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黒尽くめは言った。言う事きかないと祓っちゃうぞ、と

じゅういち!

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【ふふふ、ひゃはははははははははははははははははははははははははは!!ひひひひ…………あー、おっかし。よーやっと、動き出したのぅ。うんうん、ええこっちゃええこっちゃ。わての苦労がようやく報われ始めてきたで】

月を見上げながら男が一人、胡座をかいて空中で座るかのように浮いている。
長い前髪は男の目を隠し、表情を隠す。口元は面白くて仕方ないと言っているかのように笑っているが。

【ひゃはは!どいつもこいつもわてに踊らされおって。おもろうてしゃーないやないかい。どいつもこいつも、わての存在に気づいておらんのやなぁ。食人鬼共、お前さんらがいっちばん、わてに踊らされてるんやでー?ひゃはは、最後まで踊れ踊れ。そして無様に散れ。その泣き面を拝んでやるわ。お前さんらの快進撃は己の実力ではなく、わての手引きやって事を思い知る様を拝む時が楽しみやのう】

交差させた指の上に顎を乗せ残虐に笑っていた男は一転、笑顔は崩さぬまま慈しむような表情を覗かせる。

【何はともあれ、零を見つけられてよかったわ。わてのかーわいい零……。わての手に戻る時が楽しみやわ!しっかし、読み辛いのは巫か……。厄介な奴が拾いよったもんやわ。あいつ、恐らく、わてに気づいとるな。厄介や、零にどんな悪影響をもたらすか分かったもんやないな。さっさと始末するか、様子を見るか…………うーん、どうするべきか……。零を隠す隠れ蓑は必要やしなぁ。しゃーない、しばらく様子見るか。邪魔なら始末すりゃええ話や】

うっとり、ただうっとりと、男はただ笑う。

【零……きっと狩眞の連中に毒されておるんやろうけど、わては信じとるで。最後はわての元に戻ってくるってな。李炎りえん江謔こうぎゃく、お前さんらが何をしようと無駄や。わては必ず、零を取り戻すぞ】

【…………何はともあれ、誰が零を手に入れるかやな。それでこの戦況は大きく歪む。わてか、食人鬼共か、李炎か、祓い師か、狩眞か。ひひ、否が応でも再来年の神無月に決着がつく。ひゃはは!それまでにわての思惑通りにしたくなかったら、零と絆を確かなものにしとけよ巫】

男はそこにいた事が嘘のように、音もなく消える。
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