上 下
14 / 30
黒尽くめは言った。言う事きかないと祓っちゃうぞ、と

さん!

しおりを挟む
俺と巫、小さいテーブルを挟んで向かい合って座る。

「さぁて、何から話そうか?とりあえず食人鬼の事からかな?」

「…うん。人を喰べる化物って事くらいしか分からないし」

「そうだね。でも、僕ら祓い師も食人鬼の全てを知ってる訳じゃないんだよ。て言うか、食人鬼の存在を知ってる祓い師は五分の一もいない。食人鬼が現れる事自体レアケース」

「……そのレアケースに運悪く出遭って、食人鬼になっちゃった訳?俺…」

「うん。で、食人鬼になったのに自我を保っていられる零君は、初めて出遭うオニだよ。普通は食人鬼の血の強過ぎる力に喰われて、本能だけの化物になるんだけどね」

「……本当に、俺以外…」

「いないよ。食人鬼になって戻って来られた人間はね。だから、僕自身、これから君に何が起こるか正直分からない。このまま自我を保ったまま生きられるのか、それともいつか自我を失くしてしまうのか。だからね、監視も兼ねて、眠ってる間に君を僕の式にさせてもらったよ」

…………ん?あれ?今なんて言った?式?

「…………式って、あの式?」

「うん。食人鬼程のオニを縛らなきゃいけないから、結構強めの式契約を」

「はあぁぁあぁっ!?ちょ、待てよ!式契約はお互いの合意がいるんじゃないのかよ!?」

驚き過ぎて素っ頓狂な声が出る。

「本来はそうだけど、僕って数多いる祓い師の中でもトップクラスだから、多少強引でも契約出来ちゃう訳。これでも苦労したんだよ?暴走しようと膨れ上がろうとする力を抑えつけながら、細過ぎる針に糸を通すように僕の魂と君の魂を繋げたんだから」

「言いたいのはそこじゃなくて、俺とあんたに主従関係が生まれた訳だろ?それって…」

「そりゃそうだよ。僕が主で零君は式。僕の式になった以上、仕事は手伝ってもらうよ?」

「助けてもらったのは感謝してる。でも、なんであんたの式にならなきゃいけないんだよ?俺だって、今までの生活とか学校とか、色々あんのに…!」

「僕の式になるの嫌?じゃあいっちょ死んどく?」

巫が身を乗り出し、至近距離で俺の髪を弄りながら、じっと俺の瞳を見つめて、またあの不敵な笑みを浮かべる。

「し、死んどくって……」

「そのままの意味だよ。食人鬼なんて危険なオニを野放しには出来ない。ましてや、いつ暴走を起こしてもおかしくない成り立ての食人鬼だ。僕が殺さなくても誰かが君を殺す。今まで通りの日常に戻れると思う?君はもう危険で人の肉を喰べなきゃ生きてけないオニなんだよ。生きたいなら僕のものになれ。嫌なら誰かが殺す前に、僕が苦しまないように殺してあげる」

すっと、巫の瞳が冷たく光る。それで何故か分かった。俺の事を思っての冷たい眼差しなんだと。

「…分かったよ。お前のもんになってやる」

俺もじっと見返す。そしたら、打って変わってにっこりと笑って、

「漸く契約成立だね」
しおりを挟む

処理中です...