女になった俺と、

六月 鵺

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魔法回路と代償

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〈リーガル・ランドベア〉。一度だけ行ったことのあるリアゲートの屋敷の書庫で見つけた、埃を被って機嫌を損ねてた魔導書。
物にも自我はある。魔法使いじゃないと、声を聴くことは出来ないけど。
半分だけ魔法使いの血が流れてる俺は、物の機嫌を感じ取るくらいは出来る。
ハイズが持ち出したおかげで外に出れたからなのか、今は機嫌がいいみたいだ。

「アマネに言ってないよな?」

「そりゃあうまく誤魔化しといたよ。しっかし、ホントにいいのかい?せっかく愛しのアマネちゃんが家も身の安全も、危険を承知で確保してくれたんだぞ?」

「…………」

それは分かってるよ。あいつが俺のために苦しんだことは。

「けど、あいつも俺も今のままなんて無理じゃないか。あいつは歴としたリアゲートの人間だ。いつか、政略結婚の餌食にされる。価値のない安全の中にいるくらいなら、危険でもあいつの側にいる」

「簡単なことじゃないぞ?姉弟間の結婚は認められてるとは言え、実力だけで全てをはねのけなくちゃならない。敵はあのリアゲート。勝てる見込みは、はっきり言って零に近い」

そんなの分かってるよ。俺みたいな馬鹿でも、分かりきってる。

「だからこそやるんだよ。俺の全てを賭けて、リアゲートに戦争をふっかけてやるんだ」

リアゲートから見たら、虫螻むしけらが無様に醜く足掻いてるようにしか見えないんだろうな。
それでいい。虫螻だって生きてるんだよ。
虫螻だって噛みつくことを、忘れるな。

「まぁ、お前が覚悟を決めてるんなら、私は反対しないけどよ。ただ、代償のリスクだけは覚悟しとけよ」

代償か。内臓のどれかか、視力か聴力か味覚か声か記憶か。

「……分かってる」

「ホントかねぇ?もしも声を取られたら?魔法使いになるなら致命的だぞ?記憶を取られたら?アマネちゃんのことすら分からなくなるんだぞ?」

分かってるよ。そういうリスクがあることは。

「全く、頑固だねぇ。頭の固い奴は苦手だよ。しっかし、相変わらずきったねぇ部屋だな」

部屋くらいほっとけ。

「物だって自我を持ってんだから、大切にしてやれよ」

ハイズが指をすいっと動かす。それだけで、散らかってた物が綺麗に元の位置に戻った。
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