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その葛藤に意味はないの

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「うわあああぁぁあぁああぁぁあああぁああっ!!」

悲鳴を上げて飛び起きる。部屋の隅に慌ててしゃがんで、身を守ろうと反射的に顔の前に手を出す。

「……え、あ、あれ……?家……?化物は……?」

見慣れた僕の部屋。飛び起きたせいでぐちゃぐちゃになった布団。汗だくの身体。汗を吸って肌に張り付く寝間着。気持ち悪い。
そうだ、胸の傷は?ばっと服を捲る。

「傷……ない…?…………夢?はは、そうだよな。あんなのが現実にいる訳ないよな。夢じゃなきゃ……」

「ちょっと瑠璃るり!!何騒いでんだよっ!朝から怒らすなやこのクズ!」

扉をドンドンと激しく殴ったかと思うと、朝っぱらから罵られた。ホント、朝から元気なこって。
ガチャガチャとドアノブを回す音が聞こえるけど、あの女が入って来ないように鍵をかけてるから大丈夫。入って来たら絶対怒鳴りながら殴る蹴るだし。
はぁ……本当、死ねばいいのに。なんでこんなのが母親なんだか。
夢とはいえ、あの時は必死に逃げてたけど、あの猫みたいに喰われておけば、楽になれたかもしれないと思う自分がいる。
開けるのを諦めたのか、どすどすと足を踏み鳴らしながら一階に下りて行った。
早くこんな家出ないと。肉体的にも精神的にも殺される。

「…………今日はバイトも休みだし、寝よ」

何も考えたくない。布団の上に大の字になって寝転がる。すぐに意識は微睡まどろんだ。


♢♢♢♢♢♢♢♢


ーー返せ

ーー我らの山を、川を、森を、棲家を、同胞達を

ーー何故壊した

ーー何故奪った

ーー自然は誰の物でもない、平等に在るモノぞ

ーー我らの棲家だけではない、神は居なくなり、摂理が無くなった

ーー然程時間はかからず、我らは徐々に追いやられていった

ーー我らの山は、川は、森は、同胞達は、うぬら人に殺された

ーー我らが何をした

ーー何故我らが理由もなく殺されねばならぬ

ーーだから我らは一つとなった

ーー一つとなった我らは考えた

ーー孤独な同胞達の魂を迎え入れ、人に報復を

ーーしかし

ーー如何せん我らだけでは知恵が足りぬ

ーー我らは夜しか動けぬ

ーー偶々通りかかった人を呑むだけでは、効率が悪い

ーー人の住処に入るのにも、この身体を全て虫に変化へんげさせるのは効率が悪い

ーー我らは一つの結論に至った

ーー人を迎え入れ、人の知恵を借りよう

ーー人の知恵と肉体を得られれば、我らの知能も上がる

ーーそこに、うぬが現れた

ーー深い孤独と深い絶望と深い憎しみを抱えた、うぬが

ーー我らと一つとなるに相応しい

ーーもう孤独に震えることはないぞ、もう暴力と痛みに怯えることはないぞ、我らが共に在る。ただ憎め、人を

【さぁ、共に逝こうぞ】
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