと言ってただろうが、今のおっさんはそんな空気ではない。

 マジな空気を纏いながらおっさんは肉を廻しながら続ける。

「元々から近衛騎士だった訳ではじゃない。辞める直前に初めて近衛騎士になった」

 おっさんの表情からは何を考えているかは読み取れなかった。

 焚き火の薪が弾ける音に耳を傾けながら、おっさんの話の続きを聞く。

「近衛騎士になったワシに初めて任務が下った」
「どんな任務なの?」

 ルナがおっさんにそう聞くのを見つめる。

「ワシに下された任務はある少女を指定された場所に護送するというもんじゃった」

 少女? 近衛騎士に護送されるような少女となると王族や重鎮のお嬢様か?

 ルナも似たような事を考えているようだ。

「ワシは護送する事以外の事は何も教えては貰えんかった。年は食っておるが新入りじゃったからと、その時は思っておった」

 正直、初めの内はおっさんの失敗談を聞かされるぐらいに構えていたが、そんな笑い話にできない類の話ではないかと思い始めた。

 おっさんは相変わらず感情が浮かばない顔をしている。

「坊主達は、おとぎ話の『魔神と初代勇者の物語』というのを知っておるか?」

 そう言ってくるおっさんの言葉を受けて、ルナと顔を見合わせるが、ルナも知らないようだが、何か辛そうな表情をしていた。

「俺達、この大陸の外から来たからか、聞いた事ない話だ」
「そうか、まずはそこからじゃな」

 そういうとおっさんは、簡単にと言って話し始める。







 今から、約500年前、突如、どこからとなく現れた狂った神、魔神が現れた。

 人々は魔神の狂気に犯されたモンスターが凶暴になって、それを相手にするだけで精一杯で、魔神に抗う術がありませんでした。

 そんな時、アローラの女神がある国の王に神託を与えます。

 神託の内容は、魔神に抗う為にある場所に女神の力により魔法陣が作られた事を知らせるものであった。

 指定された場所に行くと本当にあり、神託を信じた王は伝えられたままに魔法陣を起動させる。

 起動した魔法陣から、眩しい光を放ち、そこに現れた少年、後に初代勇者と呼ばれる。

 初代勇者は、モンスターの群れを押し返し、人々を救った。

 最強の魔法使いエルフの少女やドラゴンすら仲間として従え、数々の仲間と共に魔神に挑む。

 初代勇者は大きな犠牲を払いながらも、魔神との戦いに辛くも勝利を治める。

 さすがの初代勇者も魔神を完全消滅はできなく、体をいくつかに分け、封印に成功し、アローラは平和になりました。







「簡単に言うとこんな感じのおとぎ話じゃ」
「へぇ、良くある英雄譚って感じだな」

 そう俺は極力明るく言うがおっさんは相変わらず無表情だし、ルナも黙り込み始める。

「確かに、500年ほど前にモンスターの大暴走があったそうじゃ。ワシも少し前までは、それを利用したお話だと思っておった」
「思ってた? つまり……」

 焼き上がった肉を切り分けて、俺達に振る舞われるが、さすがにここまで来ると先が気になって食べる気が起きない。

 苛立った俺が先を促そうと口を開く前におっさんは続きを口にした。

「おとぎ話は実話じゃった。実際に魔神もいたらしい、初代勇者も存在した話じゃった。初代勇者による封印は実際にワシも見た」


 マジか、この世界は魔王的なものが存在する場所だったのかよ!

 確かにモンスターが存在する以上、いてもおかしくはないはずだが……ちょっと待て、そんなものがいるのになんで皆は知らずに平和に生活してる?

 何故、おっさんはこの話をし始めた? 最初の女の子の話はどこにいった?


 なんとなく俺のカンが囁く。俺の岐路になると訴えてきている。

 おっさんも何やら躊躇いが出始めたのか黙り込んでしまっている。


 引き下がるなら今だろ? 聞く理由なんてないし、おっさんも迷い始めてるなら聞かなくてもいいだろ?


 そう迷いが生まれた時、俯いていたルナが顔を上げる。

「ザウスさん、続き、続きを聞かせて欲しいの」

 何やら切羽詰まった様子のルナがおっさんに詰め寄る。

 あの必死な様子から、なんとなしに理解した。

 きっと何かを思い出しそうになっているんだろうと。

 落ち着かなくても、ルナはあんな所で眠ってたぐらい変わったヤツだ。普通な訳がない。

 面倒事なんて最初から抱えてる。

 ルナに一杯迷惑かけた。一杯、支えて貰った。

 俺にルナが迷惑をかけていい。俺がルナを支えてもいいはずだ。

 だって、


 俺達、相棒なもんな?


 理由はそれだけでいい、俺は腹を括った。

「おっさん、続きを聞かせてくれ」

 迷いを感じさせない声音でおっさんに言うと俺を目を見開いて見つめる。

 俺の覚悟が伝わったのか、おっさんは話を再開してくれた。

「初代勇者の封印は実在したが、それは永続的な封印ではなかったんじゃ」
「それってどれくらいの期間なんだ?」

 そういうとおっさんは唾棄するように口にする。

「マチマチじゃ、何せ、その時々の者の寿命なんじゃからな」

 その時々の寿命だと?

