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始まりは呆気なくやって来る

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「って訳なんだよぉ雨~。頼むからついて来てくれよ~」

【はぁ?なんで俺がついて行かなならんのや。怖いの嫌いなくせに断り切れんかった零の責任やろ。阿呆らし。面倒くせ。確かに俺はお前の式になったけどな、何でもかんでもせにゃならん義務なんざないわ。廃墟?怖い?知らんわな。怖がり克服にうってつけやわ。頑張ってきぃや】

手を合わせて必死に頼み込んでる俺の前で、テーブルの上で四本の尻尾を揺らす猫又の雨が呆れ返って、踏ん反り返ってる。

「そこをなんとか!頼むよ!何か出て来たら俺じゃ対処し切れないし!なっ!」

涙目になりながら頼み込んで早二十分。猫に必死に頼み込んでる情けない俺。
でも怖いもんは怖いから仕方ない。

【まぁ確かに、その廃墟に何かしらいたら零じゃ頼りないなぁ。しゃあないのぉ。イカの塩辛とスルメで勘弁したる】

「ほ、本当か!?ありがとう!流石雨!」

小さな雨の、猫の身体を抱き寄せて撫で回す。

【全く、俺の新しい主様はこんなんで大丈夫かねぇ……。先が思いやられるわ】

雨は先祖代々、俺の実家の神社に仕えてきた由緒正しき妖怪の猫又だ。
稲荷神を祀る、悪縁を断ち切り良縁を運ぶと信仰される狩魔かりま稲荷神社。
なんでお狐様を祀る神社に猫又の雨が仕えてるのか、よく分からんけどな。
神社の跡取りとして生まれたからなのか、人じゃないモノも小さい頃からよく視える視える。
いいモノも悪いモノも視えるせいか、凄まじい怖がりになったけど。

【で、廃墟ってどこの廃墟だ?】

「確か、山の中にある有名なやつ」

【ふぅん……昨日から変な気配するって分かっとんのに行くんかいな】

「だってさぁ、仕方ねぇじゃん」

確かに昨日から変な気配が山の方から流れて来てて、それがなんなのか分からないけど、何もないならそれでいいし。

【まぁ、何もないか確認も兼ねて行くか】

「うん。手間取らせてごめんな」

俺の名前は狩眞零かりまれい。相棒の名前は雨。




狂った歯車は、狂ったまま軋んだ耳障りな音を響かせ、運命さだめやら哀しみやら、様々なものを置いてけぼりにして、ただ刻一刻と終焉を廻す。
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