 つまりそれって……

「おっさん! さっき言ったよな? 女の子の護送を、と……」
「ああ……その通りじゃ。封印を維持するのは人柱。それも初代勇者と一緒の力を持った召喚されし者じゃ」

 俺の予想を違わない答えを口にしたおっさんを見つめたまま、いつの間にか立ち上がっていた俺は腰を下ろす。

「封印の地、クラウドの北西にある山に護送された少女をワシは見た。膝を抱えた小柄な少女じゃった。他の者の話では14,5歳と聞いたがとてもそうは見えない、本当に小さな少女だ」

 おっさんは思い出すだけで胸が締め付けられるのか胸元を鷲掴みにしていた。

「とても初代勇者と同じ力を持ってるようには見えなかった。とても弱く脆いモノにワシには見えた。只の声を殺して泣く黒髪の少女にしかワシにはどうしても見えんかった」

 待て、黒髪? いや、早計だ。クラウドでも少ないが黒髪の人はいる。例えば、スワンさんも黒髪だった。

 だが、召喚という言葉が引っかかる。

 その時、ある人に言われた言葉が過る。

 俺の気付きと関係なく、おっさんの話は続く。

「その少女を見ててワシは、どうしたらいいか分からなくなった。ワシは確かに騎士じゃ。だが、生きる糧を得る為にやっていると割り切れてた。じゃが……」

 おっさんは無骨な両手で自分の顔を覆うようにする。

「少女の隣に立つ、若い頃のワシが言うんじゃ。『お前は何の為に騎士を志したんだ』と」

 おっさんは歯を食い縛り過ぎて、ギシギシと音をさせる。


 ああ、おっさんは悔しいんだな。一番、負けたくない相手、昔の自分に負かされた事が。そして、強がってでも見返す行動が取れなかった事が……


「おっさんはどうしたかったんだ?」
「はぁ、情けない話じゃが、それが分からなくて、もう騎士を続ける気力もなくなって、ここでグダグダと山男しとる」

 自分を嘲笑うようにするおっさんを見てる俺も悔しくなってくる。

「それでな、さっきのクソガキ共を何の見返りも求めずに助ける事を選び、助けたのに土をかけられたようなものに怒りもせんかった坊主ならどうしたか、と聞いたら答えが聞ける気がしたんじゃ」

 そう言うと、おっさんは俺をジッと見つめてくる。

 良く見たら、俯いてたルナまでが俺の答えを聞く為にこちらを見つめていた。


 そんな期待に満ちた目で俺を見るなよ。俺はそんなたいした事は言えないぜ?


「そうだな、きっと俺だったら、こっそりと戻って倒れるまで女の子を助ける方法を探しただろうな」
「動けなくなるまで探して見つからなかったら、諦めるのか?」

 俺の返答におっさんが問いかけてくる。

「その後は、俺より頭のいい人に相談に行く。そして解決法を教えて貰う」
「それでも駄目だったらどうするの?」

 今度はルナが俺に質問してくる。

「決まってる。そうなったら手当たり次第だ、まずはダンさんを頼るだろ? ミランダにも頼る。ペイさんにシーナさんにも頼って、そこからヒントでも他の人の心当たりが出たらラッキーと喜んで次に行く」
「そ、それでも……」

 まだ質問を重ねようとするルナの言葉を人差し指で唇を押さえて、大きな笑みを浮かべて言う。

「ルナ、どこが終わりかは決まってる。目的を達成する時が終わりだ。それまでのは過程であり、考える事を止めない限り、道は途切れねぇーよ」

 頬を染めて、ジッと見つめるルナにもう一度、大きな笑みを浮かべるとおっさんが肩を震わせる。

「くっくく、わはっはは! そうか、ワシは考える事を止めたから、こんな所でずっとウジウジしとったという事か……違いない、本当にワシは馬鹿じゃ」
「おっさんは馬鹿じゃねぇーよ」

 俺の言葉におっさんは、はぁ? と間抜けな顔を晒す。

「だって、おっさんは俺を頼っただろ? 自分で何ともできない思ったから? 次に繋いだ、おっさんは馬鹿じゃない。本当の馬鹿は黙ってなかった事にしようとするヤツの事だ」
「坊主……」

 鼻を啜るおっさん。

 クマみたいな、おっさんに泣かれたら気持ち悪いだけだ、と思う俺は何でもない様な顔して言う。

「おっさん、俺のカンが言うんだ」

 素っ頓狂な事を言う俺に驚いた、おっさんとルナが顔を見合わせる。

「きっと、おっさんはその女の子に謝れる日が来るってな?」

 ウィンクして切り分けられた肉を一つまみして口に放り込む。


 うん、想像以上に美味い。冷めてるだけじゃなく、塩でしか味付けしてないのに、あのイノシシが当たりなのかどうか分からんけど。


「この肉、美味いぜ? 今日はじゃんじゃん食おう!」

 そう言った瞬間、おっさんは男泣きをし出した。

「よぉ~し! ワシは肉を焼くぞぉ! 気合いを入れて焼く!!」

 泣きながら、肉を火に焙りながらグルグル廻す。

 あぁー、見苦しいおっさんの泣き顔を見ちまった……と後悔しているとルナが俺の皿から肉を強奪して美味しそうに咀嚼する。

「おい、自分の皿に肉あるだろ? なんでわざわざ、俺の、マイミートを奪う!!」
「ふっふんなの。早いモノ勝ちなの。徹、知ってる? 世は焼肉定食なんだよ?」

 なんで、そのネタ知ってるぅ! と叫びながら、負けてられないとばかりにルナの肉を奪おうとルナとの攻防戦に入った。

 俺達は肉と体力が尽きるまで、騒ぎ続けた。
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